今回は天才アニメーター・井上俊之さん特集!「アニメスタイル013」の特集が『さよならの朝に約束の花をかざろう』だったのでそろそろかかるかな、とは思っていたんですが、結構早かったですね。ロードショーで観て再見したいと思っていた時期だったのでありがたい。トークの方も井上さん、沖浦監督、本田さんという豪華さ!だいたい井上さんが喋ってたけどw なんでこれで満席じゃないんだ…(8割くらいの入でした)。
前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.104 新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.104 東映長編の名作」のレポートはこちら。
トークショー
!notice!
トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。
登壇者
井上俊之さん神アニメーター。以下「井」)
沖浦啓之監督『人狼 JIN-ROH』の監督。以下「沖」)
本田雄さん今敏監督とか押井守監督とかのからみが多いイメージ。以下「本」)
小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「小」))
新文芸坐・花俟さんによる前説
花 新文芸坐の花俟です。夜遅くにありがとうございます。今夜、ここで何かあれば日本のアニメは終わりです…(会場笑)
井上俊之を堪能する回!
小 そういえばカリスマでしたね。
井 止めてほしいんですよねえ。中村豊さん1みたいな華がある人がカリスマなんじゃないですか?
小 今や井上俊之ブームですよね。原画集2が売れまくって、個展3もやって…。
井 (個展)挨拶行こうと思ってたら終わってた…。
小 今日は井上俊之を堪能してもらう回です。
井 最後に「人狼」持って来るのがすごいよね。
一人400カットの「さよ朝」
小 まず「さよ朝」。400カット。
井 ラフ原までいれて400。いままでにいるのかな?
小 長編の1/3をやってそれが全部見せ場!
井 300ならできると思っていて、できない100は作打ちしたうえで自分の知り合いのアニメータに撒いて、あとは1日1カットやっていって…。気持ちのいい仕事になりました。
小 映画始まって15分くらい、タイトル出るまでがすごく長くて…。
井 そこまではレイアウト、ラフ原、全部やってます。
小 タイトルが出るまで密度が濃い原画がひたすら続く、夢のような時間です。
井 ほぼほぼ二原のままだけど、PAの上手い人にやってもらいました。
本 あれは緻密でしたよ。コスチュームとかも特殊で、手間がかかってますよね。
井 布が重要なモチーフなんですけど、途中から透けるということが判明して、非常に迷惑かけました…。騙す意図はなかったんだけど…。レナトもオール3Dだったはずが、1カット除いて作画になって…。
小 レナトも井上さんが。
い やってます。20代のときよりも働いてる(会場笑)
小 「さよ朝」手応えはどうでしたか?
井 珍しく、鑑賞した後ネガティブな気持ちにならない。自分の仕事に満足しているところもあるし、全体のネガティブなところも気にならない作品。
小 本田さんの原画も素晴らしいですよね。
井 中盤のテントの重要なところをやってもらってます。
本 めんどくさいところ…。
井 自分でやらなきゃいけないと思ったんだけど、とりあえず師匠にお願いしてみたらやってもらえた。
ドリームチームなのに結局直した「彼女の想いで」
小 二本目は『MEMORIES』。これは井上さん作画監督。
井 田中栄子さん4に頼み込まれたんですけど、その時の原画マンがドリームチームで、田中さんには「とりあえずキャラデザ作って」って言われて。「直さなくていい」ってのは眉唾だろうなと思っていたけど、結局作監修正がいらない現場にはならずに…。沖浦くんが怒り出したり…。沖浦くんは『MEMORIES』の現場が終わって「パト2」に行って帰ってきたらまだ絶賛作業中でした(笑)全体の1割くらいは沖浦くん。
沖 あとは新井(浩一)さん5。
井 顔を直すくらいだったのは沖浦くんと新井さんのものくらいで、あとはほとんど描き直しちゃった。レイアウトチェックのシステムがちゃんとしてなかったのもありますね。6,7割は1から描き直しちゃってる。
沖 朝、制作の机の上においてある井上さんの原画をパラパラ見てるとシートが間違ってることがあって、それをこっそり直したりしてました(笑)
小 本田さんも1カットだけやってるんですよね。
本 こっそりというか、楽しそうだなー、と思って入れてもらいました。
井 当時ガイナックスにいたんですよね。ガイナに回した分ですね。作監修正のときに妙にうまいのがあったので覚えてます。数少ないほとんど修正してないカット。本田くんは「ナディア」の1話をみてすごい人が出てきたなあ、と。
本 あの頃はもがき苦しんでる時期。井上さんなら、大平さんならどう描くんだろう、と悩んでました…。とにかく形から入っていって。
井 20代の頃って数年先を行っている人を目標にする時期ですよね。
・ 以下、かなり脱線したアニメーター話
井 大塚康生さんに天才は誰かと聞くと青木悠三さん6だ、とうつのみやさんが言ってた。
井 大塚康生さんが修正しないのは河内さん7と青木さんだけだ、と前田さんが言ってた。
井 磯くん8は自分の絵をリスペクトしてるっぽいことを言っていて、それは本心っぽい。
小 湯浅政明さんは洋画っぽいって言ってましたね。
井 その評価は本当に嬉しくて、『ブレードランナー』9のハリソン・フォードをイメージして、そのへんの洋画っぽさ、中年のかっこよさは意識してました。
井上「自分には作監はできないと思ってた」
小 3本目、「人狼」。井上さんはどういう関わりがあったんでしょうか。
井 「攻殻機動隊」10が終わって、「人狼」の企画が来ました。当時は『MEMORIES』が終わった後で、(自分は)作監が出来ないと思っていたので、「人狼」の作監はできないと答えました。キャラデザ(をやるの)も嫌いだし、キャラ表作るのもやだし…。顔だけ直して流すようなことはできない。結局全部直すことになっちゃうから。
沖 そこから偶然、西尾鉄也11という人が出てきて。
井 沖浦さんの隣で作監するのは大変なんだよ。技術的についていかないといけないし、メンタル的にも…。技術的な確かさとメンタル的なタフさが必要。
小 井上さんの「人狼」での働きはどうでしたか?
井 自分はレイアウトが苦手だと思ってたんだけど、「人狼」のときに人材がいなさすぎて、やるしかないなという状況になって…。
沖 レイアウトが一段落してから作監の手伝いをやってもらったんですけど、井上さんの分は厄介なところを口頭で説明して…。
井 すり合わせはするけど、簡単な打ち合わせだけでしたね。
沖 すぐ伝わるので。わかるよねって。
小 本田さんも原画で「人狼」参加されてますよね。どんな作品ですか。
本 (当時)目の大きい女の子男の子ばかり描いていて12うんざりしていた時期で、沖浦さんの写実的で影無しなビジュアルは魅力的でしたね。あの描き方が、自分には「今これやりたい」っていう時期だったんですよ。今さんの作品とかも刺激的でしたね。
井 人狼の影響が、『千年女優』13のキャラ表見たときに、「あ、人狼っぽいな」って。動きをコントロールする時にキャラのデティールが非常に邪魔なので、絵を動かしたいタイプの師匠には合っていたんでしょうね。
小 「人狼」の手応えはどうでしたか?
井 やりきれなかったところがまだ気になっているけど…。
沖 あの線の多いプロテクトギアを人間が入っているように動かしてるだけでもすごいと思う。
井 押井さんが「アニメーターがこんなに成熟するとは思わなかった」と言っていて、今ではありがたい言葉です。
小 「人狼」は手描きアニメの最高峰です。
井 最高峰かはわからないけど、転換点の一つになったのは間違いない。アンチも含めて。今やっている仕事ではその具合を探っています。
上映作品
さよならの朝に約束の花をかざろう 115 min
音楽:川井憲次
脚本:岡田麿里
出演:石見舞菜香/入野自由/茅野愛衣/梶裕貴/沢城みゆき/細谷佳正/佐藤利奈/日笠陽子/久野美咲/杉田智和/平田広明
MEMORIES 107 min
音楽:菅野よう子(「彼女の想いで」)/三宅純(「最臭兵器」)/長嶌寛幸(「大砲の街」)
脚本:今敏(「彼女の想いで」)/大友克洋(「最臭兵器」/「大砲の街」)
出演:磯部勉/高島雅羅/山寺宏一/飯塚昭三/千葉繁/長谷川亜美/沢海陽子/柊美冬/平野正人/坂口哲夫/大場真人/堀秀行/羽佐間道夫/大塚周夫/阪脩/緒方賢一/大塚明夫/京田尚子/石森達幸/藤井佳代子/神代知衣/曽我部和恭/島田敏/小野英昭/田中亮一/岸野幸正/佐藤浩之/大滝進矢/巻島直樹/岩永哲哉/中村尚子/新田三士郎/森ステファン/林勇/キートン山田/山本圭子/仲木隆司/中村秀利/福田信昭/江川央生/佐藤正治/さとうあい/長嶝高士/石川ひろあき/喜多川拓郎/田中和実/園部啓一/鈴木勝美/塩屋浩三/河合義雄/峰あつ子/大友洋子/巴菁子
人狼 JIN-ROH 98 min
音楽:溝口肇
脚本:押井守
出演:藤木義勝/武藤寿美/木下浩之/廣田行生/吉田幸紘/堀部隆一/仙台エリ/中川謙二/大木民夫/坂口芳貞/古本新之輔/松尾銀三/松山鷹志/幹本雄之/青木勇二/長克己/岸田修治/村井克行/尾形雅宏/沖田蒼樹/樫井笙人/浜田賢二/村井かずさ/小野泰隆/長木唯
写真など
まとめ
最初の『さよならの朝に約束の花をかざろう』で体力と精神力を持っていかれてしまい、あとの2本がおまけになってしまいましたが、作画アニメを堪能できて満足。それにしても井上さんのトーク、かなり脱線したところが全然書き留められなかったのが残念。ほっておくと勝手にどんどん脱線しながら走り続ける、トークショー向きの方ですよね、井上さん。また来て欲しいですね。
イベント概要
イベント名: | 新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.105 『さよならの朝に約束の花をかざろう』と井上俊之の仕事 |
日時: | 2018年7月21日22:30 - 7月22日6:00 |
会場: | 新文芸坐 |
料金: | 一般:2,600円 前売・会員:2,400円 |
関連リンク
■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/
■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/
NOTES
- 中村 豊(なかむら・ゆたか、1967年12月22日-)。BONESの神アニメーター。
- 「さよ朝」原画集とか『有頂天家族』原画集とか…。
- ササユリカフェで先日までやってた。
- STUDIO 4℃(㈱スタジオよんどしぃ)の名物プロデューサー。同社の設立メンバー。
- 新井浩一(あらい・こういち)。東映出身のベテラン。「彼女の想いで」ではオイルの海のあたり(詳しくは作画wikiで!)。
- 青木悠三(あおき・ゆうぞう)。井上さんも絶賛してたけど、旧作ルパンの人。
- 旧作ルパンとかやってて丁寧な作画に定評がある河内日出夫(かわち・ひでお)さんかなあ…。
- 磯光雄(いそ・みつお)。『電脳コイル』の人。
- 1982年、リドリー・スコット監督。ハリソン・フォードは主役のデッカード役。
- 『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995年、押井守監督)。井上さんは原画。
- 西尾 鉄也(にしお・てつや、1968年6月23日-)。押井作品と相性がいい人。『スカイ・クロラ』とか。あと『NARUTO』でお馴染み。
- たぶんTV版「エヴァ」
- 2002年、今敏監督。本田さんがキャラデザと作監、井上さんも作監の一人で参加。
[…] 予告編(ポップアップします)監督:岡田麿里音楽:川井憲次脚本:岡田麿里出演:石見舞菜香/入野自由/茅野愛衣/梶裕貴/沢城みゆき/細谷佳正/佐藤利奈/日笠陽子/久野美咲/杉田智和/平田広明 「新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.105 『さよならの朝に約束の花をかざろう』と井上俊之の仕事」と題したアニメーター井上さん特集。正直、こんなに早くかかるとは思わなかったなー。2回目に観るとなんだか片渕須直監督の『アリーテ姫』っぽさを感じました。滅びゆく種族とか都市の様相とか「人生は続く」みたいなテーマとか。それにしても井上さん大活躍の作品だと聞いていたけど、まさか1/3以上、400カットもやっているとは…。Blue-rayも買うぞー。document.write("") おひるねラジーズ【レポート】新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.105 『さよならの朝に約束の…https://ohiladh.com/asan105-sayoasa-inoue-special/2018年7月21日(土)に開催された「新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.105 『さよならの朝に約束の花をかざろう』と井上俊之の仕事」のレポートです。トークショー覚書と作品感想。トークゲストは井上俊之さん、沖浦啓之監督、本田雄さん。上映作品は『さよな… […]