久々の東映長編特集。定期的に上映されているイメージがありますけど、実は前回は2015年10月のvol.74でその前は2014年10月のvol.60。vol.60の時は今回とほぼ同じラインナップ(-「わんぱく王子」+『ガリバーの宇宙旅行』)でゲストがデータ原口さんでした。この時のレポートは下に用意したのでどうぞ。

 今回のトークゲストはアニメーション研究家の叶精二先生。さすが専門家だけあって、前回の岩浪スペシャルとは打って変わって落ち着いたトークでした(笑)それにしても今年は新文芸坐で叶先生をよく見る年だなあ(TAAF2018でモデレーターされていたため)。

 前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.103 岩浪音響監督ワンナイト・センシャラウンド!一夜限定東亜重音!!エクストリームブースト!!!」のレポートはこちら!

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

登壇者

叶精二先生アニメーション研究家。ジブリ関係が強い。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

新文芸坐・花俟さんによる前説

花 こんばんわ、新文芸坐の花俟です。音楽を語るならビートルズ、アニメを語るなら東映長編アニメでございます。今夜は全て35mmフィルムです。東映にないので国立映画アーカイブ1にお金を払って借りています。

「東映長編」ってなんなん?

小 良かったお客入った〜。今日は東映長編特集ということですけど、思ったよりお客さん若いじゃないですか。
 まず、そもそも「東映長編」っていうのはなんなんでしょうか?

叶 小黒さん相手にそれを話すんですか(笑)

小 僕らが青年のときはすでに地位が確立されてましたよね。

叶 東映アニメーション(旧:東映動画)はアジアでカラーの長編アニメを作ろうということで年1本作ってきて、それが「東映長編アニメ」と呼ばれてます。テレビのような3コマじゃなくて、ディズニーの2コマを基準にしていたりして、やっぱりそういうカラーがありましたね。

小 今の巨匠たちの初期の作品でもありますね。

叶 今日のラインナップは本当に豪華ですよね。

小 比較的フィルムの状態はいいはずです。21世紀になって作られたフィルムもあります。昔観た「ホルス」は退色しちゃって真っ赤でしたね。「わんぱく王子」もすごくきれいなフィルムで、30年前よりきれい。10年後はぎりぎりあると思うけど、20年後はもう無いでしょうね。定期的に東映長編をやろうというのは新文芸坐だけです。

大塚・月岡コンビが活躍!『わんぱく王子の大蛇退治』

小 『わんぱく王子の大蛇退治』はどんな作品なんでしょうか?オールタイム・ベストの常連ですよね。

叶 代表作ですしね。

小 そのわりには異色作。

叶 他に似たものがないですよね。

小 アート寄りって言っていいんですかね。

叶 グラフィカルな感じで、線と背景を合わせようという意識があった。アニメーター主導で、東映の場合は優秀なアニメーターがシークエンスごとにやっていて、シーンごとにころころ変わるというところがありますね。

小 監督は名匠、芹川有吾さん2

叶 名匠ですよね。

小 あまり語られることがないですけど、重要な人だと思ってます。「わんぱく王子」はその中でもビジュアル重視ですよね。後の作品はもっとドラマツルギー重視でしたよね。

叶 串だんご式に舞台が移動していって、それぞれの(シークエンスの)チーフの個性が出てるんですが、それぞれだいぶ違いますよね。漫画映画的なキャラクターに背景に合わせて、平面的なスタイル、日本画的なスタイル。最後の方にダイナミックなアクションが延々と続くところがあるんですけど、ここだけだいぶ違うんですよ。それまでになかった細かいアクションの積み重ねで構成されていて、大塚康生さん3とその下の月岡貞夫さん4がいろんなアイデアを出して、それを大塚さんが面白いといって採用していった結果、最期が長くて長くて、そのせいでタイトルまで変わってしまったという。大塚さんと月岡さんがコンビでやったことになっていて、どっちがどっちという話なんですけど、面白いアクションは全部月岡さんで、岩が落ちたりとか水がバシャーンみたいな尻拭いは大塚さんがやっていたようですね(笑)。

異色作!『太陽の王子ホルスの大冒険』

小 東映長編を『白蛇伝』から順番に観ていったら『太陽の王子ホルスの大冒険』はかなり異色ですよね。

叶 前後と全くつながらない作品ですよね。

小 今はホルス流の作り方のほうが主流ですよね。空間の作り方や造形やリアリズムにしても。

叶 串だんご式になっていないという点でしょうか。シーンごとに担当はいるんだけど、演出主導5なんですよね。それまでの、シーンごとに自由にやっていた作り方とは違って、シーンごとのつながりが濃密で、全体を見ないとわからない。

小 『日本アニメーション映画史』6の中でも名作の扱いで、当時の評が載ってますけど、「ギャグがない」とかね。当たり前じゃんって(笑)

叶 部分的に動かしきれなかったカットがいくつかあって、展開も非常に早いですし、ついていくのが難しいところがあったかもしれませんね。全然子供向けじゃない。

小 「ホルス」だけケレン味が強いですよね。

叶 変わったワンカットがたくさんありますよね。台詞の途中で立ち上がるカットとか…。あと「ホルス」は森康二7さんの仕事に触れておかないと。可憐な少女という類型があったんですけど、ヒロインのヒルダをすっきりとした線で書いたのが森康二さん。原画は色んな人が描いてるんですけど、作監みたいなかたちで手がけてます。

『長靴をはいた猫』のルシファーは憎めない悪役

小 で、その翌年が『長靴をはいた猫』。スタッフほとんど同じですよね。生きのいいフィルム。

叶 「ホルス」の技術を持った人たちが作っているので、例えば姫は森康二さんが描いていたりとか。ちょっと複雑なことをやっていますね。

小 魔王ルシファーがどんどんいい人になっているのは宮崎イズムなんでしょうか。

叶 『少年猿飛佐助』8で頑張れば頑張るほど滑稽になってしまう悪役がいて、その系譜の上にあるんじゃないでしょうか。

小 どこか憎めない感じになっちゃいますよね。

叶 今思うと良い夫になりそうですよね。なんでもやってくれそう。

小 原画の担当について研究は進んでるんですか?

叶 これは難しくて、宮崎さんはこういう取材に全く応じてくれないし、大塚さんと一緒に観て、ここはこうかもしれないというふうにやってるんですけど、建物の設計とかは宮崎さんがやっていて、最期のカリオストロの城なんかはやっぱり宮崎さんなんですね。

宮崎さんの原画が光る『どうぶつ宝島』

小 『どうぶつ宝島』、これはわかりやすいですよね。宮崎さんの色が。

叶 前に出たい宮崎さんですね。大塚さん、小田部さん9、宮崎さんの3人で準備をはじめて、だから串だんご式なんだけど串の数が少ない。キャシーは最初はいなくて、トトロのメイみたいな妹キャラだったんですけど、宮崎さんが「主人公と同じくらいの年で、美少女で、言うこと聞かないやつじゃないとヤダ」ということで、一週間話を聞いてくれなかったと聞いてます(会場笑) 宮崎さんは上下の構造が好きなんですけど、「ホルス」のときはあまりできなかったので「長猫」でも『どうぶつ宝島』でもそれをやってますね。マストから船倉まで動いて。

小 あとモブ描きたがるのはなんなんでしょうね。

叶 しかも最後の方になるとやりたがる。全部一人でやっちゃってる。あまり動いてないところもあるんだけど、動いているように見える。このころは東映動画自体にあまり力がなくなってしまってるんですね。枚数も少なくなるし。

小 割と動きはテレビっぽいですよね。宮崎さんのところは原画だけでパカパカ動かすようなリミテッドの面白さというか。

叶 宮崎さんがこれだけ原画やってるのあまりないですよね。

小 あと「アリババ」10くらいですね。
 「長猫」から「ど宝」、カリオストロの城まではつながってますね。

叶 宮崎さんが宣伝漫画描いてるんですけど、「ど宝」の漫画は後半まんま「ラピュタ」なんですよ(会場笑)

最後に

小 観る人にアドバイスありますか?

叶 オールナイトだと寝ちゃったりしますけど、そういうことがあったら配信とかで見返してもらって反芻してもらうきっかけにしてもらえばいいかと思います。

上映作品

[cf_cinema post_id=8843 format=3 text=” 久々に観ましたけど、音楽がいいですよね。伊福部サウンド。特に火の神との戦いの場面がいかにも、という感じで好き。今回は一番盛り上がるクライマックスのアクションシーンでガッツリ寝てしまいました…。つらい。高天原のあたりの「やらかし感」好きですね。推しはタイタン坊。”]
[cf_cinema post_id=1839 format=3 text=” フィルムの状態の良さに驚き。これも後半うとうとしてしまった…。もったいない…。やっぱりヒルダの陰がある感じ、今風に言ったら病んでるっぽい雰囲気が最高。今思うと、ちょっと「まどマギ」のほむらちゃんっぽい。毎回、最後にグルンワルドが村人たちに焼き殺されるシーンが申し訳ないんだけど、小悪人感が出てて笑ってしまうんですよね…。”]
[cf_cinema post_id=1843 format=3 text=” 3本目だし何回も観てるから寝ようと思ったらけどガッツリ観てしまった(良かった)。初めて観るであろう若い観客の人たちがガンガン笑ってて最高の視聴環境でした。「ペロかわい~~」ってみんな言ってて、さすが東映のロゴになるだけの男ではある。ドタバタギャグのセンスが良いよねー。一番受けてたのは室内での小競り合いで鍛冶屋さんになるとこと後半のルシファーの「くやし~~!」のところ。”]
[cf_cinema post_id=1875 format=3 text=” これも一部退色してたけど状態良かったなー。東映長編で一番好きな作品です。キャシー、宮崎キャラだよなあ、と思っていたけど、あんな裏話があったとはね…。宮崎さんらしいな。森康二テイストの動物たちが可愛くて最高!やってることはえげつないんだけど。推しは男爵とシルバー船長。明確な悪役がいないので、誰も死なないし、観終わった後の感触が良くて良いですね。定期的にやってほしい作品。”]

写真など

まとめ

 今回はトークゲストと司会の掛け合いがはまっていてとても良いイベントだったと思います。各作品の解説も丁寧でしたし。叶先生とかデータ原口先生、また来てほしいなあ。あと個人的には津堅先生とか藤津先生とか。東映長編が大画面で観れる機会もなかなかないので、定期的に開催して欲しいイベントですね。


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

NOTES

  1. 旧東京国立近代美術館フィルムセンター。2018年に6番目の独立行政法人国立美術家に改組。
  2. 芹川有吾(せりかわ・ゆうご、1931年6月20日-2000年10月4日)。新東宝出身の演出家。TVアニメ黎明期から晩年まで活躍。個人的には『サイボーグ009』が印象深い。
  3. 大塚康生(おおつか・やすお、1931年7月11日-)。言わずとしれた東映動画初期からのベテランアニメーター。ジープ。
  4. 月岡貞夫(つきおか・さだお、1939年5月15日-)。大塚さんの弟子の一人。手塚治虫のアシスタント出身。『北風小僧の寒太郎』などが有名。
  5. ここでの「演出」とはいわゆる監督のこと。初期の東映動画作品は監督が「演出」としてクレジットされている。
  6. 山口且訓・渡辺泰『日本アニメーション映画史』(有文社、1977年)。日本のアニメーション研究を行う上で避けては通れない名著。戦前から1970年代まで網羅されていて、一冊置いておくと便利。https://amzn.to/2zO0dle
  7. 森康二(もり・やすじ、1925年1月28日-1992年9月4日)。動物といえばこの人!いわゆる「アニメーションの神様」。
  8. 『少年猿飛佐助』(1959年、藪下泰司監督、東映動画)。『白蛇伝』の翌年に制作された。
  9. 小田部羊一(こたべ・よういち、1936年9月15日-)。『アルプスの少女ハイジ』で有名なベテランアニメーター。
  10. 『アリババと40匹の盗賊』(1971年、設楽博監督、東映動画)。いわゆる東映長編の最後期の作品の一つ(最後は確か『グリム童話 金の鳥』)。この作品を最後に宮崎さんと小田部さんが東映動画を退社。