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【本のレビュー】『年刊日本SF傑作選 プロジェクト:シャーロック』:彩瀬まる「山の同窓会」が素晴らしい。

投稿日:2018年7月16日 更新日:


 今年で11冊目となるSF傑作選。今年も粒ぞろい。特徴的なのがついに日本で唯一のSF専門誌になってしまった「SFマガジン」(隔月刊、早川書房)からの作品が1点しかないこと。一般文芸にガンガンSFが掲載されているということで、ついに「SF冬の時代」が終わったかと読者としては嬉しいのだけど、選者の大森さん・日下さんは大変だろうなあ。同人誌までチェックしているとのことだし。

 以下、各話ざっくりとした短観。

上田早夕里「ルーシィ、月、星、太陽」

 著者の代表シリーズである<オーシャン・クロニクル>の最新作(という理解でいいのかな?)。『華竜の宮』『深紅の碑文』のその先にある物語。『深紅の碑文』の中で、人類が生き残る方法の一つとして「海棲人類」が模索されていたけど、本作はその末裔が主人公。『深紅の碑文』を読んでいるときに、実際、どんな姿なんだろうと気になっていたので、ここでビジュアルが明らかにされて嬉しい。しかし、予想通りとはいえかなり人間離れしちゃってるなー。ドゥーガル・ディクソンの『マンアフターマン』の世界ですね。新しい知識を手に入れたルーシィの物語の続きがもっと読みたい。

円城塔「Shadow.net」

 『攻殻機動隊小説アンソロジー』からの一編。言われなければ視覚と思格を巡る本格的な思索SFとも読めるが、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』を観ているとさらにさらに楽しめること請け合い。人形遣い(と素子)があのあとどうしてんのか気になる人向け。描写がアニメ的というか、脳内でアニメーションとして再生されるのは、やはりあの映画とTVシリーズの影響が自分の身体に刻印されていることを思い知らせる。それにしても車中のバトーとトグサの繰り広げる、ややペダンチックな会話など、円城的でもあるし、押井・神山両監督のエッセンスを取り込んだ上手い演出だと思った。

小川哲「最後の不良」

 ある意味、本書で一番印象に残った作品。あらゆる流行が消滅した近未来を描いた作品。全市民が流行に染まらず、均質的な価値観を持っている世界は、本来の意味でのディストピア世界であり、そして穏やかなユートピアでもある。デビュー作である『ユートロニカのこちら側』は個人情報の暴露と引き換えに衣食住を保証された管理社会「アガスティアリゾート」を描いたディストピアものだったが、本作でも通底するものを感じさせる。絶滅した「不良」の装束に身を纏い高速を爆走する主人公の個性が無化されるドンデン返しのオチも見事。

我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」

 「プログラムに密室トリックの解法を探させる」というだけならありそうな気もしないけど、それをオープンソースにして全世界の人々がどんどん改良していく、というのが実に現代的。弾丸の弾道計算とか血飛沫の飛散シミュレーションとかがモジュール単位で追加されていく、このリアルな感じ。面白いのが、こうしたプログラム肥大ものだと、えてして自我が芽生えちゃったりするものだけど、本作では終始して単純な人工知能に留まっている。入力されれば出力するよ、というね。そして、これもオチが刺激的。是非、探偵AIと犯罪者AIの対決を長編で見てみたい。

酉島伝法「彗星狩り」

 お得意の異世界もの(?)だけど、機械の身体の種族があたかも彗星のごとく飛び回る世界観。酉島先生の作品の中では非常に理解しやすい方だと思った。もちろん造語も出るけど意味がわからなくてもなんとなくイメージできる。去年の「ブロッコリー神殿」も凄まじいオリジナリティが出色だったけど、本作もわかりやすいと同時に、この著者でないと描けない世界で読み応えがある。物語としては若者の成長譚としても読めるので、そういった点もわかりやすい。食料である彗星に向かうために使役動物を使っていたり、老人が彗星に守り神的な存在として鎮座したりといった異世界なんだけどもどことなく村社会的な世界観が面白い。ところで、解説だと「機械生命」と書かれているのだけど、どうしても生臭い肉の塊を連想してしまう。酉島世界では別にそういうやつでも普通に宇宙を飛び回れる雰囲気あるし。

横田順彌「東京タワーの潜水夫」

 ルーフォック・オルメスのパスティーシュものということなんだけど、元ネタを知らないと全くよくわからない…。ただ、短い尺(8ページしかない!)の中でトントン拍子に物語を進めていくあたりにベテランの技量を感じた。昭和っぽい台詞回しが面白い。

眉村卓「逃亡老人」

 そりゃ死ぬ間際の老人が世界の終焉を告げられたところで、「知ったことか」と思うのがオチだよなー。少年漫画的なものとは真逆の世界観。今の日本の社会の論理はたぶんこれで動いているんだけど、それを作家があけすけに描いているところに魅力がある。著者の言葉と合わせて読みたい作品。それはそうと、スーパープルームを描いたSFってあまり読んだことがないので、あれば読んでみたい。

彩瀬まる「山の同窓会」

 本書の中で一番の収穫。こんな作家がいたのか、という喜び。女が産卵する世界で一人子をなさず行き続ける女の話。女性は3回も産卵すれば体力を使い果たして死んでしまい、平均寿命は30歳に満たないというある種壮絶な世界なのだけど、登場人物たちはそれを淡々と自明のものとして受け入れている。翻って考えると我々の死生観も?というゆらぎを与えてくれる、まさにSF的な作品。ちなみに、男性は射精で死んだりするw 2016年のベスト本に川上弘美の『大きな鳥にさらわれないよう』を入れたんだけど、それに近しい世界観と静謐な筆致が実に魅力的。脇道のように挟まれる海獣様と金びれの戦いとか、人々の死を淡々と記録していく主人公の佇まいが良かった。

伴名練「ホーリーアイアンメイデン」

 書簡形式で綴られる妹から姉への愛憎の記録。抱きしめることで相手を「いい人」にしてしまえる能力を持った姉と、その姉に怯えつつ慕う妹の関係性が面白い。書簡形式と言いつつ、手紙は死後の妹から、生前に書き溜められていたものが自動的に送られる仕組みになっていて、ゆえに一方通行。クレイジーサイコシスターものですね。姉の心情とかが全く語られないので、もどかしいところもありつつも、この潔さがたまらない。強制的に矯正してしまえる「姉」の能力を軍部が利用して、大日本帝国が太平洋戦争を生き抜いた世界を描いていて、そういった点では歴史改変SFとしての側面もある。タイトルの意味が最後にわかるのは秀逸。

加藤元浩「鉱区A-11」

 今回唯一の漫画枠。「Q.E.D」のシリーズは知ってたけど、50巻まで出てるとは…。本作はその中の番外編を収録。月周回軌道上の小惑星にいた唯一人の作業員が死亡。死因は銃殺。調査に訪れた主人公たちを出迎えたロボットは何かを隠している…。典型的な「ロボット三原則」ものだけど、まだまだいろんなトリックがあるんだなあ。奇想天外っていうほどの大胆なオチが待っているわけではないけれど、論理的でわかりやすい結末だった。こういうノリなら本編の方も買ってみたくなるなあ。

松崎有理「惑星Xの憂鬱」

 冥王星に因んで「メイ」と名付けられた少年と冥王星探査機の奇妙な運命を書いた作品。後半に登場する「冥王星の権利を守る会」がいかにもバカバカしくて好き。この「冥王星の権利を守る会」が冥王星の領有権と国家としての独立を求めて、メイを国王として国連に闘いを挑むのだけど(受ける国連も国連だよな)、その決闘の場が武道館で第一種目が「嘘道」とか言うくらいだから推して知るべし。でも実際に太陽系の準惑星(このあたりもテーマになってる)の独立って宣言できるんですかね。火星とか今のうちに独立宣言しときたい気もする。

新井素子「階段落ち人生」

 やたらめったら階段から落ちたり道に躓いたりする呪われ系女子が主人公。都市のあちこちにある事故多発スポットが目に見えない「亀裂」として存在していて、彼女はこれに引っかかる「能力」を持っている。でも全く怪我はしないのが味噌で、大森さんも解説で書いたけどまさに階段版『アンブレイカブル』!もっとも、ブルース・ウィリスと違って、本作の主人公にはその自覚がまったくないのだけれど。そして彼女の「能力」の持つ副作用とは…。新井先生のかるーい文体だからホラーにもミステリにもならずサラサラっと読めてしまう。これ地味だけど続きも読んでみたいなー。

小田雅久仁「髪禍」

 髪の毛を信仰する新興宗教の儀式に参加することになった主人公の見るものとは…。「髪」がテーマだとバカSFになっちゃいそうなイメージがあるけど(ハゲネタとか)、本作は山奥に作られた超巨大建造物、集められた5000人の儀式参加者、人髪で出来た儀式服といったモティーフを使うことで圧倒的ホラー感を出している。特に中心となる儀式の脂ぎった濃厚な描写は素晴らしい。読んでるときに連想してたのは『リング』シリーズと『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】』。そんな感じのリアリティ。そして最後は侵略&終末SFになる。あ、よく考えたら「髪」が「神」になるっていうオチはダジャレですね。

筒井康隆「漸然山脈」

 筒井先生らしいシッチャカメッチャカな作品。テンポ重視で、物語というよりは単語のリズム乗っていく感じ。乗れないとつらそう。というか物語はおまけというイメージがある。こんなもん筒井先生じゃないと書けないよ!楽譜がついてる小説もなかなかないよね。

山尾悠子「親水性について」

 これも筒井先生っぽい雰囲気ー。個々の描写はわかるんだけど、全体として繋がってないというかゆるく繋がってるというか…。異世界なのか遠未来なのか、どこともしれぬ水上で繰り広げられる姉と妹の物語。語る言葉を持たないけれど、けっこう好きな作品。カブトエビ!!

宮内悠介「ディレイ・エフェクト」

 2020年と1944年の日本が重ね合わせになってしまった!といっても2020年に1944年の映像と音が多重露光のように重なっているという状態で、双方の時代に干渉することは出来ないという設定。現代の世界が1944年という時代の延長線上にあるということを否応なしに意識させられるという点では、片渕須直監督の『この世界の片隅に』をどうしても連想してしまう。東京大空襲の日が近づくにつれ、曾祖母の死をその目で見届けるべきか主人公は悩むのだけど、過去に干渉できないという時間SFにつきもののジレンマがここでも変わった形で採用されている。そして、この作品でも「原爆」が一つのキーワードとなっている。宮内先生の短編の傑作として今後も語り継がれていくであろう作品。必読。

八島游舷「天駒せよ法勝寺」

 SNS等でやたらと評判になっていた本作ですが、蓋を開けてみれば、ケレン味はありつつまっとうなSFになっていて驚き。 「遥か彼方の惑星の大仏御開帳に参列すべく今法勝寺が発進する!」というあらすじだけだと完全にバカSFなんですけどねえ。やっぱり「佛理学」という言葉のパワーワード感はハンパないですよ。仏教SFと言えば去年話題になった碌星らせんの『黄昏のブッシャリオン』が思い出されるわけですが、あちらが「徳カリプス」やら「マニガトリング」やら楽しい造語を散りばめたバカSFに半分足突っ込んだ作品(すごく褒めてる)だとしたら、こちらは至極丁寧に法勝寺が飛んでく話。ちゃんと大気圏出たら周回軌道寺院・宗雲山で補給なんかしたりしてるわけです。ちなみに「佛理学」とは「佛質(ぶっしつ)」と「佛精(エネルギー)」を相互転換する手法を研究する学問、とのこと。万事こんな漢字なので漢字文化圏の人ならめちゃくちゃ楽しめること請け合い。後半からはミステリーになり「聖闘士星矢」になり盛りだくさん。この世界観でもう一本!今度は長編で是非!

 本来、蓄積に四万六千日かかる祈念量は、佛理学の成果である交響摩尼車群の高速読経により百分の一に圧縮された。

『年刊日本SF傑作選 プロジェクト:シャーロック』p.503

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