『ANORA アノーラ』、思っていたのとは違ったけどこれは良い
前半(結婚するまで)があまりにも退屈なんだけど、後半はめちゃくちゃ面白い。前半はパーティーメインのパートなので、こういうのが好きな人は好きかな、という感じ。
後半、特にダラダラとした追跡撃が始まるあたりから、話としては起伏がないにもかかわらず、映画としては質が高くなっていく。ヌーヴェル・ヴァーグ、というかジャック・リヴェットっぽいんですよね。特にいいのが、ダイナーで休憩してる場面ですね。押井守的に言うと「ダレ場」的な感じだと思うんですが、メンバーの食べ方のクセが描かれているあたりとか上手いなあ。
本作の主人公はタイトルの通りアノーラ(マイキー・マディソン)ですが、この中盤からもう一人の主人公としてチンピラのイゴール(ユーリー・ボリソフ)が出てきて、彼に次第に焦点が当たっていくさまも面白い。
映画『ANORA アノーラ』公式サイト|2.28(Fri)公開
ヒュー・グラントがあまりにも恐ろしい『異端者の家』
A24の新作スリラー。やばいおじさんの家に布教しに来てしまった2人のモルモン教のシスターが大変なことになるお話。超自然的なものも出ないし、ジャンプスケアもなし。なのに抜群に恐ろしい。家に入るくだりからもうすでに嫌なことが起きそうなことはわかるのだけど、それが何かいつまでもわからないもどかしさ。ヒュー・グラント演ずる中年男性リードもあからさまに怪しいのだけど、物腰は丁寧だし、言ってることもあたりさわりない。しかし帰ろうとするとドアは施錠されているし、いると説明された妻はいつまでも出てこない…。
中盤まで観ていると、これは「選択」(とその欺瞞)の話だということがわかってくる。印象的なのが、二人が帰ろうとすると案内される2つのドアの場面だ。リードはそのドアが裏口に通じていると言い、どちらのドアを選ぶのか、と選択を迫ってくる。実は(というかもちろん)そのドアは罠なのだが、同じような場面が現実の世界、特に女性や社会的弱者を巡る状況においていくらでも存在しているということを想起させずにはいられない。
思ったより時間のレンジは短いけどそれでもとても良い。
先史時代から現代までを定点観測するというあらすじだけでだいぶワクワクしてしまうロバート・ゼメキス監督の最新作『HERE 時を越えて』。原作は未読。
で、本当に定点観測なので驚いてしまうわけですが、てっきり時系列順に話が進んでいくかと思いきやこれが時系列シャッフルで実に目まぐるしい。基本的には一つの邸宅(の一つの部屋)を映し出していくので、様々な家族が出たり入ってしていく。最初のうちはあまりにも目まぐるしく時間が移り変わるので正直わけがわからないのだけど、次第に彼らが暮らす時代がいつなのか、とかこの家族とこの家族は関係があるな、といった線が見えてくるのが実に面白い。さらに驚かされるのが窓を使った時代のザッピングで、スクリーン上に切り取られた窓から別の時代の出来事が覗いている、というもの。場違いのように映ることもあれば、偶然ピッタリとハマるタイミングもあり、この工夫がとても面白い。
いくつかの家族が登場するが、中心となるのは戦後生まれのリチャード(トム・ハンクス)とマーガレット(ロビン・ライト)の夫婦。禍福は糾える縄の如しとはよく言ったもので、彼らの人生にはまさに山あり谷ありの出来事が訪れる。物語が始まった時の「なんだこれは」という感じが最後に回収されるのが実に気持ちが良い。
この映画は全編定点観測で進んでいくが、一箇所だけ例外がある。物語の最後、カメラは年老いたリチャードとマーガレットを舐めるように回り込んでいき、今まで見えなかったカメラの後ろ側に広がるキッチンのあったスペースを映し出す。カメラはどんどん引いていき、窓から出る。かつてフランクリンが暮らしていた邸宅を通り過ぎ、カメラは物語の主人公たちが暮らしていた小さな町のなんでもない家々を示していく。物語の主人公たちから聖性が剥ぎ取られ、なんでもないただの人たちに還元されていく瞬間、それはとりもなおさず、誰しもが特別な人生を生きているということの証明に他ならないのだ。
久しぶりの「押井守映画祭」
【新文芸坐×アニメスタイル vol.189】押井守映画祭2025
「【新文芸坐×アニメスタイル vol.189】押井守映画祭2025《立喰師 編》」へ行ってきました。押井守映画祭は2014年頃の第一回があまりにも印象的だったのですが、それからやや足が遠のいてしまい、久しぶりの参加。今回の上映作品は《立喰師 編》と銘打っている通り、『立喰師列伝』と『真・女立喰師列伝』の2本立て。この2本を映画館で見れる機会というのもなかなか無いですからね…。
トークは押井監督と辻本貴則監督。なんとなく予想はしてたんですけど、まさに立板に水といった表現がうってつけのいつもの押井監督でした。ゲストのはずの辻本監督が「今日は僕は押井監督の邪魔をしないようにしようとは思っていたんですが、こんなにずっと喋っているとは思いませんでした」とおっしゃっていたように、本当にずっと喋っていて、しかもこれが面白い!昔話もさることながら、「なぜ立喰師なのか?」といったかなり根本的なテーマが聞けて大変良かったです。普通に時間オーバーしてて笑。
『立喰師列伝』、本当に久々で、昔見たときは「変わった映画だなー」程度の感想だったんですが、押井濃度が上がってきた今見るとめちゃくちゃ面白い。というか山寺宏一の語りだけでお腹いっぱい。立喰師たちの中では一番しょーもない哭きの犬丸が好きですね。『御先祖様万々歳』が好きなのもあり。そういれば今回の押井守映画祭では御先祖様やるのかな?なかなか観る機会がないのでやってほしいなあ。
『真・女立喰師列伝』は初見でした。なんとなく観たような気になっていた。オムニバスですが、個人的に一番好きだったのは神山監督の「Dandelion」ですね。BigBoyの雰囲気も良すぎるし、やはり主演の神山監督が笑いを取っていくのがずるい。あと押井監督がやってる中CMも楽屋落ちといった風情で笑えますね。
さて、今回の押井守映画祭、この後のラインナップをちょっと予想してみると、まあこの流れだと第2回は「ケルベロス・サーガ」でしょうね。ちょうど『紅い眼鏡』もリマスターされましたし、『紅い眼鏡』、『ケルベロス 地獄の番犬』、『人狼 JIN-ROH』の3本立てかな。あと実写パトレイバーもくるはず。なんとなく。いずれにせよこの後も楽しみです。
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