ここ10年でベストの傑作:『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』

「ドラえもん映画の法則」というものがありまして、それによると「ドラえもんの長編映画はめちゃくちゃ面白いのとめちゃくちゃおもんないやつが交互にやってくる」とのこと。まあこの法則言い出してるの自分なんですけども。「宝島」とかも作画はめちゃくちゃいいんですけどね…。

さて、最新作の「のび太と空の理想郷(ユートピア)」。タイトルダサいけど、上記の法則によれば今年は大傑作!ということで期待大で挑んだんですが、これが期待を上回る大傑作!ここ10年の映画ドラえもんはいまいちパッとしなかった印象(例外は「南極カチコチ」と「月面探査記」)なんですが、その中では圧倒的にベスト。ちなみに前の10年(「ワンニャン時空伝」〜「ひみつ道具博物館」)の個人的ベストは『映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』です。

まず良いのが、冒頭いきなりトマス・モアの『ユートピア』を引いている点。まさかそんな本質的なものをいきなり出してくるとは!で、ユートピアといえばディストピアなんですが、このあたりもしっかりと押さえられています。ネタバレになるから詳しくは言いませんが、まあそういう展開ですね。「画一化していく思考」のあたりもかなり本質的な上に、現代社会の思考のタコツボ化を上手く捉えているという印象。「光」を使っているのも上手いですね。このあたりのユートピア≒ディストピアの概念が正しく捉えられているだけでかなり100点満点。欲を言えば飛行服を脱いで制服になってほしかったですが。見どころとしては自称「パーフェクト猫型ロボット」であるゲストキャラのソーニャ(オス)と中盤に出てくる「パーフェクトきれいなジャイアン」。あのジャイアンはなかなか見られないキャラなので、これだけでもかなり必見。

諸々のデザインワークスも見応えがあり、特に良かったのがメインのメカであるタイムマシン機能を備えた飛行船・タイムツェッペリン。丸っこくてかわいいんですわコレ。それと舞台となる空中都市パラダピアもまさにユートピア的な幾何学性と有機的形態が入り混じったSF映画史に残る名デザインだと思います。変形もいいんですよね~。人工太陽も付いてるし。

ストーリーはクライマックスシーンのあそこはかなりベタだしあざといなと思いましたけど、ドラえもんらしくてこれくらいがちょうどいいような気もしますね。まあドラえもんとのび太で特別感を出してほしかったというのはありますけど、ジャイアンたちの名乗りも素晴らしい。多様性が叫ばれる社会でユートピア≒ディストピアを絡ませてくるのは実に上手いと思いました。「光」の象徴性の使い方も上手く、かなり現代の状況とオーバーラップしている感がありました。統一教会問題のタイミングで来るのもなんというか…。

お子様と一緒はもちろん、独身の限界おじさんたちも、ガキどもに囲まれて観ることに抵抗がなければめちゃくちゃおすすめです(まあでもドラえもん限界おじさんクラスタは別におすすめするまでもなく観てるんだよな…)。

え!それ燃やしちゃうんですか???『ナイヴズ・アウト グラス・オニオン』すごく面白い。

映画館で観たいなあ、と思っていたんだけど、いつまで経っても全くかかる気配ないので諦めてネトフリで観ました…。

みんな言ってるから今更感あるけど、「イーロ○・マスク」がまんますぎますね…。大丈夫か??Twitterが買われてからその奇態をよく見るようになったんですけど、本当に似てる…。

冒頭の立体パズルのシーンからめちゃくちゃ面白い。特にある人物が腕力でパズルを解くシーンとか。ゲスト以外いないはずの金持ちの孤島で変なおっさんが普通にうろついてるところとか…。あの人なにかの象徴ぽいなあと思ったんですが、適当なものが思い浮かばず。

中盤以降の怒涛の種明かしと伏線回収もこの映画の雰囲気に合ってますし、衝撃的なラストシーンも素晴らしい。美術クラスタ激怒間違いなしでしょうが。

ところで年初の『ブラックアダム』でも思ったんですが、本作も「法によって裁けない悪をどう裁く?」という話ですね。格差が拡大していくにつれて、「最終手段としての暴力の肯定」は次第に広がっていくのではないでしょうか?まあ資本主義1.0のサイドエフェクトですね。仕方ない。

「宮さん」をさらに知るための旅。『出発点 1979〜1996』

すごく今更ですが…。

宮さんのこと、なんとなくわかった気になってたけど、何もわかってないことを知るための本ですね。その作品を作っていた当時、彼が何を考えていたのかがわかるのがかなりの収穫。作品から観者が感じられることってやっぱり作者の思考のほんの一部にすぎないのではないかと思ったり。『未来少年コナン』でインダストリアをソ連、ハイハーバーをアメリカの象徴として見ている人が多すぎてキレてるインタビューとか面白すぎる。

印象に残ったのは、まず押井守監督との絡み。『うる星やつら オンリー・ユー』公開後の対談で、この二人なんとなく仲があまり良くない印象があったんだけど、割と和気あいあいと作品論について語っていて、やっぱり印象で語るのは良くないよな、と反省。とはいえ、「あれはおかしいんじゃないか」みたいなことをバンバン言っていて、のちの宮さんの片鱗が垣間見える感じも面白い。「うる星」TV版の作画が「いいじゃん」みたいなことを言っているのも予想外。あと押井監督との絡みでいうと『天空の城ラピュタ』のロケハンでウェールズ地方に行ったあと、実際には存在しない風景のラフを見せたら「へえ、こんなところがあるんですね」と信じちゃった話とか。

企画書の記録も面白く、「ラピュタ」の企画書で「アニメ・ファン数十万は必ず観てくれるので、彼らの嗜好を気にする必要はない。」なんて書いてあって、「いやよくわかってんなあ」となりました。なんというか、映画監督としてだけじゃなくてマーケティング的なところも意外と上手いよね宮崎監督、という。

あとは『コクリコ坂から』を巡る少女漫画との付き合い方のエピソードも面白い。夏、別荘に行っている間だけ少女漫画趣味になるという。で帰ってくると全く興味を無くしていて…。なんだかその感覚わかりますね。

とにかく、600ページ超えで一部二段組という分量なので読むのにえらい時間はかかりましたが、得るものが非常に大きい本であります。というか戦後の日本商業アニメーションの基礎資料だよね。本当に今更だけど。というわけで来月は『折り返し点―1997~2008』を読みます。

新キャラの怪獣娘が可愛すぎてずるい。『ダンダダン』第9巻

なんかこのところ失速してる気がするなー。邪視編が微妙だったような気もするしなー。と思ってたんですが、この最新刊ははちゃめちゃに面白い。怪獣が襲ってきたぞ!→こないだ直してもらった家がナノマシンだから想像力でロボット作れんじゃね?→ちょうどオタクがいたわ、の流れ美しすぎる。ロボットが大仏なあたりとかみんな適当にボタン押して大変なことになるとかベタだけど、この絵柄でやると楽しいなあ。邪視は中からロボット壊してるし。これだけ大暴れしても諸々の理由で街に被害が出ないというのもいいねえ。壊し放題。想像力で動くロボットなのでかなり自由な感じなのも楽しい。こういう全く違ったジャンルを横断的に取り込めるのはこの漫画の強みですね。

で、倒した怪獣が実は…という展開がまた上手い。あれがチャックなのが特撮オマージュだねえ。バモラちゃん、萌豚にめちゃくちゃ人気出そうだし(と思ってTwitterで検索したけど全く出てこなくて泣いた)、さらにハーレムものになってきたけど、基本はオカルトなので気持ち悪さがあまりないのも好きだなー。新しくメンツに加わったオタクがあまり他で見ないような風貌だけど現実でよく見る感じというのも好み。自分も現金なオタクなのでバモラちゃんの可愛さだけでかなり評価が上がってしまった…。

面白すぎるので『苺ましまろ』は数年に一回がちょうどいい。

5年3ヶ月ぶりの『苺ましまろ』最新第9巻。毎回毎回最新刊が出るたびに「萌え豚がよ…。ブヒりやがってよ…」と思いつつ惰性で買ってしまうのですが、毎回読み終わるたびに「『苺ましまろ』最新刊異常な面白さ!!」とかツイートしてしまう…。圧倒的可愛さとギャグの切れ味のマリアージュ。風呂に浸かりながら読んでたんですが、文字通りずっと笑っていて体調が悪くなりました。あと多分上下左右から通報されそう。こんなん毎年出てたら寿命が縮んでしまうし、数年に1回でいいよマジで。面白すぎるというのも考えものですね(考えさせられる系の感想)。

大体ほぼ全ての話が異常に面白いんですが、特に良かったのがマジシャンの話と地獄(2回目)の話。マジシャンネタは例によって美羽の雑なマジックも見ものですが、茉莉ちゃんのマジシャン姿と鳩の組み合わせが最高!かわいい!地獄(2回目)はまたしても雑に死んだ美羽が生き返りをかけて閻魔さま(おねえちゃん)と運動会する話でチートすぎる閻魔様としょうもない美羽の策略がいい。

それにしても巻を重ねるごとに絵が可愛く、ギャグが鋭くなっていくのはすごいですね。そういえば、毎回単行本を買うたびに「電撃大王ってまだあったんだ…」と思うのも風物詩感。

ささっと回ってもやはり大ボリューム。「五美大展」へ行く。

毎年のお楽しみ、「東京五美術大学 連合卒業・修了制作展」へ。今年も例年同様、乃木坂の国立新美術館です。

やはりボリュームが多すぎるのでハイスピードで回っても2時間くらいかかってしまいました。コロナが落ち着いてきた(実際にはそうではないのですが)せいか、それなりの混雑ぶり。

毎年50点くらい「お、これは!」という作品に出会えるのですが、多すぎるのでとりあえず特に気になったもの3点を記録として残しておきます。

《猫抱き》(女子美術大学 立体アート専攻 松村柚果さん)

SNSで話題だったやつ。苦しみと可愛さのマリアージュ。猫ちゃんの造形が可愛すぎる。なんというかこう、「飴と鞭」のビジュアル化的な趣がありますね。

《逃避》(武蔵野美術大学 造形学科日本画学科 坂東和樹さん)

緻密なゴキブリの描写がいい。結構大きめの画面にびっしりと描かれていて虫が嫌いな人間だとトラウマになりそう。中心の円形の空白が象徴的でまたいいですね。

《CHAIRS》(女子美術大学 洋画専攻版画 小林弘美さん)

種々の野菜で作られた32脚の椅子。カラフルでポップなビジュアルなのだけど、作者自身の解説によると家族の介護経験が反映されているとのこと。介護の現場ではさまざまな種類の椅子が必要という視点はなかったなあ。「住まうこと」×「食べること」という生活者的な世界観が魅力的。