「『幾多の北』と三つの短編」は短編の方もすごい。

山村浩二監督の初長編とプロデュース・監修短編3作のオムニバス。

1本目の幸洋子監督による「ミニミニポッケの大きな庭で」がとにかく度肝を抜かれる作品。色彩と動きと音楽の暴力。新文芸坐向きというか、音圧がすごい。山村監督の過去作を観て今回の上映に来た人たちテイストが違いすぎて発狂するのでは?と心配になってしまう。アニメーションの自由さが凝縮されていて、そこに素晴らしいリリックが載せられる。音楽と声の出演はhonninnmanさん。これがまたいい。現代の短編アニメーションを知るために10本挙げろと言われたら見里監督の「マイリトルゴート」あたりと合わせて名前を出したいような作品でした。必見。

山村浩二監督の短編「ホッキョクグマすっごくひま」。上映後のトークショーでも言われていたけど、いわゆる「白山村」。水墨画のスタイルで描かれた動物たちのかわいらしさ、日本語と英語で綴られるダジャレにも近い韻文。とにかくかわいい。中毒性のあるリズム感。ずっと観ていられる感じ。

矢野ほなみ監督の「骨噛み」は監督の父の思い出と死をめぐるエッセイ的な作品。静かなスタイルながら、点描で描かれるメタモルフォーゼが子供の視点から見た世界を思い起こさせる。骨を噛む風習、あまり馴染みがなかったけど、一部の地域では普通のことだったんですね。

さて、山村監督の初長編「幾多の北」。作画のスタイルは山村監督の過去作と同じながら、全編を通じて伝わってくるのは無秩序と混乱と不安感。トークでは「東日本大震災以降の不安感を形にした」旨が語られていたけど、観ていると今では薄れてしまったあの感覚がじわじわと蘇ってくる。個人的に好きだったのは明らかに福島第一原発をモティーフにしたと思しき、「袋状の生き物が、液体の漏れる袋を延々と補修し続ける」場面。ボッス的でもあり、《聖アントニウスの誘惑》的でもあり…。そういえば全編モノローグが画面に字幕として映され、消えるまでの時間がプログレスバーとして表示されるというスタイルも面白かったです。

異常さと普遍性:『イニシェリン島の精霊』

ある日突然、親友だと思っていた男に絶縁を告げられる主人公。それだけならそう珍しくもないと思うのですが、この別れを告げた男コルム(ブレンダン・グリーソン)の決意は一筋縄ではなく、「これ以上つきまとうなら自分の指を切り落とす」とまで言う始末。主人公パードリック(コリン・ファレル)とコルムとの間の緊張は次第に高まっていき…。という不穏な雰囲気に包まれた映画。要するに一種の不条理劇なのですが、この「突然別れを告げる(告げられる)」という筋書き自体は、男女の関係であればそれほど違和感が無いように思えるのが面白いところ。また、この物語の舞台となるのは内戦中の1923年のアイルランドの孤島なのですが、仲違いをする二人の関係をこの内戦となぞらえることもできそうですし、横暴な警官ピーダー(ゲイリー・ライドン)の漏らす「これまではイギリスと戦えばよかったから単純だったよな」という趣旨の発言からは複雑化する世界への不安や、ウクライナ戦争のようなVUCA的事象への目配せが伺えます。一見すると奇抜な物語なのですが、語られているのは現代の普遍的な物語のようにも受け取れる奥深いスルメ的映画。

まあ単純に要約すると、「酒癖が悪いやつは酒を飲むな」という話なんですけどね。だいたいパードリックがわるい。

とにかくオーバーアクションは害悪:『ひみつのなっちゃん』

うーーーーーーーーん、これは…。主役三人の演技がんばってるし、あらすじも悪くないし、いいシーンも割とあるんだけど、このテーマを扱うにしては演出が大雑把すぎませんかね…。特になっちゃんの部屋に侵入して証拠隠滅を図ろうとするシーン。動機は純粋なんだろうけど、単純に行為がevilだし、お母さんがやってきたときの安アパートなのに大声で慌てるシーンとか邦画の悪い部分が凝縮されてる感じがしますね…。基本オーバーアクションなんですよね。まあ邦画ってそんなもんじゃん、と言われるとそうなんですが、いや、それにしてもさ…。バカじゃねえのか?っていう。葬儀の場面で棺をひっくり返すシーンも最悪だし、なんか他に方法あるだろっていうさ。いいシーンもあるんですけどね…。渡部秀演ずるモリリンが岩永洋昭演ずるトラック運転手に誘惑される場面は『ボヘミアン・ラプソディ』のあのシーンのオマージュ的でかなり好き。終わり方も爽やかでいいんですけど…。「ひみつ」というテーマを扱うにしては雑じゃないですか?

人間関係が良すぎ:『スキップとローファー』第8巻

「成田離婚」。第8巻を読んで最初に出た感想はこれなんですが、この単語この物語が描きだそうとする主題が見え隠れするように思えます。恋愛的なゴールが設定されている青春ラブコメではなく、より普遍的で現代的で緩やかな人間関係が、古典的な少女漫画に連なる画風で描かれるところがいいんですよね…。別れに至る過程の心情描写の丁寧さと、恋愛の切った張ったはこの漫画の主題ではないよ、というのが印象的なエピソードでした。「なんか違くない?」のくだりとか本当に好き。そして、この恋愛と友情とをゆったりと行き来できる関係性の豊かさ。これって理想的な人間関係の一つのかたちですよねえ。好きだなあ。

あ、あとアニメ化した時には、オープニングで絶対きららジャンプしてほしい!

高いけどいい本:『スラッジ: 不合理をもたらすぬかるみ』

スラッジ、ナッジとの絡みで知ったつもりになってたんですが、この一冊でかなり解像度が上がりましたね。スラッジとはナッジと対照的に「行動を阻害する仕掛け」とでも説明できましょうか。例えば無駄に項目の多い書類とか絶対に待たされる受付とか…。役所や病院なんかを思い浮かべると適当ですかね。こう書くと明らかに悪いものに思えるんですが、「スラッジ」という概念それ自体はいいも悪いも無くて、例えば「妊娠中絶手術の際の念押しの説明や思いとどまらせるようなビデオ」は明らかにスラッジなんですが、見方によっては人々により良い選択をもたらすものもある、というのが本書での一番の学びでした。とはいえ、著者の立場はほとんどのスラッジはカスなので原則無くすべき、という立場ではあるのですけども。他にもスラッジを極限まで無くした社会と個人情報とのせめぎあいのくだりなどは、PrivTechに興味がある人や制度設計する人にとってはかなりヒントになりそうでした。この本、本文130ページくらいで2,200円(税抜)というバリバリ強気な価格設定なんですが、中身は詰まってますので、このあたりの話題が好きな方にはかなりおすすめです。

『TRIGUN STAMPEDE』おもろいじゃん。

そういえばやってたなあ、と思いつつ4話まで。ってよく見たら原案が『筺底のエルピス』のオキシタケヒコ先生じゃないですか!これは期待!っていきなり2話から鬱展開だァーー!!オキシ先生っぽいわ…。展開の速さは最近の流行りっぽさがありますね。キャラクター周りもかなり改変されてる印象。ミリィの代わりに変なおっさん(mettya-suki)がいたりするし、ウルフウッドは性格キツくなってるし。旧アニメファンはキレそうだなあ…。ちょうどいいので原作読み直したんですが、正直内藤先生の漫画は読みづらいので今回のアニメ化は自分的にはかなり好きな感じですね。オレンジお得意のセルルックCGですが、動きが良い。ヌルヌル系じゃなくて芝居が細かい系ね。まあどうしても『BEASTERS』の影がちらつきますが…。どこまでやるかわからないけど、期待。2クールくらいはやるよね?

『ルパン三世』(Part2)最終話(第155話)まで

去年の11月から観始めてようやく最終話まで観終わりました。

第151話「ルパン逮捕ハイウェイ作戦」

新ルパンのテレコム回でも屈指の作画・演出回。銭形の顔がいい。基本的にはダイヤモンドの原石をめぐるカーチェイスなのだけど、ゲストキャラもいないし、ルパンと銭形の戦いに焦点が当てられている感じ。いつものフィアットではなく、スバルの軽ワゴンというのも面白く、後半の崖のあたりのカーアクションはまんが映画を彷彿とさせる楽しい演出で見応えあり。

第152話「次元と帽子と拳銃と」

次元の秘密が明かされる回。序盤の大量の帽子を自分で洗濯して干してる次元の姿が愛おしい。直後にまとめて燃やされて空っぽのタンスを覗き込むあたりも可愛すぎる。照準をつけるときに帽子のつばの部分を使っていたので帽子がなければ無力、という説明なんですが、いやそれにしても当たらなすぎるし、今までも帽子取れた状態で当ててるとき合ったよなあ、と思いつつ…。帽子のファションショーのシーンもいいなあ。個人的には顧問弁護士の声が肝付兼太さんだったのがつぼ。

第155話「さらば愛しきルパンよ」

いよいよ最終話ですが、話には聞いていたけど、完全に宮崎駿作品ですよねこれ。ラムダはラピュタのロボット兵だし、真希はナウシカ(cv. 島本須美)だし…。話には聞いていたけど、実際に動いているのを観るとなかなかインパクトがありますね…。脚本もなかなかトリッキーだし、作画も凄まじい。特に市街地での戦車の作画とかラムダのコックピットの描き込み具合とか、見どころしかない。個人的に面白かったのは偽ルパン一味の絶妙な偽物具合。パッと見わからないけど、よく見るとおかしいという塩梅が上手い。

今週の喫茶店:名曲・珈琲 新宿 らんぶる

10年ぶりに入れた…。午後の新宿、カフェの供給量が少なすぎてどこも行列すぎじゃないですか?いつもはタイムス行ってるんですけど、案の定行列できてて、そういえば珈琲西武も並んでるけど、回転早いからすぐ入れるし、らんぶるもすぐ入れるんじゃね?と思って久々に並んでみました。らんぶるは客層にカップル多めなのも並びづらいんですよね…。

さて、10年ぶりに入れたらんぶる。メインの下のフロアじゃなくて入り口のところだったので若干微妙感はありましたが、これこれ!という感じ。全く変わって…いや値段めっちゃ上がってない?前からこんなんだっけ?でも雰囲気いいしまあこんなもんか…。客層、明らかに出会い系が増えてる。西武もエジンバラもそうだけど(タイムスは夜職と喫煙者が多い気がする)。

またくるね。