忘れられた人々に光をあてるコロナ文学の傑作『地球の果ての温室で』

『わたしたちが光の速さで進めないなら』で話題になったキム・チョヨプ先生によるポストアポカリプス長編。ポストアポカリプスと銘打ってはいるのですが、Falloutや北斗の拳的なヒャッハー的世界観ではなく、厄災のあとの復興が終わりつつある世界というのが面白いポイント。この世界では21世紀前半から中盤にかけて「ダスト」と呼ばれる自己増殖する埃(Horizonっぽい)によって壊滅的被害を受け、22世紀に入ってようやく復興しつつあるという状況です。語り手であるアヨンは韓国中部の廃墟となった都市に異常繁殖するありふれた蔦植物の調査を始めるのですが、その過程で忘れられていた歴史が次第に明らかになっていきます。

事前の情報ではいわゆるシスターフッド的な要素が強調されていたし、たしかにそのパートもグッとくるのですが、個人的に素晴らしいと思ったのは物語中の厄災の解決に多義的な視点をもたらしている点です。物語の中では「ダスト」による災害は国際的な協調によって作り出された対抗的ナノテクノロジーによって解消されたという歴史が語られているのですが、実は歴史から忘れられた名もなき人々による別のアプローチもあり、そのおかげで本命の対抗策が功を奏した、という事実が提示されます。

ここには明らかにコロナ禍におけるワクチンとその他の対抗策(例えばスティホームによる人々の努力やエッセンシャルワーカーの活躍)が投影されており、どちらがが重要という優劣ではなく、どちらもが重要だったのだ、という論調は、現在進行形で厄災の最中にある世界に住む人々を等しくエンパワーメントするものだと思います。その意味で、この小説は素晴らしく上質なコロナ文学だと言えるでしょう。

荒川先生漫画力高すぎる。『黄泉のツガイ』第3巻

荒川先生、相変わらず漫画が上手すぎという感想しかないですね…。ツガイの能力の見せ方一つ取っても工夫があって面白いし(漫画家先生のあたりが好き)、敵味方の真意が見えない展開が物語を引っ張る引っ張る。朝食会の呉越同舟感(だけどコミカルな描写は忘れない)とか、好々爺然とした影森の当主がチラリとみせる残酷性とか、「この後どうなっちゃうの〜」という感覚がずっと続いている感じでめちゃくちゃ面白いのですね。ガブちゃん絶対好きなキャラなんだけど、第1話で村人皆殺しにしているから素直に感情移入できない(させてくれない)というのも、こう、作品との距離感を作者に規定されているようですごい技術だなと思いますね。それはそうとガブちゃんあまりにもエドワード・エルリックすぎません?アニメ化したら絶対朴さんに声やって欲しい。

ごちゃごちゃしてきたけどめちゃくちゃ面白い。『僕のヒーローアカデミア』第37巻

いよいよ物語が佳境になってきたせいもあるけど、情報密度が高すぎませんか…。いや面白いんですけども。場所も複数だし、どの戦場も違ったタイプの敵がいるしでまあ目まぐるしい。これは連載で読まないとわけわからなくなるなあ。今回もいきなりかっちゃんが死んでてびっくりしちゃったし。前からそうだったけど、描かれているメタファーや象徴の密度も高いので、2回3回読まないと完全には理解できなそうで、まあそこが魅力でもあるんですけどね。

色々言いたいことはあるんですが、今巻の見どころはこれまで影が薄かった口田くんと障子くんにスポットがあたるところでしょうか。それも異形枠として、これまであまり触れられてこなかった外見による差別に焦点を当てているところが非常に良いです。議論の行方については読み込まないといけないとは思うのですが、少年誌でこのテーマを持ってきただけで個人的にはかなりポイントが高いです。

それとデクくんの隠された能力である「変速」がアツい。ジョジョ感があるというか5部のクラフトワークの変奏みたいな感じですね。こういう微妙な能力が覚醒してめちゃくちゃ強くなる展開が好きすぎて…(『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』のザ・クロウラーみたいな)。

爽やかな嫌な話。『すべてうまくいきますように』(ネタバレあり)

フランソワ・オゾンの新作。タイトルに反して重い重い。いや重いのは粗筋を読んだ時点でわかってはいるのだけど、このタイトルだったら言うてハッピーエンドでしょ、という期待があると思うのだけど、普通にそんなことはなく…。死ぬ人は死ぬし残された人は残される、というむき出しの現実が提示されるラスト。邦題が悪いんちゃうん?と思いきや、原題も”Tout s’est bien passe”なんですよね…。それまで頑固に生き生きとしていたアンドレ(アンドレ・ドュソリエ)が「モノ」として提示される最後のシーンはかなりトラウマになりそう。演技としては横になっているだけなのに、ここまで「死」を感じさせるのは一本の映画として優れていると言わざるをえません。

ストーリーとしては半身不随となって安楽死を望むようになった父と娘たちの物語なのですが、そこに父のかつての恋人が絡んできたりするので、いやあ娘たち(特に姉のエマニュエル(ソフィー・マルソー))の心労を思うと胃がキュッとなりますね…。すべてが終わった後のエマニュエルからは悲しさとともに開放感も感じられる気がします。基本的には死に向かう陰鬱な話にもかかわらず、ところどころにコミカルなシーンも挟まれ、印象に残ります。特に孫の演奏会に出たいので安楽死を延期してくれと言い出すあたりは、Twitterでよく見る「続編のために来年まで生きるわ」的なノリを思い出してちょっと笑ってしまいました。

ロボットは「乗るもの」か「乗せられるもの」か:『エアドラ』

『新しい声を聞く僕たち』の河野真太郎先生が絶賛していたので買ってみました。2050年頃の日本が舞台で、東と西で内戦が起きているというのは『雲のむこう、約束の場所』を引くまでもなく割りとありがちなんですが、ドローン規制(兵器としてのドローンの禁止)によって、必要ないのに人間が搭乗するという設定がいい。ロボットアニメの主人公(=主体)は人間なのかロボットなのか問題。主人公の中年漫画家は明らかに「乗せられている」(多義的に)のだけど、対する少女パイロットは主体的に「乗っている」という対称性。もちろん彼女にしてもさまざまな事情から乗らざるをえなかった(=乗せられている)という見方もできるのですが、やはりそこには選択する主体としての自我の有無というのはあると思います。または手段(賃金労働者)としてのロボットと目的(力)としてのロボットという対比もありますし、よくこの短い物語の中でこれまでの関係性を描いたなあ、と嘆息しきり。世界観的にも、この4話で終わらせるのはもったいない。

アニメ『ウィッチクラフトワークス』再見

今週は水島努監督の『ウィッチクラフトワークス』を久々に再見。なかなか配信サイトに来ない作品ですが、こういう時にBlu-rayがあると安心ですよね。ほぼ10年前ですが、2014年の水島監督といえばやはり『SHIROBAKO』。あっちがあまりにも面白いせいで影に埋もれてますが、こちらもかなり良い作品だと思います。水島監督は「なんでもウェルメイドに作れる監督」という印象があるのですが、この作品も原作序盤にも関わらず全く手を抜いていないのがいいですね。オープニング・エンディングのあたりがいかにも水島監督っぽい味が出てて好きです。

このアニメが放送されてから8年かかって原作が完結したので、今思うとウィークエンドはかなりの小物なんですが、アニメの中ではラスボス感がちゃんと演出されているのも上手い。まあ他に適当なやつがいなかったというのもあるんでしょうけど。個人的な推しはやはりKMM団団長?の倉石たんぽぽさん。井澤詩織さん(ナナチの人)のザラッとした声がいいんですよね~。

原作完結したし、このノリで最後まで作ってくれないかな~。まあ長すぎるよな、というのはあるし、原作中だるみするんですが、ラスト付近の展開はかなりトリッキーかつ熱いので動いているのが観たいよね~というのはあります。

プレヴナンス@外苑前のランチかなり良い体験

うさぎかわいい

お友達の誕生日祝で外苑前のPrévenance h.Shizukaiさんへ。大箱&格調高い系フレンチだと思ってカメラ持っていかなかったんですが、むしろ(いい意味で)こじんまりとしていて、シェフは人懐っこい普通のおじさんで…という感じで非常に居心地がいいお店でした。全然畏まらなくてもよくてリラックス。提供時間は3時間ほど。かなりのんびりしました。

あと、特に改めて言う必要はないかもしれませんが、お料理のレベルが極めて高いです。まあ当然と言われればそうなんですが、ここ3年くらいの間に食べたフレンチの中ではベスト3に入るお味でした。味が濃いめのものが多かったので、そのへんも自分の好みだったのかも。

今回は真ん中のランチコースにワインペアリングをつけて20,700円/人でした。ランチにしてはやや高ですが、量もあり味もよしでとても満足。帰りはシェフのお見送り。ホスピタリティも高くてかなり最高でした。

コースはこんな感じ。

①グラスシャンパン

②フィンガーフード(あおさのりのチップスと豚のリエット)

③フィンガーフード(リコッタチーズのプチシュー)

④豚足のパテ

⑤蟹のケーク・サレ

⑥ワイン(SANCERR 2017 白)

後味が水でかなり好き

⑦蕪のスープ

冬の滋味
下に帆立が隠れてます

⑧ワイン(Seguin Manuel 赤)

⑨フォアグラのテリーヌ

⑩パン

かりふわ系

⑪ワイン(撮り忘れた。白)

⑫(たぶん)鰆のポワレ

お皿もいい
ほうれん草がいい味

⑬ワイン(Crozes-Hermitage 赤)

⑭赤牛のロースト

柔らか系
この白アスパラが甘すぎてやばい

⑮甘酒のパフェ

すごく好みの甘さ

⑯デザート

チョコレートのスープ
甘さちょうどよし