『平家物語』とフライシャー

年末は、かなり前に買った『平家物語 アニメーションガイド』を紐解きながらアニメ『平家物語』全11話を再視聴していました。

やはりOPの羊文学「光るとき」が抜群に良いです。中盤のみんなの笑顔が見れるあたり、結末を知っているだけに悲しくなります。コンセプトは「ホームムービー」とのことなので完全に合ってはいるんですよね。

ところで、第4話「無文の沙汰」の牛車の中でのびわと資盛の会話シーンなんですが、資盛の動きがめちゃくちゃフライシャーっぽいんですよね…。「アニメーションガイド」で何か言及があるかと思ったんですが、「担当アニメーターさんが可愛く描いてくれて」くらいのコメントしか無く…。いやめっちゃ気になるやん!

2022年の冬アニメが続々と最終回。

今期の話題作は作画つよすぎという印象が強かったのですが、その中でコンセプトとインパクトで真っ向勝負した『アキバ冥途戦争』。最終2話のインパクトもすごいものがありました。というかヤクザ映画観てないと「なんだこれ?」になってしまう気がしますが…。

14年前の因縁が巡り巡って…というあたりや、一段落したぞ、というタイミングでいやーな事件が起こるあたりなんか、任侠ものとしての再現度が高い。とある人物が死ぬシーンも、タイミングもさることながら、目から光がなくなっていく表現がなかなか普段のアニメだと見ない演出で素晴らしいものがありました。メイドの「お給仕」「萌え」を任侠の「仁義」と対応させたアナロジーも面白く、なごみの非暴力主義で締めるのかな?と思っていると唐突な暴力が出てきて、そこから余韻もクソもなくEDになだれ込む最終話は唯一無二。さすがにCパートで後日談はありましたが。

近年稀に見る「面白い」作品でした。こういう狂った作品が年に1本あると嬉しいですね。

同じく話題作『ぼっち・ざ・ろっく!』最終第12話「君に朝が降る」。アジカンの楽曲がサプライズでカバーされていたのもめちゃ良いのですが、驚くべきは最終回らしからぬその展開!前回からの流れからしたら、最終回めちゃくちゃ盛り上がる学園祭ライブで締めるでしょ普通。30分かけて演奏して、途中に回想シーンなんか入れて。ところがこの作品、最終話Aパートで学園祭ライブパートは終わってしまうんですよね。しかもぼっちちゃんのギターの弦が切れて、とっさに「おにころ」のボトルでカバーするような展開はあるものの、正直言ってほとんど盛り上がらない。しかし、この不完全燃焼さがBパートの日常風景に連なっていく。物語全体を通して描きたいものがビルドゥングスロマンというよりは、むしろ「続いていく変わらない日常」であることを強調するかのような最終話。これを最後に持ってくるのはかなりの胆力が必要だったと思うのですが、大げさに言ってしまえば、この最終話のおかげで『ぼっち・ざ・ろっく!』というアニメは日本のTVアニメを新しい次元に持ち上げたと言っても過言でない、というのは言いすぎでしょうか。

現実時間にして8年ぶりに富士山リベンジを果たした『ヤマノススメ Next Summit』最終第12話「行こう!新しい頂きへ」。登頂に成功するのは既定路線なので特に驚きはないんですが、そこにいたるまでの過程の丁寧さとファンサービスが素晴らしく。たとえば、前回の失敗(高山病)をなぞりつつ、前回はかえでさんが付き添っていたところがひなたになっていたり、あのうるさい外国人が今年も来ていてちょっと絡みがあったりと前回の印象深かったところを上手く使っていて、ファン的にはかなりくるものがありました。極めつけは11話で重量制限からひなたが荷物から除いた羊羹があおいのポケットから出てくるシーン!前話で「え!羊羹持ってかないのかよ!」というファンのツッコミを華麗に反転。上手すぎる。作画もかなり良かったんですが、劇伴とのマッチングがとても良くて、さすが最終回!という気持ちになりました。盛り上げますね~。一応これで終わりですが、OVA展開はあると期待しています。ワンチャン『ゆるキャン△』みたいに劇場版とかこないかな。

映画納めは『ケイコ 目を澄ませて』

やたらと評判がいいので映画納めまで寝かせておいた『ケイコ 目を澄ませて』を大晦日に。大晦日だというのにかなり人が入っており驚きましたが、これは納得の出来。

聴覚障害のあるボクサーの物語ですが、冒頭から叩き込まれるのは痛烈な環境音。トレーニング器具と足踏みのステップのリズム、サンドバッグに叩き込まれるグローブの重たい低音、電車や鳥たちの声。逆に、例えば『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』や昨年の話題作『コーダ あいのうた』のような無音の演出はなく、主人公の置かれた境遇との隔絶が強調されているかのような演出。コロナ禍における聴覚障害者を描いた映画でもあって、たとえば口の動きを手がかりにコミュニケートすることができないといった問題には学びがありました。このあたりはタイトルにもあるように、耳の聞こえないケイコが代わりに目を頼りにボクシングの世界に挑んでいくこととシームレスにつながっていて、そういう意味でもこのインパクトのあるタイトルは上手いですね。劇中ではケイコの日記が朗読される場面が印象深く、それまで視聴者側でもケイコという人物は何を考えているかいまいちよく掴めていないのだけど、この文字情報によって一気に解像度が上がっていくという体験が現実の聴覚障害者と健常者の間の壁のような物を体現しているようでした。

『絵画とタイトル』は高すぎるけど良い本

年末はルース・バーナード・イーゼルの『絵画とタイトル』を読んでいました。なんぼみすず書房の美術系とはいえ8,250円(税込)は高すぎるだろう!と思っていたのですが、自分の関心事項にどんぴしゃりだったので半ば仕方なく…。こういうメタ情報のメタ情報を扱ったようなものってあまりなかったと思うんですが、なるほど、著者は英文学の先生と。前半パートは、今では当たり前のように芸術作品についている「タイトル」がどのように成立していったのかを扱っていて、ここだけでもこの本を買った目的は達成してしまった感。絵画の流通という要因はなんとなく予想はしていたのですが、市民社会への浸透というのは予想外でした。つまり絵画内容の理解の補助線としての「タイトル」ですね。後半は近代から現代に至るまでの画家とタイトルの関わりについてのパートで、この部分もやや難解ながらとても面白いです。美術史畑の人はもちろん、メタ情報を扱う人(例えばデータベース屋さん)などにもいいかなと思いました。

『七十四秒の旋律と孤独』の久永実木彦先生による自薦短編同人誌『パトリックのためにも』。賞の落選作品なんかが集められているんですが、これで落選なの?!というレベルで驚かされました。掌編も多数収録。このへんはこないだまでやってた「読んで実木彦」というラジオの中で朗読された作品が多く、星新一的なものもあるんですが、個人的に好きなのはコントの台本のようなかけあいでやっていくタイプの作品だったり。中では「チェーホフの銃」がかなりお気に入りなんですが、あー、中学生とか高校生とかこういうこと考えがち、みたいなノリでめちゃくちゃ面白い。とはいえ、『七十四秒の旋律と孤独』もそうだったんですが、持ち味としては抒情感に溢れる中編も素晴らしく。テレポーテーション+アセンションものの「青い鳥はあまねくめぐる」とジョジョとかマーベルのヒーローものを思い出させる時間減速SF「明日のあなたへ」が特によかったです。

2022年の読み納めは長谷敏司先生の10年ぶりの長編『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』。事故で右足を失ったダンサーがAI入りの義肢で再起を目指す話、…という基本的なあらすじから、異なる知性とのコンタクトの話にもつれ込んでいく傑作でした。コミュニケーションの手段を身体をベースにして考えていることも今の自分の問題意識と近いこともあり、年の最後にこれを読むというのも一つの啓示のような感覚を覚えたり。中盤には著者自らの体験からくる壮絶な介護の場面もああるのですが、それすらも乗り越えられるものとして描いていくあたりには著者の人間というものに対する信頼感のようなものも伺え、そのあたりもかなり好みな作品です。2022年のベスト10入り。

喫茶店で年を越す

例年、家でまったりと大晦日を過ごしていたのですが、今年はテレビの電波が止まってしまったこともあり、喫茶店で年を越してみることにしました。場所はほぼ週一回で行く新宿三丁目の「珈琲貴族エジンバラ」。こちら24時間営業なんですが、年末年始も年中無休というすごいお店です。

19時から近所のテアトル新宿で『ケイコ 目を澄ませて』を観て映画納めをした後、21時くらいにイン。普段からそこそこ混んでるんですが、この日も普通にほぼほぼ満席。年末という雰囲気もありつつ、いつも通り、という感じなのが面白く。

ここ、Wi-Fiも電源もあるので作業したり本を読んだりするのに最適なんですよね。年内最後の本を読みつつ、このブログを書きつつ、ケーキを納めをしてスルッと年を越し、午前2時くらいに退店。新年を迎えた新宿の街はこの時間でも人通りがあり、ちょっとした非日常感覚を楽しめました。

来年もここで年を越そうと思います。

午前2時くらいの新宿三丁目