はじめに

2022年に読んだ本を適当にふりかえっていきます。

全部は無理なので2022年に発売されたものかつ、特に面白かったもの中心で。

ネタバレはあまりしない感じで…。

フィクションは今年もSFメインでした

早川・創元・竹書房あたりを中心に。

直木賞候補の小川哲『地図と拳』はソローキンやミハイル・エリザーロフあたりを連想する奇想と運命と殺戮と人生の物語。満州の架空の都市を舞台に、20世紀前半の50年にわたる、実に魅力的な群像劇になっています。SF要素はやや薄いけど、人間ドラマで見せていく作品。小川先生はデビュー作の『ユートロニカのこちら側』から読み続けてきた(抜けてるのもあるけど)作家さんなので、ここまで重厚な作品が出てきたことが嬉しい。今年ベストの一冊。

長谷敏司先生10年ぶりの傑作『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』。サイバーパンク(義肢)であり、ファーストコンタクトであり、言語SFであり、そして何より魅力的なダンスSF。中盤の介護のシーンは著者の体験から来ていることもあってかなり壮絶ですが、どんな障害があっても人と人は生きていけるというある種の人間讃歌でもあります。異種知性とどうコミュニケートするか、と同時に「人と人はいかにして生きていくか」という面が強調されていたのもかなり好みですし、生の身体をベースに考えていく、というのも最近の自分の関心とリンクしていてシナジー効果がありました。

『七十四秒の旋律と孤独』で名を馳せた久永実木彦先生の自選短編集同人誌『パトリックのためにも』。Twitterでフォローされていることもあって買ってみたのですが、これが今年読んだ短編集の中では圧倒的にベスト!え、これで賞落ちるの?というレベルのものが大量にあり、お世辞で無く面白い作品しかないのが驚きでした。ジャンルもコントの台本からSFらしいギミックが秀逸なものあり、人情噺あり、と盛りだくさん!個人的に良かったのはしょーもないコント台本「チェーホフの銃」、ジョジョ感のある時間遅延SFでありつつ泣かせてくる「明日のあなたへ」、物質転送をめぐる物語「青い鳥はあまねくめぐる」。

年初に読んだアンドレアス・エシュバッハ『NSA』は、情報技術が発達した1940年台のナチスドイツを舞台にした歴史改変&ディストピアSF。高野史緒の作品(『赤い星』とか)を思わせる設定ですが、この異常な世界を舞台に二人の主人公の視点から紡がれる重厚な物語が魅力的です。この世界線ではプログラムは女の仕事とされているのが面白く、女性プログラマーであるへレーネは「世界の仕組みに疑問を抱く」典型的なディストピアものの主人公。面白いのが出歯亀行為を繰り返すもう一人の主人公であるレトケで、分析官という立場と技術力を利用して幼少期のトラウマを晴らそうとするのですが、次第に運命の網の目に捕らわれていくという、実に魅力的な小人物が描かれています。

第9回ハヤカワSFコンテストの受賞作品は今年もハイレベル。

優秀賞の『サーキット・スイッチャー』は昨年の『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』に続く自動運転もの。古典的なトロッコ問題とファインチューニングを組み合わせた問題設定は近い将来本当に問題になりそうなリアルさですし、二人きりの走る密室とそれを取り巻く人々の人間模様も楽しいのですが、最後の最後に「そうはならんやろ」な展開があり…。そのあたりも魅力的ではあります。いやでもそうはならんやろ。

大賞を受賞した『スター・シェイカー』はベクスターの『虎よ、虎よ』を下敷きにしたテレポーテーションものですが、かなりぶっとんだワイドスクリーンバロックとしての魅力が大きい作品。中盤の「マッドマックス」みのある奇怪な路上国家のディテールも素晴らしいですし、テレポーテーションが宇宙の秘密につながっていくラストもとてもいいのですが、個人的にグッときたのは冒頭で繰り広げられるテレポーテーション用のボックスの描写。たしかに急に物体がなくなったら空気とかやばいよな、というリアリティが伝わってきます。

「10億ゲット」の竹田人造先生による新刊『AI法廷のハッカー弁護士』はAI裁判官が普及した近未来でAIをハックして勝訴を勝ち取る弁護士を主人公に据えた連作短編集。思ったよりハックしないなあ…と思っていたらそうきたかー!という面白さ。あと登場人物がめちゃくちゃ濃いのでその点もいいですね。個人的な推しは凡人のふりした異能力者・軒下くん。このメンツで続編書いてください!アニメ化でもい。

高山 羽根子、酉島 伝法、倉田 タカシという今をときめく若手SF作家3人による架空の書簡集『ゆきあってしあさって』。カルヴィーノの『見えない都市』を彷彿とさせる架空都市ものでもありますが、やはり三者三様の旅の様相が実に面白いです。酉島先生が常に酷い目にあっていて絶対に笑っちゃう。

小島秀夫監督がTwitterで絶賛していたチャック・ウェンディグ『疫神記』は上下巻1500ページ越えなのに面白すぎて一気に読めてしまう超エンタメパンデミック大作。ただひたすら歩き続けるだけのゾンビみたいな存在に翻弄されていたらマジモンのヤバヤバウイルスが流行し始めて…。中盤からはすごい人工知能やら仮想現実やら政治劇やらトランプもどきやらアメリカ内戦やらとかなりのワイドスクリーンバロックに話が広がっていってかなり最高です。群像劇でもあるのですが、魅力的なキャラクターがバンバン出てくるあたりはドラマ大国アメリカ、といった感じがします。

アトウッドの『侍女の物語』を受け継ぐキム・リゲット『グレイス・イヤー 少女たちの聖域』はヤングアダルトながら現代的で刺激的なフェミニズム・ディストピアもの。「魔力」を清めるために少女たちを荒野に追放するガーナー郡の儀式「グレイス・イヤー」をめぐる少女たちの物語。凄惨なサバイバルものであると同時に、現代の女性たちが置かれている現実がアナロジカルに描かれていく一種の寓話でもあります。個人的には主人公ティアニーの科学的思考のあたりに『アリーテ姫』(アニメの方)を連想しました。

分断された近未来のヨーロッパを舞台に平凡なコックがジョン・ル・カレのスパイ小説のような活躍をするデイヴ・ハッチンソン『ヨーロッパ・イン・オータム』。近年SFに力を入れてる竹書房さん。点数は少ないけど、その分間違いないものを出してくれるのである意味助かります。本作もかなり面白い作品で、ヨーロッパ分断というとソローキンの『テルリア』あたりが有名かと思うのですが、こちらはそれほどの混乱はない感じ。主人公のコックがいかにもモブ的なキャラクターで逆に印象に残ります。結構失敗するしね。ヨーロッパを横断する”鉄道路線国家”「ライン」の設定がかなり好きなのでもっと出して欲しかった…。

同じく竹書房からの、中国に侵略されれた日本を舞台にした『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』も傑作。東京が中国と多国籍軍によって分断されている設定はさほど珍しくないと思うのですが、外国作家が書いているにもかかわらず実在の地名とか商品とかチェーン名とかがバンバン出てくるのが楽しい。「芦奈野ひとしの『ヨコハマ買い出し紀行』に出てくるロボットの名前」とかサブカル方面で変なところを抉ってくるのも面白い。立場の違う女性二人のバディものとしても秀逸。続編出るのかなあ。

毎年楽しみにしていた書き下ろしSF短編集「Genesis」は今年の『Genesis この光が落ちないように』にて終了。『紙魚の手帖』があるとはいえこれで終わりはやや寂しい。今回も傑作揃いですが、特に良かったのは創元SF短編賞受賞の笹原千波「風になるにはまだ」と空木春宵先生の「さよならも言えない」。前者は仮想現実と肉体の関係を抒情的なタッチで描いたある種のサイバーパンク、後者は人類の分化が進んだ遠未来を舞台にした魅力的なファッションSF。

夏海公司『はじまりの町がはじまらない』はよくあるMMOものだと思いきや、自我に目覚めたNPCたちが主人公。運命(サービス終了)をどう変える?という物語ですね。NPCたちが動画を作って外の世界に発信し出すあたりがめちゃくちゃ面白いです。どうやって通信してんの?なんで自我があるの?あたりの疑問もちゃんと説明してくれるのがいいですね。スコルジーの『レッドスーツ』あたりが好きなら是非。

林譲治先生の新シリーズ「工作艦明石の孤独」(既刊2巻)はワープ航法に焦点を合わせた文明サバイバルもの。150万人でどうやって文明を維持するか?がメインテーマですが、例によって異種知性が出てきたのでファーストコンタクト&サバイバル&ワープという盛りだくさんのSFになりそう。2巻にしてペンギンが出てきてしまったので孤独感がやや無くなってきましたが、今後の展開が楽しみなシリーズ。推しは西園寺艦長。

ノンフィクション系はタイトルがラノベっぽいのが多かった印象

筆頭はマシュー・ホンゴルツ・ヘトリングの『リバタリアンが社会実験してみた町の話 自由至上主義者のユートピアは実現できたのか』で、内容的にもこれがベストかな。ニューハンプシャー州の片田舎に過激なリバタリアンが大集合!ここでいう「リバタリアン」は税金払いたくねえ!とか銃を持たせろ!という主張を持った極端な自由主義者たちですね。こういう連中が人口が少ない町を乗っ取って理想郷を作ろうとする「ノンフィクション」ですが…、なんと熊の話がめちゃくちゃ多い!17世紀に遡って語られる熊たちのエピソードも面白いんですが、でも本筋とは関係ないよなあ、と思いきや実は後半で伏線が回収され…。リバタリアン以外にもさまざまな奇人変人たちが集まってくるのも面白く、熊をドーナツで餌付けする老婆「ドーナツ・レディ」などが出てきます。読み物としても面白いので非常におすすめです。

グレゴリー・J・グバー『「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた 「ネコの空中立ち直り反射」という驚くべき謎に迫る』も無駄に長いタイトル。こちらはタイトルに偽りなく、仰向けにした猫を高いところから落とすと必ず足から着地するという「ネコひねり問題」の研究史を扱ったノンフィクションです。「ネコひねり問題」については有力な説は出てるけど、完全に解明されたわけではない、というところに落ち着くのですが、そこに至るまでに写真術の発展や物理学の革新、ロボット工学、宇宙服の構造などなど、ものすごい勢いで脇道に逸れていく構成が実に楽しい本となっています。そのせいで割と分厚めなんですが、まあ面白いのでいいでしょう。

同じく長いタイトルのクリステン・R・ゴドシー『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』は、扇情的なタイトルながらしごく真面目な社会主義フェミニズム論。社会主義体制が崩壊する前の東欧社会では、ある面で現代の資本主義社会よりも男女平等が達成されていたのではないかという論旨。この視点はなかったのでかなり新鮮でした。もちろん当時の体制を全肯定しているわけではなく、しつこいぐらい「悪い面も多かったが良い面もあったのでそこから学べることもある」ということを繰り返していて、言葉の定義や使い方といった面とあわせてかなり好印象。翻訳も柔らかく読みやすいです。

ジェンダー系だと河野真太郎先生の『新しい声を聞くぼくたち』も必読。サブカル作品をとっかかりに、フェミニズム運動が変化していく中でどのように男性を捉え直していくか、と男性の視点から論じています。具体的な作品を引いている割にはやや抽象的な議論が続くため、どちらかというと読みづらい感はありますが、変化し続ける女性観・男性観を追っていく羅針盤としてちょうどいい塩梅。

言語ものでは山口謠司『あ゛-教科書が教えない日本語』を。言語間の表音不可能性と翻訳不可能性をめぐる話。「日本語って表現力すごいよな〜。50音もあるし」と思ってると、50音じゃ全然足りないということがわかってくるのがかなり刺激的。

ジョナサン・ゴットシャル『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』はまさに今読むべき本。「ストーリー」というものの功罪についての話なので今の自分の関心とかなり重なっていて読みやすかったです。物語の生存競争で勝利しやすいのは善悪のはっきりした物語であり、それゆえに多様性を重視する社会はある程度まで発展すると内部での求心力を失って崩壊していく、という指摘には腹落ち。

リチャード・オヴェンデン『攻撃される知識の歴史 なぜ図書館とアーカイブは破壊され続けるのか』は古代から現代まで図書館(知識)の喪失についての歴史が総覧できる本。同種の本は過去にもあったけど、ここでは「アーカイブ」とインターネット時代の知識の保存に目を向けているのが特徴。作家の遺志と個人文書の取り扱いのあたりや地域・民族のアーカイブの収奪のあたりが個人的に興味深かったです。著者が基本的にアーカイブとしてのインターネットという場を信用していないという点はまさに自分も日頃考えていた点なのでかなり共感できました。

めちゃくちゃ高かったので(8,250円!)買うのを躊躇してたけどやっぱり買って良かったルース・バーナード・イーゼル『絵画とタイトル―その近くて遠い関係』はタイトル通り絵画とそのタイトルについて論じた本。今では当たり前についている美術作品の「タイトル」がどのように成立していったのか?というこれまであまり追求されていなかった事項が論じられています。後半は作品それ自体とタイトルをめぐる、近代から現代に至る様々な作家たちの攻防が豊富な事例とともに語られており、非常にスリリングなパートとなっています。美術史屋さんはもちろん、データベース屋さんにもおすすめです。

ゲイリー・シュヴァルツ『フェルメールの世界-拡大図でたどる静謐の物語-』はヒエロニムス・ボス、ピーテル・ブリューゲルに続く「〜in Detail」シリーズの第3弾。このシリーズは絵画の部分を超拡大していくシリーズですが、この本もかなりいい感じです。フェルメールの現存作品が約35点しかないのもありますが、ちょっとしたカタログ・レゾネ日本語版のようになってるのがいいですね。よくある画中画の分析にとどまらず、画中の日用品や髪飾り、袖などの分析がパートごとに行われていてかなり読み応えがあります。

藤津亮太『増補改訂版「アニメ評論家」宣言』は増補改訂版なのでここに載せるのはやや微妙な気がしますが、書き下ろしも入ってるしいいかな…。増補改訂する前のものを読んでいなければマストバイですね。藤津亮太という評論家を知るための近道となるかと思います。もちろん、近年の著作とは違うのですが、骨のところは共通していることがわかります。特に書き下ろしの「アニメ評論は難しい」は必読。

よくある論文調SF小説と思って買ったアヴィ・ローブ『オウムアムアは地球人を見たか?』は2017年に太陽系外から飛来した謎の天体「オウムアムア」をめぐるノンフィクション。「これって異星人の探査機だったんじゃね??」という主張なので、最初は「ハハハこやつめ」となるのですが、読み進めていくうちに「ありうるかも…」となっていくのが面白い本。夢がありますね。論証の部分も専門的ながらそこまで複雑ではないのでまさにSFの理屈説明パートのようにすいすい読めるところもいいですね。

エドワード・ブルック=ヒッチング『キツネ潰し 誰も覚えていない、奇妙で残酷で間抜けなスポーツ』はタイトルのインパクトがすごい。今では倫理的な理由や単純に危なすぎて消えてしまったスポーツ(?)が大量に紹介されているので、軽い読み物としてどうぞ。まあ書かれてる「スポーツ」の中にはマジでイカれてるのも多いんですが…。タイトルにある「キツネ潰し」はシーツに乗せたキツネ等の小動物を上空高くに放り上げ、地面に叩きつけるというスポーツ(??)です…。動物殺す系が多いのでそういうのが苦手な人は注意。

アンドリュー・レーダー『越境と冒険の人類史 宇宙を目指すことを宿命づけられた人類の物語』は人類の拡張史。ぶっちゃけ、スペースXの宇宙進出アジ本ですが、そこにいたるまでに様々な拡張の歴史を語ることによって説得力を作り出している点が面白いです。何のために拡張するかわからなかったけど、とりあえず行ってみたら儲かった、というあたりは企業の新規事業開発などにも通じる話のように感じました。プロダクトアウト的な。戦争に代わるイノベーションの源泉は冒険だ!というのにも納得感。

タリア・ラヴィン『地獄への潜入 白人至上主義者たちのダーク・ウェブカルチャー』は取材方法にはかなり疑問がありますが、労作です。アメリカの保守層についての解像度を上げたい方は是非。特にインセルあたりはなんとなく抱いていたイメージからかなりずれていったので収穫がありました。日本もいずれこうなっていくのかなあ、と思うとやや憂鬱になりますね。

漫画は3巻くらいまでで終わるものに名作が多い気がする

今年は3巻くらいまで終わるものが多く、さらに出来がいいものが多かった気がします。

まずは完結したものからいくつか。

岩国ひろひと『草野と希』(全2巻)。ヤクザから足を洗ったコワモテの中年男性と女子高生が温泉巡りをする話。一人の男の更生を描いたメインストーリーも素晴らしいのですが、異色のバディものとしてもかなりよくできています。個人的に良かったのは、女子高生と温泉というテーマにも関わらず、セクシャルな描写がほとんどなかったという点。もちろん主人公の草野によるセクハラ描写のようなものも全くないですし、これが現代の感覚だよな、と。ベストシーンは物語の終盤に訪れる赦しの場面。精神の解放感と温泉の身体的気持ちよさがシンクロしている演出が見事。

熊倉献『ブランクスペース』(全3巻)は物語と想像力と世界の余白をめぐる、デンジャラスでチャーミングなガール・ミーツ・ガール。これまでの様々な伏線が一点に収束していく終盤の怒涛の展開に圧倒されます。巨大ロボットも出るよ。ベストシーンは余白に埋め尽くされていく静かなエピローグ。

同じく全3巻で完結した茶んた『死亡フラグに気をつけろ!』は映画の死亡フラグあるあるをネタにした掌編連作集。大体全滅オチ。毎回毎回、短い尺で全く予想のつかない展開を持ってくるのがかなりすごいです。茶んた先生、絵の個性もあるけど、それ以上にストーリーテラーなんだよなあ。最終回はいつものメタネタをさらにメタにした上に、第1話を彷彿とさせる百合っぽいオチを持ってきててかなり最高でした。次回作も楽しみ。ベストシーンはマ・ドンソクみたいなおじさんが全てを暴力で解決しようとするところ。

『僕のヒーローアカデミア』のスピンオフ、別天荒人『ヴィジランテ ―僕のヒーローアカデミアILLEGALS―』は15巻で完結。後半のヴィランとの決戦はやや冗長だった感がありますが、本編のテーマでもある「ヒーローとは何ぞや」を全く別の角度から切り込んでいくあたりは非常に読み応えがありました。ベストシーンは死んだと思ってたあの人の再登場。

藤本タツキの話題作『さよなら絵梨』(単巻)。「みんな騒ぎすぎでしょ〜」と思ってほとぼりが覚めてから読んだんだけど、さすがに話題になるだけはありますね。コマ割りの面白さもあるし、メタにメタを重ねていく展開の面白さ。オチは予想できたけど、そこまでの展開は読めなかったなー。ベストシーンは爆発…と言いたいところだけど、正直そんなに刺さらなかったので、その前の廃墟の映写室での再会シーンで。

すけらっこ『ここは鴨川ゲーム製作所』(既刊1巻)。「普通にこなすのが苦手」な主人公が仲間を集めてゲーム作りに乗り出すお話。登場人物はみんな社会人だけど、どこかに生きづらさを抱えていて、単なる社会人仲良しサークルものに留まらない魅力があります。マイルドな絵なので、重めのシーンも読みやすいというのもいいですね。ベストシーンはキツめのダメ出しをしてくるデバッガー。

松本大洋の『東京ヒゴロ』(既刊2巻)は中年漫画編集者の再出発を描く作品。めちゃくちゃ面白いけどこのテンポだと雑誌発刊して締める感じなのかな。主人公・塩澤さんの生真面目なキャラクターが良いです。ベストシーンは林さんの提案を断る塩澤さん。

『ぐるぐるてくてく』の帯屋ミドリ先生の新シリーズ『今日から始める幼なじみ』はいつのまにか5巻まで出ていて嬉しい。ラブコメの幼なじみあるあるをなぞりつつ独自のラブコメ世界を作っていく主人公二人の進展具合が微笑ましい作品。中学生らしく際どい要素がないので安心して読めるのもいいですね。ベストシーンは夏祭りで別の幼なじみカップルと遭遇して気まずくなるところ。

500年後の世界で文明やり直し未来転生もの山田芳裕『望郷太郎』(既刊7巻)。いよいよ大都市的な文明が登場したり、まさかのあの人が重要人物になっていたりと大盛り上がり。まだ7巻だから今からでも追いつけますので是非。最新刊のベストシーンはエプターさんの別荘のガチやばい「儀式」。

道満晴明『ビバリウムで朝食を』(既刊1巻)。2019年の『バビロンまでは何光年?』は『銀河ヒッチハイクガイド』+『21エモン』でしたが、今回はかなり『ドラえもん』。それも大長編を意識しているのが端々から感じられてかなり良いです。エログロ少なめなので人に勧めやすい。と思ったけどそこそこあるな。ベストシーンは、どう見てもほんやくコンニャクにしか見えない物体をおでんにして食べるところ。

冬目景『百木田家の古書暮らし』(既刊2巻)。祖父の古書店を継いだ三姉妹の日常&ほのかにラブコメ。神保町、三姉妹というあたりから『R.O.D』を思い出しますが、こちらは真面目に古本屋やってます。冬目先生なのでとにかく絵がいい。古書周りのトリビアも多いのでそのへんに興味ある人も是非。

町田メロメ『三拍子の娘』(既刊2巻)。これも3姉妹ものですね。とにかくテンポと絵が良いタイプの漫画。タイトル通りですね。絵は高野文子先生を思い出す感じ。次女のとらちゃん推し。

今一番面白い&アニメ化も控えてる高校生物語、高松美咲『スキップとローファー』(既刊7巻)。キャラクターの掘り下げがとにかく上手い。7巻の誠とゆづがマンション前の公園で会うシーンとかかなり最高。

ゾンビパニック+テラスハウスの異色作、山本和音『生き残った6人によると』(既刊4巻)。キャラクターの入れ替わり激しく、主人公も死ぬんじゃね?という緊張感が魅力。ドラマ全く存在感なかったね…。なんだったんだろう。4巻は雫と海のドライブのシーンがエモすぎる。

宮下裕樹『宇宙人ムームー』(既刊4巻)。誰も話題にしないからそろそろ打ち切られるんじゃね?と思ってるめちゃくちゃ面白い家電SF。主人公のムームー(見かけは猫)もかわいい。32話の過去のメディアを特定しようとする話は全く役に立たないけどトリビア的に異常に面白い。

アニメがめちゃくちゃ出来が良かったので一気に全巻買ってしまったコトヤマ『よふかしのうた』(既刊14巻)。人間関係がじわじわと広がってきており、かなり面白い。修学旅行編は長くなりそうだな〜。これまで行ってなかった学校にあっさり行くあたりに成長を感じる。

荒川弘の新シリーズ『黄泉のツガイ』(既刊2巻)はよくあるファンタジーかな、と思ってスルーしてたんだけど、評判が良すぎるの読んでみたらいい意味で裏切られた作品。1話のスピード感と展開のアグレッシブさは最近のエンタメ作品っぽい。やはり漫画が上手い。

『Forget-me-not』の続刊は?と言いたくなるけど素直に嬉しい鶴田謙二の新作『モモ艦長の秘密基地』(既刊1巻)。主人公が服着てる場面の方が少ない、というか9割くらい全裸というすごい作品。『冷たい方程式』的な要素もありつつ、基本のんびりしたSFという変な立ち位置。変な漫画読みたい人におすすめ。猫も出るよ。

みんな読んでると思うけど、和山やまの『女の園の星』(既刊3巻)も。これも女子校が舞台だけど際どいネタがほぼなくて読みやすい。上質なコントを観ているような感じ。だいたいどの話も満遍なく面白いけど、最新刊ではこもりんの三者面談の話だけでお値段以上。

とよ田みのる『これ描いて死ね』は伊豆大島(劇中では伊豆王島)を舞台にした漫画サークル漫画。ロケーションの面白さもあるけど、原初的な創作活動の面白さが前面に押し出されているのがいいですね。推しは先生。

めっちゃ面白いのに全く話題になっていない左藤真通『この世界は不完全すぎる』(既刊8巻)。サービスローンチ前のMMORPGに閉じ込められてしまったデバッガーたちをめぐる物語ですが、主人公のハガが異常に真面目なのとグリッチを利用して攻略していくRTA的な面白さがあります。最新刊では精神に異常をきたしたデバッガーたちが解脱したり家系ラーメンを作り出したりしており今後の展開も楽しみ。

窓口基『東京入星管理局』(既刊3巻)。いやめちゃくちゃ面白いんですけど、どう面白いかが説明しづらすぎる作品。情報量が多すぎるんですよね…。3巻はわりとわかりやすい話が多かった印象。

漫画はもっと紹介したいものもありますが、長くなりそうなのでこのへんで…。

適当に新刊各ジャンルベスト10

順不同です。

フィクション

  1. NSA
  2. スター・シェイカー
  3. ゆきあって、しあさって
  4. 疫神記
  5. 地図と拳
  6. グレイス・イヤー 少女たちの聖域
  7. ヨーロッパ・イン・オータム
  8. プロトコル・オブ・ヒューマニティ
  9. Genesis この光が落ちないように
  10. パトリックのためにも

フィクション以外

  1. あ゛-教科書が教えない日本語
  2. ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する
  3. 「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた 「ネコの空中立ち直り反射」という驚くべき謎に迫る
  4. 攻撃される知識の歴史 なぜ図書館とアーカイブは破壊され続けるのか
  5. リバタリアンが社会実験してみた町の話 自由至上主義者のユートピアは実現できたのか
  6. 絵画とタイトル
  7. フェルメールの世界-拡大図でたどる静謐の物語-
  8. 増補改訂版 「アニメ評論家」宣言
  9. あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない
  10. 新しい声を聞くぼくたち

マンガ

  1. 草野と希(全2巻)
  2. ブランクスペース(全3巻)
  3. 死亡フラグに気をつけろ!(全3巻)
  4. ヴィジランテ ―僕のヒーローアカデミアILLEGALS―(全15巻)
  5. さよなら絵梨(全1巻)
  6. ここは鴨川ゲーム製作所(既刊1巻)
  7. 東京ヒゴロ(既刊2巻)
  8. 今日から始める幼なじみ(既刊5巻)
  9. 望郷太郎(既刊7巻)
  10. ビバリウムで朝食を(既刊1巻)