無言で壁をぶち抜きがちなロック様がいい『ブラックアダム』

ロック様目当てで観に行ったんですが、予想外にアンチヒーロー映画としての出来がいいことに驚き。

舞台となるカーンダックは20年ほど前から武装勢力に支配された街で、DCユニバースの世界なのでどこかにヒーローは存在しているはずなのに誰も助けに来ないという状況。そんな中、偶然封印を解かれた5000年前の超人テス・アダム(ドウェイン・ジョンソン)が復活し、武装勢力に対峙していくという流れなのですが、このテス・アダム、5000年前の存在なのでとにかく倫理観がない。悪人はとりあえず殺すという野蛮人として描かれていて、コミカルですらあるのですが、このあたりがテス・アダムと対峙するJSA(ジャスティス・ソサエティ)の法治主義と対照的で面白い。アナロジカルに考えるとカーンダックは法治主義と民主主義の世界の中で救われなかった人々であり、実力主義で物事を解決しようとするテス・アダムは例えばBLMのような実力行使を伴った民衆運動の象徴としても見ることができると思います。このあたりの「歪んだ法治主義の下で救われない人々」というテーマは、富と権力の偏在がさらに進む今世紀ではより深刻な主題になってくるのではないでしょうか。

それはそれとしてイシュマエル役のマーワン・ケンザリ、どことなくトム・ヒドルストンの雰囲気があり、「こいつ裏切るな…」というのがわかってしまったのが面白かったです。

新左翼版「仁義なき戦い」:『中核VS革マル』

例年1月は積読を崩す方向で動いているので、年始は立花隆先生の『中核VS革マル』を読んでいました。昨年の統一教会絡みで、日共(日本共産党)と新左翼勢が仲悪いという知識はあったのですが、そういえばどうして仲悪いんだっけ?とか、新左翼内で内ゲバしてるのはどうして?というあたりの解像度が低かったたため、ちょうど積読コーナーにあったこちらを。

一言で言っちゃうとタイトルに書いたように、まんま「新左翼版『仁義なき戦い』」なんですよね。元は一つの派閥がどんどん分裂していって、しょうもないことから抗争になっていくという。どんどん抗争が激化していくのも同じだし、例えば面白かったのが武器のエスカレーションで、最初は旗竿からスタートして古典的なゲバ棒→鉄パイプ→鉈→手斧→爆弾というきれいな階段。抗争の様子が具体的に書かれているのも(不謹慎ながら)面白く、後半の抗争やテロだとかなりスプラッター。こんなことが本当に50年前に起きていたの?という感じですが、ほぼ異世界を覗き込んでいるような心持ちですね。中核と革マルとで引き裂かれてしまった恋人たちの話はたしかに悲惨なのですが、あまりにも現実離れしており「悲劇は遠くから見れば喜劇」を地で行っている感じ。

ところで、中核派と革マル派、同じ新左翼の中でなんでこうまで凄惨な抗争を繰り広げているのか。ざっくり言っちゃうと新左翼の中でも中核派はかなり左寄り(権力に対する武力闘争メイン)で革マル派はかなり右寄り(権力に対する武力闘争はするけど、それよりは組織づくりのほうが大事)ということなんですね。これだけだと住み分けができてそうですけど、新左翼内でオルグして勢力争いをするという性質からこんなことに…というのが日共とブントの分裂のところまで遡って解説されているのでかなりわかりやすかったです。

面白いのは中核・革マルどちらも、「相手方が権力と結託している!」という陰謀論を唱えているところで、読んでる時は「そんな馬鹿な」という感じなのですが、第三の主体者として公安を持ってくることであながち陰謀論でもないよね、という着地にした立花さんの意見には膝を打ちました。1975年という50年近く前に発行された本ですが、当時の雰囲気も含め、この分野のとっかかりとしてはかなりいい感じの本ですね。

『アキバ冥途戦争』もかなりウケたし、メイド×新左翼でアニメ作ったらめちゃウケるのでは?と思いましたが、まあまだ現役で存在してるしやや怖いよね…。

『邪神ちゃんドロップキック』とかいう頭のおかしいアニメ

配信視聴勢なので新作が観れない1月のあたまは、友人におすすめされていた『邪神ちゃんドロップキック』を観ていました。

なんというかかなりイカれた作品ですよね…。まず第1話、始まった瞬間に「あれ?2期から観ちゃったかな?」となり一旦止めて確認してしまいました…。全く説明無いのに普通に話が進んでくし、それどころかキャラクターの名前さえもわからないし。説明過剰なのは嫌いだけど、ここまで説明無いのもなかなかチャレンジングですよね。まあ観ていくうちにだんだんわかってくるので、全く問題はないんですが、インパクトはすごい。

観ていて思ったんですが、これ、男女逆にした『よんでますよ、アザゼルさん。』ですよね。邪神ちゃんのしょうもない小悪党感とか。下ネタを暴力に置き換えた感じ。そういえば、邪神ちゃん上半身まっぱなのに全くエロティシズムを感じさせないのすごい。逆に、暴力にステータス全振りしてて、よくこんなん放送したなあ、というグロさ。切断系は当然、すりつぶし系(ミキサー系)も入ってるのが『ハッピー・ツリー・フレンズ』を思い起こさせる感じ。まあ犠牲になるのは邪神ちゃんだけですが…。推しはあまりにも不幸すぎる天使・ぺこら様。