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映画『カメラを止めるな!』を最高に楽しめるのはたぶん今だけだ。【ネタバレなしレビュー&考察】

投稿日:2018年8月9日 更新日:


 『カメラを止めるな!』はジェットコースターのような映画だ。低いところからじわじわと始まり、最後は怒涛の急降下。そしてみんなで観るとより最高に楽しいアトラクション!

 この映画をネタバレ抜きで語るのは非常に難しい(という言及もまた、ある種のネタバレなのだが1)。「つまらないけどめちゃくちゃ面白い」「何があっても最後まで観て欲しい」ということしか言えない。というのは、おそらく最初の10分くらいでものすごい違和感に襲われるからだ。9割くらいの観客は期待値マシマシでやってくると思うのだけど、まず、タイトルがなんか違う。この時点で「スクリーン間違えたかも…」と思って劇場の外に出てしまう人もいるかもしれない。「ゾンビ映画」、というジャンルを覚えていた人は大丈夫だと思うけれども、それにしても「面白くない」ゾンビ映画が延々と続く。何故か最初からガチ切れしている監督役のおっさん、謎の「ポンッ!」、不自然すぎるカメラワーク、テンポの狂った会話、都合よく置かれているナタ…etc。この時点で笑っているのは、おそらくリピーターか、もしくはB級映画ばかり観ていて感覚が麻痺している頭のおかしい映画キチガイだけである。

 しかも、このつまらない映画(?)、1時間半くらいだと思って観ていると30分くらいで唐突に終わってしまうのである…。混乱する思考をよそに無情に流れていくエンドロール(相変わらずタイトルが違うのが気になるが)。もしかしたら、ここでも終わったと勘違いして帰ってしまう人がいるかもしれない。ここまで言うとほぼ完全にネタバレなのだが、このクソおもんないB級ゾンビ映画のあとが本編だ。フラストレーションの溜まる前半のつまらなさを、いやB級映画であるがゆえのあるあるネタを笑いに転換する後半の展開はパズルのように組み上げられていて、あの違和感の裏側にあったものが明かされることで、他に類のない面白さを生み出している。個人的に良かったのはアル中のくだりで、あのゾンビのリアリティがあんなアホなことで生み出されるとは…。最後のクレーンは安全性の面で若干やりすぎかなとも思ったのだけど、彼らのやる気が伝わってくるいい締めだとも思う。

 正直に言ってしまうと、後半の展開については元ネタにしたと思われる三谷幸喜監督の作品の方が完成度は高い。しかし、『カメラを止めるな!』では、あえて不格好な劇中作を曝け出して、観客の期待値をどん底に叩き落とすという仕掛けが効いている。あの不完全さの裏にあるもの、それは「より良い作品を作ろう」という人々の思いと努力であり、そしてそれが事故や行き違いによって翻弄される中にあっても続けていくという意思の結晶だということが雄弁に語られる。あの37分のワンカットは大きく言うなら一つの人生のようなものであり、それゆえに日暮監督(濱津隆之)が劇中で叫ぶ「カメラを止めるな!」は作中とは別の意味を我々観客に投げかける。

 そして、この映画の醍醐味は、この感情の推移をその場にいる不特定多数の人々と共有するという点にある。前半の「何が起こっているのかかわからない」という混乱と不安感を共に体感することで、その後に待っているある種の「ご褒美」が活きてくる。観客を一つにまとめる緩急の設計が上手い。不特定多数の人間と同じ時間・空間を共有する映画館という場所では、とかく人間同士のトラブルが問題になりがちだ。例えばものを食べる音であったり、笑い声がうるさいといったことであったり。しかし、この映画に限って言えば、その他人という存在が、(落胆と)楽しみを共有するかけがえのない存在に変わっていく。「映画館で観ることによって満足度が最大になる」という点において、この映画は極めて”映画的”な映画だ。

 だから、この映画を最高に楽しめるのは、映画館が満員になっている今しかない。「映画館」という場の本来的な面白さを再確認させてくれるこの映画は、普段映画館に来ない人々にこそ観て欲しい。

基本情報

カメラを止めるな!  One Cut of the Dead96 min

監督:上田慎一郎

脚本:上田慎一郎

撮影:曽根剛

出演:濱津隆之/真魚/しゅはまはるみ/長屋和彰/細井学/市原洋/山崎俊太郎/大澤真一郎/竹原芳子/吉田美紀/合田純奈/浅森咲希奈/秋山ゆずき/山口友和/藤村拓矢/高橋恭子/イワゴウサトシ

公式サイトhttp://kametome.net/

NOTES

  1. そういえば『バーナード嬢曰く。』第4巻で全く同じことが言われていた

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