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映画『未来のミライ』の描く虚無。この映画、好きくない!【ネタバレなし感想レビュー&考察】

投稿日:2018年8月19日 更新日:


 とても混乱する映画だ。観ている最中、頭をよぎったのは「細田監督、クスリやりながら作ったのか?」ということ。まあそれは言いすぎかもしれないけれど、まともな映画の皮を被ったとびきり変な映画であることは間違いない。なにしろ、何の脈絡もなく主人公のくんちゃん(上白石萌歌)が自分のケツに犬の尻尾を突っ込んで絶頂する場面があったりする。予告編でも真っ先に置かれているキービジュアル的な場面だが、しかし特に伏線でもなんでもない。この映画は、こういった(ある種イッちゃってる)いくつかの小さなエピソードの組み合わせで構成されている。個々のエピソード自体は非常にわかりやすく、ビジュアル・演出ともに高いレベルにある(イカれた表現が多々あるが)にもかかわらず、それが一つにまとまって『未来のミライ』という一本の映画になるととたんにカオスが顔を出す。というより一本の映画になりきれていない。細田監督の頭の中身をとりとめもなく詰め込んだらこうなるのかも。

 テーマがわかりにくい、というわけではない。むしろ「テーマはとてもわかりやすい」。というのも、物語のクライマックスで未来ちゃん(黒木華)によって全てわかりやすーーーく説明されるからだ。チンパンジーにもわかる親切な作品である。この部分だけ取り出せば、作品の伝えたいことがわかってしまうのだ。もちろん、その前にあるいくつかのエピソードの中でそのテーマに向けて進んでいることはわかるのだが、この最後のパートで全て台無しにするという豪快な展開が魅力的だ。今までの話、必要でした?とにかく、ものすごい勢いで巻きに入るので観ている方はあっけにとられるか笑うしかない。「もしかしたらこれは非常に高度なギャグなのではないか?」とも思ってしまうほどに。

 そもそも、「4歳児が自分のルーツを巡って時を旅する」(言ってしまうと「祖先は大事だよ」というのがざっくりしたテーマである)という根幹のストーリー自体にかなり無理がある。だってそんなもん求めるモチベーションなんてないもん、4歳児に。この普通のお子様が何の主体性もなくタイムトラベルに翻弄されるのが大筋なんだけど、なんでこの現象が起きているかという説明は全くされない。テーマは最後に大声で叫んでるのに、途中の経過についてはなんとなく雰囲気で流しているのも特徴的で、明らかに祖先のところを訪れるパートもあるからくんちゃんの妄想ではないし、とは言うものの普通に空を飛んだり新幹線が地獄行き超特急になったりするのでそのあたりの切り分けというか、作ってる側も特に考えずに作ってる感がひしひしとする。誰も目的を持ってない話なので、観ている方も誰にも感情移入できないし、ひどい言い方をすれば「知らんがな」で済んでしまう話だ。

 むしろ、問題を抱えているのはくんちゃんの両親の方で、二人の子どもを抱えて悪戦苦闘する姿が描かれる(しかし経済的な不安が全く無い様子なのはさすが細田監督といった感じだ)。だが、両親とくんちゃんがタイムトラベルによって問題を解決する、といった展開ではない。あのクッソ住みづらそうな家(でも個人的には住みたい)の中での無意味な段差によって作り出される断絶のように、くんちゃんのタイムトラベルは両親にほとんど影響を与えない…、のだが、ラストはなぜか問題が解決して仲睦まじい彼らの姿が描かれる…。だいたい、あれだけいろいろ行っといてそれなりに体験もしてるのに、くんちゃんに起こった変化が「自転車に乗れるようになる」と「妹と仲良くなる」だもんなー。その成長、タイムトラベルする必要あります??まあ超好意的に解釈すると4歳の子どもにとってはタイムトラベルするほどの大事件!ということも考えられなくもないけど。

 まあそういう解釈をするとしてもですよ、自分のルーツがどうこうとは関係ないですよね。「おじいちゃんがあそこでがんばったから今のあなたがあるの」とか言われても、確かにそりゃそうかも知れないけど、それを恩着せがましく言われてもな…。くんちゃんも「はぁ???」だし(あれは完全に理解していない顔だった)、それを観てるこっちはもっと「はぁああ???」である。知らんがな。自らの血を鍵として過去と現在を連結するというアプローチ自体は特に変でもないし、子どもを主人公をにしていても、自らのルーツを探るという物語のモチベーションは有効だと思う。例えばトム・ムーア監督の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は消えてしまった母を求めて神話の世界まで入り込む冒険譚だった(そういえばあれも兄妹ものだ)。

 過去と現在を結ぶアプローチとしては、近年大ヒットをかました片渕須直監督の『この世界の片隅に』が挙げられる。この映画では第二次世界大戦中の市井の人々の生活を丹念に描くことで、現代の情景は一切描かないにもかかわらず、70年後の我々の世界との親和性と歴史の連続性を表現した。一方、『未来のミライ』は現代の視点から、明らかに過去の世界を覗き込んでいるにもかかわらず、そこから現代への連続性があまり感じられない。もちろん、祖父と祖母の馴れ初めの場面が現代でも語りぐさになっているといった仕掛けはあるのだが、観客である我々は当然として、実際にタイムトラベルで本人たちに会っているくんちゃんですら、そういった個別のエピソードにリアリティを見いだせないのではないか、と感じる。それは一つにはぶつ切りにされた個々の人々のエピソードがそういった連続性の認識を阻害しているし、より大きなものとしては、やはり主人公のくんちゃんの無主体性にあると思う。例えば、『君の名は。』のように、タイムトラベルものの定番として、「過去を改変する」といった目的があれば物語的にも盛り上がっただろうし、現代への連続性を強固なものにしただろうが、本作の4才児はただ単に傍観しているだけだ。盛り上がりようがないし、「知らんがな」という感想しか出てこない。

 この映画は、現代の一家族という極めて小さくて馴染みのある世界を舞台にしているにもかかわらず、誰にも感情移入できない奇妙な作品だ。『未来のミライ』というタイトルにしても、この映画の行き先はほとんどが過去だし、女子高生の未来ちゃんがナビゲートしてくれるかと思いきや最初だけ出てきて後はほぼ放置プレイ。こういうところ、「未来ちゃん詐欺」と言ってもいいと思う。とにかく、観終わった後の「何も無い感」が半端ない。虚無映画なのだ。

 もちろん、良かった点もいくつかある。先に書いたように、それぞれのエピソード自体はまとまりよく、細田守監督らしい演出力の高い場面になっている。最初に書いた「くんちゃんがケモ化する話」も、『おおかみこどもの雨と雪』を彷彿とさせる細田感あふれるエモーショナルな表現は流石といったところだ(意味は全くわからないが)。そして、特徴的な未来の東京駅のデザイン。なんで東京駅なのかという説明は例によって無いのだが、照明が控えめで重厚な雰囲気の建築がこれまでにない未来感を感じさせる。案内板にアラビア語が併記されているのも芸が細かい。この東京駅の片隅でくんちゃんがジュースを飲む場面もきめ細かい作画で印象に残る。

 ただ、繰り返しになるけれど、そういった素晴らしいシーンを積み上げていけば自動的に素晴らしい映画ができる、というわけではなく、結果として何かよくわからない虚無が生み出されたところに本作の特徴がある。次回の細田監督には、是非、原作ありの作品を作ってもらいたい。

基本情報

未来のミライ  98 min

監督:細田守

音楽:高木正勝

脚本:細田守

出演:上白石萌歌/黒木華/星野源/麻生久美子/吉原光夫/宮崎美子/役所広司/福山雅治

公式サイトhttp://mirai-no-mirai.jp/

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