レビュー&考察
「2人の英雄」の示すもの
『僕のヒーローアカデミア』という作品は「継承」あるいは「世代交代」の物語だ。
本作の背景となる原作のストーリーを確認しておこう。全人口の約8割がなんらかの特殊能力を持つ世界。主人公の緑谷出久は無個性者として生まれながらもヒーローへの夢を捨てきれない少年だ。彼の人生は「平和の象徴」であるトップヒーロー・オールマイトとの出会いによって一変する。彼の個性「ワン・フォー・オール」を受け継ぐことで出久はヒーロー養成の名門・雄英高校に入学し、プロヒーローを目指すこととなる。というのがこれまでのあらすじ。ちなみにこのあたりは映画の中でもしっかりと説明されるので、原作やTVアニメを観ていない人でも楽しめる。
特徴的なのは、単なる少年の成長譚というだけでなく、先に書いたように「継承」という要素が大きな比重を占めているということだ。主人公・出久の受け継いだ「ワン・フォー・オール」が象徴的だが、この能力には超身体能力だけではなく、「能力を引き継がせる能力」があり、幾世代ものヒーローによって受け継がれてきたことが物語の中で重要な要素として置かれている。「ワン・フォー・オール」を出久に渡したことによって、オールマイトは以前のような力を発揮できなくなっているのだが、ここに漂うのは濃厚な「死」の香りだ。出久自身、劇中で「これは、僕が立派なヒーローになるまでの物語」と言っているが、その中には「オールマイトの死」という通過儀礼も含まれるのだろう1。この印象は、先日完結したエピソードの中で、あるプロヒーローが殉職したことでさらに強くなった。この世界ではヒーローは絶対の存在ではなく、傷つき、衰弱し、死んでいく。だが、彼らは後に続く者に託すことで、その精神や能力が綿々と受け継がれていくのだ。
『僕のヒーローアカデミア』、初の劇場版となる本作では、この「継承」というテーマをストレートに取り上げている。物語の軸となるのはゲストヒロインでもあるメリッサ(志田未来)というキャラクターだ。かつてのオールマイトのサイドキック、そして現在はヒーローサポートアイテム研究の大家であるデヴィッド(生瀬勝久)の娘である彼女は、かつての出久と同じ「無個性者」だ。メリッサは明らかに出久の鏡像として設定されている。出久がオールマイトに憧れて雄英に通っているのと同様に、メリッサもまた、父・デヴィッドのような科学者を目指している。無個性者である彼女は、出久にとって「ありえたかもしれないもう一人の自分」のような存在だ。それゆえに、この映画はメリッサが父の精神を受け継ぎ、自らの未来への決意を新たにするという、もう一つの物語を描き出す。ラストカットの瓦礫の山の上で朝日を迎えるデクとメリッサ、そして彼らを見守るオールマイトとデヴィッドの構図に象徴的なように、この映画のタイトルに冠された「2人の英雄」とは、最後の戦いでのオールマイトとデクだけではなく、旧い世代のオールマイトとデヴィッド、そして新しい世代のデクとメリッサというように二重三重の意味を孕んでいる。原作とTVシリーズで語られたのが表であるヒーローの世代交代の物語であるとするなら、この映画で描かれたのは裏方であるサイドキックの継承の儀式だ。
そしてもう一つ、メタなレベルで言うなら、あるシリーズから『僕のヒーローアカデミア』というシリーズへの世代交代も指摘できるかもしれない。若干ネタバレになるが、本作の敵の使う能力はBONESが過去手がけた大ヒット作品『鋼の錬金術師』を思い起こさせる。穿った見方をするなら、自社がかつててがけた大ヒット作の象徴的なものを打ち砕くことで、「さらに向こうへ」[PLUS ULTRA]進んでいくという製作者の意図のようなものが浮かんでこないだろうか。
師弟揃い踏みバトルの暑苦しい作画が最高!!
BONESなのでもちろん作画アニメである。期待はしていたが、それを軽々と乗り越えるクオリティの高さだ。大きな見どころは次の3点。
まず冒頭のヤング・オールマイトの活躍。渡米したばかりのシュッとしたオールマイトが現地のローカルヒーローたちを押しのけて縦横無尽に街を飛び回る。現代の成熟したオールマイトも重量感ある動きが魅力的だけれども、若きオールマイトはとにかく動きのキレが半端ない。体型が違うというのもあるけれど、パワーよりスピードという感じで、飛行能力を持っているわけではないにも関わらず、地面に足をつけている時間のほうが短い!ミサイルも拳の風圧で消し飛ばすし、現在のトゥルーフォームを知っている人にとってはある意味、意外な一面だ。考えてみれば、デクが良く観てたビデオでもパワーがメインだったし、スピード感ある動きが楽しめるのは新鮮だったりもする。なにより、アメリカに上陸したばかりのくせにやたらと自信満々のオールマイトのイキリ顔が最高!若い!ちなみに、「なぜオールマイトが渡米することになったのか」という理由については、入場者特典の冊子に短編が掲載されている2。
セントラルタワー攻略の中盤、爆豪&轟 vs 名無しヴィラン×2も見どころの一つ。顔色の悪い2Pカラーっぽいハルク(まあ元々ハルクも緑色だけど)と億泰みたいな個性という微妙に地味なヴィランだが、ここの作画が良すぎて死亡。ぐわんぐわん回りこむし、中村さんらしい四角いブロックが乱れ飛ぶ眼福空間だ。ハルクっぽいヴィランと相まって、「シャンバラを征く者」のグラトニー戦を思い出す。あそこも確か中村さんだったし。かっちゃんも轟くんも正装で戦ってるというのも面白い。予想通りかっちゃんがすぐボロボロになるのも予定調和的だがコミカルで良い。別に共闘するというわけではなくて、各々別々に狭い場所で戦ってて、微妙に1vs1同士が交わるか交わらないかという絶妙なカットのテンポの気持ちよさ。ちなみに切島くんもいたけど速攻ダウンしてたのもポイント高い。
そしてクライマックスのアクション!実は今まで無かった師弟揃い踏みのバトルシーンにテンションが上がる。映画らしいボーナストラック的な趣だ。前述したように、敵の能力がエドっぽい上に、地面から生えるように飛び出てくる金属塊の描写がいかにも「鋼」っぽい。その鋼の木々の上を駆けるオールマイト&デク。ここの笑っちゃうようなスピード感も現実離れしていてリアリティないんだけど、テンションがMAX突破しているので全く違和感がない。鉄の触手を紙一重で避けるオールマイトのカットも良かった。そういえば、オールマイトが触手で拘束されたりしてピンチになっちゃうのも劇場版ならではという感じだ。いかにあのアイテムがすごいかというのが伝わってくる。で、とどめの師弟デトロイトスマッシュ。割とありがちなシーンなのに、オールマイトが腕組みして直立してるエモすぎるカットが挿入されてて、これだけで印象度が段違いになっている。いかにもオールマイトがやりそうなポーズではあるけれど、あそこで突っ込んでくるとは…。このセンス、すごすぎる。さすがBONESと拍手喝采しちゃう濃い作画密度!このバトルシーンだけでもまた観たいと思わせる熱量がある。
ここが良かった雄英1-A!
今回、さすがに1-A全員は登場しなかったけれど、人気ランク上位勢は押さえているので大体の人は満足できるはず。青山くんとかEDにすら出てこなかったけど。出席番号順に、飯田・麗日・上鳴・切島・耳郎・轟・爆豪・緑谷・峰田・八百万(敬称略)。結構な人数を上手くバラけさせて活躍させている黒田さんの脚本が光る。
安定の爆豪&轟&切島
今回、なぜかこのトリオで行動してるパターンが多かった。爆豪&切島はいつもだけど。「パーティーに来ていく服なんかあるかボケェ!」「用意しといたよ!」のあたりの切島くんの世話焼きママ感にほっこりする。アクションシーン除いたらここ個人的にベストカット。爆切が捗る。序盤の「ヴィランチャレンジ」の時の轟くんの空気読まなさも良かったな。爆豪×轟もめちゃくちゃ相性いいよね(悪い意味で)あと外壁出て風に煽られちゃった時の轟くんのナイスアシストね。原作ファン向けのサービス的な。左を使うの久々っぽい。
意外な活躍、峰田くん
USJの時も思ったけど、峰田くん愛されてるな…。ポリティカリー・コレクト的にヤベー性格のくせにこんなに見せ場があって良いんだろうか。個性の「もぎもぎ」、最初は何に使えるんだろうと思ってたけど、かなり汎用性あるのがだんだんわかってきた。くっつくだけのくせに…。まあ今回は梅雨ちゃんがいなかったのもあるけど。それにしても見せ場多かった。峰田担(いるのか?)は必見。制作側からしても、能力的・キャラクター的にいろいろと使いやすいキャラなんだろうな、という気はする。
上鳴、安定の使えなさ
セントラルタワーでの戦いでめちゃくちゃ相性いい敵が出てきたから、上鳴、すげー活躍するじゃん!と思ったら噛ませ犬だった…。後半ずっと荷物になってた…(本当)。かわいそう(美味しすぎる)。
基本情報
僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 2人の英雄 96 min
監督:長崎健司
音楽:林ゆうき
脚本:黒田洋介
出演:山下大輝/三宅健太/岡本信彦/佐倉綾音/石川界人/梶裕貴/志田未来/生瀬勝久/小山力也/木村良平/大悟/ノブ