映画レビュー

【映画レビュー】『そこのみにて光輝く』

投稿日:2014年6月2日 更新日:


 愉快な映画ではない。舞台は夏の函館だが、まるで初冬のような陰鬱な空気が常に漂っている。時折挿入される蝉の声や夏祭りの準備といったものだけが、この世界が夏の最中にあることを思い出させてくれる。綾野剛演ずる達夫の、まるで死にたてのゾンビのような生気のない演技がそれに拍車をかける。物語の端緒となる拓児(菅田将暉)のテンションの高さは画面の温度をほんのちょっと温めるだけで、空回りして虚空に消えていく。そういえば、この2人が出会う場所もジャラジャラという音が虚しく響き渡るパチンコ屋であった。

 達夫と拓児という全く対照的な性格ながら同じ境遇に陥っている2人の出会いによって物語は始まる。達夫はかつての「山」の事故によるトラウマに溺れて無気力のままに日々を過ごし、拓児は前科に縛られて町を出ることが出来ず、町外れのバラックに家族とともに暮らす。拓児の姉である千夏(池脇千鶴)は町のスナックで体を売り、拓児の保護観察官との不倫関係によって家族を養っている。寝た切りの父親(田村泰次郎)の介護をするのは同じように年老いた母(伊佐山ひろ子)である。町に満ちたやるせなさから逃れるように、達夫と千夏は誰もいない海で身体を重ね、拓児は「山」へ行くことを渇望する。山や海は「ここではないどこか」を表す象徴であり、希望の拠り所でもある。

 物語に出てくる人々は皆何かに囚われている。それは自らの過去であったり、地縁的なしがらみ、あるいは現在進行形で存在している家族であったりして、どれも簡単には切り捨てることが出来ない。これらのどうしようもない現実をどうするか、というのが最大のテーマであるわけなのだけれど、この映画では結果として2つの選択の帰結が描かれる。それは、「逃れられないもの」を無理矢理に無くしてしまうか、それを受け止めるか、という決断だ。二者の行方がどうであったのかはここでは詳しく書かないが、ラストカットで朝日を受け止める池脇千鶴と綾野剛の表情からは、彼らなりの覚悟が確かに読み取れる。諸々の問題は依然としてして存在しているし、むしろ悪化している部分すらあるというのに、彼らのこの晴れ晴れとした笑顔はどうしたことだろう!これは諦めの境地であるとも読み取れるかもしれないのだけども、少なくとも彼らの世界に纏わりついていた閉塞感は拭い去られている。

基本情報

そこのみにて光輝く  120 min

監督:呉美保

音楽:田中拓人

脚本:高田亮

撮影:近藤龍人

出演:綾野剛/池脇千鶴/菅田将暉/高橋和也/火野正平/伊佐山ひろ子/田村泰二郎

関連商品

関連コンテンツとスポンサードリンク

-映画レビュー

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

【映画レビュー】『映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記』:結局いつものドラえもん

正直、微妙  ここ数年、旧作のリメイクとオリジナルを交互に発表している大長編ドラえもんシリーズ。ついに満を持してというべきか、今年のテーマはヒーローもの!ということで、それなりに期待はしていたのだけど …

【映画レビュー】『ZOOMBIE ズーンビ』:あっ!キリンも象もゾンビになった!!

クソ映画量産会社アサイラムの最新作はゾンビ動物園だ!草食動物も襲ってくるぞ!(カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016にて)

【映画レビュー】『嘘八百』:脚本以外はいいんじゃない?【あまりネタバレなし】

武正晴監督、中井貴一・佐々木蔵之介主演の映画『嘘八百』のあまりネタバレしないかんじのレビューです。パッと見面白そうなんだけど、まーーー微妙でしたねー。森川葵がかわいいよ。

【映画レビュー】『5つ数えれば君の夢』

山戸結希監督の映画『5つ数えれば君の夢』のレビューです。山戸監督らしい瑞々しいガールズムービーでした。主演は東京女子流。

杉田協士監督『ひかりの歌』は後からじわじわくる今年のベスト候補!【2019年1月に観た映画感想レビューまとめ/全16本】

2019年1月に観た映画の感想レビューまとめです。ネタバレなし。今月は杉田協士監督の『ひかりの歌』をめっちゃ推します。今年のベスト候補。ちょっと長いのであれですが、後からじわじわ来るホッカイロみたいなタイプのやつです。

search