映画レビュー

【映画レビュー】『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』

投稿日:2014年6月5日 更新日:


 ギターを背負い、猫を小脇に抱えた髭面の男が街を彷徨う。舞台は冬のニューヨーク。主人公ルーウィンは根無し草である。毎夜、友人の家のソファを占拠し、恩人との夕食の席では癇癪を起こして追い出される。猫をうっかり逃すかと思えば、女友達に手を出して妊娠させてしまったりする。このあたりのキャリー・マリガン演ずるジーンのセリフはズサズサ刺さる感じで良い(「生物に触らないでこのクズ!」とか)。挙句にその旦那に堕胎費用を無心するというなかなかの下衆の極み。オスカー・アイザックのヤサグレともアキラメともつかない、常に眉間に皺を寄せた演技が、そんなキャラクターにピッタリとハマってしっくりくる。

 そんなルーウィンであるからもちろん、本業(?)であるフォークソングも全くうまくいかない。相棒は数年前に自殺しているし、レコードもさっぱり売れない。何かに取り憑かれたように彼はギターと猫とともに旅に出る。行き先はシカゴ。これは彼にとっての巡礼の旅だ。行き連れは小うるさいジャズシンガーと無口なその付き人。シカゴで彼を待っているのは大物プロデューサー・グロスマン(F・マーレイ・エイブラハム)だが、ここでのソロオーディションもまたいい。あたかもグロスマンの神性を象徴するかのように、光がマーレイの身体に纏わりつく。ルーウィンにとっての神でありながら、「金の匂いはせんな」などとルーウィンの曲を評するグロスマンと、頑なに自らの音楽観に固執するルーウィン。旅の帰路、シカゴの雪を踏み分けるルーウィンのザクザクという足音が耳に残る。

 この旅の結果については詳しくは書かないけれど、映画の冒頭で流れた見覚えのあるシーンが最後に繰り返されるのは、少し戯画的ではあるけれども、なかなかに示唆的で印象的なシーンだ。猫が逃げ出すことさえなかったけれども、旅という非日常を終えたルーウィン・デイヴィスの日常はこれからも淡々と進んでいく。まるでループするかのように。そこにはもちろん希望はないし、かといって誰が死ぬわけでもない。物語の終わりでルーウィンが去っていく男に投げかける「au revoir」は字幕では「あばよ」と訳されていたけれども、本来は再会の意を含んだ別れの挨拶。永遠に続く底辺の倦怠感を受け入れた、名も無き男の悲哀。

基本情報

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌  Inside Llewyn Davis104 min

監督:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン

音楽:T=ボーン・バーネット/マーカス・マムフォード

脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン

撮影:ブリュノ・デルボネル

出演:オスカー・アイザック/キャリー・マリガン/ジョン・グッドマン/ギャレット・ヘドランド/F・マーレイ・エイブラハム/ジャスティン・ティンバーレイク/スターク・サンズ/アダム・ドライバー

関連商品

 当然ながら音楽も最高です!

 あと、この作品が気に入った人は下の映画も気にいるかも。

関連コンテンツとスポンサードリンク

-映画レビュー

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

【映画レビュー】『コーヒーをめぐる冒険』

ドイツの新鋭、ヤン・オーレ・ゲルスターによる初監督作品『珈琲をめぐる冒険』(Oh Boy)のレビューです。白黒で描かれるベルリンの街。モラトリアムで厭世的な現代的シティボーイズ、ニコ(トム・シリング)がコーヒーを求めて奔走する。

『天気の子』に新海誠の新境地を見た。【2019年7月に観た映画感想レビューまとめ/全7本】

2019年7月に観た映画の感想レビューまとめです。あまりネタバレなし。今月もアニメ映画がどれも良かったですね。『天気の子』はあと2,3回観に行きたいレベル。

【映画レビュー】『きみの声をとどけたい』:ラジオと女子高生が紡ぐひと夏の奇跡【ネタバレなし】

「キミコエ・オーディション」から生まれた6人の新人声優がメインキャラクターを演じる、爽やか極まりない王道青春ストーリー!いろいろと惜しいところはあるけれど、とても愛おしい映画です。

【映画レビュー】『アタック・オブ・ザ・キラー・ドーナツ』

カリコレ2016で上映された『アタック・オブ・ザ・キラー・ドーナツ』のネタバレ(あまり)無しレビューです。揚げたて(じゃない場合もある)ドーナツが襲ってくる映画。監督は『アイス・ジョーズ』でおなじみのスコット・ホイーラー。あの名作『アタック・オブ・ザ・キラートマト』へのオマージュがあるようなないような。

【映画レビュー】『トータスの旅』:木村さんが全裸で歌う!【ネタバレなし】

永山正史監督の映画『トータスの旅』のレビューです。亡き妻をめぐる死の香り漂う旅の物語であり、家族の再生へとつながる通過儀礼としてのロードムービー。主演の木村知貴さんの演技(特に後半20分の怒涛の展開!)が素晴らしい。

search