今月のおすすめ

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 『劇場版SHIROBAKO』は「ハッピーエンドのその先に何があるのか?」を描いた作品だ。物語はTVシリーズの4年後から始まる。シリーズの最後で『第三少女飛行隊』を無事完成させたた武蔵野アニメーション。彼らがその後どうなったのか。さらなる発展を遂げた武蔵野アニメーションが次に手掛けるものとは?!…と期待するところなのだが、冒頭からとてつもない現実が襲いかかる。4年の間に起こったある事件によってスタッフはほとんどいなくなり、名物社長だった丸川社長は責任をとって辞任、会社は下請けとしてささやかに営業しているのだった…。途中挟まれる回想シーンでの「ただちに制作を中止してください」の迫力はただ事ではない。予告編で出た蔦の絡みついた武蔵野アニメーションは空想の産物かなにかかと思っていたのだけど、普通にその社屋に通勤する宮森たち、そしてこだわりを持って作っていた『第三少女飛行隊』の二期はお色気アニメへと変貌している…。「ハッピーエンドのその先」、そして「万策尽きた」後の世界を舞台にしているのは衝撃だった。

 そんな息も絶え絶えの武蔵野アニメーションに劇場アニメ制作の話が舞い込んでくる。スタッフも満足に揃わない中、しかも1年に満たない日数で果たして劇場アニメを作ることができるのか。自問する宮森。彼女がアニメーションを作ることの意味についての思いを新たにするミュージカルシーンは序盤の大きな見せ場だ。挿入歌「アニメーションを作りましょう」に乗せて、これまでの劇中劇キャラクターが踊り狂うある意味でサイケデリックな映像。かくしてここで覚悟を決めた宮森は制作というよりはプロデューサーのような立ち位置で現状に立ち向かっていき、TVシリーズのような様々なトラブルを乗り越えて『空中強襲揚陸艦SIVA』が無事完成する…。

 しかし、この映画の真髄は「俺たたエンド」に新たな意味を与えたことにある。「俺たたエンド」、すなわち「俺たちの戦いはこれからだエンド」は漫画やアニメの物語世界において基本的にはネガティブな意味合いを持つ概念だ。それは「尻切れトンボ」であり大団円ではない。映画の終盤、白熊のロロは言う。「仕方ないよ、人生はいつも「俺たたエンド」なんだから」と。宮森とスタッフたちが劇中劇の結末を変え、そして物語がムサニの朝礼で終わるのは、この映画が終わりなき「俺たたエンド」を描こうとしていた証左に他ならない。それはこうの史代と片渕須直が『この世界の片隅に』の中で描こうとした終戦記念日の後の世界だ。「ハッピーエンド(あるいはバッドエンド)のその先」にあるもの。それは永遠に続く「俺たたエンド」であり、この映画はその素晴らしさを称える「お仕事アニメ」の新たな金字塔たる作品だ。

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観た映画一覧(時系列順)

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 午前10時の映画祭にて。友人が行けなくなったので代わりに鑑賞。旧作で休日の10時からというのに、ほぼ満席ですごい!自分はおおよそ20年ぶりくらいの鑑賞かな。

 もちろん、オチは知ってるんだけど、そこに至るまでの過程がほとんど覚えていなくて、特にマーティのパパとママがどうやってくっつくのかの場面は本当にハラハラしながら観てしまった。タイムトラベルものなのでそりゃあそうなんだけど、やはり伏線の貼り方と回収が見事だよね。というか伏線回収するための話でもあるわけだけど。現在と過去での繰り返しギャグに笑った。マーティ父とビフのくだりね。ビフ、クソ野郎だとは思うけど、改変された現在での境遇はちょっと同情してしまった。なんかもっと…みんな幸せになってほしいな。

 オチも続編を観たくなる引きで上手いなあ。そして2が同時にやってるので観ようと思えばすぐ観れるというのも嬉しい。あと思ったのは、これ現代でリメイクしても面白いじゃないかな、っていう。1990年くらいにタイムスリップしてさ…。良さそうじゃない?

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 いやー、笑った笑った!染谷将太がまあー素晴らしくハマっている。いつもの染谷将太なんだけど、スカした経済ヤクザの中堅幹部っぽさが合ってる。といってもいわゆる任侠映画に出てくるキャラじゃないよね。細かいミス積み重ねで物語を転がしていく役どころなのが面白い。本人はテンション低めで熱は全く無いんだけど。ベッキーを家に運び込んだ時のノリツッコミのような逆ギレとかゲラゲラ笑ってしまった。シャブでハイになってるシーンとか、「全然痛くねえ!」のところも最高!本当の主演は窪塚正孝演ずる余命宣告されたボクサーと売春婦の小西桜子なんだけど、どう考えても主役は染谷将太です。少なくとも自分の中では。往年のヤクザ映画ばりのキャラの立ち方ですごい良い。『仁義なき戦い』で言うなら田中邦衛っぽいんだよね。で上手く立ち回ってたつもりが表舞台に引きずり出されてひどい目に合うの。とにかく、この映画の染谷将太はすごい。

 あとは一部でだいぶ話題になってたベッキーの鬼気迫る演技も良かった。拉致した中国人を逆にボッコボコにするシーンもいいんだけど、パンイチでヤクザの事務所に乗り込んで「あたしもぶっ殺すけど、あんたたちもぶっ殺して!」なんて、まー名台詞ですねこいつは。バールのようなものがよく似合うんだよなあ。彼女もハマり役ですねえ。大森南朋のクズ刑事も大変良かったですね。いかにもいそうな感じで保身だけを考えてる感じの。

 ガワこそは往年の東映任侠映画のような血しぶきが飛ぶコミカルなヤクザ映画なのだけど、『初恋』というタイトルが示すように恋愛映画としての軸もしっかり描かれている。というより二人の若者の恋愛模様にひょんなことからヤクザが乱入してくる感じ。子供の頃に性的虐待を受けていたヒロインは常に父親の幻覚に怯えている。しかし、主人公が音楽を流すことでその幻覚が俄に珍妙な踊りの場面へと変貌する。主人公にはその幻覚は見えないのでヒロインが何故笑っているかわからない。しかし彼も同じように笑い出す。ヒロインの実家に帰る列車の中のこのエピソードはとてもいい。この距離の詰め方。映画のラストカットの定点ロング長回しでその後の二人をさり気なく見せるのも印象的だった。

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 とにかく主演の田中圭が良すぎる。外見もいいんだけど、性格も出来すぎてて、リアリティはないんだけど、そこがこの映画のいいところでもある。というか今泉監督の映画は基本的に地に足がついてるんだけど、どこかそこから地上10センチくらいのところに浮かんでいるような奇妙な非現実感に包まれているような気がする。そしてそれが今泉監督の魅力なのだけど。

 この映画は「告白」の映画だとざっくり言ってしまってもいいかもしれない。田中圭演ずる主人公の夏目さんは外見も田中圭だし、性格もありえないほどいいやつなので、バツイチにもかかわらず、女子高生から人妻までいろんな女性がどんどん寄ってくる。まあ納得ですね。ちなみに不登校気味の夏目さんの一人娘・さほ役の白鳥玉季さんもえらく芸達者で可愛いんですよね。で、この様々な女性たちから告白されるんですが、まあこれがリアルで自分のことを思い出して気恥ずかしくなること必至。「やっぱ今日はやめとくわ」みたいなの、あるあるだなー。あ、あと笑ったのが夫同伴で告白してくるやつ。いやー、なんか話聞いてると気持ちはわかるんですけど、ないでしょwっていう。

 主人公が営む小さな花屋「mellow」のおしゃれっぷりも素晴らしかったのですが、ヒロインである木帆(岡崎紗絵)が切り盛りする古びたラーメン屋もとてもいいのですよね。父から受け継いだこのラーメン屋を続けるか自分の人生に戻るか、というのもこの映画の軸となってるんですが、父からの最後のメッセージがまた良くて…。今泉監督の映画、映画自体であれその中のものであれ「最後」の演出が毎回素晴らしいんですが、本作も例に漏れず。最後のセリフがあれで終わるのがいかにもこの監督らしい。そして一番印象的だったのがラーメン屋の最後の客のおじいさんだったりします。あの人だけなんかリアリティのレベルが違うんですよね。いや、今回も素晴らしかったです。

   
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 ひええ…これほんとにR15でいいんか…。前評判で聞いてた通りの「爽やか系地獄」。爺さん婆さんのお祝い会のあたりから、もう不穏な雰囲気がバリバリで、だいたい何が起こるかは予想がつくんだけど、それでもあのカットには驚かされた。しかもその瞬間をわざわざ近く寄ってみせるし、男女で2パターン用意するしでまあアリ・アスター監督の性格の悪いこと!最初のうちこそ牧歌的ないい感じの避暑地っぽい感じなんだけど、どんどん狂った面が出てきて、その出し方も上手い。彼らにとっての聖典を作るために意図的に知的障害者を生み出してるくだりとか、外部から血を入れるための「S○Xしないと出れない部屋」とか、まあえぐいえぐい。狂いすぎてて半分コメディみたいになっちゃってる。「S○Xしないと出れない部屋」の「ピストンアシストババア」なんかもう絶対笑うでしょあんなん。

 で、このキチガイ村にやってきた大学生たちがひどい目に会うという。まあ要するに『グリーン・インフェルノ』の先進国版ですね。カルト宗教のカルト村もスウェーデンならギリギリ許されると言ったところでしょうか(せやろか…)。大学生グループの中での一押しはなんと言ってもウィル・ポールター演ずるクソガキ大学生・マーク。ホルガ村の御神木とも言える「祖先の木」にしょんべんかけたり、一貫してクソみたいなことしかしてないのでまあ殺されても自業自得かな、という映画の癒やし役。いやでもあの御神木はわかりづらすぎるだろ。なんかしめ縄的なもの付けとけよ…というあたりもあの村の嫌らしさが出ていて、すごく好きなシーンですね。それと主人公の恋人クリスチャン(ジャック・レイナー)。ネットで話題になったけど、こいつもまあクソ野郎でしたね。「死ね!」とまでは思わなかったけど。「S○Xしないと出れない部屋」に閉じ込められたり、全裸で村中を駆け回る羽目になったりとかわいそう。最後はクマになっててたいへん可愛かったですね。

 それにしても、これでR15ならR18指定の「ディレクターズ・カット版」はどうなっちゃってんだろう…。恐ろしい…。なんというか、こんな映画、一昔前ならカルト映画扱いされて終わってたと思うんだけど、劇中のホルガ村と同じようにガワの綺麗さで人が集まって大ヒットというのが面白い。宣伝も狂ってるけど効果的だったし、ちょうどそのへんも大ヒットした『食人族』と同じような感じだよね。でもそれってまんまカルトの手法なんだよなあ…。観た人が「映画を映画である」と認識できていればいいのだけど。まあなんにせよアリ・アスター監督には完敗!

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 オリジナルシリーズの方は1話だけ観てなんとなくそのままにしてしまってたのだけど、先にこっちを観てしまった…。ドラマ一本一本はそれほどでもないけど、まあ全部観ようとすると長いよね…、という。こちらは映画館ではなくNetflixで視聴。

 とはいえ、シリーズを全く見てない自分でも全く問題なく楽しめました。設定的にはなんか湯浅監督の『カイバ』みたいな話だよね。バリバリのSFだから攻殻寄りだけど。300年後の未来で遠く離れた惑星なのに、テーマがヤクザの襲名でしかも今どき見ないようなコテコテのヤクザの皆さんが出てくるのが、アンバランスな感じで実に良かった。「襲名」と『オルタード・カーボン』のメインとなるテクノロジーである「スタック」が上手く組み合わされていて、さらにミステリー的な要素もあり、盛りだくさん。ドラマシリーズの前日譚ということだけど、ドラマの第一話から出てたAIホテルのポーにあたるAIのおじさん「鴎外」がいいキャラだった。作家名シリーズ。ポーの和風パロディという感じで武装もオリジナルと同じ風に出てくるし、規則に縛られてるけど逆転して力を発揮するパターンで、こいつら兄弟かなんかか?と思ったり。損害額算定フェイズからの爆弾付きドリルボウガン攻撃が燃える。エグい。あと最近じゃあトンと見なくなった、パンチパーマでコテコテの関西弁でいちゃもんつけてくるヤクザのおっさんも良かったなあ。あんなん今どき実写でもみないよな。ちゃんと指が落とされたりもする。

 SFヤクザ映画ということで指が落ちたり首が飛んだり、中盤からの大殺戮シーンは見もの。東映ヤクザ映画から出てきたような連中がクソ強いニンジャ型のスリーブにバッサバッサとやられます。ヤクザが弱すぎるのか、謎のニンジャスリーブが強すぎるのか…。アクションもアニメならではのスタイリッシュな感じでとても見応えがあり、できれば映画館の大画面で見たいなあ、というのが正直な所。結構受ける気がしますけどねえ…。ネトフリ加入者なら観ても損はないけど、まあネトフリは他にも観るものが多すぎですしねえ。とりあえずドラマシリーズを観たくなりました。

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