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クソっぽいタイトルの『サヨナラまでの30分』が神映画だった【2020年2月に観た映画まとめ】

投稿日:2020年2月29日 更新日:


今月のおすすめ

1

サヨナラまでの30分  114 min


監督:萩原健太郎
音楽:内澤崇仁
脚本:大島里美
撮影:今村圭佑

出演:新田真剣佑/北村匠海/久保田紗友/葉山奨之/上杉柊平/清原翔/牧瀬里穂/筒井道隆/松重豊

 「きっと邦画の悪いところを煮しめたような作品に違いないよ…」と思い込んでスルーしていたのだけど、タイムラインでの圧倒的な好評によって急遽観に行ったら、まあこれが年間ベストレベルの大傑作だったわけで…。いやー、Twitterの邦画クラスタ本当に頼りになりますね。

 正直言うと、ストーリーは予想通りだったんですよ。どーせ、最後に幽霊(厳密に言うと違うが)のアキ(新田真剣佑)が消えるんでしょハイハイ。って感じで確かにそのとおりなんだけども、まあ演出が凄まじく良い!良い!特にこのグダグダの愁嘆場になりそうな「別れの場面」の潔さというか切り離し方は素晴らしかった。あの瞬間から、颯太(北村匠海)の人生が始まる/再開するのだというポジティブな別れ。しかもそれが物語の終わりにもなっているという。歌い終えこちらを見据える北村匠海の汗だくの表情は非常に印象的だ。

 そういえば、この物語は一つの身体を二人の人物が共有するという話だが、身体性に重きを置いているところも特徴的だった。なぜカセットテープでなければならなかったのかという理由が「身体性と記憶」を軸に語られ、DTMに勤しむ颯太がライブでの演奏へと傾いていくという物語につながっていく。特に定番の展開である「死者の消滅」が成仏のようなファンタジー要素ではなく、磁気テープの上書きというロジックによってSF的な味付けをほどこされているところなど、見事な設定だと思う。

 「身体の共有」という要素は新海誠監督の『君の名は。』を想起するが、そういえば演出面でも新海的なところがいくつかあって、例えばオープニングのスタイリッシュなカッティングなんかはまんま『君の名は。』っぽいところがあった。とにかく、ベタな設定と展開でも演出次第でいくらでも面白くなるということを示してくれたという意味で掘り出し物だったし、意欲的な作品であることは間違いない。今年のベスト候補。

観た映画一覧(時系列順)

2

エクストリーム・ジョブ  극한직업 [EXTREME JOB]111 min


監督:イ・ビョンホン
音楽:キム・テソン
脚本:ムン・チュンイル
撮影:ノ・スンボ

出演:リュ・スンリョン/イ・ハニ/チン・ソンギュ/イ・ドンフィ/コンミョン/シン・ハギュン/オ・ジョンセ

 麻薬捜査班が張り込みのためにヤクザの事務所の向かいにあるフライドチキン屋を買い取ったらうっかり大繁盛してしまう、というあらすじだけでもう面白い。こういう、意図せぬ方向に転がっていく話は大好きなのだけど、この映画も例に漏れずかなりハマってしまった。全体のテンポもいいし、演出の間も良くてストレスなく観れるのもいい。無駄なシーンと言うと語弊があるかもしれないけれど、退屈に感じる場面が全く無かったのはすごいと思う。ヤクザ対麻薬捜査強行班のガチンコ勝負が始まったと思ったら5秒くらいで警察側がボコボコにされて、ヤクザたちが車で颯爽と去っていくかと思いきやスクールバスに横転させられるくだりなんか、スピード感はあるし意外性はあるしすごいカットだと思う。劇場でもみんな爆笑。

 キャラクターたちがまた抜群に良いいんですよ。万年班長のリュ・スンリョンの野原ひろし感といい、馬鹿にしか見えないマ刑事(チン・ソンギュ)が物語の鍵を握っていたりと、それぞれのバックグラウンドが語られるわけではないのだけれど、2時間の上映の間に彼らにどんどん感情移入してしまえる親近感。個人的に好きだったのはチキン屋の経営にのめり込んでいく4人を尻目に車中で張り込みを続ける真面目なヨンホさん(イ・ドンフィ)ですね。やれやれ感がすごい。ヤクザ側も地味に狂ってる奴らが多くて、麻薬密売というリアルな犯罪を扱っているにも関わらず、思わず笑ってしまう。偶然にもテッド・チャン(オ・ジョンセ)なんて名前のやつも出てくる笑

 とにかくいい場面が多すぎて語り尽くせない作品。チキン店が繁盛しすぎて張り込みが出来ないので法外な値段に釣り上げてもまだ客がくる場面とか、テッド・チャンがパトカーのサイレンを聞いて「火事のようだな」と言う場面なんか劇場のみんなが一体になって笑っていて最高だった。観ている間ずっと笑っていられるし、ポリティカル・コレクトリーなので誰にでもおすすめできるのも良いポイント。チン・ソンギュが敵から容姿について罵られる場面もあるんだけれど、ちゃんとあとでフォローがあったり、チャン刑事(イ・ハニ)が法なんて無視して捕まえようと主張するのに対してリーダーがちゃんと諌める場面があったりして、安心して観れる。キャラクターが非常に立っているので、このメンツでシリーズ化してほしいなあ。

3

ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密  KNIVES OUT131 min


監督:ライアン・ジョンソン
音楽:ネイサン・ジョンソン
脚本:ライアン・ジョンソン
撮影:スティーヴ・イェドリン

出演:ダニエル・クレイグ/クリス・エヴァンス/アナ・デ・アルマス/ジェイミー・リー・カーティス/トニ・コレット/ドン・ジョンソン/マイケル・シャノン/キース・スタンフィールド/キャサリン・ラングフォード/ジェイデン・マーテル/クリストファー・プラマー/フランク・オズ/リキ・リンドホーム/エディ・パターソン/K・カラン/ノア・セガン

 ダニエル・クレイグ、007の印象が強すぎたんだけど、こんな感じの役もできるのねーという新鮮さがある。ぼんくら探偵も似合うじゃん!

 大富豪が自殺!でも実は…というのはまあ定番だけど、まさか『古畑任三郎』的な倒叙ものだったのは予想外で面白かった。大富豪の爺さん(クリストファー・プラマー)の看護婦(アナ・デ・アルマス)が真犯人なのは序盤も序盤で明かされるんだけど、そこから事態が二転三転していく脚本が実に匠みで楽しませてくれる。特に「真相」については最後の最後まで全く気づかず、いかに普段ミステリーに触れていないか痛感した次第。マルタが家族に告白しようとする瞬間に探偵が下手な芝居で唐突に割り込んでくるシーンなんか、「あー、ここで人情エンドになっちゃうのかー。ちょっと興ざめ〜」なんて思っちゃったくらい。そういう意味ではミステリ慣れしてない人のほうが楽しめるかもしれない。

 物語の中心は殺人事件なんだけど、コミカルな場面も多い。特にこの手の事件に定番の遺産相続絡みで、遺言書開封の儀のあとの一族阿鼻叫喚は鼻持ちならない連中が多いのもあってゲラゲラ笑ってしまった。遺産絡みで言うなら、冒頭とラストとで登場人物の立ち位置が逆転しているのもいい。特に例のカップの持ち主が変わっているところとか。一族がテラスを見上げるカットは印象的。この場面を演出するためにわざわざ探偵が彼らを外に出したのかと思うと…。続編を検討しているとのことだけど、ダニエル・クレイグの探偵は面白いと言えばそうなんだけど、ちょっと地味かな…。まあ出たら観るけど。

4

ジョジョ・ラビット  JOJO RABBIT109 min


監督:タイカ・ワイティティ
音楽:マイケル・ジアッキノ
脚本:タイカ・ワイティティ
撮影:ミハイ・マライメア・Jr.

出演:ローマン・グリフィン・デイビス/タイカ・ワイティティ/スカーレット・ヨハンソン/トーマサイン・マッケンジー/サム・ロックウェル/レベル・ウィルソン/スティーブン・マーチャント/アルフィー・アレン

 うーん、ちょっと期待しすぎたかな…という感じ。とは言え標準以上の力作であることは間違いなく。原作には出てこないイマジナリーフレンドのヒトラー、たしかにキャッチーだし面白い要素なんだけども、どうにも都合の良い存在という感触が拭えない。確かに少年がヒトラーもどきを(文字通り)突き放す展開は痛快ではあるのだが…。

 ドイツの敗戦が濃厚になりつつあるドイツ。ベルリンに住む10歳の少年・ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)はヒトラーユーゲントのキャンプで兎を殺せなかったことから「ジョジョ・ラビット」というあだ名を付けられた上、手榴弾の誤爆によって顔に傷を負う。退院したジョジョはある日、家の屋根裏にユダヤ人の少女が匿われているのを発見する…。

 物語はジョジョとこのユダヤ人の少女・エルサ(トーマシン・マッケンジー)との交流を軸に語られるが、化け物だと聞かされていた人々への誤解という氷の壁が初恋の熱によってガンガン溶かされていくのがひたすら気持ち良い。さらに良いのがジョジョの周りの大人達。実は半ナチ活動家である母・ロージー役のスカーレット・ヨハンソン、おそらくは同性愛者であるがゆえにさりげなく反政府的な言動を含ませるクレンツェンドルフ大尉(キャプテンK)役のサム・ロックウェルのノリノリの演技が印象に残る。

 ストーリーやキャラクターもさることながら、特に印象的だったのは画面構成、色彩設計、演出のあたり。どこかウェス・アンダーソンの『グランド・ブダペスト・ホテル』を思わせるような、真正面から捉えた端正な画面が美しく、特にジョジョとロージーが会話を交わす川べりのロングショット、パステルカラーの街並みで始まるラストシーンのダンスは素晴らしいカットだった。しかし、さらにすごいのが物語中盤に置かれたとある人物との別れの場面。ともすれば観客からわかりづらすぎるとクレームが来そうなほどの省略した別れの場面だが、それは自分の靴の紐を結べないそれまでのジョジョの行動によってしっかりと補完されている。アホみたいな愁嘆場を描きがちな邦画にも見習って欲しい、今作屈指の名場面だ。

 しかし、最後まで観終えて思ったのは、日本では本土決戦が始まる前に降伏して本当に良かったということと、実際に上陸された沖縄はそれは凄惨だったろうということ…。前半のコミカルさがあっという間に灰燼に帰すかのような、いわゆる「普通の戦争映画」に雪崩込んでいくのは観ていてつらいものがあった。

 あ、あとこの手の映画でいつも思うんだけど、ドイツ人って設定なのに英語しゃべるのはどうにかならないのか…。いや、気になるじゃん…。ドイツ語のほうが絶対かっこいいじゃん(よくない発想だ…)。

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