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骨壷抱えて走り出す!『マイ・ブロークン・マリコ』の衝撃。【2020年1月に読んだ本まとめ】

投稿日:2020年2月1日 更新日:


今月のベスト1冊

平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』

 噂通りのすごい漫画だった…。荒々しい画風と疾走感、喪失と再生、非日常に勢いよく飛び込んだと思ったらそのまま日常にとんぼ返りしてくる、そんな感じの漫画。

 営業周りのラーメン屋で麺すすってる絵面から始まるのがまあ素晴らしいよね。で、テレビから親友の死のニュースが流れてくる、と。なんの説明もなく突発的に物語が始まり、あれよあれよという間にトモヨとマリコの世界に雪崩込んでいく。遺骨を抱えて窓から飛び出し、よくわからない土地に突っ込んでいき、一文無しになったかと思えば、そこでまた新たな世界が広がり、遺骨は海に散らばり、そして日常へと帰っていく。喪失は埋められないが、どうにもならない感情にケリをつける女一人旅。良質な邦画を一本観たかのような読後感だが、しかし漫画的な表現がこの勢い余った作品にはよく似合う。実写だとなかなかこの雰囲気は出せないだろう。

 とにもかくにも「なにかすごいものを読んだ」という感覚を味わえることだけは保証できる。今年ベスト級のすごい漫画でマストバイ&リード!

 

おすすめの新刊

新刊の定義は過去3ヶ月以内くらいに発売された本でお願いします…

デニス・E・テイラー『シンギュラリティ・トラップ』

 「我らはレギオン」シリーズは面白かったのだが、かなりエンタメ寄りというか、ぶっちゃけて言うと「なろう系」のような雰囲気で、そこが若干気にかかっていた。最新作となるこの『シンギュラリティ・トラップ』はそういったある種の安っぽさが無くなり、一皮むけたという感じがする。

 舞台は人類が太陽系に進出している時代。地球の環境は年々悪化の一途をたどり、西欧諸国と中華ソビエト連邦との間では緊張が高まっている…。破産寸前だった主人公のアイヴァン・プリチャードは一攫千金を狙い、小惑星帯の採掘船のクルーとなるが、到着した希少鉱物満載の小惑星で何万年も前に設置された異星文明の痕跡に遭遇する…。

 主人公がプログラマーだったり、身体の変容と自我の連続性といったテーマを扱っているところは前作と共通するところだが、トントン拍子に問題が解決していく「なろう系」的な特徴は薄れている。苦悩する主人公を中心としてテーマ性はより深まり、人類の危機をゲーム理論で解決しようとする後半の緊張感は素晴らしい。とは言いつつも、テイラーお得意のコミカルなシーンも(前作ほどとは言えないが)散りばめられ、敵対する人々をも含めて愛おしいキャラクターたちが物語を盛り上げる。さり気なくSFオタク風を吹かす女医のナランや主人公のピンチに駆けつける採掘船の艦長、核爆発で事態を収拾しようとするがどことなく憎めない悪役といった人々が個人的にはお気に入り。

 明確な異星人的な敵が登場しないもの特徴的で、詳しくはネタバレになってしまうのだけど、いわば「逆ウルトラマン」(どっちかというとデビルマンか)のような存在になってしまう主人公の「一人ぼっちの宇宙戦争」とでも言うべき展開はファーストコンタクトものとしてもよく出来ている。ビターでありつつ、希望の残された結末も良い。

遠藤達哉『SPY×FAMILY』第3巻

 相変わらず絶好調に面白い。アーニャ視点から見たエピソードが特にいい。というかアーニャの可愛さと賢さが魅力の8割くらいなんだけども。。疑似家族ものの傑作、あさりよしとお先生の『宇宙家族カールビンソン』でも娘のコロナが一番しっかりしていたのだけど、そんな雰囲気を思い出す。やっぱりアーニャが読心超能力者ってのが上手いよね。ともすればご都合主義的な強さになってしまいそうだけど、彼女の幼さと家族の秘密を守るのが優先という点でセーブされていて絶妙なバランス。

 中でも良かったのが、中盤に置かれたドッジボール大会のエピソード。どう見てもオッサンの6歳児(魔弾のビルくん…)に笑わされるし、心を読む能力を駆使して彼に立ち向かうアーニャの勇姿!でも体力がないのでやっぱり負けるというバランス感覚がいいね。「ぴょん」のカットが良すぎる。ダミアンくんも良い役どころ。

 その次に置かれた病院ボランティアの話も素晴らしい。これも心を読む能力が効果的に使われていて、でもみんなに頼らないと助けられないという。秘密をばらさずに助けようと奮闘するアーニャの姿が美しい。「スター」を手に入れたあとの「スターライトアーニャちゃん」と呼ばないと反応しないウザさもウザ可愛すぎる笑 この子、悪いこと考えてる時とか何も考えてないときの表情もいいよな〜。次巻はでかい犬がやってくる話がメインになりそうで超楽しみ。動物×子供なんて鉄板でしょ!

   

藤本タツキ『チェンソーマン』第5巻

 アキくんと姫野先輩のタバコのエピソードがこんなところで活きてくるとは…。藤本先生やはり天才…。ここでアキに託されるメッセージは「easy revenge!(気楽に復讐を!)」なわけだけど、いかにも姫野先輩らしいあっけらかんとした感じがいい。『ファイアパンチ』も復讐譚だったけども、アグニが無意識のうちに復讐を遂げてしまい何の感慨も残らなかったのとは対照的だ。それにしたって「金玉を交互に蹴り上げていって大きい声を出させたほうが優勝!」が復讐ってのは気楽すぎるというかブッ飛んでて最高!「オレたちからアンタへの鎮魂歌だ」じゃねえよ笑 汚すぎるw

 しかし、この巻で一番良かったエピソードは幕間のように置かれた、デンジとマキマさんのデートの話だ。一切アクションシーンがないのも驚かされたし、ほんまに普通のデートかと思いきや、朝集合して夜12時まで映画をはしごして観まくるという映画キチガイ向けデートでドン引き(褒めてる)。『ファイアパンチ』でも映画を撮ることに執着心がありすぎるトガタというキャラクターがいて狂言回しともトリックスターとも言える役割を演ずるインパクトありすぎなやつだったけど、マキマさんは観る専の映画オタクで、これまでそんな要素まったくなかったからギャップ萌えでもあるし、まあすごいね。二人で観た映画の感想を語っていて、多分7本くらい観てると思うんだけど、さすがに体力がすごすぎる。で、どれもこれも微妙な映画で、そこで交わす二人の会話が素晴らしすぎるのであった。「…正直 今ンとこ全部微妙です…。オレ映画とかわかんないのかも」「私も十本に一本くらいしか面白い映画には出会えないよ」「でもその一本に人生を変えられたことがあるんだ」。いやー、藤本先生は本当に映画が好きなんだなあ。よくわかってらっしゃる…。

芥見下々『呪術廻戦』第8巻、第9巻


 1巻の時点では微妙だなあという感想だったんだけど、ここに来てぐんぐん面白くなってきた。それぞれのキャラが立ってきたというか、設定や画面が整理されて見やすくなってきたというか。それにしてもアニメ化が早すぎる。チェンソーマンも早くアニメ化してくれ。

 2巻同時発売された8巻の方で始まった過去編が終結。超重要なキャラクターをあっさりと退場させたり、五条さんの能力の秘密が明かされたり、謎だった夏油の正体が明らかになったりと盛りだくさんで読み応えがある。話が一気に整理され、物語の風通しが良くなったような感じがする。個人的に回想編みたいなパートはあまり好きではないのだけど、ここでの過去編は、現在の歪な状況がいかにして形成されたのかが明らかにされていると同時に、一個の完結した物語としての強度が高い。とりわけ、夏油の現在を作ることになった「呪術師」と「非呪術師」をめぐる会話は面白い。まどマギを連想するような「終らない戦い」をどうやって終わらせるか。あと、個人的には一瞬だけ出てくる高専1年時のナナミンが良かったですね。ナナミン推し。

 それにしてもこの作品、能力の使い方に癖があるというか、直接攻撃するようなものももちろんあるんだけど、五条さんの反転やゴリラの入替といったテクニカルな能力のほうが強い、という感じがある。ジョジョ的と言えばいいのか、それでどうやって勝ちに行くのかが予想つかずに面白い。話だけ聞くと地味だけど、それをちゃんと絵で強く見せているのがいいよね。もう火出したり刃物出したりする魔法は見慣れちゃったからこういう変化球の方が好ましいな(個人の感想です)。逆に『チェンソーマン』くらいはっちゃけてるのも、あれはあれでいいのだけど。というかあっちは脳みそあるやつがあまりいないから丁度いいのか。伏黒父が銃で襲ってくる場面は、「透明人間」という能力が生かされていたし、唐突に違和感のあるオブジェクトが画面に登場するという点で素晴らしく印象的。

 

タカノンノ『ショートショートショートさん』

 「本屋に行ったら買う予定のない本を1冊買う」ということで記念すべき1冊目がこちら。Twitterでちょっと話題になってたのもあって目についた。「Twitterで流行ってるってことは、よくあるぬるい感じの百合みたいなやつだろうな〜」という偏見があったのだけど、まあ全く違って予想外の楽しさ。帯の「愛されたい‼‼‼‼‼‼‼‼」が切実である。

 まあとにかく開始2コマ目で劇画ブーム全盛もかくやという描き込みの毛細血管バリバリの目ン玉が出てくるのでびっくりしてしまう。しかもやってることはコンタクトレンズ入れるだけっていう。コンタクトの裏表、あるある〜。ニョッキの話も可愛すぎる。そうそう、主人公のショートさんは基本可愛いんだけどもてないキャラで、見ていて飽きないし幸せになってほしさが募ってしまういい感じのキャラクターですね。好きだなあ、これ。

 基本オタク受けする可愛い絵柄で、そこに劇画チックなタッチが重なっているという感じなんだけど、ネタもゆるい日常あるあるから、「そんなん知らんがな」というディープなものまで幅広いのも見応えがあるポイント。「道の脇に落ちてるお茶のペットボトル」の裏にあんな事情があったなんて…。ていうか地方都市のロードサイドにお茶のペットボトル(のようなもの)が落ちてるなんて、この漫画読んで初めて知ったよ!弟と「師匠」のオナホの話もエグかったなあ。キャラクターの表情も豊かで、どっちかといえば変顔パラダイス的な楽しみがある。表紙からは想像できない楽しい作品でした(よく考えたら人を選びそうではある)。

  

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