今月のおすすめ

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 前評判通りのすんばらしいアニメーション!「絵が動く」ということ、音が鳴り響くということの始原的な楽しさが溢れている。キャラクターがただ歩いているだけで楽しい映画というのも久しぶりだ。そして、その先に何が起こるか全くわからない展開の物語。研二が口を開こうとするたびに彼が何を言おうとするか気になって仕方がない。

 研二(坂本慎太郎)、太田(前野朋哉)、朝倉(芹澤興人)の不良三人組は近隣の不良をボコったりして日々を過ごしていたが、リーダーの研二はある日バンドを組むことを思いつく。かくして全く音楽を知らない三人による即席バンド「古武術」が結成されたのだった…。普通のバンドものだったら、キャラクターが成長するのが定番だが、この映画では三人組は始終単調なリズムを刻むだけだ。しかしそれが実に良い。最初に音を出すシーンの「なんか今、気持ちよかった!」がとてつもなくエモい。全く音楽というものを知らない人々が初めて触れる音楽の感想としてこれ以上のものはちょっとないんじゃないか。彼ら自身だけでなく、周りの人々もこぞって彼らを肯定し続けるのも素晴らしい。クライマックスのライブに意外な楽器を持って駆けつけた研二にも驚かされたし、あのへんてこな音を出す楽器が加わることでライブシーン全体が実にエモーショナルで印象的な場面になっている。

 ロトスコープを使って作られたアニメーションは岩井澤監督が7年に渡って手描きで作られていて、ロトスコならではの微妙な揺れであるとか、タイミングの面白さなんかがとても気持ちがいい。絵柄は大橋裕之さんの原作に特徴的なあの目に集約されるように、リアルと言うよりマンガよりなのだけど、これがあの雰囲気に絶妙に合っている。三人組が他の高校に殴り込みに行くために淡々と道を歩いていくプロフィールのカットなんか、全く面白みがないのに延々と観ていられる。実物の町をトレースしたであろう地方都市の情景の絵画的な面白さもあり、度々出てくるオートレストランから、多分埼玉県行田市なんじゃないかと推測できる。後半の○○○○○を咥えたまま疾走する研二のカットのライブ感、その後のライブでの手描きアニメーションでしか表現できない圧倒的な臨場感が凄まじい。若干アートアニメ寄りだとは思うので人を選ぶかもしれないが、多くの人に観られるべき作品だと思う。個性的という意味でもアニメーション的な意義という意味でも、今年のアニメ映画の中で特筆すべき作品の一つになることは間違いない。

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観た映画一覧(時系列順)

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 新年一発目。スター・ウォーズに思い入れがないのでベスト10には入らないだろうということで年越したタイミングで観たんだけど、思いの外楽しめた。まあ長いとは思ったけど。

 アダム・ドライバーが実にいい演技をするのだが、彼の演ずるカイロ・レンがまるでゴキブリのようなうっとおしさとしつこさと生命力で笑ってしまった。いつの間にかいるし、勝手に思考を読むし…。最後は綺麗に締めてたけど。

 個人的に良かったのは終盤のレジスタンスのピンチに人民の船が大挙して押し寄せるところ。普通の大艦隊が救援に来るよりも全然感動的。あと廃墟となったデス・スターの探索も、宇宙に浮かんでいたときとは比べ物にならない壮大なスケール感と荒廃ぶりが素晴らしく見ごたえがある。あっという間に終わっちゃうけど。

 一方でフォース周りの描写はやっぱり苦手だなあ。フォースが万能すぎて、あまりにもご都合主義的だ。死んだはずのルークも相変わらず死んでないかのように出てくるし、もう幻影の域超えてるよな。覚醒したあの人も不自然なほど強すぎて、もう艦隊いらなくねえ?と思っちゃったし…。レイが実はあの人の孫だと言われてもフーンって感じだったし、なんかあのあたりっていらなくはないと思うけど、個人的には好きじゃないんだよなあ。SFというかファンタジーだよね。

 ああ、あとC3POが柄になくかっこよいシーンがありましたね。例のシーン、まるで『ブレードランナー』のようだった。

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 浜辺美波の魅力で押し切った感があるけれど、正直言ってそこだけで元は取れる。いかにも邦画っぽいチープな演出もこの程度の話なら丁度いいのではないか、と思わせるコメディタッチの軽妙なお話。と思いきや後半の重々しい展開、特に犯人の動機のあたりは、中盤から予想はできるものの、観ていて辛くなる。全体的にコメディタッチにするのなら改変しても良かったんじゃないかな。あの人が死ぬのもキャラクター的にもったいなさすぎる…。まあ生き残ってたら生き残ってたで面倒そうだが。

 感心したのは、前半に置かれた「思いも寄らぬ事態」が予告編では全く描かれていなかったこと。クローズドサークルを作る手段としては過去最大級に荒唐無稽で強引すぎるのではないか。個人的には大好きだけど、普通のミステリーを観に来たと思ったら○○○映画を魅せられる羽目になった観客のみなさんはあっけにとられたのではないか。個人的にも同行者の反応にハラハラしていたのが、普通におもしろいと思ってもらえたので良かった。○○○の要素が殺人事件の方にも深く関わっているのも上手い。でもまあやっぱり普通のミステリーとは言えないが。

 それはともかくとして、何はともあれ、主演である浜辺美波の魅力がこの映画のだいたい80%くらいを占めてる。トニカクカワイイし画面映えが半端ない。こんな可愛い女優を見逃していたとは…。お嬢様設定なんだけど、実はうどんが好きだとか、いいねえ。携帯の中の写真フォルダが一瞬見えるシーンの素にもどってうどん食べてる自撮りとかかわいすぎる〜。オーバーアクション気味の演技だけど、むしろ作品の雰囲気にはぴったり。服装がどこぞのゴシックロリータブランドでドチャクソ似合ってるのも最高!これまでの主演作も見直したいくらい。実写版の『賭ケグルイ』とかも評判いいし。って実写版『約束のネバーランド』のエマ役かい!全く観る気なかったけど、これは観るしかないな…。

 しかし、そんな浜辺美波の一挙手一投足を「(かわいい〜)」とか(脳内で)言ってる神木隆之介くんが一番可愛かったりもするのであった。あいつはずるい。

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 車なんて全く興味がないし、それゆえにレースものってなんか食指が伸びなかったんだけど、タイムラインで異常に評判が良かったので行ってみれば、いやー、大傑作ですね。単純にレースに勝つ、というだけではなく企業の政治力学の中でもがきながら勝利へと進んでいくマット・デイモンとクリスチャン・ベールのコンビがハマりまくっていてエモいのなんの。もちろんレースの臨場感もたっぷり。

 舞台は1960年代、モータースポーツでブランド力の底上げを目論んだフォード2世はイタリアの名門・フェラーリとの合弁でル・マン出場を画策。しかしフェラーリのエンツィオは調印直前になって「フォードは醜い工場で醜い車でも作ってろ!」と言い放ち交渉は決裂。これに激怒したフォード2世はル・マンへの単独出場を決定し、莫大な金を投入してこれに臨むことになる…。

 とまあ、こんな感じで物語の始まりからして、レースとは直接関係ない巨大企業同士の力関係がキーポイントになっている。フォードのアイアコッカ(ジョン・バーンサル)に請われてレースの顧問的立場になった元レーサーのシェルビー(マット・デイモン)と「扱いづらい」マイルズ(クリスチャン・ベール)もまた、フォード内部の力関係に翻弄される…。シェルビーに好意的なアイアコッカを退けてレースを監督することになったレオ(ジョシュ・ルーカス)は絶対問題を起こしそうなマイルズを退けようと画策する…。そして、マーケティングだとか予算だとかいう企業上層の論理を無理やり地上に引きずり降ろそうとする後半の展開が実に面白い。レオが監督になったことを告げにフォード2世(トレイシー・レッツ)とレオがシェルビーの工場にやってくるのだけど、シェルビーはレオを部屋に閉じ込め、フォード2世を乗せて時速350キロの試乗へ…。乗るときは「狭いじゃん」みたいなこと言ってたフォード2世がマジガン泣きしてるのがエモすぎる。こういカットを割と長めに映していて、そういうところ好きです。うん。で、現場の空気に触れて改心(?)しかたと思ってると、ル・マン本番でヘリでメシ食いに行っちゃったりするわけですが…。お前な〜。ああいうカットをさらっと入れるとメッセージ性が強まりますね。

 主演のマット・デイモンとクリスチャン・ベールの演技が良いのはもちろんだけど、脇役もすげえいいんだよね。後にクライスラーの社長になって立て直しをするアイアコッカ役のジョン・バーンサルは、スカしてるけどこいつは味方だし間に挟まれて大変そうな中間管理職役の空気感が上手いし、マイルズの妻のモリー役のカトリーナ・バルフも脇役らしからぬ存在感があって素敵。

 で、問題はあの結末ですよ。レース終盤にレオがある提案をするのだけど、「何いってんだこいつ」と思ってたら…。この文脈だったらこうくるだろうな〜。というのを軽々と超えてくる予想外の展開に驚くとともに、マイルズにとってはレースだとか企業力学だとかそういったことよりも「自分」に勝ったという感が大きいのではないかと思ったり。ああいった決断をする前にかなりの長回しで彼のプロフィールが映されるのだけど、あそこは本当にいいですね。この映画でのベストシーン。

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 なんとなくテレビで再放送していたテレビ版でハマり、シリーズを一気観してしまったので割と楽しみにしていた映画。ごめんね、「ガルパン」の二番煎じみたいなやつだと思ってて…。

 前半の競闘遊戯会と歓迎会のあたりは若干退屈なのだけど、まあずっとフルスロットルでアクションってのもこの映画のカラーじゃないしねえ。万里小路さんとマッチの活躍のあたりの作画は見ごたえあり。スーちゃんが野宿したり、実はアレでああして、でも無罪のあたりは若干モヤッとした。子供が出てくるとなんかあれよね。

 SF調の敵が出てきたTVシリーズと異なり、今回は海賊というリアルな敵が出てくるわけですが、「ブルマーとか海洋女子学校の作中での役割ってなんだろう?」と思ってたので、この世界観の広がりは嬉しい。というかよく考えたら海上保安庁みたいなもんよね。直接「戦争」とはつながらないものの、リアルな危機がやってくるあたりはガルパンと差別化されている気がする。べんてんによるプラント船の制圧、特にTV版で印象は強いものの出番があまりなかった真冬おねえちゃんが一騎当千の狂ったような活躍をしていて見ごたえがある。艦橋に殴り込んでからの海賊が這って逃げようとする作画がとても良い。

 あれ、これで終わり?とおもったらちゃんとその後も晴風に見せ場があって(まあ主人公だから当然か)、そこがまあ素晴らしいんですよ。大和型の超大型教育艦4艦による一斉射撃も交互射撃とかいうあまり知らなかった面白い方法で射撃しているし、武蔵の着色弾頭に先導されて敵要塞に突っ込む晴風という絵面の狂った感じがすげえ劇場版って感じ。やっぱり幅の長い水上艦は映画向きよねー。スピード感とか砲の衝撃とか、いやー豪華豪華。あのスピードで要塞に突っ込むの怖すぎるな。後半は本当に見どころしかない。ミーちゃんのヤクザ要素もふんだんにあって眼福。今回出てこなかった超甲巡とかいうのが単語だけ出てきたし、アニメ2期来そうな気もするなー。

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 まず役者陣がとてつもなく良い。邦画で「豪華キャスト!」という謳い文句はある意味で地雷感があるんだけど、この映画では豪華キャストが本当に豪華なので驚かされる。文芸作品らしい落ち着いた雰囲気と、監督のディレクションがいいんだろうな。主演の松たか子と福山雅治は言うまでもなく、ヤサグレ人として登場する豊川悦司もこれまでにないようないい演技を魅せてくれる。ネットで話題になっていた松たか子の夫役の庵野秀明も演技しているんだか素なんだかわからないんだけど、むしろそれが良い。そして何より広瀬すずと森七菜の組み合わせ!『花とアリス』から一貫して、岩井俊二は女子二人を描くのが抜群に上手いのだけど、まあ今回も凄かった。ふたりともリアルな女子高生にしか見えないの。自然すぎる演技。正直言って、これだけを目当てに言っても全然元が取れる。

 『ラストレター』というタイトルからわかるように、手紙が重要な要素として登場するのだが、予想するような使われ方ではなかったのも良かった。岩井俊二監督らしくトリッキーな展開の一翼を担う形で使われているのだけど、シンパシーを感じたのは新海誠監督の『君の名は。』である。『君の名は。』の中で瀧と三葉が入れ替わるように、本作では容貌がそっくりな妹が死んでしまった姉に成り代わってかつての姉の恋人(そして自身の初恋の人)との文通を始める。死者との通信という展開も『君の名は。』の中で語られていたが、本作ではさらに彼らの子どもたちが親に成りすまして手紙をやり取りするという頭の痛くなるような展開が用意されていて、このあたりはコミカルなタッチで微笑ましくもある。

 もちろん、この映画はファンタジーではないので死者は戻ってこない。「登場人物が高校時代の恋愛に拘泥していて気持ちが悪い」という意見を見かけたけれど、そういった消せない過去、死んでしまった人々とどのようにケリをつけるかというのがこの映画のテーマのひとつなので、そういう感想がでてくるのも仕方ないかな、という気もする。個人的には気持ち悪さは多少感じつつも、そういうこともあるよな、という気持ちで観ることが出来た。そういった「気持ち悪さ」も含めて岩井俊二という作家だし。

 それにしても岩井俊二監督、すっかり邦画の重鎮と言った作風になってきた気がする。神戸千木さんの撮影と小林武史さんの音楽も素晴らしく良く、豊かな自然光で描き出される世界と程よく抑制された劇伴が登場人物たちの心情を柔らかく浮かび上がらせる。是枝監督が作ったと言われても自分だったら信じてしまいそうだ。一年の初めの年から気が早い話だけども、今年の邦画ベストの中でかなり上位に来そうな作品。

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 「百聞は一見にしかず」ということで観に行ったものの、予想以上の気持ち悪さだった…。人面犬ならぬ人面猫が四つん這いでこちらに向かってくるカットでかなり気分が悪くなる。アップになるとリアルにもふもふした毛があまりにも自然に人間の身体についているので、なんというか、「猫の皮を被った自分を猫だと思いこんでいる異常者」たちの映画なのではないか、とすら思ったレベル。最新の技術を使っても気持ち悪くなってしまう、という点で考えさせられる作品である…。不気味の谷から這い上がれないタイプの、「綺麗なクリーチャー映画」といったところか。

 とにかくビジュアルが気になりすぎてお話が全く頭に入ってこないのだが、まあ内容も無いようなものなのでなんとも言えない気持ちになる。ファンタジーだし別に詳細な説明がほしいわけではないのだが、こいつらは何のために行動しているかがわかりづらすぎる…。とりあえずダンスバトルで勝つのが目的というのはなんとか読み取れたのだが…。ってあの残飯喰いまくってるデブ猫とかヨボヨボの老猫も候補者なの??なんだろう、よくわからないな。ちなみにイアン・マッケランが猫の皮を被っているこの老劇場猫・ガスの熱演は素晴らしいのだが、ミュージカルだから自分語りが長い上に、その前段でバックヤードで皿から直接猫のようにぴちゃぴちゃ水を飲むイアン・マッケランはかなりトラウマになる…。

 ああ、あとゴ○ブリのシーンはあれどうにかならなかったのか…。劇で観たら普通なんだろうけど、何でもできる映画だからといって人○をスナック感覚で食べるのはほんまにアカンでしょ…。監督は何を考えてるんだ。最新技術で作られた全く新しいジャンルのポルノだよこれは。

 あ、歌は普通にめちゃくちゃ良かったです。Twitterで見かけた「目を閉じると100点、目を開くとマイナス100点」という評価は言い得て妙。別につまらないわけじゃなくて普通に見れちゃうんだけど、まあ疲れましたね…。歴史に残る映画ではあると思う(色んな意味で)。

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 韓国版『万引き家族』と言われていたけれど、確かに一見すると連想するところは多い。主人公一家の家の雑然としていてキッチンの壁にベッタリと汚れがついているあたりは、『万引き家族』の美術設定の素晴らしさを思い出す。初っ端からWi-Fiの電波を探して家の中を彷徨くギウ(チェ・ウシク)を描くことで彼らの貧困の具合と家の中の様子を一気に説明するのも上手い。

 それにしてもストーリーが抜群に上手い作品だ。半地下に住む貧困層のキム一家は息子のギウが名門大学の学生という触れ込みでパク家の家庭教師として採用されたことから、娘ギジョン(パク・ソダム)が美術教師、父ギテク(ソン・ガンホ)、母チュンスク(チャン・ヘジン)が家政婦と、次第にパク家の中に入り込んでいく…。とまあ、この前半だけを観るとタイトルである「パラサイト」の意味がわかる。このあたりはクライムコメディっぽいコミカルなタッチで描かれていて、「あー、運転手さん可哀想だな〜。家政婦さんも可哀想〜」ってな感じで観れる。

 このコメディっぽい雰囲気が一変するのが、パク一家が息子ダソン(チョン・ヒョンジュン)の誕生日としてキャンプに行ってしまう夜。キム一家は家主がいないことをいいことに、リビングでどんちゃん騒ぎを繰り広げる…。「まあ雨も降ってるし、キャンプが中止になった一家が突然帰ってきて大騒ぎ!」くらいの展開かと思っていたら、ここから思いもよらぬ展開がやってくるのだった…。このあとの展開は本当に凄まじくて、ネタバレになってしまうので全く描けないのだけど、クライマックスに置かれた「頭のおかしいおじさんが誕生日パーティーに乱入する」シチュの映画としては最高に練り込まれたシナリオで素晴らしすぎる。「最悪誕生日映画」に新たな1ページが刻まれた。

 後半で「隠された地下」が登場することで、「半地下」の本当の意味がわかるというのも素晴らしい構成だ。「半地下」とは単にキム一家が暮らす家の構造だけではないのはもちろんなのだけど、端的に言えばグレーゾーンの暗喩だ。地下の人々と違って、能力次第でパク一家のような上流階級に潜り込むことができる「越境者」、それが「半地下」の人々なのである。現代は分断の世紀だが、越境者たる彼らの存在は、0か1かという分断の様相をアナログなものへと変換する。パク社長が言う「キム運転手は信頼できる。言動は許容範囲内ギリギリだが、けっしてそこからはみださない」というセリフから滲み出てくるのは、越境者ゆえの半地下の人々の位置づけの不安定さだ(そして実際に彼は足を踏み外す)。貧困者が富裕層に逆襲するという展開からは『ジョーカー』を連想するが、一直線に転落してしまったアーサーと違って、キム一家の物語は「地上」「半地下」「地下」という三つの領域の断絶と交流を描いたという点ではより複雑な構造の世界を描くことに成功している。今年を代表する一本になることは間違いない。

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