意外となかった今敏監督特集! アニメスタイル好きそうな作品だしもっとやってると思ってました。2012年の3回忌の時に行われた「全劇場作」オールナイト以来ですね。今回はその時のラインナップから『パーフェクトブルー』を除いた3本を上映。トークゲストもアニメスタイルのイベントではレアな(初めて?)評論家の氷川竜介先生と『千年女優』キャラデザ・作監の本田雄さん。

 前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.87 西尾鉄也の仕事」のレポートはこちら!

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

登壇者

氷川竜介先生(アニメ評論家・研究者。アニメスタイルのイベントで拝見するのははじめてかも…。以下「」)

本田雄さん(アニメーター。ガイナックス出身。今敏監督作品以外にもほんと色々やってるベテラン。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

新文芸坐・花俟さんによる前説

花 ちょっと個人的な話になりますけれど、16年文芸坐でスタッフをやっておりまして、文芸坐では毎回ゲストの方にサインを貰います。スタッフは原則もらってはいけません。私は16年の中で2回だけそれを破りました。一回は哀川翔さん、そしてもう一回は今敏監督です。

コンテの製作方法の話。Photoshopがすごいという話。(メモ取り損ね…)

『千年女優』とデジタル

小 今日、来る前に『千年女優』予習してきたんですけど、キャラクターの芝居がちゃんとしてますよねー。

本 あの頃は30代でまだ自分の画に自身がない頃で、自分としては勉強になりました。(当時)『スチームボーイ』1の作業もどこかで平行してやっていて、『スチームボーイ』は荻窪だったから自転車で覗きに行って、あっちのほうが進行が悪かったからそれを観て精神を安定させるということをやってました(会場爆笑)

小 『千年女優』、終わった後に今さんと話をしていて、「あるシーンだけが動いていて他は動いていないのは良くないと思っている」と仰っていて、それを踏まえて観ると『東京ゴッドファーザーズ』はそうなっていますよね。

氷 『東京ゴッドファーザーズ』は大塚伸治さん2が顔の崩しをやって、それでみんなはっちゃけたという話を聞きましたね。

本 大塚さん、『千年女優』の時も20枚くらいの原画で、これくらいなら問題ないかな、と思って直していくとすごいことになっちゃって…。直さないといいんだけど。ちょっと線がぶっきらぼうな感じがして、変な画に見えちゃうんですよね。

氷 『千年女優』まではセルアニメだったんですけど、『東京ゴッドファーザーズ』の制作(現場)を見せてもらったら、QuickTimeかな?その場で見せてもらえて、「デジタル万歳!」と仰られていましたね。

本 あのころはデジタルの最初期で、『千年女優』やる前は「青6」3とかやっていて、デジタルになったと思ったらセルにもどっちゃった(笑)

小 ちなみに、『千年女優』は劇中のポスターみたいなのはデジタルでやってるんですよね。

本 今さんがほとんどやってるんじゃないかな。

氷 カメラワークは明らかにデジタルですね。デジタルかなと思ったらアナログの手法だったりもしますね。

今さんのコンテはすごく早い!

小 今さんとの出会いについてはどうですか?

本 ガイナックスで25か6の頃で、某劇場アニメ4を手伝っていて、『彼女の想いで』5のあとにマッドハウスに来て、それが最初かな。入って一月後に今さんと背中合わせで仕事することになって、『ワールド・アパートメントホラー』4を棚に入れてたら、2,3日後に「何の嫌がらせだよ(笑)」って突っ込まれて、「ファンなんですー」ということでサインを入れてもらったりして…。『老人Z』6の話とか○○○さん4の悪口とか言ったりして、それから飲みに行ったりするようになって…。あのペースであの画を描ける人なんて、いまでも数えるほどしかいないですよね。線の引き方とかレイアウトの方法とかその人に合わせてくるんです。

小 しかも今さん早いんですよね。

本 「宮﨑さんが一日6カットやってるから俺も6カットやるんだ」と、ということで本当に6カットやってきて、あの密度で。

小 『千年女優』のころ?

本 そうですね。背景もきっちりしていて、そこにキャラクターものっていて、チェックができない。

氷 今さんにイメージボード描かないんですかと聞いたら、同じ絵を書くのがいやなんだよ、と言われて…(笑)

本 原画マン的には全修されると怒られたという感じになっちゃって…。今さんとしてはそういう意識はないと思うんだけど。

小 氷川さんはいつ今さんと?

氷 『千年女優』の公開直前にウェブの企画で有名人に会えるというものがあって、その企画でお願いしたんですけど、いつまでたってもプレスシートが送られてこなくて、問い合わせたら私以外は却下されてしまったみたいで…。

小 あの時のプレスシートは確かにダメ出しが多かった!

氷 特別なことをした覚えはないんですが、会った時も「いい記事を書いてもらって」と頭を下げてもらって恐々としてしまって…。『東京ゴッドファーザーズ』の時はコピーとかあらすじを書く段階から参加させてもらいました。

小 人柄はどうでした?

氷 飲みに行ったりすると悪口がでたりして、結構辛辣なことも仰っていて…。

小 本人は冗談を言ってるつもりなんだけど、あの風貌と声ですから怒ってるんじゃないかと思ってしまうときがあって(笑)

氷 『パーフェクト・ブルー』もBlu-ray化の時に解説書かせてもらってるのでコンプリートしてます。

小 本田さんも『パーフェクト・ブルー』参加されてますよね。

本 「エヴァ」4がなかなか始まらなくて、つなぎみたいな形で参加したんですよね。飲みに行ったら気軽に誘われていいですよーって。

氷 ジャンプしながらぴょーんぴょーんって追いかけるシーンですよね。

本 ガイナックスではああいうキャラクターの動きは作らないで、基本的には顔のアップで攻めていくタイプで、動かさないからちょっとストレスがあったんです。そういう意味では楽しんでやれた作品ですね。

小 漫画出身ですけど、今さんはちゃんと動かすタイプの方でしたね。

本 漫画出身なので、動かしたかったということはあったみたいですね。あと、漫画は個人作業なので寂しいみたいで。集団作業が楽しいみたいでした。

氷 漫画に動きをつけてレイアウトをつけていくと世界ができていくというのが楽しかったみたいですね。

『千年女優』は美少女ものだった?

小 今回の上映は90分程度で長編の中では長い方ではないですが…。

氷 90分以上になると脳味噌が飽和してしまって意味が崩壊してしまう、と仰ってましたね。

小 話と画がリンクしていて密度が濃いので、あれで120分みると疲れちゃいますね。アニメ監督には色々なタイプがいらっしゃいますが、今さんはロジカルなタイプですね。

氷 シナリオ段階ではかなりきっちり作るそうなんですが、レイアウトやコンテにすると変わってきてしまうので、そこは調整すると仰ってました。

小 『千年女優』のムックを作る時に、映画を観ながら今さんが解説してくれる催しがあって、その後、映画一本分のレイアウトを送ってきて、ダンボール4箱分くらいあったんですけど、それを観ながらどの画を載せるとかインタビューをするとか段取りを作ってくれたのは後にも先にもなかったですね。現場では演出意図をしっかり説明するタイプだったんですか?

本 打ち合わせでは「観たとおりだよ」という感じだったんですけど、そういう話が出るのは夜飲みに行った時とかで、客の視線を考えてカットを作るとか、そういう話はよくしてくれました。でももう忘れちゃいましたね(笑) わりと自由にやっていいよ、と任されていた感じですね。

氷 特に『千年女優』はシークエンスごとに結構変わっていっちゃったというのもありますね。

本 監督とはつらいということなかったんですけど、周りのレベルにあわせていくのがつらかったですね。

氷 最初は美少女モノ、魔法少女ものみたいな企画だったって聞いたんですかが…。

本 最初は美少女が確かにいたんですけど、今さんの考える美少女を考えていくと女優になっていて…(笑)

小 じゃあ、最初は女優ものとは思ってなかった?コスプレ美少女七変化ものという話もありましたけど。みんなを裏切るものを作り続けていたんじゃないかと思いますね。前に「『東京ゴッドファーザーズ』は人情ものでしたねえ」と言ったら「人情ものと言われるのもちょっと不愉快」と仰っていて…。

氷 『パプリカ』は例外的な作品だと聞いてますね。

小 オリジナルを用意する時間がなくて…。

氷 いや、あの時はすでに『夢見る機械』7の準備が始まっていたんだけど、筒井さんのところにいったら話があったから、と聞いていますね。

小 そういえば、『妄想代理人』も次の映画の企画が立ち上がるまでのつなぎでテレビシリーズやっとこうか、という話だったとか…。

氷 そういえば、『妄想代理人』もDVDの解説書いてるからコンプしてますね(笑)

小 今日の3本の中では氷川さんのベストは?

氷 作品としては『千年女優』なんだけど、よく話すのは『東京ゴッドファーザーズ』ですね。レイアウトのこだわりがが3本のなかではいくとこまでいっちゃってる。『パプリカ』はカット、カットが楽しいですね。

小 本田さんはどうですか?

本 『パプリカ』は完成されていて、隙がないというか、今さんの集大成というか。『東京ゴッドファーザーズ』はいろんな人達の個性が溢れてるから好きですね。

小 『千年女優』も遊び心が溢れてますよね。カットごともそうだし、アニメーターさんもそうだし。

ここでプロデューサーの丸山さん8が客席から乱入!

丸 さっきの訂正します。「妄想」ってのは今君に僕がだまされたの。テレビシリーズやろう、若い監督でやろう、自分はプランニングする、本を書いて若い監督に任せる、ということだったんだけど、はじめたら自分で全部やっちゃった。半年のはずが2年かかっちゃった!

小 そういえば、『妄想代理人』で若い監督を探す話ありました!気がついたら今敏作品になってましたけど(会場笑)

小 『妄想代理人』は毎年オールナイトでやろうという話が出るんですが、実現していないんですよね。今後検討していきたいと思います。みんな、上映すると言ったら来ますかー?(会場拍手)

小 これからも今監督の作品を上映する機会を設けていきたい思います(会場拍手)

上映作品

[cf_cinema post_id=6650 format=3 text=” 大昔(といっても数年前ですけど)に初見で観た時はなんだかよくわからない話だという印象だったですが、今回2回目でスッと入ってきた気がします。社会人になったというのも大きいような気がしますが。たぶん何回も観ないと染み込んでこないような作品なんでしょうね。『パプリカ』が物理的な身体を動かしているうちに夢の世界に迷うこんでいくのとは対照的に、一人の女優の語りによって過去とも映画ともつかない世界に入り込んでいくのも比較手してみると面白い。積極的に夢の世界に巻き込まれていく立花さんと、傍観者的な立場でツッコミを入れるカメラマンの井田さんの年齢差コンビもいいですよね。後半の怒涛の勢いで物語が収束していくのがホント好き。”]

[cf_cinema post_id=6652 format=3 text=” これまで、今さんの代表作と行ったら真っ先に出てくるのが『パプリカ』だったんですけど、今回改めて観ると、こっちのほうが個人的に好きだというのが判明しました。かっちりしたリアルな等身のキャラクターが漫画的な芝居をする面白さ。ミユキのオーバーアクションとか好き。でも現実の枠内に収まっているというバランス感覚。他の2本が夢(あるいは空想)と現実との境界線を描いたとすれば『東京ゴッドファーザーズ』は実写映画と漫画映画の狭間を描いたような作品にも思えます。ストーリーも往年の東映長編みたいな王道なんですよね(東映長編が王道かどうかは疑問の余地があるかと思いますけど笑)。そういえば、クライマックスの大立ち回りも東映漫画映画的な大仕掛けでしたね。やや予定調和的なオチだけど、張り巡らされた伏線が一本にまとまっていく気持ちよさが勝ります。”]

[cf_cinema post_id=6654 format=3 text=” 「初心者に今敏作品を勧めるとしたら?」という問があったらやっぱりこの映画ですよねー。なんといってもわかりやすいエンターテインメント!あ、もちろん、『東京ゴッドファーザーズ』もわかりやすいんですけも。平沢進の素晴らしくサイケデリックな音楽に乗せて始まるスタイリッシュなオープニンニングもいいし、目玉とも言える悪夢的パレードのアニメーション的な面白さときたら!あの表現を実写でやるのはなかなか難しいんじゃないでしょうか。島所長がだんだんおかしくなっていく最初のパレードのくだりなんか何度観ても興奮しますね。毎年大スクリーンで観たい映画。”]

写真など

まとめ

 全回拍手が贈られる、賑やかで暖かなオールナイトでした。ファンが集まる場があるというのは良いものですね。素晴らしい今監督の新作がもう観られないのは残念ですが、小黒編集長が仰っていたように、これからも上映して、語り継いでいくことが亡くなった方への手向けになるのかもしれません。次回の今監督特集も楽しみにしています。ところで、トークでも言っていた『妄想代理人』オールナイト、楽しみにしています!


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

NOTES

  1. 『スチームボーイ』(2004年)。監督:大友克洋。割と面白いと思うんだけどやたらと評判が悪い。制作費24億、製作期間9年!
  2. 大塚伸治(1955年6月28日-)。あんなぷる→マッドハウス→ジブリ。『もののけ姫』の原画とかが有名っすかねー。
  3. 『青の6号』(1998-2000年)。監督:前田真宏。ゴンゾの代表作の一つ。世界初のフルデジタルアニメとして有名。
  4. たぶん『蒼きウル』?
  5. 『MEMORIES』(1995年)の中の1本。監督:森本晃司。
  6. 『老人Z』(1991年)。監督:北久保弘之。これもいい映画です。好き。
  7. 今監督が最新作として準備していた未完作品。昨年(2016年)ついに制作中止が発表された…。
  8. 丸山正雄(1941年6月19日-)。元・マッドハウスの代表取締役、現・MAPPAの代表取締役会長。超ベテラン名物プロデューサー。しょっちゅう見かける。