さて、2016年1本目のアニメスタイルオールナイトは最近上映されたSFアニメ映画特集!…なのですが、賢明なアニメスタイル読者の方でしたらお分かりのように、セルルックフル3DCGアニメ特集ですね。実にアニメスタイルらしい特集!そして「アニメスタイル005」で特集された『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』の岸誠二監督と「アニメスタイル006」で京田知己さんの「演出メモ」という形で少特集が組まれた『楽園追放』の水島精二監督、ダブルせいじトークショー!

 チケットは事前に完売。大盛況でした。

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

出席者

岸誠二監督(個人的には「AURA」が好きです。以下「」)

水島精二監督(最近だと「コンレボ」が良かったです!以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

はじめに

小 あけましておめでとうございます。
 今日は上映の順番を考えるのに苦労しました。爆発の回数が一番多いから「アルペジオ」が最初で大丈夫かな、とか。今回は特に疲れる3本です。アニメーションの最先端技術が結集しています。僕は作画が好きなので、作画万歳なんだけど、その僕でも「CGなんてアニメじゃない」なんて言えません(笑)

水 驚きましたね。「あのアニメ様が3DCGを!」って。

小 凄いアニメだったじゃないですか、『楽園追放』。

水 京田さん1が頑張ってくれて…。作画アニメを3DCGを使って作る、というコンセプトはありましたね。

岸 タイミングとかすごく気持ちよかったですよね。

小 (楽園追放の)中盤に人物のアクションシーンがあって、そこがすごく作画っぽかったですね。

水 レイアウトの時からアクションレイアウトっぽくやってもらって、実際の作業の時にアニメーターの後ろでそれぞれのタイミングについてアドバイスをしていったら一発でOK出るものができました。

小 作画アニメーターの場合はなかなかそういうこと出来ませんよね。

水 キーアニメーターに要望を出すか、紙で要望を出すか、ということであまりチェック機構自体は変わっていないんです。

岸 演出のやりたいことをダイレクトに反映してもらえるのでやりやすいですね。

水 逆にプランがないとだめになっちゃう。
 当初のレイアウトと違ったものが上がってきてしまったことがあったので、それからは最初のチェックの時に軽くモーションを付けてもらって、というように少しずつ改善していきました。

岸 サンジゲン2さんの場合だとそういうシステムがもうちょっとちゃんとしていて、通常のチェックのあとにもう一回チェックがあって、演出人的にはやりやすい現場でしたね。

「アルペジオ」の制作事情

小 「アルペジオ」の話を。この企画自体は(当初から)いけると思いました?

岸 原作もあるし、戦艦も出るし、これだったらもう3DCGでいけるんじゃないか、ということで「ぜひやらせて欲しい」と。Flying Dogの方と「3Dでやるべきだ」というお話をしまして。2Dアニメーションは商売を回すのが大変で、これからどうなっていくのかなあ、と思っていた時で、新しい物をやっておきたい、そして商売的にも成功させたいということで取り組みました。今の2Dアニメと匹敵するものを作ろうという。

水 「アルペジオ」の第一話を観てました。『楽園追放』のコンペの時に、サンジゲンさんの名前も上がっていたんですけど、どうも埋まったみたいという話をしていて。で、そのうちに「アルペジオ」が始まって、みんなですげえすげえって観てました。俺たちは劇場だからこれを超えなきゃいけない、と。

岸 もう3DCGでできるな、ということでやってましたね。

水 でもいきなりテレビかよ!って驚きました。

小 美少女もそうですけど、戦艦もすごいですよね。

岸 戦艦は3D向きですよね。そういう意味でちょうどいい題材をもらったなと。

水 サンジゲンさんは当時からキャラクターものもできますよ、ということでデモも作っていたんで、最初に来るならサンジゲンさんかな、とは思っていました。

岸 アルペジオの企画を持って行った時は『009』3をやっていて、こんなのもやってますよ、と見せてもらいました。それで、「お、これなら行けるな」と。

水 3Dはコストがわかりやすいんです。アニメーターの力量でどうにかなるという甘えなくて、できるものはできるし、できないものはできない。

岸 ないものはないんだと。

小 作画アニメでは1カットだけ出てくるキャラもアニメーターが描いてしまえばいいですからね。

水 そういった意味では実写と近いですよね。楽園追放はモブのモデル12種類で街を2つ作りました。キャラクターの間隔を調整したり、ぼかしたり…。トンチをきかせてます。

岸 「アルペジオ」の場合はサンジゲンさんのライブラリが持っているモデルにちょうどいいのがなくて、モブにはとても苦労しました。

岸 『楽園追放』を観てて気になったのが、メカのダメージ表現をどうやってるのかなあ、と。

水 ダメージモデルもを作ってもらってそれにレタッチという形ですね。

岸 ダメージを受けたものを作りたい場合、また別モデルになりますからね。これからの課題になると思うんですけど、ひとつのものに対していくつモデルを作るかということがあると思います。

ストーリーについて

小 今回上映する作品は戦闘シーンが多いですけど、あれは3Dならではということですか。

岸 ストーリー上必要なので入れたので、3Dだからというのは特に無いです。『楽園追放』はきっちり時間配分が考えられてるなあ、と感心しましたね。

水 あれでももう10分切れ、と言われてまして、これ以上切ったら映画じゃないということで通してもらってます。もともと、虚淵さんの脚本が出てきた時にこれ以下にはできなかったということです。後半の京田さんにやってもらったところはリソース削れないので、いかに前半の展開を早くするか、ということでやっていました。

岸 「アルペジオ」もそのままやると4時間くらいになってしまって、どこを割けるか、という問題でした。今回はカッティングを4,5回やってるんですが、最終的には編集で削っていきました。結果としてシェイプアップして良い形になったと思います。

水 こっちは最後の最後に2分増えました(笑) 間が欲しいとうことで。制作側には「この方が絶対映画的には豊かになる」ということで押し通しました。

小 『楽園追放』の三木さんのキャラクター4のしゃべりの間合いは独特でしたね。

水 彼のキャラクターはもともとああいう形でした。三木さんとは長いので最初からこういう感じということでイメージして。理想的な感じになりました。

岸 こちらもキャストさんには比較的自由にやってくださいということでやってもらいました。

小 お二人とも今回3Dは初めてだったと思うんですけど、やってみてどうでした?

水 新しいことをできたので良かったですね。仕事としてはやってみて良かったと思います。

岸 業界的な意義も出て良かったかなと思います。この技術に商品価値があることが示せたので。作るだけならできると思っていたけど、商業として成功するかはわからなかったので、結果としてそうなってくれて。今後もこうやってやっていけたらいいな、と思います。

Q&Aコーナー

Q どちらも完結しているけど、今後の展開は?

水 何かあったらやりたいですね。

岸 まわりのスタッフは作りたいと言ってくれてて、与太話としてあれもあるこれもある、というのはあるですが、今のところ(具体的な)予定はないです。

Q アンジェラの乳首にこだわったのは誰ですか?

水 それは僕です。あるのにないのは気になるので。会社には「ハイエンド向けの作品なので!」と説明しました。

岸 アンジェラ、かなりセクシャルに作られてますよね。

水 とにかく観て欲しかったので、キャッチーなキャラクターを作りたくて。トランジスタグラマーっでちょっと崩れている、という。

小 釘宮さんはいつから?

水 描いてる時ですね、虚淵くんに「アンジェラ、釘宮さんで行きたいんだけど」とはかなり最初のうちから言っていましたね。アンジェラというキャラクターが内包しているものも反映してます。

岸 彼女が体感していくものも実感できて凄いなと。食べたり病気になったりと。

水 その代わり電脳世界の描写がほとんどないんです。モデルが別に必要なりますからね。途中でアンジェラがべらべらと喋るシーンがあるんですけど、ここもコンテまで切ったんですが、結局別々のモデルが必要になるということでやめたんです。代わりにキャラクターの表情を見せるカットにして。3Dで表情を見せるのはまだ自信がない、という話もあったんですが…。

岸 うちもちょっと詰まってくると「作画使おう」という話が出てくるんですけど、「いや、やりきろう」と。できるだけ3Dでやりきることにこだわりました。

Q ロボットの描写の技術的な進歩について。

岸 曲面のものが表現できるようになって、資本がそれほどなくても作れて、そしてアニメーションの現場でも使える環境が増えてきたということがありますね。

水 従来の3Dの現場では考えられないような技術が「ゾイド」の現場であるとか、ゴンゾとかで考案されて、継承されて、アニメーションという表現に合致していったという事情があります。

小 最後に岸監督から水島監督に一つだけ質問を。

岸 一つだけですか…。じゃあ、アンジェラのお尻について。

水 お尻お尻って言われますけど、印象的にするためですよ!お尻のカットは3カットしかないです。印象深いように演出したので成功したな、と。お肉の柔らかさを表現してもらいました。

岸 最初のデッキチェアに寝そべってるカット、うちもこういうのやったなあ。

水 あそこはローモデルでギリギリまでがんばってもらいました。

岸 (「アルペジオ」の)テレビシリーズはあまり胸を揺らしていなかったんですが、劇場版になったら「乳揺らしたいです!」って(スタッフに)言われて。どうぞどうぞと言っていたんですが、『楽園追放』を観て、これの影響か!と(笑)

水 楽園追放では物理的におかしい揺れ方はやってないですよ。リテイク理由で「乳揺れすぎ」っていうのがありましたね(会場爆笑)

岸 ああ、うちもありました!(笑)



上映作品

[cf_cinema post_id=3785 format=3 text=”なんと言っても

やっぱり
アシガラ(cv. 三森すずこ)は
かわいい

ってことに尽きますね!
 ほんの2ヶ月ほど前に観たばかりだったのですけど、やっぱり面白いなあ。また大画面で観たいと思っていたので、このチョイスは嬉しかったですね。しかも前編にあたる『DC』ではなくて、『Cadenza』!正直、未見の人だと前編見てないとわけがわからないとは思うのですが。「霧の生徒会」との戦闘シーンがそれぞれ個性が出ていて面白いのもあるし(特にアシガラ!)、物語の風呂敷をきちんとたたんでいるのがいいですね。メンタルモデルの意義がはっきりと示され、それが作品全体のテーマと連動しているのがとてもいい。「美少女を出せば売れるやろ」という単純な理由ではないのですね。あ、あとドリルがマジキチすぎて最高でした!「何あれかっこいい!」→「かっこわるい~」の流れも含めて。
 制作はサンジゲン。”]

[cf_cinema post_id=1628 format=3 text=” これもこの前ドリパスの復活上映(1周年)で観たばかりで、しかもBlu-rayを何回も再生してるんだけど、やっぱり大画面映えする作品ですねー。あと、途中の長台詞のシーンが若干気になるポイントだったんですが、今回のトークショーで「苦肉の策」だったことがわかって、なんだかスッキリしました笑
 トークショーで京田さん演出の後半に尺を割いた、とおっしゃっていましたけど、確かに後半の怒涛のアクションシーンは何回観ても盛り上がりますね。個人的には低軌道駐屯地からの金田さんぽいアクションシーン好きですねー。フロンティアセッターの旅立ちのシーンは泣くなあ…。。
 制作は『劇場版ガルパン』で今をときめくグラフィニカ!”]

[cf_cinema post_id=3787 format=3 text=” 映画館向けの映画ですね。TV版一期の総集編なので、内容に目新しさはないんですが(でも重力風呂はいいっすね)、やはり注目すべきは音響ですね。特に斜め加速のところの重低音が素晴らしい!画面的にも、暗い宇宙を背景にして、激しいアクションシーンが繰り広げられるので、映画館の暗闇で観るのがぴったりですね。ワンクールを2時間強に収めていますが、違和感等はなく、スッと観れます。まあ、恒星間移民船の時点で入ってこれない人は入ってこれないんでしょうけれども笑 そういった意味でもハードSFアニメとしてよく出来ていると思います。第2シーズンの「第九惑星戦役」の方は真ヒロイン(人外)が登場するのでこちらも映画館で観れたら嬉しいですね。”]

写真など


まとめ

 セルルック3DCGアニメ3本立てでしたが、なにげに制作会社もサンジゲン/グラフィニカ/ポリゴン・ピクチャーズと、現代日本の代表的なプロダクションの最新技術を見比べることができたというのも面白かったです。そして、テーマ的にも「ファーストコンタクト」もので統一してあって、それぞれ帰結が異なっているという、ある意味出来過ぎたプログラムでした。『劇場版 シドニアの騎士』の代わりに同じポリピク制作の『亜人 衝動』もありかな、と思ったのですが、やっぱりシドニアは劇場で観たい!(音響的な意味で) 非常に良いオールナイトでした。


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

関連商品

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NOTES

  1. 京田知己(1970年1月22日-)。絵コンテと演出がメイン。最近だと『交響詩篇エウレカセブン』の監督とか。
  2. ゴンゾ出身の松浦裕暁氏が2006年に設立。㈱ウルトラスーパーピクチャーズの子会社の中では最古参の会社。最近の代表作だと『ブブキ・ブランキ』(2016年)など。
  3. 『009 RE:CYBORG』(2012年)。神山健治監督。フル3DCGでセルシェーディング。
  4. ディンゴ(cv.三木眞一郎)