ついに!ついにやってきた『カイバ』!!湯浅監督はアニメスタイルオールナイトの常連ですけど、『マインド・ゲーム』を始めとする劇場向け作品がメインだったんですよねー。アニメ様は前々から「『カイバ』オールナイトやりたいですね」、とおっしゃっていたので、ついに実現。ありがとうございます、という気持ちです。TVアニメを劇場でかけるの、大変だっただろうなあ。トークゲストはもちろん、湯浅監督。去年はめちゃくちゃ忙しそうだったから99回の時はいらっしゃらなかったんですよね。色々裏話も聞けてよかったです。

 前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションvol.101 100回記念シリーズ Best of Best(2)『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』」のレポートはこちら!

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

登壇者

湯浅政明監督(トークショー常連だけど久々のご登壇。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

新文芸坐・花俟さんによる前説

花 皆様、こんばんわ。102回目になりますね。アニメスタイルオールナイト、99回目にも来ていただきました湯浅監督。何回も来ていただいております。今回は『マインド・ゲーム』がありません。『カイバ』、珠玉のアニメーションです。初めてご覧になるかたも多いと思います。

『カイバ』は作りやすかった

小 湯浅さん、今日は本当に女性が多いですよ。しかも若い。

湯 放送時に観ていた人とは思えないですね(笑)

小 今日はじめて『カイバ』を観る方!おお、多い!8割くらいですか。何を言ってもネタバレになっちゃいますね。でも今日は楽屋でネタバレを気にしないでトークをしようということになりました。

湯 制作時は記憶喪失の人の感じで作っていました。全部わかるまでは説明しない。僕もこれを機会にちょっと見直しておこうかなと思ったんですけど…。でも1話の途中までしか見直してないのであまり覚えてない…。

小 湯浅さん的にはTVシリーズ2本目ですよね。

湯 『ケモノヅメ』1が大人向けだっただったので、かわいらしい絵でいこうとなりまして。人間は遺伝子のビーグルであるという話がベースになっていて、でもそれだけじゃつまらないな、と。記憶を別な場所に移したら人間ができるんじゃないかという考えがあって、ああいう話になりました。

小 『カイバ』では記憶がデータとして扱われるんですよね。

湯 人が死んだ時にもったいないなと思うのは、経験が失われるとか思い出が共有できないとか…、でも記憶が残っていれば共有できるんじゃないかな、と。

小 初めて観る人は今の説明かなり大事です。

湯 異世界ということで地球とは違う世界にしたいなと。結構違った感じにしています。

小 当時、湯浅さん的にはのびのび作れた作品なんですか?

湯 前作は難しく考えていたんですけど、今回は調べたり交渉したりといったことがなかったので作りやすかったですね。

Q&Aコーナー

小 今回は喋りづらそうですね…。じゃあ質問のある方!

Q この後の湯浅さんは原作付きのTVシリーズやられていますけど、オリジナルの作品の作り方はどんな感じですか?

湯 もともと、お話ってなんだろうというところから始まっていて、元々は漫画家になろうと思っていたんだけどストーリーが全く思いつかなくて、その後アニメーターになって、それでもストーリーというもがよくわからなくて、いい場面があればいいかなと思っていたんですね。その後、『マインド・ゲーム』を作ったら「ストーリーがよくわからない」という意見があって、お客さんはストーリーを見に来ているんだなということに気付いたんです。『ケモノヅメ』は脚本家を連れ来てきていたけどその人が降りちゃって…。ストーリーってなんでしょうね。感情が乗れば良いのかな。その後、本とかを読んだけどよくわからなくて。一番はシチュエーションなんですよね。いろんなシチュエーションがあったら、それが僕にとっては展開なんですよね。それを入れ込んでいきます。ストーリーは大枠で作っていきます。『ケモノヅメ』の時は昔の漫画みたいに結末を決めないでやっていったら評判が良くなかったので、『カイバ』は結末を決めてやっていきました。それなりにちゃんと作ったと思います。

小 『カイバ』は上手くいった方なんですか?

湯 スタッフからは不満が出たりもしたけど、そうなるように作りました。

Q 『カイバ』では記憶の色が来色っぽいオレンジでしたけど、そのこだわりはありますか?

湯 気分で決めているところもあるんですけど、色も感情を動かすところがあるんだろうなということで最近では考えて決めています。観ている人にどれだけ伝わるかわからないですけど。黄色は暖かい色というイメージがあるので。

Q 「記憶の部屋」のイメージは10年後で変わりましたか?

湯 僕自身はあまり変わらないですね。自分はあまり記憶力が良くないので。新しく出来ているところもあるし、雑然としているところもあるし…。

Q 悪役はいるけど悪人はいないのはどうしてですか?

湯 あまり意識はしてなかったけど自分の作品に共通するテーマについて最近考えていて、人は理解し合えないけど、理解し合えればいいなとか、そういうことを考えています。映画も認められるものが好きですね。最近も3人の女の子がロケットを飛ばす映画2でケビン・コスナーが(看板を)ガンガン壊すシーンでグッと来ました

Q おばあちゃんと双子の話は「名探偵ティガー」3がパロディ元なんですか?

湯 その話は知らないかもしれないんだけど、あの話のそのシーンを担当した三原さんはすごく上手い方で、人間を人形っぽく描くんですね。カバも人形っぽいし。そういうところで似ているのかもしれないですね。

Q 海外の湯浅ファンと日本のファンの反応の違いについて。

湯 ファンの人と触れ合う機会はあまりないですけど、海外、特にアメリカのファンはアグレッシブですよね。アメリカのファンはコスプレをしてくるんです。楽しんでいる感じ。「ルー」の後は抱きついてくる人もいましたよ。でもそんなに違いは感じませんね。海外は笑うところで笑ったりしますけど。海外のファンはクリエイターの人が多かったりしますね。

Q 押山さん4について。

湯 押山くんはウニョンさん5が『スペース☆ダンディ』6に参加した時に作画監督7をやられていたんですけど、描くのが早くて上手くて感じが良くて、「デビルマン」8もいいんじゃないかということでやってもらいました。『フリップフラッパーズ』9は観ようと思っているけど、まだ観れてないから関係はわからないんですけど。

Q 『カイバ』のテーマは記憶だと思うんですけど、見えないテーマはなんでしょうか?

湯 たぶん、いっぱい入ってますよ。30分で面白く見れるようになればいいな、ということで作っていますけど。入れこんであることはたくさんあるんですよ。ちょっとしたキャラクターの芝居にも思い入れがありますし、そういうところを読み取ってもらえれば。

Q 『クレヨンしんちゃん』の監督をされる可能性はありますか?

湯 やりたいと言ったことはあるけど、実現はしていないですね。「しんちゃん」とか『ちびまる子ちゃん』とかやってみたい気持ちはあるけど、今のところ企画はないです。

Q 『カイバ』のビジュアルコンセプトに手塚的な昔の漫画のテイストを入れる話はあったんでしょうか。

湯 ちゃんとした絵でやると『攻殻機動隊』みたいになってしまうので、もっと気楽にやろうということで、手塚さんとか東映動画とかディズニーとかのやわらかい輪郭の絵でやろうということでやりました。

Q 今後もフラッシュアニメーション一本でやっていくんでしょうか?

湯 ソフトがこっちのがいいなというものがあればそっちに行くと思います。

小 今日の『カイバ』はかなりFlashっぽいですよね。太い線で。

Q 『エターナル・サンシャイン』10という記憶をテーマにした作品があって、3話と似ているけど、影響はあるんでしょうか?

湯 観ていますね、僕。面白い映画で、最後のところが特に面白くて、脇役の人たちの切ない話なんです。特に意識していないですけど、影響はあるかもしれないですね。『カイバ』では入れ替わりものからの影響が大きいかもしれないです。

新作たくさん準備中!

小 『カイバ』は演出・絵コンテの人が4人くらいしかいないですけど、ウニョンさんの5話、すごく絵が個性的なんですけどあれはウニョンさんがこだわったんでしょうか。

湯 『カイバ』は『ケモノヅメ』から流れてきた人が多くて、横山さん7・三原さん11が入ってきた4話くらいはだいたいこんな話という段階で、設定込みでコンテを書いてもらう感じでした。横山さんは(設定を)作り込んでくる感じで、三原さんはお話はそのままで芝居をこだわってくる感じ。5話くらいからは脚本を渡してやってもらってました。ウニョンさんは色彩が独特でしたね。

小 みなさん脚本でクレジットされてますけど、テキストの形の脚本なんですか?

湯 設定をタダでやってもらうのも悪いので、脚本ということに…。プロットというか草稿みたいな感じですね。

小 今振り返ると『カイバ』はどんな作品ですか?

湯 今思うと順調に進んだ作品ですね。スタッフも充実していましたし、個性も発揮して作品の質も上がっていると思います。

小 近況はどうでしょう?

湯 いっぱいやってます。何本も作品を同時に準備してます。

小 去年みたいに新作がガンガン観れる感じですか?

湯 そうですね、ガンガン観れる感じです

上映作品

[cf_cinema post_id=8472 format=3 text=” ずっと観よう観ようと思いつつ初見。うわさ通り、すごかったです…。世界観がまずいいですよね。記憶をチップ化して乗せ換えたりできるというアイデア自体は目新しいものでもないけど、あまりにもカジュアルに乗せ換えたり肉体が消滅したりするある種の退廃的なディストピアの雰囲気がたまらない。東映動画か手塚プロか、という様相のキャラクターも好き。特にクロニコのデザイン、シンプルなのに色気があって最高でした。まさに手塚ってかんじ。クライマックスのあたりはかなり駆け足のくせに、何の伏線もなく巨大ロボット(キチ)が出てきて割と長尺取って大立ち回りするあたり評価が分かれそうですけど、自分は好きなタイプですね。トークの方で、「シチュエーションの連なり」ということをおっしゃってましたけど、まさにそんな感じで、全体的なつじつま合わせよりはその場の勢いのようなものが全面に出ているような印象。ただ、総体としてのストーリーも観終わってみるとよくできている。というか、二回目が本当に面白い作品。一回目でよくわからなかった第一話のあの人とかあの人も二回目になると、なるほどそういう意味だったのか、という。スルメイカみたいなシリーズですね。Netflixで配信してくれてるので気軽にリピートできるのが本当にありがたい。個人的に気に入ってるエピソードは三原三千夫さんの個性が爆発している第4話「ばあさんの記憶の部屋」、同じくウニョンさんの絵が楽しい第5話「憧れの星アビパ」、そして物語の転換点でありクロニコ(ボディ)とバニラが心中する第7話「記憶に残らない男」。特に第7話は衝撃的だった…。中身カイバのクロニコの小悪魔感とバニラとの掛け合いが楽しいほのぼのとした前半と後半の壮絶さのギャップ。バニラ、悪人だけど悪いやつじゃなかったよね…。悲しい…。さらに、ボディを失ったカイバがどうなるのかという物語の駆動力。後半の怒涛のネタばらしも良かったし、やっぱりもう2,3回観なきゃ!”]

写真など

まとめ

 いやー、映画もいいんですけど、TVアニメを新文芸坐の大画面で観るの最高ですね!寝ちゃう危険性はあるけど、一気に集中して観れるから話もわかりやすくなるし。次回の湯浅オールナイトはぜひとも『DEVILMAN crybaby』を観てみたい!


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

NOTES

  1. 2006年。全13話。湯浅監督のTVシリーズ一作目。こっちも1クールだからオールナイト向きですね。内容も大人向けだし。
  2. 『ドリーム』(2016年)。セオドア・メルフィ監督。人種隔離政策の下、NASAのマーキュリー計画で活躍した3人の黒人女性を描いた映画。傑作。
  3. 『くまのプーさん』のエピソード『なにに なりたい?』でティガーが探偵役を演ずる話かなあ…。
  4. 押山清高(おしやま・きよたか、1982年1月3日-)。2016年の『フリップフラッパーズ』監督で名を馳せたアニメーター。
  5. チェ・ウニョン(EunYoung Choi、최은영)。湯浅監督の右腕みたいな人。独特すぎる絵なのでわかりやすい。個人的には「スペ☆ダン」の植物回。
  6. 『スペース☆ダンディ』(2014年)。「スペース☆ダンディは宇宙のダンディである」でおなじみ。湯浅監督は第16話「急がば回るのがオレじゃんよ」、ウニョンさんは第9話「植物だって生きてるじゃんよ」で参加。
  7. 前述のウニョンさんの回ね。
  8. 『DEVILMAN crybaby』(2018年)。湯浅監督の最新作。Netflix独占配信。
  9. 『フリップフラッパーズ』(2016年)。押山清高監督。全13話。EDは押山監督の一人原画。
  10. 『エターナル・サンシャイン』(2004年)。ミシェル・ゴンドリー監督。
  11. 三原三千夫(みはら・みちお、1965年10月4日-)。「スペ☆ダン」の第6話「パンツとチョッキの戦争じゃんよ」が好きだなあ。