目次
「アニメファンなら観ておきたい200本」も早や8回目…ですけど、まだ半分も埋まってないんすね(笑)今回の目玉は多分めったに劇場でかかることがない上にDVDも出ていない『走れメロス』!ほかは割としょっちゅうやってるので、ほとんどメロス目当て(もちろん、他の作品も素晴らしいけど)!トークゲストは沖浦監督と西尾鉄也さんですが、まあ今回も濃かったですねー。
前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.96 片渕須直 長編アニメーション16年の歩み」のレポートはこちら!
トークショー
!notice!
トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。
登壇者
沖浦啓之監督(IGのすごいアニメーター。以下「沖」)
西尾鉄也さん(IGのすごいアニメーター。『NARUTO』とか。以下「西」)
小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「小」))
今回は最初に『日本アニメ(ーター)見本市 旅のロボから』を上映してからトークショー。
新文芸坐・花俟さんによる前説
花 こんばんわ、新文芸坐の花俟です。『日本アニメ(ーター)見本市 旅のロボから』、非常に情緒豊かな作品でございます。今日の『走れメロス』、これはレアです。プリントの状態もなかなかいい感じです。なかなか見つからなかったとのことです。
もっと「美しいもの」になるはずだった『旅のロボから』
小 いきなり『旅のロボから』を観てもらったわけですが。西尾さんどうですか。
西 素晴らしいですね。
沖 「アニメ(ーター)見本市」1の企画で何か作っていいよと言われて、「西荻」の手伝い2をしている時に自分のものを考え始めて…トレーラーハウスをいつか出そうと思っていて、内容はもっと美しいものになるはずだったんです(笑) 山寺さんと林原さんの二人しか使えないことを逆手に取って3「こういうのを考えたんだけど…」とプロデューサーに言ったら「これがいいんですよ!」ということで。
西 ネットとかブログとかを沖浦さんが扱っているのが新鮮でした。絵文字とか。
沖 あれは詳しい人にやってもらいました。
小 「人狼」と『ももへの手紙』をやられて、生真面目な人だなと思っていたので新鮮でした。こういうのもあるんですね。
沖 関西人なので…3。
小 「もも」も最初はギャグだったと…?
沖 人間を描くのに疲れて、妖怪にしようと。
小 沖浦さんは大変な仕事をするのが好きですよね(笑)
「メロス」好きすぎ西尾さん
小 じゃあ『走れメロス』の話から。
西 新宿の観客数人という環境で見て、でも内容は素晴らしかった。当時は原画を初めたばかりで、VHSを擦り切れるくらい観て、LDが出たらそれも擦り切れるくらい観てました。一時期の俺はメロスにドハマリでした。何がハマったかというと、『AKIRA』4系統の作家さんがメカものをやるのは普通だし、でもこういう人文ものをやるという新鮮さがあって、観てみたらやっぱり上手いんだなあ、と。
沖 いいシーンはいいと思うんですけど、コントロールできなかった部分がどうしてもね…。コンテを直したりしているともう無理だーって。作打ちの段階でまだコンテ描いてて、時間を繋いでもらったりして。監督も作打ちの段階でコンテ初見だったりして(笑)おおすみさん5の真髄は作打ちの時に語るとんでもない変更とかですね。
西 一番金を使ったファンの一人だと思います、俺。VHS買って、LD買って、サントラは出なかったから、パンフ買って…。
沖 最後すごく直したシーンがあるんだけど、それはフィルムになってない。撮影まではいったんだけど、撮影で失敗してしまって…。井上さん6の作監修正のカットとかは生かされてなくて、いまだに残念です。
西 DVD出てないんですよね…。
小 Blu-rayも。日本映画専門チャンネルでハイビジョン版やってくれないですかねえ。
沖 原作だとメロスとセリヌンティウスは友達ですけど、赤の他人にすることでメロスが走る理由がはっきりしたところが好きですね。そこが上手く伝わるかはわからないけど。
小 今日はじめて観る人ー?(9割くらい手が挙がる)うわーーーー!!
沖 太宰治が書くよりも前のものがあって、それを元にして太宰が書いたっておおすみさんは言ってましたね7。
小 劇中でも王様がプロパガンダに使おうとしますよね。単純に悪い王様ではない。
沖 アレキスの声3がほんと好きで。
小 あと中森明菜さんが上手いです。
沖 山寺宏一さんの初主演作品ですね。林原さんも妹役で出てる。「アニメ(ーター)見本市」と縁がありますね。最後の叫ぶところで山寺さん、気絶しちゃったって。
小 山寺さんがすごいのはああいう体格のいい人の声やる時はそういう声になるんですよね。メロスのキャラクターデザインはどういったところからなんでしょう?
沖 メロスだけ黒髪にして日本人が感情移入しやすくしましたね。
小 彫りもそんなに深くない。
西 キャラ表からはかなり変わってますよねー。特にライザ。俺は完成品のほうが好きよ。ライザなんか江口寿史みたいだったし。
沖 『老人Z』8やってたから(笑)
小 完成まではどれくらい?
沖 1年くらいですね。
小 初めて観る方になにか…。
西 全編上手い!ちょっと荒れてるところもあるけど小さなキズですよ。当時の俺はこんな画が書きたいと思ってた。
小 原画の割り振りは誰が?
沖 それは俺ですね。
西 沖浦さん自身は原画やってないんですよね?
沖 そうですね。作監だけ。
西 フィルムコミックは作監修正前のものなんですね(笑)
『人狼 JIN-ROH』、地獄の3年間
小 その次は「人狼」で監督に。
西 (「人狼」については)色んな所で語りましたねー。最近だと練馬とか。
沖 夕張9ではほんとにお客さんの目の前でしたね。酒飲みながら。
小 最初に脚本読んだ時はどうでした?
沖 キツイなあ、と。押井さんは藤原カムイさん10の原作版をやりたかったみたいで、最初はビデオシリーズで何本かの予定だったんですけど、れが劇場版になって、原作は群像劇だったからそれはキツイなとおもって。押井さんといろいろやってああなりました。
小 西尾さんはスタッフですけど、押井ファンとしてどうですか?
西 押井作品にはない色気がありますよね。
沖 圭はセリフなかったもんね。
小 押井案だとセリフなかったんですか?
沖 なかったですね…。
小 (西尾さんから見た)沖浦さんの印象はどうでした?
西 厳しかったですね。地獄の3年間。特訓に次ぐ特訓。今では笑い話ですけど、沖浦さんが原画チェックするじゃないですか。作監修正を入れたものを沖浦さんがまたチェックするんですよ。制作進行からしたらもう次の工程に出せるものなのに、と抗議すると「できるわけないでしょう!」と(会場笑)怒鳴られているのを横目に見て、「出せないんだ…」と。これが沖浦スタイルなんだな、と。
沖 動画になって修正するのは最低限にしたい。そこでさらっておいたほうが色々といいのじゃないか、ということですね。
西 「人狼」に参加したおかげで自分の仕事に芯が入った気がしますね。それは次の工程に渡すためのちゃんとしたものを作るということ。一番印象深かったのが、ラッシュチェックの時にどこかがミスしていて直さなきゃいけないという時に、アナログだから塗り直さなきゃいけない、暗いシーン多かったから。
小 あの影がなくて線のすくないキャラクターは人狼という作品を通して生まれたんですか?
沖 「攻殻」11の時は作監が黄瀬さん12だから線が細くて…。
小 当時、作画に3年かかったと聞いたんですが…。
沖 隣で「BLOOD」13も時間かかってましたね。プロデューサー14も途中からデッドラインとか諦めてましたから。
『ももへの手紙』は母子・妖怪・島
小 「人狼」から12年ぶりに作ったのが『ももへの手紙』。原案・脚本・監督。最初は笑えるものにしたかったんですか?
沖 アダム・カバット先生15という大学の先生がいて、この人が黄表紙の第一人者なんですけど、本屋で偶然見た時に、「あ、妖怪良いなあ」と。水木先生と違った解釈の妖怪もいいのかなあと思って。
小 お母さんと子供の話になったのはどうしてですか?
沖 身の回りのことを伝えたいということと妖怪の話。あと、(自分の)本家が広島の田子の浦だったのもあって、近くの島をモデルにして。母子・妖怪・島という三つを組み合わせてみようということですね。
小 西尾さんは『ももへの手紙』どうですか?
西 また影なしやってますよね。バッチリはまっている感じですか?
沖 全部が影なしというのは好きではなくて。影がある理由が欲しい。フラットと影ありでリズムを作りたい。そういった時にベースは影なしのほうがやりやすい。あと自分が影を付けるのが苦手だから…。実線を描くことにも集中できるし。
小 『ももへの手紙』も恐ろしく緻密な作品ですよね。
西 作画期間何年ですか?
沖 5年くらいかな…(会場笑)
小 『ももへの手紙』もエロスが効いてますよね。
西 お母さんエロいですよね。
小 娘もなかなか。
沖 自分はそういう趣味はないんですけど…(会場笑)
西 全年齢揃ってますね(笑)
西 次はバリバリのアイドルアニメ作ってみたら?
沖 ロボとかおっさんがいる世界で女性が活躍するのがいいですね。女の子だけのアニメとか見たくないよ(笑)一種類しか描けないしたぶん。
小 西尾さんは妖怪が踊るところですね。
西 なんとかやりきったよね。時間かかったけど。
沖 ももがいやいやターンするところがいいよね。
西 ありがとうございます。
沖 『ももへの手紙』の豪華版についてるオーディオコメンタリーの井上俊之さんは最高ですよ。話を遮っちゃう感じの(笑)
おわりに
小 最後に一言お願いします。
西 まあ今日は「メロス」でしょうね。1フレームも瞬きできない。(このあとは)もう20年くらいかからないぞ。なぜDVDが出ないのか!
沖 権利持ってる人が忘れてるんだよ。
西 残念だなあ。アニメスタイルレーベルとかどうですか?喪われたアニメをとりもどせ!
小 この前Blu-ray出したんですが16、映像って大変ですね…。
沖 大勢来ていただいてほんとにありがとうございます。小黒さんからも「メロスはまかせとけ」という言質もいただけましたので…(会場笑)
上映作品
[cf_cinema post_id=5975 format=3 text=” なにげに何回か観てるんですけど、なんか飽きない作品。『ももへの手紙』でも思ったけど、女の子に独特の色気がありますよね。作家性がそこににじみ出ているというか。ちょっと梅津さんぽいかんじもします。この短編、主役はロボなんですけど、なんかこいつも生々しいんスよね~。まー、中身がねちっこい変質者気質ってのもあるですけど、スマホを飲み込むときの漫画的な表現とか、お涙頂戴の身の上話始めるとことか。そして、やっぱり演技が細かいですよねえ。話が短いのもあるけど、観やすい作品ですね。鮮やかな色彩が楽しいので大画面で観ると◎”] [cf_cinema post_id=7564 format=3 text=” 今日のメイン!トークでも西尾さんが言ってたけど、「1フレームも見逃せない!」。オチがわかってるのに面白いって言うのは、やはり良い作品ですよね。ハッピーエンドになるのがわかってるから安心して観られるってのもあるけど。前半のメロスとセリヌンティウスが知り合うターン、確かに親友よりもさっき知り合ったばかりの人間のために命を差し出すほうがヒューマニズムが感じられますよね。良い改変!なにげに美術も素敵。推しキャラクターは王様!杓子定規っぽい可愛さがありますよね。最後爽やかだし。メロスが自分の足で走ってるとこよりも、後半の馬車で疾走してる場面の背動が印象深かったです。DVD出てほしいな~(VHS、めっちゃプレミアついてる…!)それかどこかで配信して欲しい。あ、子どもに観て欲しい映画でもありますね!さすが文部科学省推薦!”] [cf_cinema post_id=5139 format=3 text=” なんてこった!今日のイベントタイトルに入っているのに、かなりウトウトしてしまった…。やっぱりね、3本目ってのは鬼門なんですよ。しかも、この映画基本的に暗いじゃないですか…。しょうがないよ…。とはいえ、割と何回も観ている割に、真ん中の辺りあまり覚えていないので、もしや毎回寝てしまっているんじゃないか疑惑があります…。タルコフスキーみたいなものかな…。とはいえ、序盤の自爆とかゲリラ皆殺しシーンなんかは何回観てもいいですね。あと途中の逃亡シーン(このあたりでうつらうつらする)とか。毎年1回くらいはやるから次回はがんばります!”] [cf_cinema post_id=7567 format=3 text=” すごい久々に観ました。「人狼」から一転して鮮やかな色彩が嬉しい。文字通り目が覚めるような。あの3人の妖怪、実際に来たらめちゃくちゃ迷惑だよね。来ないで下さ~いって思いながら観てました。でもキュートでもあるけど。踊りのシーン、沖浦さんが褒めてた嫌々ながら振り向くシーン、あの渋々感いいっすね~。観終わったあと、初見の友人たちが「なんかエロかった」って言ってたけど、たしかに、露骨じゃないけどなんかエロいよね。宮﨑駿的な素朴な感じでもなくて、どことなく色気がにじみ出てくるの。不思議な絵だな~。お気に入りのシーンはイノシシとのカー(?)チェイスのとこ。作画すごい!”]写真など
まとめ
『走れメロス』、本当に良かった!これだけでも来る価値がありましたね。『ももへの手紙』も最後に来るとめちゃ爽やかでいいすね~。日常メインなのにアクションシーンも多いので大画面映えしますね。このへんは年に1回くらい観たくなるかんじ。『走れメロス』は早くDVDかBlu-ray出て欲しいよ~。
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関連リンク
■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/
■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/
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NOTES
- スタジオカラーとドワンゴが共同で企画した短編アニメーションシリーズ。2014年から2016年までに36本ほど製作。もう観られないと思ってたけど、2018年1月発売の『劇場版龍の歯医者』の特装版にほとんどの作品がおまけで付いてきた!うれし―!個人的に好きなのはno.10「ヤマデロイド」(Blu-ray未収録)、no.15「おばけちゃん」、no.19「I can Friday by day!」、no.29「ヒストリー機関」、no.35「カセットガール」あたりですね。
- 「日本アニメ(ーター)見本市」の一本『西荻洼徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』(監督:前田真宏/本田雄)。ゴキブリのやつっすね。沖浦さんは原画で参加。
- 「日本アニメ(ーター)見本市」では声優は山寺宏一さんと林原めぐみさんの二人のみ!
- 『AKIRA』(1988年、監督:大友克洋)。沖浦さんは原画で参加。
- おおすみ正秋(1934年-)。
- 井上俊之(1961年7月20日-)。いわゆるスーパーアニメーター。「メロス」では原画。
- 元になった伝承は結構長い紙幅が必要なのでWikipediaなどをご参照下さい。
- 『老人Z』(1991年、監督:北久保弘之)。原作・脚本を大友さん&キャラデザが江口寿史先生。沖浦さんはレイアウトと原画で参加。個人的にかなり好き。
- 「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。2000年に『人狼 JIN-ROH』が南俊子賞を受賞。
- 藤原カムイ(1959年9月23日-)。『人狼 JIN-ROH』の原作となったのは押井守原作、藤原カムイ作画の『犬狼伝説 – Kerberos Panzer Cop』(1988-1999年)。
- 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年、監督:押井守)。沖浦さんはキャラクターデザイン、作画監督、レイアウト、原画で参加。
- 黄瀬和哉(1965年3月6日-)。IGの神作画の人。
- 『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(2000年、監督:北久保弘之)。作監が黄瀬さん、沖浦さんも原画で参加。
- IGだし、石川さんやろな…。
- アダム・カバット(Adam Kabat、1954年3月26日-)。アメリカ人妖怪研究者。武蔵大学教授。
- 『吉成曜画集 ラクガキ編[手塚治虫キャラクター](BD付き) 』(3,456円(税込))。Amazonで売ってるよ。
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