ついにやってきました!大ヒットした『この世界の片隅に』を引っさげて片渕監督がやってきたぞ!しょっちゅう来てるけど。以前から片渕監督にフューチャーしたオールナイトは企画されてましたけど、ついに長編3本立てが実現!広島の八丁座で一足先にやられちゃってましたけど。思えば、去年の今頃、「片渕監督のオールナイトやらないかなー」ってつぶやいたらアニメスタイルの小黒さんから「3本揃ったらね!」ってリプきたんですよねえ。感慨深い。そして、早々にチケットが売り切れて満員御礼!

 前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.95 BONES NIGHT 『アクションアニメ』はいいぞ!」のレポートはこちら!

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。今回、特にメモが取れなかったので省略とかが多いです…。

登壇者

片渕須直監督(舞台挨拶が多すぎて割と見かける監督。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

新文芸坐・花俟さんによる前説

花 やっと、やっとでございます。やっと『この世界の片隅に』をうちでやらせてもらう日がやってまいりました。もう、喉から手がでるほどやらせてもらいたかったんですけど、名画座という性質上、まだ、まだ興行中ですので(笑) 今日はオールナイトということで特別にやらせていただきます。アニメスタイルのサインボードがあるんですけど、片渕監督はもう6個くらいサインしてもらってます。その度に『アリーテ姫』、「マイマイ新子」の面白さを訴えてきた身としては感慨深いものがあります。

次の片渕監督作品はオリンピック後?

小 いつものアニメスタイルオールナイトよりも年齢層が高いですね。

片 これで6回目…なんですか?これまでは「アリーテ」と「マイマイ」しかなかったのでオールナイトできなかったんですよね。そのために作ったようなものです(笑)でもこの前八丁座1で『MEMORIES』2も含めた4本立てやっちゃったんですよね。

小 それは体力がいりますね…。
今日のタイトルが「16年の歩み」ですが…。

片 16年。『アリーテ姫』からして宣伝の時に「構想8年」とか言ってましたよね。構想の中に製作も入ってる変な宣伝でした(笑)平均で8年に一本くらい作ってますね。「アリーテ」から「マイマイ」まで9年でちょっとインターバルがあって、そのあとが7年。

小 じゃあ、次の片渕さんの作品見れるのはオリンピック後ですね。

片 そうですね。2021年がMAPPAの10周年なんでそこまでになんとかと言われてるんですけど、ちょっと自信がない。

小 MAPPAも10周年の会社になったんですねえ。

片 そもそも4℃3の時は普通の家でしたからね。『この世界の片隅に』の時も最初の時は畳敷きのマンションで、ペット可だったんだけど、丸山さん4が住んでいたところを追い出されて、そこ(スタジオ)に住むって言い出して…。今そこは丸山さんの家になってます。

小 「このせか」を作ってたところ、あそこ一階はなんでしたっけ?

片 1階が和楽器屋さんで、二階がステージみたいになってて、そこを演奏会をやるのをやめたから借りたんです。だからお琴とかに囲まれて作業してました。

「マイマイ新子」を表すジャンルがまだ無い。

小 もうちょっと作品の話ししましょうか(笑)『アリーテ姫』の前も『名犬ラッシー』5とか「さくら」6とか『あずきちゃん』7とか、こんな才能がある人がいるんだなあ、と。

片 小黒さん、最初『名犬ラッシー』でインタビューに来てくれたんですよね。

小 見どころはたくさんあるんですけど、残念ながら2クールくらいで終わってしまって、そこから不遇の監督というイメージが…。そのあと『アリーテ姫』ですけど、構想8年というのは…。

片 お金がなかったんですよね。最初はもっとこじんまりとした作品だったかもしれないんですけど、スポンサーがどこにのってくるのかわからなかった。TVシリーズに疲れていて、田中プロデューサーに言いに行ったら、じゃあ『アリーテ姫』を初めましょうということになりまして。『アリーテ姫』も最初は畳敷きのところでやってました。畳ばっかりですね。畳の上で24年。

小 さすが、「このせか」の監督ですね。最初はまんが映画っぽい人かなと思っていたので、『アリーテ姫』は意外でした。そのころのインタビューを読み返したら、「人間とは何かをしっかり描く作品に興味がある」と言ってますね。

片 『アリーテ姫』は何回も脚本を組み替えていて、最初はまんが映画的だったんですけど、何回か組み直して今の形になってます。『アリーテ姫』をやっていてわかったところがあったのかもしれないですね。東映動画の長編を一通り観ていて、記憶に残っているのは「長猫」8とか「ジャック」9とか舞台装置が複雑に動くものが好きだったんですよ。トリッキーな空間の中で追っかけをやるという。宮崎さんがはじめて作った「コナン」10は大塚さん11が作監やるということで観たんですけど、その時に自分の中でまんが映画というものが点灯して、アニメーションの学校を探して、志したわけです。そこから宮﨑さんとか大塚さんにつながっていく。だから「ホームズ」12とかはやりやすかったんですよ。延長線上でやっていけばいいから。そのままやっていたら幸せだったかもしれない。「ホームズ」も自分たちの中では打ち切り作品なんですよ。宮﨑さんが絵コンテ描いてた「バスカヴィル家の犬」とか「四つの証明」とかもお蔵入りで。このまえ富沢さん13に聞いたら絵コンテやってたのも忘れてたからやってた人たちも忘れてる(笑)

小 まんが映画的なものから人間ドラマ的なものにいったのはどういったきっかけだったんですか?

片 「ホームズ」のあとに「リトルニモ」14があって、あれも監督が変わっていった作品じゃないですか。監督が変わっていく間にそれまで考えてきたことがなくなってしまう、そういった中で人間ってなんだろう、と考えまして…(会場笑)何を思ってこのままものを作り続けていけばいいのか、を考えていったのが『アリーテ姫』なんじゃないかな。

小 「マイマイ新子」はどういった作品でしょうか。

片 最初は危険な作品だと思ったんですよ。丸山さんが、「危険だけどやるなら片渕くん」ということで持ってきて、自分も危険だなと思ったんですよ。(テレビで人気のある)20年選手の作品が(劇場で)上映されている中に突然知らないものを持っていったらどうなるか。

小 じゃあ子ども向けの企画だったんですか?

片 大人でも観られる作品として作ったんだけど、配給は子ども向けとしてしか受け取ってくれなかったから普通の大人は見に行けなかったんです。

小 『アリーテ姫』が完成した時に、田中プロデューサーが、「この映画は大ヒットを狙う感じでもない。毎週土日は私がフィルムを背負って全国の公民館に行脚するのよ!」と言っていましたね。

片 フィルムを車に積んで出発するところまで準備はできたけど、上映をする学生バイトが次の町の映画館にちゃんと営業できるか、というところで頓挫しちゃった。

小 じゃあ、(「マイマイ」は)『アリーテ姫』の時に構想していたものが実現したんですね。

片 「マイマイ新子」は上映の際に必ず監督が舞台挨拶するということでやったんです。『この世界の片隅に』も106回くらいやってますけど、「マイマイ」の比ではない。圧倒的に「マイマイ」が多かった。ある時は京都の国立博物館の上映でわざわざ電話して舞台挨拶行きます!って。その足で広島にロケハン行って。行くのはいいけど帰りが大変なんですよ。一人で広島から東京まで運転しなきゃいけないから。

小 「マイマイ」に比べると舞台挨拶が少ないと言うことですが、今月だけでももう15回くらい?

片 平均的には一日0.9回くらい?実際には一日2回3回ということも。フランスの映画祭では小学生だけの上映会をやって、さらに低学年のときは字幕が読めないから声優みたいな人がその場で吹き替えしてる。で、そのときもわかるようにQ&Aをやって。映画祭なんだけど、非シネコンの図書館の視聴覚教室みたいなところも行きました。

小 漫画原作でもなく、TVシリーズのアニメ化でもなく、大人も観れる、「マイマイ新子」みたいなジャンルを作りたいと仰っていましたよね。

片 アニメというと簡単に「アニメ」というジャンルに入れられてしまう。アニメーションというのはあくまでも技法の一つであって、アニメーションというくくり(ジャンル)にしてしまうと届けたい人に届かない。そういう作品があるということを認知して貰う必要があるんですけど、そのジャンルを表す言葉がまだない1

小 次回のオールナイト、沖浦監督の作品を特集するんですが、『ももへの手紙』15とかもそうですよね。

片 そうですね。

小 手法ということで言うと、「マイマイ新子」からはじまる調査・研究に基づく方法について…。

片 あれは実は『アリーテ姫』から始まっていて、中世の世界を描く時に、4℃の森本晃司16なんかが「やめとけ」って言うわけです。俺達は歴史学者じゃないんだから、と。それで、『アリーテ姫』を作ってフランスに持っていったらパリの文化庁の人もフランス中世のところに『アリーテ姫』を当てはめてもうまくいくよと言われて。で、日本だったらもっとできると思って「マイマイ新子」を作って、それで『この世界の片隅に』はこうの史代先生が同じようなことをすでにやっていたんですね。最低限のことはやらないといけないんじゃないかと思っています。『MEMO/ニモ』は日米合作だったんですけど、2作目は日本を舞台にして黒澤明監督と組む予定でした。結局、黒澤監督は監督はできないけど、考証ならやってやると言っていて「ああ、時代劇の人は考証を普通にやるんだな」と思ったわけですね。

偶然が生んだボックスの声

小 今日の3本で共通して小山さん17がでていますね。アリーテ姫ではボックスという非常に味わい深いキャラクターですね。

片 アフレコが2日くらいしかなくて、小山は、あ、小山は呼び捨てでいいんです(会場笑)前日に桑島法子ちゃんとかと飲み会したら翌日めちゃくちゃな感じになって出てきて「声が出ない!」とか言ってて(会場笑)ちゃんと芝居はしてくれてるんだけど。

小 じゃあ、あれは意図してやったんじゃないんですか?

片 ちゃんと芝居はしようとしてくれてるんだけど、結果としてああなったというのが味わい深いというか…。

小 その後「マイマイ」と『この世界の片隅に』に。

片 2本出たら3本目も出さないと悪いかな、と。(「このせか」の)映画化が決まったときから小山どれにしようと考えていましたね(笑)

小 『この世界の片隅に』はキャスティングのコンセプトとかあったんですか?

片 準備期間が長かったから一人ずつイメージを作っていって、小山さんはこれで、音楽はコトリンゴさんで、という感じで埋めていって。新谷真弓さんはロフトでイベントで来てくれて、なんかやってもらいたくて、全部の台詞を広島弁にして吹き替えてもらいました。あとはオーディションですね。いろんなタイプの声優さんとか俳優さん、吹き替えの人が多いんですけど、役にたいするハマり具合で決めていきました。

小 音響監督を兼任しているのはどうしてでしょうか。

片 アニメは絵を作る人と音を作る人が別々なんだけど、全部一人でやってしまえば間に通訳のような人を立てる必要もないですよね。

小 最後にお客さんに一言。

片 今日は3本やりますけど、どういう順番がいいですか?と聞かれて、『アリーテ姫』、いつもは明け方くらいなんですけど、今回は『アリーテ姫』を観てない人が多いかと思いまして、目が覚めている内に観てもらいたいということでこの順番になりました。

小 舞台や時代が違うとはいえ意外と近い3本です。

片 テーマがどのように変化していったのかを観てほしいですね。

上映作品

[cf_cinema post_id=3246 format=3 text=” オールタイムマイベスト映画なんですよね、この作品。思えば、最初に観たのもここ新文芸坐の片渕須直オールナイトでした。2011年だからもう6年も前なのか…。三部作の中でも一番好きな作品。片渕監督のエッセンスが凝縮されているというか、テーマが非常にわかりやすいですよね。魔法使いボックスの扱いでもわかるように、原作でのフェミニズム色が薄められて、より普遍的な人間賛歌になっている点も気に入っているポイント。みんながみんな囚われていて、そして最後に開放そして三部作に共通している想像力と創造力の物語でもあります。困難を切り開き世界を押し広げていくアリーテの創造力と、冒頭の城下町の営みに代表される物を創り出すちから。「片隅」でもそうだけど「手」はかなり重要なモティーフですね。この映画も手ではじまり、手に終わるというのがとても印象的です。”]

[cf_cinema post_id=6565 format=3 text=” 去年、ようやくBlu-ray化されたマイマイ。もちろん、Blu-ray買って何回も観ましたけど、劇場でみんなで観るとまた違いますよね。初見だと、1000年前の空想の国衙の情景とかがよくわからないわけですが、何回も観ているうちに理解できてくるような気がします。前半の和気あいあいとしたパートも好きなんですが、物語に不穏な影が漂い始める後半がこの映画のキモというか、より奥深いものにしていると思います。バー・カルフォルニアにカチコミに行くところがある意味でクライマックスだと思うのですが、あそこなんて映画の前半と全くトーンが違いますからね。そしてその裏では貴伊子がマイマイを発動させたりしてて。正直、三部作の中では一番解釈が難しい映画だと感じているのですが、それをを忘れさせてくれるような瑞々しいビジュアルと心に残る音楽も非常に魅力的。”]

[cf_cinema post_id=6008 format=3 text=” 売れそうだなとは思ってましたけど、ここまでとは!まさか、一年近く経った今でも日本のどこかで上映してて監督が挨拶に立っているという…。マイマイと同じパターンですけど、今回はスタートダッシュというか、最初から売れてますね。すごい。自分は今回でまだ3回目(Blu-ray予約済み)なんですけど、毎回何かしら新しい発見があるという意味でも奥深い映画です。感想は長めのレビュー書いたので割愛しますけど、今回初めて新文芸坐のスクリーンにかかって、やっぱりこの劇場、スクリーンも音響もいい!ということが改めてわかりました。映画の終わりごろには周りの座席からすすり泣く声が聞こえてきたりするのもこの映画らしい感じで良かったですね。「パト2」とか「天国の扉」と同じように、アニメスタイルでの毎年の定番になりそうな映画だと思います。”]

写真など

まとめ

 大盛況のうちに完走!全回拍手が起こり、最後の『この世界の片隅に』ではすすり泣く人が多数。どの作品も良かったけど、あまりスクリーンでかかる機会の少ない『アリーテ姫』はやはり最高!『この世界の片隅に』も新文芸坐の音響で観るのは初めてなのですが予想通りの音の良さ。『アリーテ姫』初見の人が多かったのもあって、終了後に感想がTwitterに溢れていたのもファンとしては嬉しい限りでした。これを機にBlu-ray発売とサントラ再発売を願うばかりです。


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

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NOTES

  1. 広島のミニシアター。特色ある上映プログラムで人気がある。
  2. 『MEMORIES』(1995年)。森本晃司監督「彼女の想いで」、岡村天斎監督「最臭兵器」、大友克洋監督「大砲の街」の3本からなるオムニバス映画。「大砲の街」はワンカットの作品として有名だが、片渕監督はこの作品で技術設計を担当している。
  3. 株式会社スタジオよんどしぃ。1986年設立。劇場アニメ中心のアニメ制作会社。片渕監督の処女作『アリーテ姫』はこちらで制作された。
  4. 丸山正雄( 1941年6月19日-)。MAPPAの設立者で現会長。結構よく見る。
  5. 『名犬ラッシー』(1996年)。監督:片渕須直。「世界名作劇場」シリーズの第22作。「世界名作劇場」枠での唯一の打ち切り作品…。
  6. 『カードキャプターさくら』(1998-2000年)。監督:浅香守生。片渕監督は第3話と第8話の絵コンテ・演出、第15話の絵コンテを担当。
  7. 『あずきちゃん』(1995-98年)。監督:小島正幸。片渕監督は第17話他多数のエピソードで絵コンテ・演出などを担当。
  8. 東映長編の「長靴猫」シリーズ。『長靴をはいた猫』(1969年)、『ながぐつ三銃士』(1972年)、『長靴をはいた猫 80日間世界一周』(1976年)の三部作。
  9. 『少年ジャックと魔法使い』(1967年)。監督:藪下泰司。東映動画設立十周年記念作品。
  10. 『未来少年コナン』(1978年)。監督:宮﨑駿。宮﨑さんの初監督作品。今見てもめっちゃ面白い。
  11. 大塚康生(1931年7月11日-)。超ベテランアニメーターなので特に語ることはないけど、東映長編とか『ルパン三世』シリーズとか。ジープが好き。
  12. 『名探偵ホームズ』(1984-85年)。監督:御厨恭輔(宮﨑駿)。おなじみの犬のホームズのやつ。片渕監督は脚本をいくつか担当。
  13. 富沢信雄(1951年12月26日-)。テレコムのベテランアニメーター。「カリ城」の原画とかもやってる。
  14. 『NEMO/ニモ』(1989年)。監督:波多正美、ウィリアム・T・ハーツ。1978年から企画はあったものの制作中断したりといった紆余曲折を経て55億円をかけて完成したものの、記録的な興行的失敗によりテレコムの藤岡さんが退く結果ともなった曰く付きの作品。作品としての評価は高い。
  15. 『ももへの手紙』(2012年)。監督:沖浦啓之。
  16. 森本晃司(1959年12月26日-)。4℃の創設メンバーの一人でベテランアニメーター。『音響生命体ノイズマン』あたりが代表っすかねー。ちょくちょく見る人。
  17. 小山剛志(1967年10月4日-)。