さて、今回の「アニメファンなら観ておきたい200本」は出崎統監督特集!『劇場版 エースをねらえ!』以外は初見です。出崎監督特集と言えば『AIR』とか「ハム太郎」シリーズだと思いますけど(?)、今日は初期の出崎監督です。出崎演出てんこ盛り!トークゲストはデータ原口こと原口正宏さん。

 前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.83 押井守映画祭2016 第二夜ディープアニメ編」のレポートはこちらになります。

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

登壇者

原口正宏さん(いわゆる「データ原口」。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

新文芸坐・花俟さんによる前説

花 はいみなさん、ポケモンはそろそろやめてくださいね1。アニメスタイルオールナイトも100回目が見えてきました。今日は、出崎監督の作品をこのでっかいスクリーンで見てもらいます。最新の作品だけでなく、こういった作品も上映していこうというのが小黒さんと我々の思いですので、来ていただいてありがとうございます。上映作品のBlu-rayが発売中です。みなさん3枚ずつくらい買ってください(会場笑)

余裕の無さから生まれた出崎演出

小 今日は日本で一番アニメに詳しい原口さんに出崎さんについて語ってもらいます。まず、出崎さんの立ち位置というのはどういったものなんでしょうか。

原 東映長編2という1年1本の丁寧に作る作品が一方にあって、それに対して虫プロという30分のTVアニメを毎週作る対照的な会社があったわけです。出崎さんは手塚治虫さんへの憧れで虫プロに入って、1年後には演出家として活躍してます。「アニメとはなんだ」ということに対して、例えば杉井ギサブローさん3とかは東映でやってきた経験があるから、虫プロに入ってからも動かすということにこだわっていたけど、出崎さんは最初からTVアニメだったから、置かれている環境が全く違うんですね。アニメーションでありながら、丁寧な作画と演出で描くということがはなから無理な『鉄腕アトム』という作品に対して、それ以外のところで工夫をしないといけない。演出を変えてみたり、水彩画タッチにしてみたり、斬新な音響演出をしてみたり、それから撮影の部分で投射光をやってみたりと、作画以外の部分をみんなで工夫してみた世代で、その中にはりんたろう4さんとかもいるんだけど、出崎さんはその中の一人なんですね。出崎さんはその後、杉井さんとアートフレッシュ5を立ち上げたり、フリーになったりして、そして1970年に『あしたのジョー』の監督として入って、今回上映するトムス6の作品でも総合的に映像作品を作るという手法を活かしていったんですね。動かすことにこだわった人としては高畑勲とか宮﨑駿がいるけど、最初からTVアニメで育った世代として『あしたのジョー』からほぼ10年かけて彼の総合的な技法が完成していきました。

小 今の話を噛み砕くと、いわゆる東映系というのが、ちゃんと動かす、時間・空間の連続性を見せるということに対して、そういった実写映画のように作るのではない手法の代表として出崎さんがいるわけです。

原 アニメーションでは作画というものが重視されるわけですけど、出崎さんたちやマッドハウス7の人たち7はそこに100%をつぎ込むのではない、日本ならではの作品を作ったんです。『エースをねらえ!』については、73年から74年にかけて出崎さんはTVシリーズを経験していて、そこで『あしたのジョー』で培った技法を使ったのだけど、まだ発展途上だった。実際の光を使った入射光や、後の出崎さんの作品では当然のように使われている画面分割、また、ハーモニー処理もまだTV版の『エースをねらえ!』の時にはなくて、5年後の劇場版の時に、美術監督の小林七郎8さんと撮影監督の高橋宏固7さんとの出会い、これによって出崎さんのスタイルが完成。作品的には『ガンバの冒険』9の時には小林さんと出会っているけど、高橋さんはまだいなくて、その後、『家なき子』10、『宝島』11を通して技法が完成していくんですね。この『エースをねらえ!』の劇場版は出崎演出の完成形のような作品です。

小 出崎さんにとっては初めての劇場版アニメの監督なんですよね。

原 この映画が作られた当時は、「ヤマト」をきっかけに始まったアニメブームの最中で、1979年というのはそのピークの年。この年は様々な監督が映画を撮らせてもらえた好機の年でした。りんたろう監督は「999」、宮崎監督は「カリオストロ」、そして東映長編の『龍の子太郎』12。その3本に並んで『エースをねらえ!』が作られた。動かさなくても魅力的に見せるという出崎演出の総決算として、TVアニメ的な手法で見応えのあるものを作った。日本アニメの表現の豊かさを表す一本です。

端役にも愛を

小 『あしたのジョー2』の方はどうですか?

原 これも『エースをねらえ!』と同じで、最初のTVシリーズの時には原作の漫画が最後までいっていなくて、同じようなモチベーションがあった。ただ、TVシリーズと平行して総集編、しかもTV最終話より2ヶ月前に公開されるものを作らなくてはならないというものでした。TVシリーズだったらボクシング以外のジョーも豊かに描けたけれど、劇場版では原作ファンも納得する数々の名シーンを描き、さらにクライマックスも描かなければいけないという挑戦的なものだったわけです。真っ白になるラストを描かないことは考えられなかったけれども、出崎さんはそれに抵抗したかったんですね。明日も生き続けるために完全燃焼するキャラクターを描きたかったんです。ジョーは結局死に向かっていってしまうことがわかるのだけど、それに対してジョーは何か対策をたてたのかということに出ザキさんはすごく気になっていた。でもラストを変えるわけにいかなかった。それで、合間合間に試合後のことを思うジョーのシーンを入れることで、出崎さんは抵抗したかったんです。

小 「ハム太郎」の話をしていても例えば話は「あしたのジョー」ですからね。出崎さんの物の考え方の基本を作った作品です。

 他の作品と違って、「ジョー2」は原作に対して批評的になんだよね。原作がすでに終わっていて、いつかアニメにするだろうことがわかっていて、どうしようかということを出崎さんは考えている。「エース」は作りながら考えているんだけど。

原 「ジョー2」の中では白木葉子という人がヒロインとして出てきますが、彼女はジョーの死を覚悟しているところがあるんだけど、でも「ここから全てが始まるのね、ジョー」というセリフがありますね。

小 あと、強そうでいて一瞬で終わっちゃう敵とかいますけど、TVシリーズではすごく丁寧に描かれています。TVシリーズの方は戦わない話が肝です。

原 ジョーと丹下が山小屋で話すだけの話とかね。TV版はキャラクターが膨らんでるんですよ。原作では端折られちゃったやつでも、愛情が深くて、しょうもなさそうなキャラクターにも再登場の機会を与えて、愛してるんですよね。こんなやつでもがんばって生きようとしているんだということを描こうとしている。自分が背中を追っかけたい理想像、力石のような存在がいて、それは先に老いたり、ターニングポイントを迎えたりするんだけど、そういったキャラクターやジョーにはなれなかった存在に対しても愛情を注いでいるんです。

小 「ベルばら」の時にはアンドレの描き方には全く悩まず、不倫を働いておきながら罰せられないアントワネット夫婦の描き方に悩んでいたと聞きました(会場笑)

原 白と黒の間を揺れ動くキャラクター、それが人間的だったと思っていて、それをなんとかTVの中にいれようとした。動かないからこそ醸しだされているものを描こうとしたんですね。

出崎さんなのに、こいつ…動くぞ!

小 でも「コブラ」は動かすわけですね(笑)

原 「ジョー2」で目標の一つを達成して、その後の「コブラ」は原作のアドベンチャー的な要素、アクションがとても強い作品で、虫プロの絵は平面的でデザイン性が強いものだったのだけど、出崎さんが今までやってこなかった作画で見せることになった作品ですね。原作者からも動かしてくれという要請があって、アニメブームのさなかということもあって豪華な作品になるという予感はありました。当時観た時は「出崎さんなのになんでこんなに動いてるの!」と驚きました(笑)今日は良い比較になると思うんだけど、「エース」と「コブラ」は同じ監督なんだけど、ぜんぜん違う。僕が一番好きなのは「コブラ」のOPで、宇宙なのに海原が出てくるんです。「エース」のような平面的なデザイン性がある。一方で、この時期の出崎さんとしては最大限に動く。この後に作られたTV版はTVということもあったし、いろんなタイプのSFの短編を楽しむ形になっていて、この点をとっても劇場版とTV版のスタンスががかなり違うんです。オープニングからは、「宇宙だけど海原を旅していくんだ」という点を大切にすれば自分の作品にできるという思いがあったのかな、と思います。

小 当時の動かしたいアニメーターの人たちからの現場の要請もあったんでしょうね。

押井監督もマネする出崎演出

小 出崎さんといえば、キャラクターが途中で止まってイラスト調になる、「ハーモニー効果」ですけど、今ではとりあえずCM前だから止めとこうという人もいますよね。

原 表層的に模倣しやすいんだけど、( 三回パンとか)、精神まで模倣できている人がいるかというと疑問ですね。出崎さんの場合はちゃんと意味があるんです。ある動機から演出につながっていくのが真っ当なやり方だと思うんだけど、なまじわかりやすい効果だったから広く使われるようになったわけですね。

小 押井守監督ですら真似してますからね。「うる星やつら」の中でも。そういえば、「エース」は電話映画ですね。

原 「エース」は本当に良く出来てますよねー。

小 押井守監督がこれを見て、自分の「オンリー・ユー」は全く映画になっていなかった、と言ったんですよね。

原 それで技法を研究してできたのが「ビューティフル・ドリーマー」。

小 押井守監督は映画を映画たらしめるのは「ダレ場」だと出崎さんに言ったら「ダレ場じゃねえんだ!」と怒られたとか(会場笑)

原 押井さんは「カリオストロ」でも「平和だねえ」のシーンが好きだと言っていて、そういった物語と物語の合間が好きだったんですね。

小 その後の押井さんはダレ場を作り続けていますからね。ダレ場のために川井憲次さんを使うという(会場笑)



上映作品

[cf_cinema post_id=5096 format=3 text=” アニメスタイルオールナイトだけで3回目ですが、何度観ても感嘆する出来…。「私、岡ひろみ15歳(中略)雨の日はゴエモン蹴飛ばす!」、青春〜それはまぶしいひーかりー。っていうアバンからのオープニングがもう最高!それにしてもこの内容を90分弱でやるってのが異常ですよ!だって素人女子高生がラストでは日本選抜ですからね。トークの方で「電話映画だ」って言ってましたけど、確かに電話が印象的に使われてますよね。あのコードやたら長いけど。出崎演出について言うと、入射光、気づくといたるところに使われてて、でも普通に見てると全然違和感ない。画面分割もほんとうに観ていて飽きない!ストーリー的にはお蝶夫人とのタッグマッチのところで一気に物語が転換していくのが、効果的な出崎演出とともに描かれていて、個人的一番わくわくするシーンです。”]

[cf_cinema post_id=5112 format=3 text=” この映画、どころか『あしたのジョー』という作品自体が初体験でしたが、人間がしっかり描かれているからかスルーと入って行きましたね。物語は力石との対決の後、トラウマから1年間の放浪を経てジムに戻ってきたジョーのシーンから始まるわけですが、ボクサーとして復活していく再生の物語かと思いきや、その次のカーロスも同じようなことになってて、なんかジョーが疫病神か死神のようになってて、申し訳ないけどちょっと笑ってしまいました。ヒロインの白木さんがまた、「いい女」という形容詞が似合いますね。クーデレの元祖みたいなかっこかわいいお姉さん。”]

[cf_cinema post_id=5114 format=3 text=” さあ、これは楽しいSF活劇映画だゾ!と思って観たら、これもどんより暗い映画だった…。コブラ(松崎しげる)のノリはひたすら軽いんだけど。ヒロイン3人(実質2人だけど)との濡れ場もあるし、大人向けって感じですね。ネットで散々ネタにされてるクリスタルボーイも初めて見たけど、けっこう気持ち悪いですね。強いけど。出崎さんぽい演出が比較的抑えられてる感じはしました。トークのほうでも言われてますけど、普通によく動きますね。”]

写真など


まとめ

 初見だった『劇場版あしたのジョー2』も『SPACE ADVENTURE コブラ』もどちらも衝撃的な面白さでした…!特に「ジョー2」はTV版も是非観てみたいと思わせる面白さ!出崎演出、いいなあ。そして、つい先日「アニメ講義」シリーズが最終回を迎えてしまったデータ原口先生にまた会えたのも嬉しい。「アニメファンなら観てみたい200本」シリーズは原口先生担当なのかな。次回の「200本」も楽しみです!


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

NOTES

  1. この日はスマホゲーム「ポケモンGO」配信2日目。ちなみに新文芸坐の近くではカスポケモン(ポッポとか)しか出ないよ!
  2. 1958年の『白蛇伝』(藪下泰司監督)からはじまる東映動画制作によるオリジナル長編アニメーション。1987年公開の『グリム童話 金の鳥』(平田敏夫監督)で実質的に終了。個人的に好きなのは池田宏監督の『どうぶつ宝島』(1971年)!
  3. 杉井ギサブロー(すぎい・ぎざぶろー)[1940年8月20日-]。東映動画→虫プロ→アートフレッシュ→グループ・タック→フリー。色々やられてますけど、『銀河鉄道の夜』あたりが印象的ですね。
  4. りん・たろう[1941年1月22日-]。『白蛇伝』のころから業界に関わってる超ベテラン。『劇場版 銀河鉄道999』等が有名ですね。個人的には『メトロポリス』がマイベスト!
  5. 株式会社アートフレッシュ。1967年に虫プロから独立した杉井ギサブローさんが立ち上げた会社。『悟空の大冒険』(1967年)など。
  6. 株式会社トムス・エンタテインメント。元繊維会社という異色の経歴。『ルパン三世』シリーズが有名かな。去年創立50周年でしたね。
  7. 株式会社マッドハウス。『エースをねらえ!』がまさに最初の作品。けっこう老舗になってきたなあ。丁寧なクオリティの会社というイメージ。
  8. 小林七郎(こばやし・しちろう)[1932年8月30日-]。TVアニメ中心に活躍していた超ベテラン美術監督。今は引退されてるのかな?
  9. 放送は1975年。
  10. 1977-78年。
  11. 1978-79年。
  12. 1979年、浦山桐郎監督。東映まんがまつりの一本ですが75分の(当時としては)大作。キャラデザ・作監は小田部羊一さんと奥山玲子さん。