髙石あかりの一人二役が面白い

『ゴーストキラー』、いつもの阪元裕吾監督作品…かと思ったら阪元さんは今回脚本で、監督は「ベビわる」シリーズのアクション監督である園村健介監督なんですね。なので、かなり「ベビわる」味はありつつ、ちょっとズレているのも面白いポイント。

平凡な女子大生・松岡ふみか(髙石あかり)に殺し屋・工藤(三元雅芸)の霊が取り付いて…というのはいかにもありがちな設定ながら、髙石あかりが本人とおっさんを演じ分けているのが面白いポイント。普段はいつもの髙石あかりなんだけど、殺し屋にスイッチすると演技もおっさんになるのが当たり前なんだけど新鮮。そしてそのまま殺し屋アクションができるのが強い。このへんは伊沢さんとか髙石さんの強みですよね。いつものアクション監督が監督というのもやりやすかっただろうし。

で、この取り付く方の元殺し屋・工藤も実にいいキャラクター。基本的には髙石さんの身体でアクションが展開されるのだけど、心象風景と言うか興が乗ってくるとお三元雅芸でアクションしていて、このどちらも立てるぜ、という心意気がいい。工藤自身も元相棒の影原(黒羽麻璃央)との物語があり、深くは語られないが、その関係性が伝わってくるこの塩梅が実にいい。

成り行きで卑劣なレイプ魔たちを皆殺しにしてしまい、元締の半グレ集団にカチコミをかけるというのが、たった一日という物語のスピード感もいい。あと幽霊の工藤は分離して行動できて、その声はふみかにしか聞こえないという設定なのだけど、これ実際にあったらめちゃくちゃ強いですね。絶対に見えない斥候。このあたりのアイデアも面白かった。

映画『ゴーストキラー』オフィシャルサイト 2025.4.11(金) 公開

それはチェイスしないだろ!:『名探偵コナン 隻眼の残像』

毎年のお楽しみ、劇場版コナン。毎年全くハズレがないのがすごいし、一つの大きな物語の中で展開していくというのが、対抗馬?であるドラえもん、クレしんあたりとの違いか。もっとも、最近はこの二つのグループの対象年齢層はだいぶ離れてしまった感があるけれども。

で、今年は長野県警。自分は隻眼のごついおじさんと諸葛孔明のパチモンのおじさんがいるという情報しかない状態で観たんですが、ここに大和警部(ゴツいおじさん)の幼馴染である上原刑事が加わるわけですが、彼ら3人と公安の連中を巻き込んだ濃厚な刑事ドラマが展開され、これが熱い…!割と人数が出てくるので相関図は複雑ですが、みんなキャラが立ってるのであまり混乱しない感じです。個人的には諸伏警部が良すぎでした。

そしてコナンでおなじみのトンチキアクションシーン。今回はパラボラアンテナが出てくるので、「あー、これは「から紅の恋歌」のあのシーンをまたやるつもりだな…」と思って観ていたのですが、完全に予想が外れ…。いやー、あれがカーチェイスするのはさすがに予想できないでしょ。すごすぎる。そしておっちゃんがかっこよすぎる。ちなみに野辺山宇宙電波観測所が舞台として出てくるんですが、添え物かと思いきや、後半かなりガッツリ出てきて、このあたりも嬉しいポイントでした。

劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』

漫画史に残る傑作怪獣漫画



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一部で話題沸騰のサイトウマド先生による『怪獣を解剖する』(上下)を読みました。とてもシンプルな話のようでいて、かなり深いところまで潜っていく、そんな漫画でした。

怪獣がいる世界で自らも幼い頃に被災した女性解剖学者が、その因縁の怪獣の死骸を解剖する、というのが大まかなあらすじ。その怪獣はたしかに死んでいるのだが、その周囲には二次怪獣と呼ばれる副次的な怪獣が出現したり、謎の地震のようなものが頻発したりしており、主人公の昭は本当に死んでいるのか疑問を持つようになる。この死んでいるのかいないのかわからないという怪獣の謎が物語を最後まで牽引していく。

昭(フルネームは本多昭で、その他の人物もどこかで聞いたような名前である)は解剖(解体処分)現場で唯一の女性なのだが、そのことを巡って生じるセクハラや女性差別といった物事に対して真摯に向き合っていくのがこの漫画の特徴の一つだ。しかも、セクハラおじさんを単なる悪者として描くのではなく、一人の人間として描写している点が良い。この漫画に登場する人々はステロタイプなキャラクターではなく、皆バックグラウンドのある人間としてそれぞれの人生を生きている。

そして、本作で描かれる「怪獣」が様々な意味を担っている点も大きな魅力の一つだ。解剖の対象である怪獣は最初東京に上陸したので「トウキョウ」と呼ばれているのだが、この呼称一つとっても様々な意味合いが想起されるだろうし、死んでいる怪獣と謎の振動、そしてそこから生み出される二次怪獣も現実の事象と地続きであるように思える。そこには物語の中で描かれてきた地球環境の問題や都市と地方の関係、そして女性差別の問題とも無関係ではない。その意味では本作に描かれる「怪獣」は我々の現実にすでに存在しているのだ。