久々のアニメスタイルイベント
最近アニメ様(小黒祐一郎氏)の顔を見ていないなあということで久々に新文芸坐へ。「ヘンダーランド」と「嵐を呼ぶジャングル」の連続上映だったけれど、「ヘンダーランド」は何回か観ているので今回は「嵐を呼ぶジャングル」だけにした。
上映前に原監督、本郷監督、アニメ様でトークショー。原監督は最初テンションが低かったが、乗ってくるとワンマンステージ…になるかと思いきや、「自分は無関係者ですので…」と言っていた本郷監督が思いの外喋っていただいて大変楽しい。「クレしん」の初期事情については何回か聞いた話ではあるけれど、外に出せない新情報も多く、会場も沸いていた。本郷監督が当時のプロデューサーとかスタッフのモノマネを披露してくださったのだけど、個人的には当時シンエイの会長だった楠部大吉郎さんのモノマネが良かった。トークがかなり盛り上がり時間超過して上映前の予告編がカット。こういう盛り上がり方もアニメスタイルならではというか、最近でも珍しい感じだ。
さて、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』。意外にも初見。冒頭、「アクション仮面」の新作映画の予告編のアクション作画が早速めちゃくちゃ良い。あの引きは確かにしんちゃんならずとも気になってしまう。本編はこの新作映画を豪華客船で先行上映するというツアーの話なのだけど、なんとなくバブリーな時代の残り香のようなものを感じる(まあ2000年の作品なので残り香というのも微妙だけど…)。あの野原一家が10日間ものツアーに行けるほどの金があるのだろうか?とやや疑問だが、まあそれはそれとしていろいろあって謎の南の島で冒険を繰り広げることになる。島のメインの住人は猿なのだけど、この猿のデザインが秀逸!本当に良いデザインで驚いてしまった。中盤からは見せ場の連続なのだけど、やはりケツで移動する大群衆のシーンは白眉。革命映画は数あれど、ここまで異常なものはなかなかないだろう。クライマックスは敵の親玉・パラダイスキングとアクション仮面の決戦。アクション作画のキレの良さもさることながら、ヒーローものとしてのテーマが全面に押し出されていて素晴らしい。革命→民主主義的代表戦という流れも面白い。明らかに湯浅監督が担当したカットがあって、作家性が強く出ていて良かった。
【新文芸坐×アニメスタイル vol.185】嵐を呼ぶ初笑い …
良作画アニメ
年始から『鉄腕バーディーDECODE』を観ていました。りょーちもさんが総作監とキャラデザやってたやつです。話も抜群に面白く、特にアクション作画の力の入れようがすごい。特に良かったのはやはり第1話の廃墟でのアクションシーンですね。あとは最終回一個手前の12話も良かった。基本的につとむ君と中杉さんのボーイミーツガール的な物語が展開されるわけですが、そういった淡い恋愛話とは裏腹に後半は大変なことになっていき、さらには特に救済もされないというのがキツい。「現実ってそういうもんだろ?」って言われたらそうだね、という感じではあるのですが。このあたりは2期へのつなぎになっているのも上手い。
古本屋ものにハズレなし。
児島青『本なら売るほど』第1巻を読む。あらすじと装丁から「まあよくある古本屋を舞台にしたほっこり系のやつだろう」と思って足を踏み入れたら、これがまたとんでもなく深い沼だった。たしかに「ほっこり系」ではある。あるのだけれど、そこにとどまらない射程が魅力的。例えば、書庫を作るために週末集う二人の青年の話がある。一人は本を全く読まないレンタルビデオ店のバイトで、まあそうなるともう一人は愛書家だと相場は決まっているのだけど、ここで「本読みあるある」ネタが炸裂して全く別の様相が飛び込んでくる。このどんでん返しが面白い。あるいは老店主が営む古書店と美大生のエピソードがある。常連となった美大生は100円コーナーから度々本を買っていくのだけれど、その真意がわかる結末がかなり胸に来る。どのエピソードも人間の複雑さに寄り添うような意外性と、通り一遍ではない物語が展開され、惹き込まれてしまった。オールタイムベスト級にオススメしたい。
主人公エテロの湛える底しれぬ雰囲気
ジョージア映画の『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』。特に面白おかしい映画ではないのだけれど、主人公である48歳天涯孤独の女性・エテロ(エカ・チャブレイシュビリ)が実に魅力的。寡黙というよりは気難しいおばさんという感じなのだけど、そんな彼女が愛(のようなもの)に触れて次第に変わっていくのが良い。常にしかめっ面なのだけど、気を抜くと笑顔になってしまう場面などはとても印象的。根底にある自身のポリシーが「人に煩わされず一人で気ままに生きたい」というのが、自分の思っていることともかなりリンクしていて「ですよね~」となりました。冒頭から自らの死体の幻視をしたり、常に画面中に死の臭いが漂っているのだけど、それだけに最後に「生」への転換する場面は面白かった。彼女の思いは窺いしれないのだけど、密やかに感情を弾けさせる最後のカットは、それまで印象的に使われていた鳥のさえずりや川の流れといった環境音が強められていてとても良かった。
『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』2025年1月3日(金)より
結局人間が怖いね、というホラー映画
韓国のホラー映画『ヌルボンガーデン』を鑑賞。実在の「韓国三大ホラースポット」の一つをタイトルに戴いている映画だけど、ホラースポットを追体験するというよりは、Beginningという感じのテイスト。ジャンプスケア多めだけど、韓国ホラーっぽいじっとりとした怖さ。中盤まではいわゆる「家ホラー」的な文脈で進んでいくのだけど、次第にそこから逸脱し始める。結局のところ、「何が呪いの源泉なのか」というのが問題になるわけだけど、かなり意外なところが問題になるのが面白かったし、いかにも2020年代後半の文脈であるのが良かった。いかにもな不良少年少女たちが怪しいなあと思っていると本当にクズなのは主人公の夫であるあたりが実に面白いし、嫌すぎる話だ。
映像的に面白い絵面が多かったんだけど、特に良かったのは傘で串刺しになるシーンと虫に全身が覆われる悪夢のシーン。
長塚京三の存在感だけで100点
筒井康隆原作、吉田大八監督の映画『敵』。原作もすごい小説なんですが、映画も負けず劣らず。余命を待つばかりのインテリ独居老人の生活を丹念に描いていくわけですが、筒井康隆らしいある種実験小説的な物語を、モノクロームで映し出すことで原作のテイストを再現しているのが上手い。そして佇む主人公渡辺元教授を演ずる長塚京三がとんでもない存在感で魅せる。くたびれた老人役で実際にそうなのだけど、どこからか迸る色気が凄まじい。これがモノクロじゃなかったらこの色気も半減していたのではなかろうか。観ていて連想したのは渡辺紘文監督の大傑作『七日』。まああそこで淡々としすぎているわけではないけど、かなり近い空気を感じましたね。ほぼ原作を踏襲しつつ、個々のエピソードをちょっとアレンジしているのが良かった。クラブ「夜間飛行」と女子大生のくだりとか、ちょっと辛辣だけどあれくらいがいいよね、という気もするし、「敵」のくだりも映画らしいちょっとしたスペクタクルになっている。Mac使っているアレンジも映えるなあ。原作同様に料理を丁寧に作るカットがかなり見応えがあるのだけど、モノクロなので全く美味しそうに見えないというのも面白かった。これは吉田大八監督の代表作になるのではないかなあ。
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