TAAF2024へ行く

東京アニメアワードフェスティバル2024

例年通り「東京アニメアワードフェスティバル」へ。今年はすでにTIFFで観た『トニーとシェリー、そして魔法の光』と来月劇場公開が決まっている『リンダはチキンが食べたい』を除く長編コンペティション作品2本、短編コンペティション3プログラムを鑑賞しました。やっぱりね、ホールミクサで7プログラムは無理ですよ。

『ストーム』(長編コンペ)

中国から出品。ビジュアルはエンタメで東映長編を思い出す感じなのだけど、内容は近年の宮崎駿的なテイストで、要するにめちゃくちゃわかりづらい。そういえば背景美術の雰囲気も男鹿さんぽさがある。とはいえメインのストーリーは父と子のストーリーでそこまでわかりづらくはないし、終盤の展開はかなり泣かせてくる。アクションの滑らかさもいいし、特に終盤の船内をワンカットで描くシーンは絶品。

『シロッコと風の王国』(長編コンペ)

これはかなり気に入った作品。影なしで色彩豊かなルックが最高。フランスらしいわ。内容は更に素晴らしい。観ていて連想したのはなかむらたかし監督、というかなかむら監督作の『バニパルウィット 突然!猫の国』(1998)。異世界で猫という点がまんまそれだし、雰囲気もかなり近い(気がする)。本の中に入ってしまい大冒険というのはよくある話だけれど、死んだ妹がそこで確かに生きている、というアイデアには驚いたし、独特の生々しさがある。優秀賞も取ったしこれは日本でも公開してほしいなあ。タイトルにもあるシロッコはまあいいキャラではあるんだけど引きこもりで影が薄い。

短編コンペティションスロット1

藝大の池田夏乃さんによる「はなくそうるめいと」は鼻くそのネチョっという音が生々しい。出てくる鼻くそがギャルというアイデアも面白すぎる。

MoPAの学生たちによる「雌牛」は最後の牛肉をめぐるドタバタ劇。ありがちだけど、こういうのが入ってると楽しくて良い。

アンドレア・ジロ/ロベルト・ジンコーネ「ベネチア、未来最古の都市」は3Dに水彩を乗せたようなルックがかなり面白い。過去と未来を行き来して未来を変えようというSDGs的なストーリーは人を選ぶかもしれないが自分はかなり好き。キャラクターの芝居も実に楽しい。

武蔵美の倉澤紘己さんの「えんそくだったひ」もルックがかなり好きな作品。遠い日の思い出のようなぼんやりとした画面になっているのがいい。

短編のグランプリを獲ったジョアン・ゴンザレス「氷商人」。観たときに、自分もこれがグランプリかなーと思うくらい良かった。削ぎ落とされたルックとセリフのないストーリー、反復される日々と突然の崩壊、そして再生。たった15分の中で素晴らしい人生の物語が繰り広げられる。帽子がキーになるのだけど、最後に出てくる山になった帽子だけで過去に何があったのか、そしてこのあとどうなったのかを表現するのが上手すぎてため息が出る。毎日帽子買ってるのがギャグっぽいのだけど、それが伏線になってるのね。かなり最高。

短編コンペティションスロット2

ダニエル・ギース「ハイリー・ヒルへ帰ろう」。ペーパークラフト調のルックが面白い。動物たちが変化した家族が野生へと帰っていくというシンプルなストーリーも好み。人間の領域と動物たちの領域とで表現が2Dと3Dとに分かれているのがいいなあ。

ナタ・メトルク「レギュラー」。フォトショネタかと思って観てたんだけど、これってフォントネタだったのね。テンポが良くて観ていて超楽しい。

パク・セホン「人形たちの物語」はメタもので、ストップモーションに使われる人形たちの楽屋落ちネタ。好きなタイプだわ。人形たちの掛け合いが軽妙で楽しい。えびせんで飲み会するシーンもいい。

短編コンペティションスロット3

イアン・ガードナー「ヴォイテクという名の熊」。まあ30分以内だから短編なんだろうけども、それにしては長く感じる。素描風のビジュアルはこういうドキュメンタリーアニメーションに合うなあ。どうも変な話だなあと思っていたらこれ実話なのね。序盤は熊かわいいと思って観ていたのだけど、中盤からはかなりデカくなるのでめちゃくちゃ不安になる。実話にしてはオチがきれいなので安心して観られる。

ホセイン・モラエミ/シリン・ソハニ「イトスギの影の中で」。PTSDを患う年老いた元船長が娘と暮らす。ある日クジラが彼らのもとに漂着する。これも表現が面白い。特に崩れていく場面が二人でそれぞれ違うのが面白い。様々な暗喩が散りばめられているようにも読めるのは考えすぎかな。

ソフィー・コルファー/アラ・ヌヌ「テレシュ」。ソリッドなビジュアルがかなり好み。抽象的な物語はいろいろな解釈が可能なようにも思える。

『ラッセンとは何だったのか? [増補改訂版]』:ラッセンを通じて美術史を読み解く

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まさにタイトル通りの本。名前も知ってるしどういう絵かも知ってるし美術界からは蛇蝎のごとく嫌われているのは知っているのだけど、なんでそこまで嫌われているのかは知らない…という「知っているけど謎の画家・ラッセン」がじわりじわりと解体されていく。初版の発行は2013年。10年を経て新たに3名の論者を迎え、総計17名による読み応えのある論考集だ。

作品のディスクリプションから始まる古典的美術史もあれば、受容史を語るもの、美術館の制度から語るもの、はたまたケニー=Gとの比較を展開するものまでその視点の多様さがまず面白い。個人的には古典的美術史の方法論で読み解くものがより多くても良かったのではないかとは思うものの、やはり「現象としてのラッセン」の分析は魅力的だ。いずれにせよ、ラッセンという現象が過去のもの、歴史の一部になりつつあるからこそ語れるようになったのではないかという気はする。

最初に置かれた編者でもある原田裕規さんの「クリスチャン・ラッセンの画業と作品」はラッセン初心者に向けた導入としても満点だし、何より嘲笑の対象だったクリスチャン・ラッセンを一人の画家として評価しようとする姿勢が素晴らしい。

新たに加えられた論考の中では木村絵理子先生の「イルカのイコノロジー的分析は可能か」が面白い。タイトル通りラッセン作品におけるイコノロジー的分析を皮切りに、日本の公営美術館において「ラッセンとイルカの文化史展」なるものが開催可能であるか検討するというもの。本稿に限らず、本書の論考は「ラッセン」という美術史のアウトサイダーをてこにして現在の美術史や美術制度のもつ限界や問題点をあぶり出そうとするものが多くて面白い。

個人的に一番おもしろかったのは大山エンリコイサムさんの「日本とラッセンードメスティックな制度批判のためのエピソード」。2056年に書かれた論考という設定で、SF畑の自分にとっては架空論文的な面白さがあった。なんと2056年の日本ではラッセンが再評価されており、清澄白河の某美術館(あそこしか思いつかないが)で行われる予定のラッセン展のカタログに掲載予定の論考という体裁。現代からするとラッセン再評価はギャグにしか思えないと思うのだけど、個人的にはこれは大いにありうる展開だと思っていて、実際に美術史上でも印象派や17世紀前半のオランダ絵画などいたるところに見れれる現象なのですよね。そういった意味ではネタ的な論考として書かれたのかもしれないけれど、50年後に読み返したら慧眼とされるのではないか。

『老人Z』を35mmフィルムで観る

https://animestyle.jp/2024/02/28/26453/

「新文芸坐×アニメスタイル vol.172」で『老人Z』を20年ぶりくらいに観る。35mmフィルム。前回も新文芸坐で観たような気がする。フィルムの状態がとても良くて驚いた。1991年だから33年前か…。

昔観たときは後半の怒涛のアクション(特にモノレールのあたりとか)が強く印象に残っていたのですが、改めて今観ると前半のドラマ主体の部分の芝居もとても見ごたえがありますね。記者会見の場面での寺田さんの流れるような芝居とか実に楽しい。あと「西の家族」の飲み会のシーンの面白さ!

そういえば記者会見の場面で「動力は何を使ってるんです?」の記者の受け答え(それじゃあ安心ですね!)はサクラじゃないんですか?と小黒さんが質問してたんですが、たしかにそう言われるとめっちゃサクラっぽいですよね。

この記者会見の場面のインターネットの描写もそうだけど、全体的に未来予測の精度がすごいんですよね。「回線経由でチャットができます」のあたりとか当時は「ふーん」って感じだったけど、今みんな普通にやってるんですよね。老人介護問題は言うに及ばず。

上映後のトークゲストは北久保監督。北久保監督を拝見するのは初めてでしたが、なんか作品から感じる印象まんまの人という感じでした。当初はOVAだったので大友さんの脚本では書かれてない部分がコンテで大幅に足されているとか、今監督が本作で初めて原画を描いたけど初めてなのにサッと描けて天才すぎるとかなかなかレアな話をたくさん聞けて満足至極でありました。これも定期的に劇場で観たい作品ですねえ。