作画もいいけど話もすごい。『王様ランキング』&『王様ランキング 勇気の宝箱』

作画がすごいという噂は聞いていたのですが、なんとなく観ずにいた作品。『アニメスタイル017』の特集がこの作品だったのでちょうどいいということで観てみたんですが、いやー、たしかにすごい。リアルタイムで観てなかったのを悔やむクオリティの高さ…!

やっぱり絵柄で若干舐めてたところがあるんですよね。ほのぼのとした話なんだろうな、という先入観。これは本当に良くないですね。開けてみたら、このまったりとした絵柄からは想像もできないハードすぎる話が繰り広げられ、あっという間に2クールを観終わり、つい先日までやっていた「勇気の宝箱」まで一気に観てしまう始末。

観ていて思ったのは、この柔らかい絵柄と中身のギャップと同じように、初見のキャラの印象が物語が進むにつれてどんどん変わっていくということ。最初から最後まで印象が変わらなかったのは主人公のボッジと城の兵士ホクロくらいでしたね。特に印象的だったのが王妃ヒリング。どうみてもおとぎ話に出てくる意地悪な継母なのに、本当にイメージが180度変わる。物語を通じて最も好きなキャラクターの一人になりました。あるいはボッジの理解者然としていたソードマスター・ドーマス。まさかあんな行動に出るとは…。その後の彼のけじめの付け方であるとか、ボッジと再会した時の感情表現も素晴らしく、人間が人間らしく描かれていることに素朴な感動を覚えるのです。

で、アニメスタイルで特集されるくらいなので作画もすごい。原作の平面的な絵に奥行き感が与えられているのもいいし、背景美術の美しさ、そして芝居のきめ細やかさ。特にキャラクターの表情がとてもいい。第2話のラストの涙を流すボッジのような豊かな感情表現もあれば、王妃ヒリングの目元の表現のようにさりげなく、そしていて情感あふれる芝居があり、実に見応えがあります。アクション面ではやはり第21話のボッジとボッスの対決が白眉。かなりトリッキーなパースと縦横無尽ん動き回るボッジの躍動感が素晴らしい。

劇場版の内容も気になりますが、早く第3期(原作で言うところの第2部)を観たいなあと思うのでした。まあ「勇気の宝箱」の第10話を観るとやる気バリバリであることが伝わってくるので安心はしているのですが。

「法律はただの文字」:『人を動かすルールをつくる――行動法学の冒険』

「行動法学」という聞きなれない概念についての本ですが、要するに「紙に書かれた単なる文字列である法律」をどうやって実効性のあるものにしていくか、という学問です。すぐに思いつくのは警察力だと思うんですが、この本では行動経済学などでも応用されている認知科学によって法律を実態のあるものにしていくことを提唱しています。例えば、厳罰化すれば犯罪行為は減るというのは感覚的には正しいように思えるのですが、実は統計的にはあまり意味がないとか。具体的に犯罪を減らす施策は、厳罰化よりも法の執行の確実性であるという事実が統計データによって示され、このあたりはかなり目から鱗でした。他にも重要な要素としては手続の公正性であるとか法の認知度であるとか社会規範のコントロールであるということが挙げられており、平易な文章であることもあってかなり理解しやすい本という印象。行動経済学の本でよく挙げられている実験(イスラエルの保育園のあれとか)が総浚いという感じで出てくるのでそのあたりに興味がある人にもとてもおすすめです。「法学は科学を取り入れろ」には狂おしいほど同意。

やはり浦沢直樹は天才…!漫画『PLUTO』

今更ですが最初の方しか読んでいなかったので、10月のアニメ配信前にまとめて読みました。

いやー、面白い。面白いし8巻で終わるのがいい。原作の方はおぼろげながら覚えている程度なのですが、やはり思ったのは浦沢画風になって悲壮感が増したということ。まあ原作は原作でポップな絵柄のロボットたちがめちゃくちゃにされてて、あれはあれでいいんですが、『PLUTO』の方は具体的な描写はあまりなくて、そのあたりの演出が上手いんですよね。周囲の人々の悲しみ方で喪失感が伝わってくるような。あと、浦沢ナイズされたキャラクターたちの絶妙さ。特徴を捉えるのが上手いのは流石ですね。むしろお茶の水博士が一番わかりづらかったりする。

もう一つ思ったのは、同時代性が強く反映されているということ。ペルシア王国が主要の舞台の一つになっているわけですが、このあたりは後世の人間が触れた際には注釈が必要だと思いますね。今ですら、「ああそういうこともあったよね」という感覚ですし。ただ、こういった同時代の歴史的事象を近未来のフィクションの中に落とし込んでいくという手法は個人的にはかなり好み。

一方で、大きなテーマの一つとして設定されている「罪と赦し」は高い普遍性を持っていて、このあたりのある種のいびつさとでもいうべき構成も面白いポイントだと思います。しかもそれをロボットである「アトム」を下敷きにしてやるというのがいいですね。「ロボットは心を持ちうるのか?」というこれまたSFでは定番のテーマとの親和性も高く、原作をリスペクトした、それまでの重厚な物語からするとやや唐突ともとれる叙情性豊かな物語の断ち切り方も美しい。

工芸茶&台湾茶デビュー

前々から手を出したいと思っていた工芸茶を購入。お湯でお花が開く感じのやつね。調べても売ってるお店があまりないんですよね。

今回はリアル店舗がある表参道の遊茶さんで買ってきました。店舗かなり小さめだけどかなりフレンドリーに相談に乗ってくれるので初心者にはありがたい。主目的は工芸茶ですが、ちょうどお茶類が切れていたので嶺頭単欉と茶缶を購入。工芸茶はとりあえず一種類、龍鳳吉祥を買いました。

工芸茶(中国茶)といえばガラスポットだと思うんですけど、これも持っていなかったのでこちらで買いました。店の奥の半地下のスペースに小さいながらもギャラリー的な空間があり、茶器を買うことが出来ます。手頃な値段のいい感じのポットを買ったのですが、帰ってきてよくみてみたらKINTOだったので嬉しい。

早速、工芸茶を入れてみました。開く様子はこんな感じ。ポットの中に落とすと転がって行ってしまうので上手く上に咲くか心配だったんですが、うまい具合に浮き沈みしていい感じに開きました。ちょっと異界の植物っぽさがあります。これは楽しい。

中国茶、お湯が減ったら継ぎ足して3回くらい飲めるのもずぼらな人間的には魅力なんですが、昼間入れたお茶を夜までゆっくり飲み、夜にお湯を足して飲み、寝る前に水を入れて冷蔵庫に入れて朝起きたら飲む、というのがいい感じのサイクルになりそう。

YouCha Omotesando 遊茶|東京表参道の中国茶専門店

不在の気配:「野又 穫 Continuum 想像の語彙」展

東京オペラシティアートギャラリーにて。絵は見たことあったけど、展覧会は初めてでした。

ピラネージとかタトリンとかのいわゆる「空想建築」の系譜なのでかなり好きですね。無人の建築というのもいいですが、自然との関係性が独特で魅力的。巨大建築の中に生態系が内包されているバイオスフィア的なアーキテクチャ。あるいは後期の作品に見られる岩山などの自然の構造物にハシゴが掛けられたり、階段が削り取られたりしているという人工物との融合。

そして確かに画面上は無人なのですが、建築物に開けられた戸口や窓といった暗闇からほのかに漂ってくる人の気配。かつてこの建築物で何があったのか。物語性を感じられる不在。このあたりは廃墟ものやポストアポカリプスの魅力にも通ずるところがあると思います。

展覧会の構成としては編年的な組み立てになっていて、前期と後期での微妙な、しかしはっきりとした変化を楽しめるのも良かったです。かなり満足度が高い展覧会でした。

野又 穫 Continuum 想像の語彙 | 東京オペラシティ アートギャラリー

アニメ様の体調が心配:『アニメスタイル017』

久々のアニメスタイル本誌。今回の表紙&特集はまさかの『王様ランキング』。作画もいいし話もいいと聞いていたのだけど、アニメスタイルにくるのは正直予想外でした。他の特集は『モブサイコ100Ⅲ』、『Do It Yourself!!ーどぅー・いっと・ゆあせるふ!!ー』、『サイバーパンク:エッジランナーズ』、『ヤマノススメ Next Summit』と、いわゆる2022年秋の「作画アニメ大集合」クールの作品群ですね。『ぼっち・ざ・ろっく!』が入っていなかったのはやや予想外。

やはり巻頭特集の『王様ランキング』が良かったです。監督、キャラクターデザイン/総作監、プロデューサーのインタビューを通してこの作品の魅力を丁寧に掘り起こしていく、アニメ様の聞き手としての手腕が光ります。掲載されたコンテ、原画のチョイスもさすがといったところ。特にボッジの表情の繊細さが伝わってくる原画が良かったです。

ついに完結した『モブサイコ100Ⅲ』の特集は、脂が乗りに乗った亀田祥倫さんのインタビューが良かったですね。バリバリのつよつよ原画マンである亀田さんの今後の行く末が楽しみになるインタビューでした。

ところで編集後記で「今までのかたちの雑誌「アニメスタイル」は今回で最後になるかもしれません」という不穏な文言があるのですが…。この密度はこの雑誌でしか摂取できないし、なくなったらとても寂しいなあ…。

『これで死ぬ』は憂鬱になるけど読んだほうがいい。

タイトル&表紙買い。表紙のイラストのゆるさから「死に方図鑑」的なゆるい読み物かと思って買ったんですが…。バリバリの事例集で毎ターン人が死んでいく…!「クマに襲われて死ぬ」くらいならね、まだいいんですよ(よくはないが)。飛行機事故と同じように非日常的な感があるし。もちろんそういう「これはしかたないな…」、というような事例もあるんですが、この本に載っている事例の多くは「いやそれ避けようがなくね?」というもの。例えば帯、というか表紙のイラストでも衝撃的な「ころんで死ぬ」。これ本当に山で転んで死ぬ事例なんですよね。山という非日常的な空間ではあるもののただ歩くという日常的動作が死につながっている…!この事実がただただ辛い。ほかにもきのこ狩りに行ったら火山ガスで死ぬ事例とかパウダースノーの雪原で転んで抜け出せなくなって窒息死するとか、楽しいレジャーや日常生活が一転して悲劇に変わってしまう、しかも全て現実に起こった出来事である、という点で実に気が滅入る本でした。

各項には「どうしたらこうした悲劇を避けられるか?」のピンポイントアドバイスが添えられているので、かなり嫌な気分にはなるのですがこれからアウトドアに行こうという人は読んでおいて損はないと思います。少なくとも気が引き締まるという効果はあると思います。

ル・ショコラ・アラン・デュカスのアフタヌーンティー

人気チョコレートブランドであるアラン・デュカスのアフタヌーンティーに行ってきました。

まあ事前に分かってはいたんですが、本当に(本当に!)チョコレートしかなくて笑ってしまいました。

一覧はこんな感じ。

フィナンシェ・ショコラ・ノワゼットとサブレ・ショコラ・ココとパン・ルーレ・ショコラ・ピスターシュだけはお持ち帰り可能。絶対食べきれないので先に他のものを食べるのを推奨します。お持ち帰りのショッパーもかわいいです。

どれも美味しい…!どれも美味しいんですが…!やはりチョコしかないのでややきつい感があります。チョコレートって脂多いですし、胃が重くなる。いや、どれも美味しいんですけども…。なるべくお腹を空かせて行った方がいいですね。満足度はかなり高いです。

飲み物はいくつかから選べるんですが、ホットのお茶類が絶対におすすめ。ポットで出てくるし、一回だけ差し湯もしてもらえて無限に飲めます。紅茶はkusumi teaですがオリジナルブレンドの「ル・テ・ブラン・アラン・デュカス」がかなり良かったです。

アラン・デュカスの東京工房、人形町のメインストリートから離れたやや変なところにあって、中はサロンというよりはカフェといった方が近いかな?工房の作業の様子が見えるのが面白いです。工房の蛍光灯がサロンの周りを取り囲んでいるので、薄暗い場所が好みの自分はやや落ち着かなかった…。

チョコレート好きの方にはかなりオススメです。雰囲気的には六本木のサロンの方が多分いいかなと思います。