安定の演出の巧さ!『特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』

2期と3期の繋ぎのような中編だけど、これが実にいい。シリーズに共通しているけど、やはり演出が素晴らしすぎる。この映画は吹奏楽部の部長になった久美子が部長として成長していく過程を描いたもの。とはいえ最初から上手くいくはずもなく、その辺りの苦悩する(とまではいかないけど)久美子の姿が描かれるわけです。部をどうやってまとめあげるかを例の校舎の影(いつものあそこです)で一人考える久美子。そしてそこに現れるみぞれ先輩。先輩は内側から窓を開けようとするが上手くいかず、久美子が外側から手をかけると最も簡単に開いていく。「開けるのが上手だね」と先輩は言う。いやあ、まさにこういうキャラですよね、久美子って。これで彼女に何か明確な変化が生じるという描写がないのも上手い。あくまでも隠喩のうちに留まっていて、近年の説明しすぎ演出に辟易としている身として沁みる…。後半の久美子とつばめが渡り廊下でマリンバを運んでいるシーンもすごくて、普通こんなところ描かないよなという場面を実にじっくりと描いているのですね。ここがまた演出と作画が上手くて唸ってしまいました。

久美子と麗奈の関係性を描いた部分もめちゃくちゃ良くて、みんな言ってるけどやはり水道のシーンが最高。ツンデレという言葉で表現したくないけど、初期のいささかとっつきにくかった麗奈がじわりじわりと変化していく様がここでも描かれていて。後ろで手を組むような可愛らしい仕草、今までなかったよね…。内面の変化がきちんと、そしてさりげなく芝居に表現されているのが素晴らしい。さらにそういった久美子の反応と二人の関係性に微妙な変化をもたらしていて、このシリーズらしい細やかさをまた見られるというのが嬉しいですね。

エンドロール後には3期の特報映像もあり、来年が楽しみになる出来でした。「そして、次の曲が始まるのです。」

『特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』公式サイト

「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」展@渋谷区立松濤美術館

今年はぐるっとパスを買ったので企画展が無料で観られる渋谷区立松濤美術館へ。2500円のうち、ここだけでもう1,000円だからぐるっとパス安すぎる。「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」展。三連休初日でスクランブル交差点は明らかに人が少なかったのですが、松濤美術館はほぼいつも通りの混みかたでした。まあつまり空いているということです。

村上隆の《Ko²ちゃん(Project Ko²)》がアイコニックですが、展覧会としては古代から現代に至るまでの通史を概観できる良企画でした。人形って公共空間に置かれている「彫像」と違ってよりプライベートな空間における「人の形をしたもの」だと思うんですけど、それがどのようにして美術品として認識されていったのかが気になるポイントですが、その理由を多少なりとも推察できるようになったのが良かったです。より小規模なコミュニティにおける共有の資産であったり、見世物小屋であったり、民藝的な流れであったり…。あと気になったのは生人形的なリアル路線とオタクフィギュアの路線って多分違うんですよね。なので玉眼的な手法をオタクフィギュアに適用したら新しいものができるんじゃないかな、と…。まあこの分野不勉強なのでたぶんもうあるとは思うんですけども。

私たちは何者?ボーダレス・ドールズ | 渋谷区立松濤美術館

スコルジーらしさに溢れた佳作。『怪獣保護協会』

マイベストSF作家の一人、ジョン・スコルジー久々の新刊。タイトルからわかる通り怪獣ものなんだけど、そこに流行りのマルチバースが組み合わされているのが2020年代っぽい。

というか全体的に2020年代のコロナ禍の時代を下敷きにしていて、主人公はフードデリバリーの総合職をクビになって配達員をやっているジェイミー。ふとしたことで大学の同期と再会したジェイミーは「大型動物」を保護する組織に勧誘されるが…というのが物語の書き出し。で、この「大型動物」というのが怪獣なんだけど、それが生息しているのが平行宇宙にあるもう一つの地球「怪獣惑星」。このあたりの設定がかなり面白くて、全く違う進化を辿った怪獣惑星の生物は放射能で元気になるとか怪獣たちが2乗3乗の法則に則って潰れないのは原子力で動いているから、なんていうトンデモな説がバンバン出てきて実に楽しい。さらにはこれらの怪獣が次元の狭間をうっかり通ってしまって出てきてしまったのが『ゴジラ』の元ネタになった…なんて話も飛び出してくる。

そういえば、怪獣惑星がメインの舞台になるので、いわゆる怪獣映画的なスペクタクルはほとんどないんですよね。その代わりにスコルジーお得意の軽妙な会話劇がこれでもかというくらいに繰り広げられて、ファンにはたまらない感じになっております。まあちょっとくどくないかな…みたいに感じてしまったところがなきにしもあらずなのですが。スコルジー自身が言うように、ポップソングのような軽快な冒険譚です(まあ人が死んだりはするのですが)。

ところで、この作品、ある種の異世界ものとしても見れるのですが、怪獣惑星というあまりにもフィクショナルな場所との往還ものでもあり、メタフィクションものとしてマイベストSFの3本に入る『レッドスーツ』の遺伝子を感じてしまい、個人的にはそこが素晴らしく良かったです。ジェイミーの部屋に残されていた前任者の手紙の「現実に帰ります」のくだりとか、うわーこれだこれ!となってしまいました。物語としては軽くてやや物足りない面もあるのですが、スコルジーらしさにあふれる作品ですね。

ますだやのすき焼きを食べる。

会社の焼肉部、今週は飯田橋の名店「ますだや」さんへ。焼くというより煮るという感じですがまあ肉には違いないので良かろうということですね。今回はとりあえず一番いい4,400円のすき焼きにしてみました。肉野菜肉肉野菜肉という感じです。いわゆるフルマネージドなスタイル。

肉の質が…良すぎる…!これで5,000円切るのはすごい。量も普通に多いし。まあすき焼きだけなので酒やらご飯やら〆の雑炊やら頼むと…それでも5,300円でした。安い!なんで今まで知らなかったのか…。いいお店を見つけました。

ちなみに2,200円、3,300円、4,400円の3種類というわかりやすさ。次回は2,200円をオーダーして違いをみてみます。

ますだや | 食べログ

『Thronefall』はじめました

早期アクセスが始まった『Thronefall』を始めました。管理するリソースはお金だけというシンプル国作り&タワーディフェンス。ティアキンも終わってないのにやってる時間はないはずなんですが、おかげでSlay the spireを辞めることができました(1年ぶり3回目)。

このゲーム、国作りパートは自由度が低くて、建物を建てる場所は全て決まってるんですよね。ところがこの制約が逆に面白い!建物を建てる順番によってある程度運命が決まっていくパズル的なゲームになっていて、最初のステージからばんばん全滅させられるバランスが絶妙。ゲームオーバーしたら次は違う順番で建ててみよう…ということができるわけです。シンプルなんですが、王様の持てる能力やステージごとに持ち込める固有の特典が戦略を深化させていて奥深い…!1ターンが短いのもあり、シヴィ的な「あと1ターン…!」に時間を吸い取られていきます。

早期アクセスでこのボリューム、そして定価800円というお手軽さ。この手のゲームが好きなら絶対おすすめです。

Steam: Thronefall

『ミンナのウタ』は普通にめっちゃ面白い。

評判めっちゃ悪かったから身構えてたけど、いや面白いじゃないですか。雑なのはわかりますよ。でも最近の清水監督の味ってそういう雑さだと思ってるんですよね。今更『呪怨』を作り直しても仕方ないですし。

今回はアイドル×ホラーがテーマっぽくてGENERATIONSが実名で登場。彼らの活躍もかなり見どころなのですが、アイドル映画にもかかわらず主役を食ってしまっているのが主人公の探偵を演じるマキタスポーツさん。絶対こいつ死なないよな、という安心感。個人的にこの手の怪異に対して霊能力者とかではなく現実的な解決方法を模索する物語が大好きなんですが(たとえば寺にいくのではなく市役所で謄本調べ始める『残穢』とか)、これもその系統ですね。まあ最初の時点では怪異が絡んでいることはわかっていないので探偵に依頼するという流れは至極自然ではあるのですが。

肝心の怪異は呪いのテープを再生すると周囲の人間を連鎖的に巻き込んでいくかなり迷惑なタイプ。グロい描写はほとんどないのですが、とにかく回避方法がほとんどなく、わりとどんなところでも自分の領域に変えていくのが厄介。この怪異の正体を探っていき解決方法を探っていく展開なのですが、わりとありがちな「可哀想な子供」像を覆す事実の開示にかなり驚かされたし、それでもなお彼女に寄り添おうとするマネージャー(早見あかり)の姿が尊い…。この手のホラーには珍しくかなり後味の良い終わり方になっています。まあエンドロール後に不穏な描写はあるのですが…。

ホラー描写は中盤の「エンドレスお母さん」がかなり怖かったのですが、後半の回想シーンが超常現象的な場面ではないにもかかわらず異常に恐ろしく…。年頃の子供を持っている人は見ない方がいいかもしれないトラウマシーンですのでご注意下さい。

映画『ミンナのウタ』 (この公式サイトもめちゃくちゃ面白い)