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映画『パディントン2』は可愛いだけじゃない。【ネタバレなしレビュー&考察】

投稿日:2018年1月21日 更新日:



レビュー&考察

パディントンがくさそうなので良い。

 なんといってもパディントン(声:ベン・ウィショー)の質感が良い。前作に引き続き、匂い立つようなケダモノ感ある毛玉が画面狭しと跳ね回る。くさそう。冒頭、歯ブラシ2本挿しでアヘ顔キメているのが最高に可愛い!1 クマのアヘ顔が観られるのもこの映画ならではだろう。この毛玉野郎の可愛さだけで多分延々と観ていられる。

 前作ではブラウン家(及びロンドンの住人に)にかなりの経済的・精神的損害を与えていたパディントンだったが、今作では床屋のバイトに挑戦して可哀想な英国紳士に前衛的なヘアスタイルを施してクビになるくらいで、かなり落ち着いていたクマに成長した。まあ相変わらずマイペースなのは変わらないけれど…。前作での大騒動を観て、「早くこのクソクマ死なねーかな!!」と思っていたイライラ派にも配慮したかたちだ。

 さて、前作はペルーの山奥からロンドンへと出てきたパディントンが、「家」を手に入れるまでの物語だったが、今作では無実の罪でパディントンが刑務所に収監されるというショッキングな展開が物語の軸となっている。前作同様、パディントンが移民のメタファーであることは明らかであり、この展開は「移民問題」というものに対して、より深く食い込もうとする監督の意図が感じられる。パディントンが逮捕され、裁判で有罪になったのは、もちろんいつものように彼の運とタイミングの悪さ、例えば仕掛け絵本が盗まれた現場に偶然居合わせてしまったとか、偶然裁判長が「前衛的なヘアスタイル」の被害者であったりといったことなどがあるだろう。しかし、警官がなんの疑問もなくパディントンを逮捕し、あっという間に裁判で有罪になってしまうあたりは、現実世界で移民たちが直面している問題のある種の反映とも捉えられるかもしれない。

なぜカリーさんは「金のないキモいおっさん」なのか?

 移民と現地民の軋轢という視点からこの作品を観た時に、ポイントとなるのは前作から引き続き登場しているカリーさん(ピーター・カパルディ)だろう。

 原作では単なる意地悪な老人として設定されていたカリーさんは、映画化に際してあからさまなパディントンのカウンターキャラクターとして登場する。パディントンが移民のメタファーであるならば、カリーさんは移民排斥者だ。前作にも増して、カリーさんはパディントンを「町」から追い出そうと奔走する。「パディントンの逮捕/収監」と「カリーさんによるパディントン排斥運動」は移民問題という点で通底している。今作のゲストキャラクターである落ち目の俳優ブキャナン(ヒュー・グラント)は先祖の残した遺産の鍵を握る仕掛け絵本を手に入れるため、その障害となりうるパディントンと対立するが、カリーさんはあくまでもパディントンのアイデンティティであるクマ性(=移民性)を問題としている。

 気になるのはそんなカリーさんのキャラクター造形だ。前作から共通して、カリーさんは「金のないキモいおっさん」として描かれている。前作で出てきた彼の家は、同じ町内にありながら虫が這い回る廃屋のような有様だし、着ているものももちろんダサい。ちょっとした好意を勘違いして拡大解釈するあたりはネットでよく見るカンチガイ男のテンプレのようだ。彼は周囲の人々をけしかけてパディントンを街から追い出そうと画策するが、彼の言葉に耳を貸す者は誰もいない…。今作ではパディントンを牢から救うために奔走するブラウン一家の前に立ち塞がるが、パディントンを信じる街の人々によって彼のバリケードが破壊される場面が物語の山場の一つともなっている。移民差別者であるカリーさんはこのように、ひたすらダメな中年として描かれている。しかし、これは本当に正しいことなのだろうか。

 もちろん、移民排斥を声高に叫ぶ人間が英雄的に称揚され、移民は犯罪者だらけの税金泥棒、というステレオタイプを植え付けるものに比べればずっと良いことは確かだ。しかし、ここでのカリーさんの描かれ方は、例えば日本のネット空間においてしばしば語られる、「ネトウヨは金のないキモいオタク」のような根拠のない別方向へのステレオタイプを定着させるものにならないだろうか。好意的な解釈をするなら、ナチスがフィクションにおける「使いやすい悪役」として広まったように、来るべきグローバル経済の世界においては「金が無くてキモい排外主義者のおっさん」が叩きやすい悪者なのだということをカリカチュア的に暗示していると言えなくもない。しかし、ファンタジーとしての要素が強いとはいえ、現実世界を基盤として、英語を話すクマをリアリティある表現で描いたこのような作品において、「わかりやすさ」という誘惑には可能な限り抗うべきなのではないだろうか。

移民のクマが世界を変える

 このような些細な違和感はあるものの、それでもこの映画は今年ベスト級の傑作と言い切っていいと思う。特に素晴らしいのは、無実の罪で収監されたパディントンが獄中で巻き起こす騒動とそれがもたらす世界の変革だ。

 懲役刑に処せられたパディントンは監獄に収監されるが、そこは独裁コック・ナックルズ(ブレンダン・グリーソン)が支配するメシマズ・ディストピアだった…。何かをじっくり煮込んだジャイアンシチューに酷似した英国風監獄メシ(毎回大体同じ)のせいで受刑者たちは生気を失い、倦怠感が支配する監獄。しかし、そこの現れたパディントンは持ち前の空気読めなさと何故か持ち込めた帽子の中のマーマレードサンド(くさそう)によって、この独裁者に立ち向かっていく…!彼のミスによってピンク一色に染め上げられてしまった囚人服を着て、囚人たちがお菓子作りに邁進するサクセスストーリーが痛快だ。このあたりはまさに実写版『こぐまのケーキ屋さん』(カメントツ)!あげくの果てには「楽しい監獄」なんていう横断幕が掲げられる始末。このエピソードは表面的には美味しいご飯と可愛い服は大事だよね!ということなのだけど、窮屈な現実社会の象徴である監獄ですらも、ちょっとした出来事によって鮮やかに変革できる可能性があることを示している。

 もちろん、劇中で描かれたような変革は簡単には起こせないだろうし、他人に親切にしていれば受け入れてくれるとも限らない。卑劣な排外主義者はカリーさんのような単純な人だけではないだろうし、すべてが上手くいくのはこれが物語であるからに他ならない。しかし、それでもなお、むしろ物語であるからこそ、この映画は一つの理想としての世界観を力強く指し示している。みんながパディントンやブラウン一家のようにはなれないかもしれないが、少しずつでも世界は変えていける。一匹のクマが起こした些細なアクションが監獄全体を楽しくしていったように。

基本情報

パディントン2  Paddington 2104 min

監督:ポール・キング

音楽:ダリオ・マリアネッリ

脚本:ポール・キング/サイモン・ファーナビー

撮影:エリック・ウィルソン

出演:ヒュー・ボネビル/サリー・ホーキンス/ヒュー・グラント/ブレンダン・グリーソン/マデリーン・ハリス/サミュエル・ジョスリン/ジュリー・ウォルターズ/ジム・ブロードベント/ピーター・キャパルディ/ベン・ウィショー(声)

公式サイトhttp://paddington-movie.jp/

前作もよろしくね!

 おひるねラジーズ
【映画レビュー】『パディントン』:可愛いけど、くさそう
マイケル・ボンド原作、ポール・キング監督『パディントン』のレビューです。前情報では「気持ち悪い」と言われていましたが、キモかわいい感じでした。可愛いだけじゃくて、移民問題などにも言及していて、子供から大人まで楽しめる映画です。

NOTES

  1. 注:耳掃除です

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