今月のおすすめ

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 前作のことは忘れろ!前作のことは忘れろ!前作のことは忘れろ!

 大切なことなので3回言いましたが、みんなも言ってるように前作『新感染ファイナル・エクスプレス』とはほぼ別物です。世界観だけかな、受け継いでるのは。マ・ドンソクもいないし…。前作から4年後が舞台で、ウイルスが蔓延しゾンビタウンとなった韓国は封鎖されている。一日で国家機能が停止したとか、あの大惨事を韓国一国で封じ込められたというのにも驚くけど、北朝鮮が半島の中で唯一安全という皮肉にも笑ってしまう。前作とのキャラクター的な繋がりは無くて、主人公ジョンソク(カン・ドンウォン)は元軍人で今は香港の裏社会で細々と生きている。祖国脱出の際に姉とその子供を助けられなかったことを悔やんでいるという役どころ。韓国に残された2000万ドルを回収するため、義理の兄らとともにジョンソクは再び韓国へと侵入する。

 

 というわけで、疾走する列車というシチュエーションが絶妙だった前作とはかけ離れた設定で、まあ言うなれば普通のゾンビ映画ですね…。と思って見ていたのだけど、本作のもう一人の主人公とでもいうべき少女ジュニ(イ・レ)が出てきてからは印象は一変。完全にゾンビ版『マッドマックス 怒りのデスロード』になってしまうのでめちゃくちゃ面白くなる。ゾンビ×怒りのデスロードだとタイトルまんまの『ゾンビマックス 怒りのデス・ゾンビ』(2014年、キア・ローチ=ターナー監督)という傑作もあるのだけど、本作も負けず劣らず。荒廃した(4年でこんなに荒れ果てるか?)韓国の市街地をイ・レが顔色一つ変えずに突っ走る爽快感。もちろんゾンビは轢き殺す!天才ドライバーという設定にもほどがあるだろうというハンドルさばきで、これくらいのハッタリがあると突き抜けて楽しいね。この映画、韓国に残ってる側はゾンビをかいくぐって日常生活を送っているので奴らの生態を知り尽くしているというのもおもしろポイント。ちゃんと光とか音で誘導してるのが強かだし、B級映画特有のバカがいないのがいい。ヴァニラカーに相当する車両がゾンビを引き連れていくのを見たときには「ああ、どこの国にもこういうのあるんだなあ」と妙な感慨を覚えたり。残され組は謎の軍人組織がさながらマッドマックス的に地域を支配しているのだけど、彼らがやってる「かくれんぼ」がまんま『マッドマックス サンダードーム』だったりするのも楽しいですね。まんますぎるが…。あ、あと主役のカン・ドンウォンの顔が良すぎる。良すぎてずるい。

 とまあ結構褒めちぎっちゃったけど、やっぱ最後のスローモーション演出はありえないほどダサいすね。なんであんなん入れたんや。あとやっぱカーチェイスが良すぎてゾンビが添え物になってる感もあるなあ。まあそんなに気にならんけど。とにかく、こんな映画を元旦からみせてくれた映画館と配給に感謝しかない。ありがとう!

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観た映画一覧(時系列順)

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 新文芸坐の「黒澤明生誕111年 三船敏郎生誕101年 銀幕に甦れ! 黒澤&三船 日本映画最高のコンビ〈東宝編〉」にて。大学生の頃に観たような記憶があったんですが、完全に忘れていたのほぼ新作みたいな気持ち。しかしこんなすごい作品を忘れるかねえ。

 やはり素晴らしいのは主役の三船敏郎。極端なことを言ってしまえば、前半は脅迫に追い込まれる権藤氏(三船敏郎)が部屋の中をウロウロするだけなのだけど、これがまあ抜群に面白い。ほぼワンシチュエーションの中で「なぜ部下とはいえ他人の子供の身代金を払わなければならないのか」と苦悩する三船敏郎の演技が絶品。さらに警視庁の面々の登場や権藤の右腕として信頼していた河西(三橋達也)の翻意など見どころが多い。狭い(といっても豪邸なので広いのだけど)空間の中を大きく切り取り両端に登場人物を置くようなレイアウトが印象的。

 

 後半は一転、戸倉警部(仲代達矢)率いる警視庁の特別捜査本部による地道な捜査の状況を逐一映していき、ここも実に面白い。置物のようになっている志村喬や、前半の優雅な豪邸の一室と男たちの汗が匂い立つ蒸し風呂のような部屋の対比、些細な手がかりから着実に犯人に近づいていくその過程。あくどい資産家というステレオタイプから離れ、実直で真面目な職人という権藤の人柄が明らかになっていくのもいいし、なにより黒澤監督が絶賛した最後の面会の場面は実に印象的。

 しかしこの映画をきっかけに誘拐殺人事件が多発したというのも、なんというか手放しで称賛できずにつらいものがある…。

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 公開当時、よくあるデスゲームものだと思っていて、「富裕層が人間狩りするだけでなぜトランプ大統領が出てくる???」という感じだったのだけど、観てみれば納得。よくこれを大統領選の前に公開できたなあ。保守vsリベラルの分断を血みどろのスプラッタアクションで描くというのはなんとなく想像できるのだけど、皆の思い込みに反してわかりやすい方向にいかないのが素晴らしい。ネタバレになるので詳しくは書けないけど。雑貨店の老夫婦が「黒人」の呼称について言い争うシーンなんて抱腹絶倒もので、直前に彼らがやっていた行為を考えると皮肉にもほどがある。アメリカでは保守層から批判が出たらしいけど、逆にリベラルが激怒するんじゃないの?監督が言うように「分断されたリベラルと保守層の両サイドを風刺するもの」だと受け取ったのだけど。

 典型的なデスゲームものを思わせるアバンタイトルから、主人公候補がジェットコースターのようにどんどこ死んでいく序盤の展開からもう最高に盛り上がる。大騒ぎが一段落してからの雑貨店でのあれこれと主人公たるスノーボール=クリステル(ベティ・ギルピン)の静かなる登場という緩急の付け方もめちゃくちゃ上手い。典型的なデスゲームものだと閉鎖空間に捕らわれるのが一般的だけど、やってきた列車に乗ってあっけなくフィールドの外に出てしまうという意外性も面白い。

 中盤は若干ダレる(とは言っても列車のスパイやら大使館員のくだりやらでめちゃくちゃ面白いのだけども)が、最高にアガるのがクライマックスのスノーボールとアシーナ(ヒラリー・スワンク)によるキッチン・キャットファイト!キッチンだからナイフももちろん飛び出るし、凄惨なのは間違いないのだけど、ヴィンテージワインのくだりとか、「ガラスはやめて!」のくだりとかちょいちょいコミカルな場面を挟んでくるのが印象的。休憩もあるし(あんまり休んでないけど)。二人のやり取りの中で明かされる驚愕の真実にも驚かされる。そんなことありますかね…。主人公に付けられるあだ名の「スノーボール」がいまいちピンとこなくて「『ペット』のクソうさぎかな…?」と思って観ていたら、途中でオーウェルとか言う名前の豚(ポスターにも出てるやつね)が出てきて納得。それが最後の「やっちゃった…」につながっていくという展開も面白い。それにしても「デスゲームをやってる!という陰謀論をとなえた連中に復讐するためにデスゲームを開催する」という本末転倒っぷりは皮肉が効き過ぎてて笑ってしまう。やっぱ中庸を旨とすべしといった昔の人は偉かったね。

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 『ザ・ハント』と2本立てだったんだけど、いやー、これも面白かった。胸くそ悪い場面も挟みつつ、どちらも最後に女性主人公がみせる姿が実に美しいという共通点がある。

 富豪の天才科学者エイドリアン(オリバー・ジャスパー=コーエン)の妻として束縛される生活を送っていたセシリア(エリザベス・モス)はある夜、脱出に成功する。友人のもとに身を寄せたセシリアのもとにエイドリアンの訃報が届くが、それとともに彼女の身辺で奇妙な出来事が起き始める…。という感じで、どう考えても真犯人は死んだはずのエイドリアンなのだけど、それを確信しているのは主人公のセシリアと観客だけという情報の非対称さが面白い。エイドリアンがセシリアに対してほとんど物理的な攻撃をせず、彼女の周りの人的なネットワークをじわじわと破壊していく展開はDV男のやり口というよりはカルト集団的な趣がある。

 とにかく素晴らしいのは、やはりセシリアを演じたエリザベス・モスの振れ幅の大きな演技。見えない襲撃者によって周りの人々が傷つけられ憔悴していく姿は痛ましいのだが、それゆえに最後に彼女が見せる凛とした姿とのギャップが凄まじく印象に残る。精神病棟に入れられてるあたりとか完全にキちゃってる表情と言動で物語序盤のおどおどした姿と比べると完全に別人。それが最後にまたもや全く違う表情を見せるという贅沢さ。

 透明人間の襲撃は姿が見えないことを活かしてホラー的な文脈で描かれていてサスペンスフルなのだけど、怪異の正体が人間であることがわかっているだけにややギャグっぽくなってしまっている感が否めない。というより、文字通り見えないからいいものの、見えている状態を想像すると思わず笑ってしまう。それだけにレストランでのセシリアと妹エミリー(ハリエット・ダイアー)の会食のシーンでの衝撃は強烈。一点気になった所といえば、透明化が解除された透明人間のCGが若干安っぽいところ。他がちゃんとしてるから結構浮いてるんすよね…。まあ殆ど出ないから気にならんといえばそうだけども。

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