はじめに

 とりあえず『FACTFULNESS』まじでいいのでみんな読んで欲しい。

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映画の方のログ

今月のベスト1冊!

ハンス・ロスリング/オーラ・ロスリング/アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

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 ここ1年くらい考えていたことがドンピシャで書かれていて最高になっちゃった…。

 かいつまんで内容を説明すると、我々がいかに世界について無知であるかという事実、そしてその歪んだ世界観をアップデートするための10のポイントが著者自身の体験談・失敗などを交えて説明されている。

 スティーブン・スローマンとフィリップ・ファーンバックによる『無知の科学』に近い内容だが、本書はより実践的。例えば、第一章のテーマは「分断本能」で、これは我々がつい使ってしまいがちな「先進国」と「発展途上国」という言葉に代表される、「世界を二つの大きく隔たった集団」とし見てしまう本能だ。実際にはいわゆる「発展途上国」はすでに先進国と区別ができなくなっていることをハンスは具体的なデータを示しながら解説する。世界はAとBではなく、グラデーションのようになっている。

 第二章「ネガティブ本能」もまた、我々に馴染み深い本能だ。老人がよく言う「昔は良かった」という言葉が象徴的なように、誰しも「世界がどんどん悪くなっている」という感覚を持っている。実際には世界はどんどん良くなっているというのに。その原因としてハンスが上げているのが、良いニュース(例えば「飛行機が無事着陸しました」とか)と悪いニュースのニュースバリューの非対称性や、人々/国家が過去を美化しがちな傾向を挙げている

 というような具合に、他にも「直線本能」や「単純化本能」といった、自分たちがつい陥ってしまいがちな10の本能について、実際はどうだったかが、「誰にでも手に入る」(重要)データを用いて、簡潔に説明されている。さらに、そういった本能を正すためにどういった点に着目すればいいのかがきちんと書かれているのも実践的。例えば、「分断本能」で言えば「平均の比較に注意しよう」だとか「極端な数字の比較に注意しよう」といった、極めて具体的ですぐに取り入れていくことのできるエッセンスが提示され、実用的な一冊になっている。

 昨年公開され絶賛された是枝裕和監督の『万引き家族』やカートゥーンの絵柄の裏側にとても現代的な問題を抱えたキャリー・カークパトリック監督の『スモールフット』といった映画では「世界は単純ではない」ということがテーマだったが、この本はそういった作品と同じ位相に位置している。「複雑な世界は怖いけれど、ウソの世界よりはずっといい」、これは『スモールフット』の登場人物の台詞だが、我々もまたウソの世界から真実の世界へと戻らなければならない。『FACTFULNESS』は複雑な世界を「複雑なままで」理解するための有用なガイドブックだ。

おすすめの新刊!

新刊の定義は過去3ヶ月以内くらいに発売された本でお願いします…

吉田エン『異世界ネコ歩き シーズン2』

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 第四回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞(『世界の終わりの壁際で』)の吉田エン先生によるkindle自主出版作品。東北の国際リニアコライダー(ILC)建設の際に偶然発見された「ターミナス」と呼ばれるゲートによって幾多の異世界(パラレルワールド)と接続された世界でいろんな異世界のネコを追ってテレビクルーが右往左往する短編集。

 「異世界」とありますがSFですのであしからず。なぜ、どこの世界にもネコがいるかというと、それぞれの異世界が今いる世界のパラレルだからというのがいかにもSFって感じで、こういう理由付けの態度こそがまさにSFだなあと思ったりします。『世界ネコ歩き』の安易なパロディかと思いきや意外にも(失礼)キチンとしたSFなのがいいですねー。もちろん、パラレルなので位相が離れた世界ではいわゆる「異世界もの」みたいな中世ヨーロッパ風世界観だったり、ネコが二足歩行したり知性が高かったりするのも自由度が高くていい感じ。

 シーズン2で好きな話は、人間たちがどこかに立ち去ってしまった世界で生き残るネコたちの歴史が語られる「世界最後のネコたち」、江戸時代風の世界観なのに人種ごちゃ混ぜの世界にある「ネコ地獄」のお話、シャルル・ペロー本人も登場し、ネコがネコビームで森を焼き尽くす「長靴をはいたネコ」あたり。それぞれのエピソードがシンプルで短めなのもいいですね。シーズン3も期待してます!

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鷹見一幸『再就職先は宇宙海賊』

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 積んでた本を今頃読んだんだけど、面白いじゃないですかこれ!

 まずね、表紙の美少女が全然出てこないの。後半までずーーーーーっとおっさん3人しか出てこない笑。

 舞台は謎の異星種族の残した「帝国の遺産」が発見された太陽系。彼らの超技術によって太陽系内は発展し、残された遺産を巡って大開拓時代が到来している。なにしろ、主人公の勤める北千住(!)の中小企業ですら、ちょっと投資をすれば小惑星帯で一攫千金を狙える時代なのだ。ところが、首尾よく帝国の遺産である巨大宇宙船を発見した三人組の元に会社倒産の一報が届く…。果たして男たちの運命は…?

 …というハードSFサバイバルっぽいガワなんだけど、中身はドタバタ喜劇。生きて地球に帰りたいだけなのに、あれよあれよという間に宇宙海賊にならざるを得ない状況に陥ってしまうのが楽しい。主砲に通信機を仕込んでいたばかりに豪華客船から海賊と間違えられるくだりとか。

 海賊業で企業活動するというあたりは笹本祐一先生の「ミニスカ宇宙海賊」シリーズまんまだったりとか、気になる点はあるんだけど、電子機器をほとんど使わない先住種族の謎(数千年にわたって回り続けるゴム仕掛けとか)、何でもかんでも「シェイクスピアもこう言っていマス」とか宣う怪しい外人(すき)、意外にも楽しい要素が多くて続編も楽しみ。ヒロインが法務担当ってのもなかなか珍しいですよね。

入江亜季『北北西に雲と往け』第3巻

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 最後にとんでもないネタが待ち受けている第3巻。これまでののほほんとしたアイスランド日常ものから一気にスタンドバトルが始まりそうな予感…。慧の能力<車と話せる>が何事も無く描かれて始まったのは伏線だったんだな。しかし、もう一人の能力者の能力が強すぎる…。人知れず殺せるから暗殺チーム向きっぽい。

 2巻は観光だったけど、今巻は探偵ものっぽかった。相変わらず大ゴマを使った表現が上手い。オススメ。

たみふる『付き合ってあげてもいいかな』第1巻

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 そうそう、こういうのでいいんだよ!こういうので。百合とかあまり興味ないんだけど、これは良かった!

 二人の女子大生が出会い、付き合い始めるあたりのシンプルな物語なんだけど、それぞれの場面がとても丁寧に描かれていると感じた。例えば、二人がカップルになるきっかけのシーンでも、みわと冴子のやりとりは自然な流れで関係性が変化していき、ドラマティックな恋愛漫画という括りというよりは二人の人間の関係を落ち着いたタッチで描く文芸作品の趣がある。作者自身が言うように、この作品のゴールは「付き合うこと」ではなく、その先の二人を描くことにある。

 第一巻の主軸となるのは彼らが肉体関係に至るまでの起伏のある関係性の変化だが、一旦ギクシャクしてしまうというベタな展開がかなりの長尺を取って丹念に描かれている。かと思えば「めんどうくさい女」のようなコミカルな(しかし彼らにとっては深刻な)展開も挟まれていて飽きさせない。

 二人の周囲にいるバンドメンバーが、ちょっと不自然なほどセクシャルマイノリティに対して理解があるんだけど、これも同時代性を感じさせるポイント。大学生の百合ものというよりは『きのう何食べた?』のように、それがごく自然な状態として描かれているのが心地よい。劇的な物語、に飽き飽きしている人におすすめ。

まとめ:その他良かった本&来月買う本

その他良かった本

矢部嵩『〔少女庭国〕』

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 いまさらですが…。あらすじ読んで、「あれでしょ、女の子が数学の問題解くんでしょ?」って思って読み始めたらガチ思考実験のシヴィライゼーション系だった…。このシチュエーションだとどうしても水が足りないよな、と思って読んでました。空気は供給されてるから空気中の水分をどうにかして…。気軽に人には勧められないけど面白い!ザ・SFって感じ。

野尻抱介『南極点のピアピア動画』

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 これもいまさら初読。野尻先生らしいオプティミズムな技術とファーストコンタクトの物語。ニコニコ動画的なSNS型動画サービスが強い影響力を持っているのは予見的だなあ。

来月買う本

ケン・リュウ『生まれ変わり』

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 ケン・リュウはずれないよね。絶対いいはず。

小川一水『天冥の標10 青葉よ、豊かなれ PART3』

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 ついに、ついに完結だーーーーーー!!!!!!超楽しみ。積んじゃってるpart2早く読まなきゃ。

読んだ本一覧

suitikuの本棚 – 2019年01月 (27作品)
異世界ネコ歩き
異世界ネコ歩き
吉田エン
読了日:01月03日
評価5


〔少女庭国〕
〔少女庭国〕
矢部嵩
読了日:01月08日
評価5


街角イジゲン
街角イジゲン
白井慶太
読了日:01月26日
評価4


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