本のレビュー

ウィリス久々の現代長編『クロストーク』は予想通りの大傑作!【2018年12月に読んだ本 感想レビューまとめ/全12冊】

投稿日:2018年12月31日 更新日:


はじめに

 年間ベストに入れるために読み残していた本をどんどこ読んでいく師走でした…。おかげで積読が減った!500ページ超えの大作が多かったのでちょっと大変でしたね。あいかわらず小説ばかりだけど。

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今月のベスト1冊!

コニー・ウィリス『クロストーク』

 コニー・ウィリス、オールタイムマイベストの『航路』から16年ぶりのオリジナル現代物長編!!700ページ超という大ボリューム!!これで面白くならないはずがなく…。
 ベンチャー系携帯会社コムスパンに勤めるブリディは恋人のトレントと感情の絆を深めるため「EED」手術に踏み切る。しかし、単に互いの感受性を高めるだけだったはずの手術は思いもよらぬ結果を引き起こしてしまう…!
 病院やら図書館といった入り組んだ建物が主要な舞台になっていたり、電話やメールの入れ違い、そして9歳の女の子が重要な役割を果たす点など、どうしても『航路』を連想させる。「タイタニック」という単語も頻出するし、C・Bの火災のイメージやブリディの洪水のイメージはやっぱりウィリスはこういうのが好きだなあ、と思ったりもする。訳者あとがきで大森さんも言ってるけど、「やっぱりウィリスは階段が好き」というくだりで膝を打つ。
 登場人物たちが右往左往し、互いに微妙な間隔ですれちがうのはウィリスの作品の大きな特徴だと思うのだけど、これはまさにそのコミュニケーションとディスコミュニケーションをメインテーマとした作品。テレパシー一本でこの分量の物語を書いてしまう力量にも驚くのだけど、コミュニケーション過剰の時代にこのテーマは実にタイムリーだ。果たして、他人とダイレクトにコミュニケーションできるということは幸せをもたらすのだろうか?という問いかけを孕んだ本作だが、偶然にも今年デビューした門田充宏の『風牙』と共通するところがあって面白い。『風牙』の過剰共感能力が自他の境界線を曖昧なものにするものだったのに対して、本作の描くテレパシーは現在すでに過剰気味になっているコミュニケーションがさらに過剰になっていくイメージ。具体的には無差別な人々の内面の「声」が始終押し寄せ、オーバーフロウしてしまうというもの。主人公ブリディは恋人との共感能力強化のためにEED手術を受けたはずが、望まずしてこのテレパシー能力を得てしまい、「声」の大群に襲われるが、そこに現れるのがコムスパンの地下に引きこもっている会社一の変人のC・Bというわけ。まあ結局こいつとくっつくんだろうなー、というのは初登場時からわかってしまうのだけど、そこに至るまでの右往左往は流石ベテランといった風情で楽しませてくれます。ゾンビ映画好きで、度々物語の重要な筋に介入してくる9歳児は『航路』におけるメイジーの役どころでかわいらしく物語を盛り上げるし、キャスリーン、ウーナ伯母さん、ドクター・ヴェリックといった脇役たちもうっとおしくて楽しい。
 SF的な仕組みの理論にはあまり興味がないウィリスだけど(結局EEDが何の略かもわからないw)、かつての人類は誰もがテレパシー能力を持っていたが、生存に適さないため抑制因子を持つようになった、という理論は「バベルの塔」の物語にも通じるところがあって面白い。そういえば、キリスト教的な要素を巧みに取り込むのもウィリスならでは。本作では「神の声を聞いた」アイルランドの聖人がテレパシー理論の引き合いに出されて色を添えています。
 最終盤でスーパーハカーが出てきてすべてを解決してしまうあたりはかなり不満なのだけど、それに目をつぶっても今年ベストの一冊に推すには十分な作品。

おすすめの新刊!

新刊の定義は過去3ヶ月以内くらいに発売された本でお願いします…

森見登美彦『熱帯』

 いかにも森見登美彦らしい奇想に満ちた一作。なんだか今年はメタフィクションばかり読んでいるような気がする。

 作家の森見登美彦は「沈黙読書会」で一冊の本に出会う。それは彼がかつて読みさしでなくしてしまった佐山尚一の小説『熱帯』だった。その本を持ってきた女性は『熱帯』の持つ謎を語り始める…。「この本を最後まで読み切った人はいないんです」と。

 物語の中に物語があり、さらにその中の登場人物が物語を語り始め…という際限のない入れ子状の物語構造もさることながら、『熱帯』という本を語る本の中で実際に劇中の『熱帯』の物語が地の文として始まってしまい、さらにそれが『熱帯』という現実の本の中で繰り広げられているというところに本作の真髄がある。特に「後記」を読んだ際に訪れる得も言われぬ陶酔感、(文字通り)物語の中に浸っているという感覚の面白さは筆舌に尽くしがたい。単なるメタフィクションは多くあれども、メビウス状になっている作品は珍しい。かなりの大著ながら、モリミーらしいモティーフが随所に登場するし(蛾眉書房とか)、とにかく『熱帯』という本の謎が気になるあまり、あっというまに読み終えてしまうこと請け合い。作家(魔王)と想像力(≒創造力)、そしてその力によって生み出される「物語」についての話でもある。湯浅監督にアニメ化してほしいなー。ところで、この小説絡みでとりわけ感動したのはAmazonで佐山尚一の『熱帯』が売っていること。出版社がやってるのか、誰か酔狂な人がやってるのかしらないが、この仕掛は本書の性質を鑑みると、実に上手い。そんな周辺の分野も含めて、個人的には今年を代表する「物語」の一つだ。「なんにもないということは、なんでもあるということだ」

トキオ・アマサワ『ラゴス生体都市』

 2050年!九年戦争の焦土から蘇ったナイジェリアは生体装置による無限のエネルギーによってラゴスを「生体都市」として再生した!市民は「情感制御」によって都市にコントロールされ、生殖までも規制の対象となった…。という筋書きからは古典的なディストピアが連想されるのだが、そこで反抗の旗印となるのが「ポルノ映画」なのだから一筋縄ではいかない。主人公・アッシュはディストピアものの定石として、体制側であるポルノ映画を摘発する保安局の「焚像官<リムーヴァー>」の一員。違法ポルノ映画監督とズブズブの関係になっている彼はある日、謎の違法ディスク「X-ビデオ」を手に入れてしまう…。筋書きはオーソドックスながら、「リムーヴァー」のようなフリガナが多用される文体はそれこそギブスンのサイバーパンクものの翻訳を連想するし、これがまた疾走感のあるストーリーと実によくマッチしている。都市の情景を描写する際の「中央貯蔵塔<ストレージヒル>」はまだわかるのだけど、「官能の特異点<セクシュアル・シンギュラリティ>」だとか「これが俺の全欲全開<オーガズム>!」だとか、文字の持つ力、勢いがたまらない。一番好きな場面はアッシュがかつて自分を村から追い出した老人の元を訪れる場面。積年の恨みも忘れて、「秘蔵のドスケベVCD」に夢中になる二人の男…。アッシュの出生の秘密がわかるという重要な場面の後にこんなコミカルな場面を挿入するセンスの良さ。ポルノ規制ディストピアというのも今まさに現出しようとしている同時代性の高いテーマであり、それを今までの陰惨なディストピア物語から離れてヒロイックでコミカルなエンターテイメントに仕立て上げた著者の筆力には脱帽するしかない。

堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』第21巻

 さして盛り上がるパートではないはずなのに、なぜか今までで一番良かった!前半は20巻からの続きでエンデヴァー&ホークスvs改造脳無なんだけど、死んだと思ってたエンデヴァーが…!!オールマイト無き今、No2と揶揄されてきた万年二番手がついに名実ともにNo1になった!!!ここはもうめちゃくちゃかっこいい!!実質、相打ちみたいな形にも見えるんだけど、そういうことじゃねえんだよ!!オールマイトのようなスマートさは無いけれど、逆にその不器用さというか荒々しさに惹かれちゃう。幕間で描かれる轟家兄弟との関係を模索していく姿を見ても、あの中年のどん詰まりになってしまったような印象だったエンデヴァーが成長していくさまに好感度アップです!そして後半は今まで微妙にありそうでなかったA組vsB組の模擬戦闘訓練。林間学校とかで一部はチラチラと個性見えてはいたけど、ここに来て大々的にお披露目という感じで個性豊かな「個性」のオンパレードが楽しい。常闇vs黒色の中二病対決なんか、合間の会話が楽しい上手い組み合わせ。宍田さん、地味ーな個性なのにめっちゃ強いな。そして、まさかの心操くんがゲストで再登場!「名前を呼んで返事返してきたやつを操る」個性で、体育祭のときにネタ割れてるから活躍しようがないよな…、と思ってたんだけど、なるほどーこういう風になるわけね…。特にチーム戦で強すぎる個性だ…。性格もめちゃくちゃ謙虚になっちゃってるし、いいキャラすぎる…。このサプライズが一番嬉しかったですね。相澤先生の弟子らしいけど、目つき悪い仲間だし、相性良さそうー。

飛浩隆『零號琴』

 『グラン・ヴァカンス』から16年ぶりの長編ですけど、全くテイストが違うのにまず驚き。ワイドスクリーン・バロックに分類すればいいのか、プリキュアからウルトラマン、ゴジラにエヴァ、ナウシカといったサブカルチャー的なモティーフが詰め込まれ、さながら戦後サブカルチャー史の総括のような様相を呈しているのだけど、根幹には人の意識をメインテーマとしたハードSFの塊が詰まっている。しかも600ページオーバーという大著。にもかかわらずあっという間に読めてしまうのは、ライトノベルかと思ってしまうような登場人物たちの砕けた口調であり、なによりもどこかで観たようなサブカル的モティーフが矢継ぎ早に繰り出されることによる親近感とハイテンポなストーリーのコラボレーションが心地よいからだろうか。舞台となる惑星「美縟」に秘められた秘密にはさすがに驚かされたし、歴史を掘り返し二次創作にしてしまう、という展開の独自性も面白い。美縟の秘密を解き明かすことが、「轍宇宙」というある種の牢獄からの脱出と重ね合わせてあるのに加えて、『あしたもフリギア!』の止まってしまった最終回の向こう側と相似形を成している点からはメタSF的な要素も読み取れる。それにしても書籍版帯の惹句である「想像し得ぬものが想像された」は言い得て妙というか、ある意味ではネタバレでもあるのだけど、しかしこれだけ読んでも後半の超展開は想像し得ないよなあ、という。とにかく必読の書。続編というか、「轍宇宙」の物語をもっと読んでみたい。

『NOVA 2019年 春号』

 脂が乗った連中が集まった新生NOVA!どれもこれも面白いが、とりわけ印象深かったのは以下の4編。絶好調の小川哲先生の「七十人の翻訳者」はギリシア語訳聖書に纏わるある「奇跡」の物語。紀元前と21世紀中盤の描写が語られるのだが、最後に意外な結合を見せる。もっとも、この構成自体はSFによくあるパターンだとは思うのだけど、そこに至るまでの学術的な読解描写の繊細さと冒頭の印象的な情景とシームレスに繋がっていく筆運びは著者ならでは。「物語ゲノム解析」という架空の学問も面白い。去年のベスト1に『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』を選ばせてもらった赤野工作先生の「お前のこったからどうせそんなこったろうと思ったよ」は地球と月面で行われる格ゲー話。著者ならではの視点は相変わらずで、赤野先生じゃないと書けない作品。月との遅延は1.3秒、すなわち格ゲーで言うところの77F。著者はこのほんの僅かな時間を彼岸と此岸のごとき距離に拡大解釈してみせる。それは物理的な距離だけではなく、二つの人格の隔たりでもある。結局の所、格ゲーは二人でやるものなのだ。ベテランの小林泰三先生の「クラリッサ殺し」は《レンズマン》シリーズを材に取ったVRもの…と思いきやこれまでに例のない壮大なメタフィクションが展開される。「虚構レベル」という概念はぜひ広めていきたいところだし、「《レンズマン》がフィクションであるような世界は現実であるはずがない」なんてセリフからは自分たちの世界の虚構レベルを思わず疑ってしまう怖さがある。『零號琴』で補正かかってる飛浩隆先生は「流下の日」。アレステア・レナルズの《啓示空間》シリーズに出てくる「無政府民主主義」的な技術を使って40年に及ぶ超長期政権を維持している「美しい国」の話。途中までは「え、これ全然良くない??」って思っていると……。皮を剥げば典型的なディストピアなんだけど、多分僕らも現在進行中で陥っている民主主義の持つセキュリティホール。引用される様々なテキストの近未来感であるとか、椎名誠的な農村風景が楽しい作品でもある。

野田サトル『ゴールデンカムイ』第16巻

 表紙は鯉登少尉だし、確かに山田曲馬団の花形として活躍するんだけど1、16巻のメインはげんじろちゃん!アシリパさんを追って豊原にたどり着いた杉元一行。偶然、ロシア帰りの曲馬団(サーカス団)と出会い、杉元は曲馬団でハラキリショーをすることに…。で、驚異の身体能力を持っていた鯉登少尉はめっちゃ活躍するんだけど、クソの役にも立たない月島軍曹とげんじろちゃんは少女団でむさ苦しい踊りを披露することに…。もちろん女装。二人だけ身長が違ってて毛がもりもり生えてるビジュアルからして最高なんだけど、無駄にまじめなげんじろちゃんが、振り付けの先生に「源次郎の手はチンポいじるだけの手なのかい?!」とかなじられたり、「俺は少女団のお荷物です!」「うまく踊れない…!」なんてのめり込んでいくのも最の高って感じだし、今年のベスト一コマでしょこれ。で、この漫画なんの漫画だったっけ???

ジョン・スコルジー『星間帝国の皇女 ―ラスト・エンペロー―』

 スコルジーの新刊はまさかの銀河帝国もの。しかも”Collapsing Empire”というタイトルからわかるように、アシモフの「ファウンデーション」シリーズを彷彿とさせる「帝国の崩壊」を描いた作品だ。この宇宙の銀河帝国では超光速技術がなく、「フロー」と呼ばれるワームホール的な「自然現象」によって恒星間の移動を実現しているという設定。フローは川のようなイメージですね。で、1000年間ほぼ安定していたこの「フロー」が崩壊しつつある帝国が舞台で、主人公は望まずして女皇帝になってしまった前皇帝の私生児カーデニア。就任したての彼女がこの危機をどう乗り越えていくのか、という話になるのだけど、第一巻では崩壊の触りの部分までで少し物足りない気もする。面白いのが、フローが崩壊すると銀河帝国が終わるだけでなく、人類も(ほぼ)終わってしまうという点。恒星間の連絡はフロー次第なので、人類が住んでいるのは皇帝の居住する惑星ハブですら空気も自転もない地獄のような環境で、巨大ガス惑星軌道上のハビタットとか岩石惑星の地下とかそんなところに住むのがスタンダードになってるんですよね。帝国は「インターディペンダンシー」と呼ばれているんだけど、つまり恒星間の相互依存によって帝国自体が成り立っているというわけ。なんとこの世界、普通の地表がある惑星が一個しかない!それが物語のもう一つの舞台となる惑星エンド。名前の通り、帝国の最果てにある吹き溜まりのような星で、ここではフローの崩壊を巡る陰謀が進行中…。女性主人公が恒星間通商の崩壊に直面するという点では、ちょうどダン・シモンズの『ハイペリオンの没落』のCEOマイナ・グラッドストーンが主人公のような作品でもありますね。主人公のカーデニアも魅力的だし、低級貴族でフロー物理学者のマース、帝国の商業を独占する公家(ハウス)の令嬢でありながらFから始まる四文字を連発する破天荒ヤリマン系美女のキディといった脇役陣も主役を食うほど魅力的。スコルジーお得意のユーモアある文章も楽しく、「動くものはすぐ撃たれます。しばらく動かないものもやはり撃たれます」なんてセリフには思わずにやけてしまう。テンポも良いので、一気読みできます。結局、三部作になるらしいけど、とてもそこに収まるとは思えないな…。とにかく次巻が楽しみな作品。でもそれ以上に気になるのは、訳者あとがきでサラっと書かれてた『ロックイン 統合捜査』の続編と『レッドスーツ』の映画化企画進行中のところですよ!オールタイムマイ・ベスト2ですからね、『レッドスーツ』。

小川一水『天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART1』

 ついに最終巻(の1冊目)!ついに双子座μ星系に到達した2PA(二天体惑星連合軍)&MMS(メニー・メニー・シープ)&《救世軍》(プラクティス)&カルミアンたち。カルミアン母星へと向かう彼らの前に立ちはだかる双子座超銀河軍団!数百億隻に及ぶ2PAと硫黄の体を持つ宇宙の竜《エンルエンラ》による、「グレンラガン」か「銀英伝」かという大迫力の宇宙艦隊戦がとにかく圧巻!そしてその後に全く正反対のトーンの「昔話」を持ってくるのがこのシリーズらしい。そうです、あの名文句「全太陽系、応答せず」の後が書かれるのです!ここで描かれる「信号消失戦争」(シグナレス・ウォー)の後の物語が実に芳醇。パナストロ(汎天体動的共同体)の行く末とか、あの大惨事の後の太陽系どうなってんやとか、知りたかったことがどんどん出てきて最高に楽しい。でも内容は「人は過ちを繰り返す」って感じで暗くなっちゃうけどね…。意外と生き残ってたんだなーと思いきや…。ていうかコルホーネン副司令って代理水を作ったあのコルホーネンか、というのを思い出したり。それにしても、とにかく登場人物も多いし、場所も多いし、複雑だしでもう大変。巻末の登場人物集&用語集の厚さが凄まじい。どう決着するのか楽しみですねー(しかしあと2巻もあるのか…(嬉しい))。

チョン・セラン『フィフティ・ピープル』

 片渕須直監督の傑作『アリーテ姫』にこんな台詞がある。求婚者の王子が深夜、姫の居室を尋ねる場面。主人公アリーテは開け放った窓の外の城下町を示して言う。「たくさんの屋根の下、たくさんの人達。みんな自分の心を持っている。それがこんなにたくさん。もう圧倒されてしまいそう。そうではない?」と。チョン・セランによる連作短編集『フィフティ・ピープル』は、まさにその「たくさんの人達」が主人公の物語だ。
 舞台は韓国のとある地方都市(とりあえずソウルではない場所)。総合病院をハブとして、50人(厳密には51人)の人々の人生のスナップショットが描かれる。余命幾ばくもない母親を抱える花嫁がいて、娘が殺されてしまう母親がいて、ドクターヘリに転職した戦闘機乗りがいて、コーラテックでバイトをする大学生がいて、たまたま街を訪れた外国人がいて、順風満帆に生きてきた老教授がいて…。老若男女という言葉を文字通り演繹するとこうなるのだろう、というように、性別、年齢、境遇、性格、一人として同じ人間がいないという(人種だけは偏ってるけども)、現実では当たり前の世界が繰り広げられる。それぞれのエピソードは紙面にしてほんの数ページ程度の短いもので、事件が起こったりもするし、単なる(しかし魅力的な)日常の描写だったりする。しかし、本作の本当の魅力は、その短い「物語」が蜘蛛の巣のように互いに結びついているという点だ。決して強固な糸ではない。あるエピソードの主人公が別のエピソードで名前も無く登場している、その程度だ。全体を貫く物語は無いので、伏線というわけでもない。いわゆる「物語」が線状なものだとすると、『フィフティ・ピープル』は面を成す一つの「世界」だ。普通であれば主人公たり得ない市井の人々が、それぞれの些細な人生(の一部)を持ち寄ることで50人の主人公として立ち現れる。ここには多様な人々がもたらす世界の複雑さと豊かさがある。
 特に良かったエピソードは、「耳に蜂が入っちゃったおじさん」ムン・ウナムの再婚の話、「シュークリーム教授」と呼ばれ、様々なエピソードで顔を出す好々爺イ・ホ教授の短い半生記、全く別の分野で司書としての生き方を再発見するキム・ハンナ、いつの間にか韓国で看板に使われてたオランダ人ブリタ・フンゲン、24時間365日病院で死体を運ぶ孤独な老人が友人と再開するハ・ゲボムのエピソード…。いや、どのエピソードも素晴らしく愛おしい主人公の物語だ。

篠房六郎『おやすみシェヘラザード』第2巻

 1巻読んで、ぱっと見ちょっと微妙だなって思ったんですよ。エロ要素とか百合要素とかノイジーじゃない??しえ先輩の話し方の「〜〜」もなんかうっとおしいしさあ…。…と思ってたんですが、3話を過ぎる辺りから全く気にならなくなり、「邦キチ」とは違った種類の説明ベタがめちゃくちゃ面白くなってしまって…。2巻の見どころは帯でもさんざん煽られてる『マッド・マックス:怒りのデス・ロード』!!いやー、出てくるキャラの形態模写はわかるけど、よりによってあいつかよ!っていう。そういえば乳首いじってたよねって思い出しました。今年のベストコマ10に入れるレベル。「まどマギ」の説明も絶妙に下手くそで最高〜!ネタバレしすぎや〜笑 ちなみにカバー裏は「スピーシーズ全作品ガイド」でした…。需要無さすぎ! 百合要素はまあおまけですけど、しえ先輩はかっこ可愛い。

TAGRO『別式』第4巻

 そろそろまとめに来た感じのハードな展開…。○○○さんは前巻の流れから予想できてたけど、まさか死にそうもない○○○さんも逝っちゃうとは…。このあとどうなっちゃうの〜〜?! 各人の思惑が交差し、すれ違い、誤解が誤解を生み、という濃厚な人間関係はTAGRO先生の持ち味ですね。「誰が敵を討ってもよくねえ?」とはとても言えない雰囲気。これで売れてないのかー。たしかにちょっと人間関係が分かりづらくはあるけども。最短、次巻で完結しそうなのは不幸中の幸いという感じ。次回作は明るい作品やってほしいな(『宇宙賃貸サルガッ荘』的なやつ)。

まとめ:その他良かった本&来月読む本

その他良かった本

冨樫義博『HUNTERXHUNTER』第36巻

 2018年の11月からHUNTERXHUNTERを読み始め、年内にどうにか最新刊まで読み切った!まだ船の中なのかよ…。早く暗黒大陸上陸してほしい。あとセンリツ死なないでほしい。

瀬野反人『ヘレロゲニア リンギスティコ〜異種族言語学入門〜』

 Fafs F. Sashimiの『異世界語入門 ~転生したけど日本語が通じなかった~ 異世界語入門 ~転生したけど日本語が通じなかった~』(積んでる)みたいな話かと思いきや、「異種族」と銘打ってるだけあって、ハーフウルフとかスライムとかガチ異種族とコミュニケーションする話だった…。音声じゃなくて匂いとか身振りとか色とかでコミュニケーションするの。予想外に面白かった。交易ネタが入ってるのも良い。

来月買う本

小川一水『天冥の標10 青葉よ、豊かなれ PART2』

 2018年にお金使いすぎたのでとりあえずこれだけ買います…。

読んだ本一覧

suitikuの本棚 – 2018年12月 (48作品)
熱帯
熱帯
森見登美彦
読了日:12月02日
評価5


零號琴
零號琴
飛浩隆
読了日:12月10日
評価5


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NOTES

  1. ここまで書いていてすでにわけがわからない…。

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