はじめに

 今月は東京国際映画祭もあったので全然本読んでない…。全部ひっくるめて20冊…。今年一番の少なさ。

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映画の方のログ

今月のベスト1冊!

高山羽根子『オブジェクタム』

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 久々の高山先生新刊。「オブジェクタム」「太陽の側の島」「LHOOQ」の三本立だが、表題作の「オブジェクタム」が圧倒的な完成度で他の2本がおまけに見えてしまう。ある人物の回想という形をとって語られる「記憶」(あるいは思い出)の物語だ。中心となるのは語り手が小学生の頃に町に出回った謎の壁新聞のエピソードだが、その周囲を祖父の秘密の書斎やらゴミ屋敷の同級生、謎の石造りの公園といった日常/非日常の種々細かな物語が覆い、重層的な世界を現出せしめている。それぞれのエピソードはさしたる秘密もオチもなく、しかし、そのとりとめのなさが恐ろしいまでのリアリティを生み出している。現実と夢の共通点は、「物語」と違いそこにはかならずしもオチというものが無い点だが、この「物語」はまさにその領域に存在している。逆に言うと物語に「オチ」とか「構造」を求める人にとっては問題にならないくらいの駄作だろう。個人的には、今年のベスト候補の一作。

おすすめの新刊!

新刊の定義は過去3ヶ月以内くらいに発売された本でお願いします…

デニス・E・テイラー『われらはレギオン 3: 太陽系最終大戦』

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 ついに最終巻!サブタイトルにもあるようにグリーゼ877星系に巣食う謎の種族「アザーズ」が太陽系に攻めてくるぞ~!という話なんだけど、進めど進めどアザーズが出てこない…。確かに「太陽系最終決戦」には間違いないんだけど、かなりあっさり目でサッと終わってしまうのが拍子抜けだった。もっと絶望的な状況を打開するような話が読みたかったなあ。超光速通信はあるけど、その他はアザーズの方が技術力勝っているっていう設定だったじゃん…。とは言うものの、そこに至るまでの細かいエピソードはどれも面白い。ブリジットの脳スキャンをめぐる醜聞と裁判とかポセイドンの革命騒ぎとか。中でも良かったのは惑星エデンでのアルキメデスとの別れの場面。ここまでかなり長い物語中の年月とページ数を割いて語られてきた一つの物語が終わるというのには、どうしたって寂しさが滲んでしまう。思うに、テイラーはアザーズとの決戦も、こうした小さくて豊かなエピソードの一つとして描いているのではないかと思う。「なろう小説」ばりにトントン拍子に物事が解決してしまうという物足りなさはあるのだけれど、ボブという一人の人格からどんどん派生して豊潤な群像劇宇宙[ボブヴァース]を作り上げた「われらはレギオン」三部作、今年を代表するSFの一つだろう。

『錦糸町ナイトサバイブ』第1巻

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 夜間診療の歯科医院とキャバクラというどうみても取り合わせが悪くて中途半端なテーマだと思いきや、これがなかなか読ませるお話で。主人公は、キャバ嬢目指して秋田から上京したはいいものの、なぜか錦糸町の夜間診療専門歯科医院に居着いてしまった20歳女子・小夏。外見が中学生くらいにしか見えないのでどこのキャバも門前払いされるわ、キャバの備品を壊して上京当日に300万円の借金を背負ってしまったりするんですが、まあこの借金返済のために歯科助手として働きつつキャバ嬢を目指すという、定番の(?)展開ですね。随所に歯医者さんの豆知識というか結構専門的な話(歯科助手は口に手を入れてはいけないとか知らなかった…!)が挟まるかと思いきやキャバクラの話になったり小夏の恋愛話になったりとしっちゃかめっちゃかで軸がブレブレなようにも思えるのですが、以外にもまとまりが良いんですよね。会話が主体なので、そのあたりのテンポとか間が絶妙で、合間に入るクスリと笑えるギャグも好印象。なんか朝ドラみたいな雰囲気(夜だけど)?どこにどうやって着地させるのか、気になる作品です。なんやかんやでオススメ。

衿沢世衣子『ベランダは難攻不落のラ・フランス』

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 なんとも感想が言いづらい短編集。衿沢さんの本、初めて買ったんだけど、なるほどこういう作風なんですね。何気ない日常のスナップショット、というよりは若干非日常に揺れているのだけれど、その揺れ幅の微妙さが愛おしい。例えば冒頭の「リトロリフレクター」は丘の上の天文台でのボーイミーツガールものだけど、天文台の少女はアポロ15号が月面に置いてきた的にめがけて夜毎レーザーを放つ。「夕べの音楽」は一台の壊れかけたラジカセが、さながら「ハーメルンの笛吹き男」のように子どもたちを行進させせる。かと思えば「市場にて」のように青果市場と神様的な存在を組み合わせるような飛躍する話もあるのが自由さを感じさせる。個人的好きなのが3編の連作「難攻不落商店街」。ちょっと変わった高校生たちの日常ものだけど、何気ない所作やディテールの妙な細かさが作者の面白さを浮かび上がらせている。中でも第2話にあたる「シネマコンプレックス七変化」は映画モティーフで楽しい一品。全体的にアナログ調の柔らかな絵柄が印象的で、特に秀でたアピールポイントを指摘するのが難しいのだけれど、とにかく読んでくれとしか言いようがない作品集。説明しづらいけどおすすめ。

市川春子『宝石の国』第9巻

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 前巻も衝撃的な展開だったけど、今巻もそれに負けず劣らず衝撃的な展開の連続。第一巻の時点ではこんなことになるとは予想できただろうか…。月人と宝石たち、そして物語の軸となるハゲ・コンちゃんの関係が目まぐるしく変化していくので付いていくのが大変。相関図的なものじゃなくて、心情的なレベルの話で。宝石たちの誕生の話とかかなり重要な秘密が明かされたりもするけど、その直後に金剛がコンちゃんになっちゃったりして、このあたりのシリアスさとコミカルさの配分はやっぱり上手いなあ。割と残酷な物語の運びだと思うだけども、この全体のトーンのおかげで深刻にならずに読んでいけるのは良いね。主人公のフォスが頭のいいアホの子だというのもあるけど。フォスがどんどん人間(宝石)離れしてくけど、相変わらずかわいい。今もっとも続きが気になる漫画の一つ。

まとめ:その他良かった本&来月読む本

その他良かった本

福田宏『5分後の世界』第1巻

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 どう見ても『GANTZ』のあばれんぼう星人・おこりんぼう星人編なんだけど、主人公たちがほぼ全く特殊な能力を持っておらず一方的に虐殺されるだけなのでそこは新しい。ただ一つ、主人公だけが「惨劇の起こる5分前に一度だけ戻れる」能力を持っているのがポイントで、5分間でなんとかするために惨劇後の世界でサバイブするというお話。5分でなんとかするってのはなかなかおもしろいと思うんだけど、ご都合主義っぽく着地しちゃうんじゃないかな…。登場人物たちの感情表現がうざいくらい大きくてどうでもいい回想シーンが挟まったりするのが気になるけど、現状では敵味方の戦力差が激しすぎるので緊張感はある(と言いつつ、第1巻ラストに出てきた新キャラは強そう)。

ダン・シモンズ『ハイペリオン』~『エンディミオンの覚醒』(全8巻)

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 中学以来の再読。ハヤカワのKindle半額セールで一気に購入したけど、紙だとえらい量になるのでこういう時電書は便利ですね。今までうろ覚えで語ってたんですけど、再読してスッキリしました。20世紀を代表する傑作ですね。ワイド・ワイド・ワイド・スクリーンバロックって感じの幅の広さにはやはり驚かされます。「エンディミオン」の方は精神論と言うかオカルトチックになっちゃうので若干好みとは外れるのですが、デ・ソヤ神父のような脇を固めるキャラクターやギミックの多様さに没頭してしまいます。ちょっと長いけど、SF初心者におすすめしたい作品群ですね。

かんばまゆこ『迷宮入り探偵』第1巻、第2巻

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 『犯人の犯沢さん』が大人気のかんばまゆこ先生の過去作。あまりにもくだらなくて★5つです!

来月買う本

フィリップ・リーヴ『廃墟都市の復活』(上下)

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 今か今かと待っていた待望の新刊!!都市が自走して捕食しあう「都市間自然淘汰主義」に支配されたポストアポカリプスもの。来年(アメリカは今年の暮れ)には、映画の『モータル・エンジン』も公開予定!一昨年あたりから年初の創元新刊発表会でリストには載ってたんですが、まさかここまで待つことになるとは…。映画の公開に合わせたんですかね?正直、前巻までの話をすっかり忘れてるので予習しないと…。

宮澤伊織『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』

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 間違いないやつ。こないだ買った重機がどう活躍するか楽しみー。早くアニメ化してくれ!

読んだ本一覧

suitikuの本棚 – 2018年10月 (20作品)
オブジェクタム


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