はじめに
映画クラスタでは恒例の年間ベストです。一昨年は劇場で観た全新作125本をランキング形式で紹介したんですけど、今年はめんどくさいので50本にしました。観た総数がちょうど100本というのもありますけど。ちなみに去年はめんどくさくなってサボってしまいました…。
一昨年(2014年)のベスト記事はこちらです。
対象作品について
2016年1月1日から12月31日の間に劇場で公開された長編・短編映画が対象です。イベントでの1回上映や映画祭での上映は含みません。
あ、ちなみに映画祭/イベント上映で観た映画のベスト10記事はこちらになります。よろしければどうぞ!
ベスト50はこんなかんじ!
この世界の片隅に In This Corner of the World130 min
戦争映画なのに劇場では笑い声がそこかしこで上がっていた変な映画。たまたま戦争の時代に生まれてしまった普通の人の物語なんですよねこれ。だから、普通の戦争映画のようにその時々の大局的な戦況が語られるのではなく、すずさんが暮らす呉の空襲が彼女の目線を通して描かれるし、そして日常の中で起きるささやかな事件が観るものの笑いを誘う。隣町に落ちた原爆の悲劇よりも、身近な人物の死に焦点が当てられるのはこの映画が特定の個人に寄り添っているからなのだと思います。そして、『この世界の片隅に』という物語は終戦の日の後も続いていく。原爆投下と終戦という壁を乗り越え、現代と戦時中の日常生活を鮮やかに結びつける、このセンスオブワンダー感!ただただ日々を生きることの美しさ(と困難さ)という時代を超えた普遍性がこの映画にはあります。一方ですずさんという一人の女性が自らの居場所を獲得する物語でもあって、このあたりはマイ・オールタイム・ベスト・オブ・ベストである『アリーテ姫』との繋がりが強く感じられました。
音楽:コトリンゴ
脚本:片渕須直
出演:のん/細谷佳正/尾身美詞/稲葉菜月/牛山茂/新谷真弓/小野大輔/岩井七世/潘めぐみ/小山剛志/津田真澄/京田尚子/佐々木望/塩田朋子/瀬田ひろ美/たちばなことね/世弥きくよ/澁谷天外
海よりもまだ深く 117 min
マイ・オールタイム・ベストが『歩いても歩いても』なのでこれはもう必然なのです。是枝監督らしいこまやかな演出、特にカルピスを凍らせたアイス(薄い!)を作る樹木希林とかカレーうどんのカレーを解凍する樹木希林とか!樹木希林かわいい。『歩いても歩いても』の樹木希林は内に狂気を秘めた演技が素晴らしかったですが、今回は普通のおばあちゃんという感じでしたね。テーマ的には死別の苦しみをいかにして克服するかというものから、「ありうべき現在の不在」をいかに克服するかという、より普遍的なものになっているのも個人的にはポイント高い。とりわけ、劇中の宝くじの扱いにはしびれました。とりあえず生きてみよう、と思える物語ですね。ラストシーンの阿部寛の背中が眩しい。リリー・フランキーや池松壮亮といった役者陣も良かったです。
音楽:ハナレグミ
脚本:是枝裕和
撮影:山崎裕
出演:阿部寛/真木よう子/小林聡美/リリー・フランキー/池松壮亮/吉澤太陽/橋爪功/樹木希林/中村ゆり/高橋和也/小澤征悦/峯村リエ/古舘寛治/葉山奨之/ミッキー・カーチス
パディントン Paddington95 min
ロンドンの普通の一家にクソ気持ち悪いクマがやってきたぞ!といういわゆるエブリデイ・マジックに類する話なのだけど、移民というセンシティブなテーマを一方で取り扱っている点が高評価。単純に観ていても楽しいしね。演出面はちょっとウェス・アンダーソンっぽさを感じたけど、もちろんオリジナリティもたっぷりある。特に良かったシーンは改札に挟まれるとこと、凧のように空を飛んでいる場面。ファンタジーなんだけどどことなく「ありそうだな」と思ってしまう。回想シーンへの入り方も独特で良かった。原作の大ファンだというニコール・キッドマンの怪演も楽しい。
音楽:ニック・ウラタ
脚本:ハーミッシュ・マッコール/ポール・キング
撮影:エリック・ウィルソン
出演:ヒュー・ボネビル/サリー・ホーキンス/ジュリー・ウェオルターズ/ジム・ブロードベント/ピーター・カパルディ/ニコール・キッドマン/ベン・ウィショー(声)/マデリン・ハリス/サミュエル・ジョスリン/イメルダ・スタウントン(声)/マイケル・ガンボン(声)/ティム・ダウニー/サイモン・ファナービー/マット・ルーカス/マット・キング/マイケル・ボンド
シング・ストリート 未来へのうた Sing Street102 min
王道ど真ん中の青春もので観ていて非常に気持ちが良い映画!主演のフェルディアくんがかわいすぎるし、好みの音楽によってコスプレしてるのがほんと楽しい。そして劇中曲のノリの良さがほんと最高!映画館でライブハウスのように身体を動かしたくなったのは初めての経験です。映画館出たあと0.5秒でサントラ買いましたからね!特に良かったのは妄想PVでクソ校長がノリノリの「ドライブ・イット・ライク・ユー・ストール・イット」とラストの「ブラウンシューズ」!そして中盤の海と対比的に描かれる旅立ちの海の荒々しい美しさも素晴らしい。ジャック・レイナー演ずるお兄ちゃんも良かったなあ。『はじまりのうた』とセットで観たいですね!
音楽:ベッキー・ベンサム
脚本:ジョン・カーニー
撮影:ヤーロン・オーバック
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ/ルーシー・ボーイントン/マリア・ドイル・ケネディ/エイダン・ギレン/ジャック・レイナー/ケリー・ソーントン
映画 聲の形 129 min
なんか障害者映画という点が強調されてるのが違和感あるんだけど、この映画はそんな狭い範囲の話ではなくて、「世界(=他者)といかにして向き合うか」という超普遍的なテーマを孕んだ映画だと思っています。硝子の耳が聞こえないという障害は非常にわかりやすいのですけど、他の連中も多かれ少なかれコミュ障ですからね…。多分一番評判が悪い上野さんが一番真摯な人だなあ、と思います。メガネはメガネで本当に無自覚クズでとても良い。世界にはいろんな人がいるのだなあということを再認識させてくれる映画。良かったシーンは葬式のとこですね。制服姿の弓弦もいいし、白い蝶(『歩いても歩いても』だ!)もGood!ああ、あとやっぱり山田監督は足が好きなんだなあ、ということがよくわかりました!
音楽:牛尾憲輔
脚本:吉田玲子
出演:入野自由/早見沙織/悠木碧/小野賢章/金子有希/石川由依/潘めぐみ/豊永利行/松岡茉優
TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ TOO YOUNG TO DIE!125 min
今年劇場で一番笑った映画です。他の人もみんな爆笑してて最高でしたね。人が死んでるのにね!どうせすぐ生き返んだろ、と思いきや…。地獄の安っぽい舞台感も良すぎるし、配役も完璧!特に脇役が素晴らしかった!皆川猿時さんのじゅんこ(女装)とかハマり過ぎだったし、古舘寛治が出てきたときはお前かよーーーーってなりました。最高。ていうか今配役見てたら荒川良々の役「仏」ってw あのディストピア感あふれる天国もお良かったよね〜!片言の荒川良々と瑛蓮がほんと好き。あと最優秀助演動物賞はあのインコで!
脚本:宮藤官九郎
出演:長瀬智也/神木隆之介/尾野真千子/森川葵/桐谷健太/清野菜名/古舘寛治/皆川猿時/シシド・カフカ/清/古田新太/宮沢りえ
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー Rogue One: A Star Wars Story134 min
正直、これまでのシリーズ全部見たはずなんですけどほとんど忘れてるほどのニワカなんですけど、この映画を見たら全部思い出したよ!ほんと!つなぎ映画だからつながるのは当然としても。冒頭のだだっ広い農場惑星の情景から心捕らわれ、デススターによる街の消滅で恐れ戦く。エピソード4だと一瞬で星が砕け散るわけですけど、今回のそれはやられる方の視点で見ているというところが現代的でした。どうせ街が吹っ飛んで終わりでしょ?と思っていたら…。終盤のダースベイダー襲撃と最後の最後まで描写されるバトンに、物語としての強さを感じました。ところで、歴代ドロイドみんな好きですけど、今回のK2-SOは別格!『インターステラー』のTARSっぽいモダンなデザインと人間臭すぎる人格のアンバランス感。あとドニー・イェンのドニー・イェン感も素晴らしかった。お前場違いじゃねえの、とか一瞬思ってほんとごめんなさい!
音楽:マイケル・ジアッキノ
脚本:クリス・ワイツ/トニー・ギルロイ
撮影:グレッグ・フレイザー
出演:フェリシティ・ジョーンズ/ディエゴ・ルナ/ドニー・イェン/ベン・メンデルソーン/マッツ・ミケルセン/アラン・テュディック/チアン・ウェン/リズ・アーメッド/バリーン・ケイン/フォレスト・ウィテカー/ジェームズ・アール・ジョーンズ/ジュネビーブ・オライリー/アリスター・ペトリ/ベン・ダニエルズ/イアン・マッケルヒニー/ダンカン・パウ/バボー・シーセイ
裸足の季節 Mustang94 min
冒頭、制服姿ではしゃぐ姉妹たちをみて「なんだ、トルコの田舎も日本と変わらないんやな」と思ってみていると、日本の常識では考えられないようなことが次々起こっていく。冗談がしだいに現実にとって代わっていく場面はホラーにしか見えず、とてもいやな気分になります…。家がどんどん要塞化していくのもある種バカバカしい場面なんだけど、当人にとっては冗談ではない。抑圧に次ぐ抑圧の場面が続き、息苦しくなる映画。牢獄と化した家を逆手に取った反逆の場面はスッと胸がすく場面ではあるのだけれど、しかし今現在もこうした状況にある女性が世界には大勢いるのだな、という現実に思い至り鬱屈した気分に引き戻されます。とはいうものの、最後の最後にやってくる開放感は素晴らしい。そういえば、これも地方と中央を結ぶ映画ですね。
音楽:ウォーレン・エリス
脚本:デニズ・ガムゼ・エルギュベン/アリス・ウィンクール
撮影:ダービッド・シザレ/エルシン・ギョク
出演:ギュネシ・シェンソイ/ドア・ドゥウシル/トゥーバ・スングルオウル/エリット・イシジャン/イライダ・アクドアン/ニハル・コルダシュ/アイベルク・ペキジャン
君の名は。 107 min
結局3回も観てしまったぞ!みんな観に行きたいって言うからさー。そんな感じで普段映画観ない人も観てましたねー。これまでと違ってしみったれた感じがないからかなあ。前半の入れ替わりは前座として、後半の展開がとにかく圧巻でしたね。監督の参考した作品の一つにコニー・ウィリスの『航路』があるそうですけど、なるほどと思いました。あれも前半は伏線をまくターンで後半がメインですからね。ある大きな悲劇を乗り越えていくというプロットも同じ。映画なのにOPが入ったりするところも僕は好きですね。とりあえず、みんなコニー・ウィリス読もうぜ!!
音楽:RADWIMPS
脚本:新海誠
出演:神木隆之介/上白石萌音/長澤まさみ/市原悦子/成田凌/悠木碧/島崎信長/石川界人/谷花音
ハドソン川の奇跡 Sully96 min
事故自体は数分に満たないものなので、どういう映画になるのかと思って観に行ったわけですが、なるほどこうきましたか。2013年の『フライト』を連想しましたが、あっちとはまた全然違う。『フライト』ではデンゼル・ワシントンがアル中かどうかという点が物語を推進する動力だったわけですけど、こっちでは全員助かっている上にサリー(トム・ハンクス)に過失がなかったことはほぼ確定しているわけで…。あー、どうにもどこが良かったか説明しづらい映画ではあります。物語の渦中にあるサリーと副操縦士ジェフ(アーロン・エッカート)以外の、事故報道の上ではただの数字としか表されないであろう普通の乗客たちのさりげない行動、例えば搭乗前に土産物を買う人々などを描いている点が非常に良かったですね。
音楽:クリスチャン・ジェイコブ/ザ・ティアニー・サットン・バンド
脚本:トッド・コマーニキ
撮影:トム・スターン
出演:トム・ハンクス/アーロン・エッカート/ローラ・リニー/クリス・バウアー/マイク・オマリー/アンナ・ガン/ジェイミー・シェリダン
リップヴァンウィンクルの花嫁 A Bride for Rip Van Winkle180 min
音楽:桑原まこ
脚本:岩井俊二
撮影:神戸千木
出演:黒木華/綾野剛/Cocco/原日出子/地曵豪/りりィ
脚本の伏線回収してないし、SNSの扱いが雑すぎるとか、180分はあまりにも長すぎるだろ、とかいろいろ言いたいことはあるのだけど、黒木華とCoccoがあまりにも可愛すぎるのと岩井監督らしい映像美ですべて許せる大傑作。よく考えると主役二人の関係は『花とアリス』っぽいよね。まあ、よく考えれば『不思議の国のアリス』と同じ異教訪問譚なので、リアリティがないのは当然だとは思いますけども。「現代の御伽噺」というキャッチコピーがしっくりくる話。「アリス」で白ウサギにあたるのが綾野剛ってのがまた面白い(「ランバ・ラルの友達ですから!」って一回使ってみたいよね!)。色々と面白いシーンがありますけど、全てが終わったあとの間白さんの実家のシーンがもう最高!いきなり焼酎かーそうきたか〜って感じ。…でもやっぱり長いよな…。すげえ好きだけど。
ソング・オブ・ザ・シー 海のうた Song of the sea93 min
音楽:ブルーノ・クーレ(Bruno Coulais)/キーラ(Kíla)
脚本:トム・ムーア(Tomm Moore)
出演:デヴィッド・ロウル(David Rawle)/ブレンダン・グレーソン(Brendan Gleeson)/フィオヌラ・フラナガン(Fionnula Flanagan)/リサ・ハニガン(Lisa Hannigan)/ルーシー・オコンネル(Lucy O'Connell)/ジョン・ケニー(Jon Kenny)/Pat Shortt/Colm Ó Snodaigh/Liam Hourican/Kevin Swierszcz
すごく、往年の東映長編ぽいです…。キャラクターも丸っぽいし、話も王道の冒険&成長物語+異種婚姻譚。「わんぱく王子」感ハンパねー!特筆してどこがすごいというのは言いづらいのだけど、とてもそつなくまとまっていてテンポも良い。全体的に良い、というか。主役のガキもいいし妹はかわいいし犬もかわいいし妹もかわいいし…。そういえば、魔女マカは『千と千尋の神隠し』の湯婆婆っぽいですね。物語後半の、人間の暗黒面を単純に否定するのではなく受け止めていくというスタイルにも共感を覚えます。
帰ってきたヒトラー Er ist wieder da116 min
音楽:エニス・ロトホフ
撮影:ハンノ・レンツ
出演:オリバー・マスッチ/ファビアン・ブッシュ/クリストフ・マリア・ヘルプスト/カーチャ・リーマン/フランツィシカ・ウルフ/ラルス・ルドルフ/トマス・ティーマ
「ヒトラー?ああ昔いたキチ○イでしょ?」という常識をあっという間に覆す、ある意味で社会実験的な映画。最近の作品でナチスネタを上手く使っていた作品というと、ティモ・ヴオレンソラ監督のB級風味SF大作『アイアン・スカイ』(2012年)を思い出すんですが、こちらはあれよりも過激。なにしろ、ヒトラー本人が現代にタイムスリップしてバラエティ番組で大人気になるというんだから面白い。序盤こそ、現代とのギャップに戸惑うヒトラーが可愛らしく、そのギャップに笑ってしまうのだけど(フェイスブックでアドルフ・ヒトラーがすでに取られているとかね)、次第に彼は人々の支持を集めていく。道化だった存在が徐々に政治の世界で発言力を持ち始めるという展開は、現実の歴史の再現であり、またこれから先の未来に起こりうる普遍的な危険性でもある(と思っていたらトランプ氏が当選してしまった)。物語は徐々にドキュメンタリーめいた空気を漂わせていくが、最後には完全に劇映画であることを忘れてしまう。今年見た中で最も衝撃的なエンドロールであり、こんなにモザイクがかかってるのもはじめて。これそのものが「ヒトラーという存在を現代社会に放り込んだらどうなるか?」という壮大なドッキリのような映画だ。あ、あと犬を☓☓したシーンは絶対にゆるさないぞヒトラー!!
退屈な日々にさようならを Same Old, Same Old142 min
脚本:今泉力哉
撮影:岩永洋
出演:内堀太郎/松本まりか/矢作優/秋葉美希/猫目はち/りりか/清田智彦/安田茉央
今泉監督の今年の作品はレン(NU'EST)と青柳文子主演の『知らない、ふたり』も抜群に良かったのだけど(特に物語の落とし方が最高!)、より意欲的だったこちらの映画で。いつものような群像劇なのだけれど、今回は時系列が激しく前後したり、軸となる人物が一見すると曖昧でちょっとわかりづらいという印象。なのですが、しかし、このぐちゃぐちゃに見える構成が後半、一気に収束していく気持ちの良さ。130分以上の長尺ですが、前半はともかく、後半は時間を感じさせない面白さがあります。コミカルな場面が多いかと思えば、福島を想起させる場面や人の死が描かれる幅の広さ。飛んだり跳ねたりを繰り返していきたい感じですね。主人公の一人である売れない映画監督のキャラが自虐的というかなんというか…。「こういうやつ業界にいそう」感がハンパない。それにしても、劇中のある人物の死に方はかなり理想的ですね。あんなふうに穏やかに看取られたいっすね。あと婦警さんかわいい。
永い言い訳 124 min
脚本:西川美和
撮影:山崎裕
出演:本木雅弘/竹原ピストル/藤田健心/白鳥玉季/堀内敬子/池松壮亮/黒木華/山田真歩/深津絵里/松岡依都美/岩井秀人/康すおん/戸次重幸/淵上泰史/ジジ・ぶぅ/小林勝也/木村多江/マキタスポーツ/サンキュータツオ/プチ鹿島
是枝裕和監督のお弟子さんというだけあって、あたかも西川美和版『そして、父になる』みたいなお話。特に大宮一家の住む公営住宅の「ああ、こういう家あるある」というあたりで強くそれを感じました。もっとも、これは美術の三ツ松けいこさんの手腕によるところが大きいかもしれないけれど。本木さんがお父さんっぽく奮闘する様も微笑ましかったですが、本当のお父さん(陽一)役の竹原ピストルさんのそれっぽさも抜群に上手かった。メインではないけど、黒木華の演技も目を引きました。「近親者の喪失」をいかにして乗り越えるか、というテーマは比較的よくあるテーマだと思いますが、それが悲しみの共有と疑似家族へとつながっているのが面白いですね。どのシーンも良かったんですが、とりわけ良かったのが誕生日の一幕。ああやっぱり、という残念感。『ありふれた事件』とか『BORUTO』とか思い出しました。あ、あと地味に劇中アニメの「ちゃぷちゃぷチャーリー」がよくできてましたねー。
オーバー・フェンス 112 min
音楽:田中拓人
脚本:高田亮
撮影:近藤龍人
出演:オダギリジョー/蒼井優/松田翔太/北村有起哉/満島真之介/松澤匠/鈴木常吉/優香/塚本晋也
函館三部作の前作にあたる『そこのみにて光輝く』がもうどうしようもなく暗い話だったので(でも好き)、かなり身構えて観に行ったのですが、これがまた随分と爽やかなお話で、スッキリしましたね。タイトルの意味が最後の最後にわかるってのがまた良い。あのラストはあまりにも楽天的でご都合主義的だという人がいるかもしれないけど、それでも疲弊した一人の男が地方都市の日常の中で再生していく物語の終わりとしては実にしっくりくる。メインのオダジョーと蒼井優の演技は実に素晴らしく、特に居酒屋で静かにキレ始めるオダギリジョー、部屋で激情を露わにする蒼井優あたりは印象的だったのだけど、特に推しておきたいのが学校の中の長老的な立場にいる勝間田さん役の鈴木常吉さん。飄々としためんどくさそうな初老の男の演技がとても素晴らしく、脳裏に残る。それにしても近藤龍人さんの撮る画は実に美しいですね。真っ暗な部屋の中とか自転車二人乗りのシーンとか。
淵に立つ 119 min
音楽:小野川浩幸
脚本:深田晃司
撮影:根岸憲一
出演:浅野忠信/筒井真理子/古舘寛治/太賀/篠川桃音/三浦貴大/真広佳奈
ファーストカットから「ああ…深田晃司だァ…」と嬉しくなってしまう。光の加減とか、もう最初から不穏な空気に満ち満ちていて最高っすね。もちろん、謎の男・八坂役の浅野忠信さんも良かったんですが、ここは鈴岡さん役の古舘寛治さん推しで!どの映画でも推してるけど!まー、いつもの古舘寛治じゃんって言われてしまうとそうなんですが、やっぱり印象深い人ですよね。演技してるんだかなんだかわからない感じで。後半の爪切りながら告白するシーンとか、いいですよね…。後半の展開は本当に嫌な気分になるんで、そういうのがダメな人はマジで注意。
機動警察パトレイバーREBOOT min
音楽:川井憲次
脚本:吉浦康裕/伊藤和典
出演:山寺宏一/林原めぐみ
ようやく押井守の呪縛から逃れた、まさに「Reboot」にふさわしい「パトレイバー」。事件の現場が谷中のど真ん中で電線にひっかったり、「僕たちはアニメのヒーローじゃない」なんてセリフが出てくるあたりは伝統的なパトレイバーらしさがあるし、一方で犯人がニコ生で中継していたりするのはとても現代っぽい。レイバーも3Dモデリングでガリガリ動くし。ところで、フォワードの男子、これがまた普通の主人公っぽくないところも良かったですね。野明の爽やかさに太田さんの短気さを混ぜた感じで斬新!隊長とバックアップのポニーテールの子も可愛かったし、これで是非TVシリーズをやってほしい!約8分の掌編だけれども、とても楽しめました。お布施の意味も込めて、7,560円(税込)の劇場限定Blu-ray買っちゃいましたけど、後悔はしていない…。していないぞ…。
残穢 住んではいけない部屋 107 min
音楽:安川午朗
脚本:鈴木謙一
撮影:沖村志宏
出演:竹内結子/橋本愛/佐々木蔵之介/坂口健太郎/滝藤賢一/山下容莉枝/成田凌/吉澤健/不破万作/上田耕一
何がすごいって、普通だったら霊能力者に相談に行くところを市役所に行くところですよね!『リング』でもそうだったけど、不可解な現象をなんとか理詰めで解決しようとする映画。本気で怖がってるのが橋本愛演ずる大学生くらいであとの連中は「これは(心霊的に)いい物件ですねえ」みたいなことを言ってるのが本当に面白い。であるからして最後のあれは蛇足だったよなあ、と思わざるをえないんですよね…。あの安っぽい感じがそれっぽいといえばそうなんですが…。物語のプロローグとして提示されるエピソードがちゃんと伏線になっているのも良かったですね。
SHARING 111 min
脚本:篠崎誠/酒井善三
撮影:秋山由樹
出演:山田キヌヲ/樋井明日香/木村知貴/河村竜也/高橋隆大/兵藤公美/鈴木卓爾/木口健太/清水葉月/小林優斗/吉岡紗良/三坂知絵子/鈴木一希
モティーフは3.11と福島原発なのだけど、予知夢やドッペルゲンガーといったオカルティックな要素を通してミステリータッチで描いているのが新鮮。意外にも『君の名は。』に近い作品だったりします。あの災害で生じた傷をいかにして癒やしていくか、というテーマですが、このセンシティブな主題を上手くエンターテインメントに昇華していると感じました。恋人を震災でなくした女性心理学者を演ずる山田キヌヲさん、震災をテーマにした演劇を演ずる女子大生役の涌井明日香さんが印象的。舞台となった大学のどこか現実離れしたような雰囲気、ぞわりと心をなでつける不協和な音楽、人物を真正面から捉えたカットが多かったのも独特なテイストがありました。
父を探して O Menino e o Mundo80 min
音楽:ナナ・バスコンセロス
脚本:アレ・アブレウ
セリフが全くないし、フォルムも棒人間かのようなのだけど、圧倒的に胸を打つ色彩とイメージの豊かさ。今の日本に溢れるアニメーションとは真逆の方向性なのだけれど、現代の社会を支配する矛盾をえぐり出すテーマには普遍性がある。世界の広さ、様々な人々、辿り着いた都市の持つディテールの美しさと洗練されたディストピア的な残酷さは現実世界のカリカチュアであるし、アニメーションでしか表すことのできない世界だ。ほんのわずかだけ挟まれる実写映像もインパクトがある。そして、現実に呼び戻されるようなあの結末の叙情性。アニメーションの最先端という謳い文句は伊達じゃない。
怒り RAGE142 min
音楽:坂本龍一
脚本:李相日
出演:渡辺謙/森山未來/松山ケンイチ/綾野剛/広瀬すず/宮﨑あおい/妻夫木聡
ストーリーはともかく、役者の演技だけで観ていられる映画。みんな良かったけど、最後に喫茶店で真相を聞かされる妻夫木聡が涙をこらえようと目頭を抑えて頭を揺らすところ、とそのあと街を彷徨するカットがもう最高!「結局犯人は誰なんや!」というミステリー部分も軸になっているわけですが、そこはむしろ表に出ている部分で、本質的なテーマは「信頼と不信」。誰もが陥る可能性があるという点で普遍性を持ったテーマですが、物語全体を俯瞰できる立場にいる観客にとっては、犯人が用意にわからないミステリー仕立ての構成は非常に効果的だったと思います。あー、すごい映画ではあるんですが、中盤に米兵が出てくるあのシーンが本当に嫌なのであまりまた観たい映画ではないです…。
ズートピア Zootopia109 min
音楽:マイケル・ジアッキノ
出演:ジニファー・グッドウィン/ジェイソン・ベイトマン/イドリス・エルバ/ネイト・トレンス/J・K・シモンズ/ジェニー・スレイト/トミー・“タイニー”・リスター/レイモンド・パーシ/オクタビア・スペンサー/シャキーラ/ボニー・ハント/ドン・レイク/モーリス・ラマルシュ/トミー・チョン
主人公のジュディもニックもクソ可愛いし、多種多様な動物たちが暮らすズートピアの様相もアイデアたっぷりで実に楽しい。いわゆる典型的な「バディもの」の類型としても非常に高い完成度を持った作品です。そして、可愛いビジュアルの中に潜む「差別」というテーマに切り込む刃の切れ味たるや!ノーマン・ジュイソン監督の『夜の大捜査線』(1967年)などで典型的ですが、マジョリティとマイノリティの組み合わせが『ズートピア』では草食動物と肉食動物になっていて、この点が動物アニメという表現方法と最高にマッチしていると思います。物語の序盤から伏線はいくつか貼られているわけですけど、まんまと騙されましたねー。動物たちが社会に生きる多種多様な人種や民族、宗教などを象徴していることは容易に想像がつくのですが、もう一つの意図である「差別⇔被差別」の対象をミスリードさせるというのは、なるほどこういう手があったかと膝を打ちました。中盤からの逆転は見事の一言!
サウルの息子 Saul fia107 min
音楽:メリシュ・ラースロー
脚本:ネメシュ・ラースロー/クララ・ロワイエ
撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
出演:ルーリグ・ゲーザ/モルナール・レべンテ/ユルス・レチン/トッド・シャルモン/ジョーテール・シャーンドル
ユダヤ人でありながら収容所で同胞の遺体処理をしていた「ゾンダーコマンダー」を主人公としているので凄惨な内容であるのは予想通りなのだけど、タイトルにもあるようにゾンダーコマンダーたる主人公のサウルが息子(遺体)と対面してしまうため、ただただつらい。ティム・ブレイク・ネルソン監督の『灰の記憶』(2003年)のようなささやかなヒロイズムや希望もない。映画は、息子の遺体を取り戻してユダヤ式の埋葬を施そうとするサウルの奮闘を通して、非人間的な収容所での生活を描く。人間が人から「モノ」へと変わっていくガス室の情景は、どこか屠殺場を連想させる。特徴的なのは、サウルの周りに第三者の視点が纏わりついたかのようなカメラワーク。ハエの目とでも表現すればいいのか、POVともまた違ったせせこましく近距離で動き続ける視線は、収容所内の息苦しさを伝えてくる。現世に現れた地獄とも言うべき場所で同胞の処分をするゾンダーコマンダーは果たして正気でいられるのか?物語の終わりに映し出されるサウルの表情はそれを雄弁に語る。
日本で一番悪い奴ら 135 min
音楽:安川午朗
脚本:池上純哉
撮影:今井孝博
出演:綾野剛/YOUNG DAIS/植野行雄/矢吹春奈/瀧内公美/田中隆三/みのすけ/中村倫也/勝矢/斎藤歩/青木崇高/木下隆行/音尾琢真/ピエール瀧/中村獅童/白石糸
映画『イノセンス』(押井守監督、2004年)の中でバトーが言ったセリフにこんなものがある。「ヤクザの事務所へ行くのにヤクザになる必要はねえが、武器は必要だろう?」。で、この映画は「ヤクザを撲滅するためにヤクザになっちまった」警官たちのお話。まあどこまで脚色してあるのかわからないけれど、とにかく事実は小説より奇なりといった感じでぶっ飛んだエピソードの釣瓶撃ちに爆笑。笑い事じゃないということは重々わかってはいるのだけれど!「銃の摘発件数が足りない!」→「そうだ、ロシアン・マフィアから銃を輸入しよう!」のくだりはほんとズルい。そんなん絶対笑うやん。今でもスピード違反の検挙とかでこういった「件数稼ぎ」みたいなことは横行しているのだと思うけれど、スケールが違いすぎますね。主演の綾野剛のテンション高すぎる演技も素晴らしい。黒岩(中村獅童)と対面する場面でクスリを貪り食べるシーンとかほんと最高!
貞子vs伽椰子 99 min
音楽:遠藤浩ニ
脚本:白石晃士
撮影:四宮秀俊
出演:山本美月/玉城ティナ/佐津川愛美/甲本雅裕/安藤政信/菊地麻衣/田中美里
確かに、怖い。(予想に反して)真っ当に怖いのだけれども、やっぱり「コワすぎ」の白石監督の作品なのである。特にあのキレイすぎるオチ。「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!!」という謳い文句そのままに、貞子と伽椰子が文字通り激突する白石イズムあふれるクライマックスがもう最高すぎるんですよ!例の家で貞子と伽椰子がワンカットで映されるシーンも上手いなあ、と唸ってしまいますし、お金があるとこんな映画も作れるんだ、という意味で白石監督の可能性にも思いを馳せたりしました。それにしても、(NEO様と比べると)そんなに胡散臭くない霊能力者・経蔵(安藤政信)と盲目の幼女・珠緒(菊地麻衣)のコンビ、この映画限りで退場というのはいかにももったいない。次回作とかスピンオフとかで彼らの活躍をもっと観てみたいものです。
ドント・ブリーズ Don't Breathe88 min
音楽:ロケ・バニョス
脚本:フェデ・アルバレス/ロド・サヤゲス
撮影:ペドロ・ルケ
出演:ジェーン・レビ/ディラン・ミネット/ダニエル・ゾバット/スティーブン・ラング
「いやいや、言うても目見えへんのでしょ?そんなん強いわけないやん」と思って観たら普通にクソ強くてワロタw しかも座頭市とかと違って銃撃ってくる上に命中率高え!タイトルに偽り無しというべきか、本当に息をするだけで殺される雰囲気がヤバイですね。そして、殺される側のガキどもが揃いも揃ってクズなので全く後味が悪くないってのも良い。しかもあそこで逃げとけば普通に助かったのに欲深いから泥沼ってのが…(そうでなければ面白くないけど)。というより個人的にはジジイ(スティーブン・ラング)を応援してましたね。まあ、このジジイも後半で相当のサイコパス野郎であることが判明するので、結局クソしかいないという素晴らしい映画でした。あと犬が可愛い。
ブルックリン Brooklyn112 min
音楽:マイケル・ブルック
脚本:ニック・ホーンビィ
撮影:イブ・ベランジェ
出演:シアーシャ・ローナン/ジュリー・ウォルターズ/ドーナル・グリーソン/エモリー・コーエン/ジム・ブロードベント/フィオナ・グラスコット/ジェーン・ブレナン/アイリーン・オイヒギンス/ブリッド・ブレナン/エミリー・ベット・リッカーズ/イブ・マックリン/ノラ=ジェーン・ヌーン/サマンサ・マンロー/ジェシカ・パレ/メラ・キャロン
アイルランドの田舎娘が洗練されたニューヨークにやってくる。年老いた母と彼女の世話をする姉がいる郷里は、大西洋を挟んではるか5000キロの彼方。これでドラマが生まれぬわけがあろうか。
前半の慣れないニューヨークで奮闘し、成長していくエイリシュ(シアーシャ・ローナン)もいいけど、やはり後半に起きる悲劇とそれを乗り越えて行く姿が実に良い。この映画は少女が一人の女性へと成長し、文字通り巣立っていく話なのだけど、やはり最後の「決断」にはグッと来るものがありますね。前に進むためには何かを捨てなければいけないという。独身の人的には実家に帰る度に結婚についてあれこれ言われるシーンがオーバーラップするかも。1回目と2回目の渡米の際に同じ場面が繰り返されるのも、ベタなんだけどいいですよねえ…。あとフラッド神父役のジム・ブロードベントもいい!
団地 The Projects103 min
音楽:安川午朗
撮影:大塚亮
出演:藤山直美/岸部一徳/大楠道代/石橋蓮司/斎藤工
団地の人間模様とSF的要素が交差する。どこか藤子・F・不二雄のSF短編を思い起こさせるテイストですね。主人公の清治(岸部一徳)の作る漢方薬が異星人にとっては命綱となってるところとかね。ビジュアル的には最後の最後までSF的なところはほとんどないんだけども。基本的に軽快でコミカルなコメディであることはそうなのだけど、次第に「死」の匂いが濃厚になっていくあたりもフジコ的。終盤までの団地の人間模様をめぐるあれこれ、特に行徳さん夫婦(石橋蓮司と大楠道代)の壮絶な勘違いと自治会長選挙のあたりも良かったのだけど、クライマックスはやはり清治の妻・ヒナ子(藤山直美)が下界に向かって大声で呼びかけるシーンですよ。彼岸と此岸をあれほどのんびりと結びつける感覚の瑞々しさが素晴らしい!
アンフレンデッド Unfriended83 min
脚本:ネルソン・グリーブス
撮影:アダム・シッドマン
出演:シェリー・ヘニッヒ/モーゼス・ストーム/レニー・オルステッド/ウィル・ペルツ/ジェイコブ・ワイソッキ/コートニー・ハルバーソン/ヘザー・ソッサマン
看板に偽りなし!本当にパソコンの画面だけで話が進行していく。画面の外が見れなくてもどかしいという気持ちもちょっとありつつ、スクリーンだけで完結させてしまうアイデアと演出に感動しましたね。文字を打っては消し、送信ボタンを押すの押さないので逡巡し…。主人公の心の有り様を映し出す手法の面白さと巧みさ!そして『金田一少年の事件簿』方式でウインドウの向こう側でどんどん死んでいく登場人物たち笑 本当に「デデーン、アウトーー!」みたいなノリで脱落していくし、みんなクソみたいな連中なのでいっそ清々しい。死に方は物理的な何かがくるのではなくて、呪いパターン。自分をミキサーにかけたやつが一番痛そうでした。
クリーピー 偽りの隣人 130 min
音楽:羽深由理
脚本:黒沢清/池田千尋
撮影:芦澤明子
出演:西島秀俊/竹内結子/川口春奈/東出昌大/香川照之/藤野涼子/戸田昌宏/馬場徹/最所美咲/笹野高史
いかにも黒沢清監督らしい映画であり、『ゆれる』を思い出させる香川照之の素晴らしい演技が印象に残る。香川さんは「まともそうだけど実はヤバイ」人の演技が上手いなあ。事件の異常さ(どこか「北九州市監禁事件」を連想する)も際立っているけど、黒沢監督の演出と芦澤明子さんのカメラワークがさらに素晴らしい。リアリティのある画面が途端に胡散臭くなる虚実の妙。中盤の研究室での演劇的ライティングには思わず息を飲むし、二人の刑事が罠にはまっていく後半の場面は「B級サスペンス映画かよ!」と思わずツッコミを入れたくなってしまう。特に笹野高史演ずるベテラン刑事・谷本が穴に落ちるシーンは完全にギャグ。なのだけど、そういうチグハグさ、微妙な混乱を生む演出がむしろ気持ちが良い。そして最後のあっけない幕引き。西野に翻弄される高倉夫妻(西島秀俊と竹内結子)も良かったなあ。真っ昼間からヤクキメる竹内結子エロくて最高!
RWBY Volume3 180 min
音楽:ジェフ・ウィリアムズ
脚本:マイルズ・ルナ/モンティ・オウム/ケリー・ショウクロス
出演:早見沙織/日笠陽子/嶋村侑/小清水亜美/下野紘/伊藤静/洲崎綾/斉藤壮馬/前野智昭/中島ヨシキ/潘めぐみ/川澄綾子/甲斐田裕子/三木眞一郎/井上麻里奈/緑川光/中村悠一/井上和彦/浅野真澄/てらそままさき/平田広明/堀内賢雄/井上喜久子
え、なにこれは(ドン引き)。前回までのほわほわした雰囲気も中盤まで続いてるんですけど、最後の30分がマジでヤバイ。物語が一気に音を立てて動きだすのはいいんですが、とりあえず俺のペニーちゃん元通りにしてくれよ!ペ・ニ・ー!ペ・ニ・ー!ほかにも絶対死ななそうなやつが退場したり腕吹っ飛んで寝込んだりするからやべえ!観終わったあとめっちゃどんよりしましたからね。さすがにあのノーラでさえ意気消沈してたもんなあ…。ここからどうやって挽回していくのか、色んな意味でvol.4が待ち遠しいですね。
シン・ゴジラ SHIN GODZILLA120 min
音楽:鷺巣詩郎
脚本:庵野秀明/樋口真嗣
出演:長谷川博己/竹野内豊/石原さとみ/高良健吾/松尾諭/市川実日子/余貴美子/國村隼/平泉成/柄本明/大杉漣
最初に蒲田くんが出てきた時は「あれ?スクリーン間違えて入っちゃったかな?」と思ったほどの衝撃でしたが、これは紛れもないゴジラ映画!あのどこか間抜けな第一形態が津波の脅威、第四形態が放射能の恐怖という、ゴジラの進化に合わせて震災と原発事故を表象するという脚本の巧みさにも驚いたし、そこかしこにあふれる庵野さんらしい演出がとても楽しい。特に放射熱線の発射プロセスは「あんなんでもいいんか!」という驚きがありました。あそこ、どうしても原作巨神兵を連想しますよねー。あと無人在来線爆弾ね!あの発想はなかった!(笑 そして何よりゴジラを抜かした人間ドラマだけ観ていてもとても面白い。プロセスに萌えるってのはすごくヲタク的な傾向だと思うんですけど(ヤマトの波動砲発射シークエンスとか)、それを一般の観客が楽しめるように落とし込んだ手腕には脱帽ですね。続編が早く観たい!(今年の『ゴジラ 怪獣惑星』の公開あたりで発表されるような気がする!)
ディストラクション・ベイビーズ 108 min
音楽:向井秀徳
脚本:真利子哲也/喜安浩平
撮影:佐々木靖之
出演:柳楽優弥/菅田将暉/小松菜奈/村上虹郎/池松壮亮/北村匠海/岩瀬亮/キャンディ・ワン テイ龍進/岡山天音/吉村界人/三浦誠己/でんでん
柳楽優弥はデビュー作である『誰も知らない』の時点で、すでに卓越した演技力のある若手俳優だった印象だけど、この映画はさらに凄まじい演技をみせてくれる。映画の筋としては主人公である芦原(柳楽優弥)と相棒の北原(菅田将暉)が市井の人々をボコボコにしつつ旅をするロードムービーというかチンピラぶらり旅と言うか…。北原の方はなんとなく目的のようなものが見え隠れするのに対して、芦原は虚無と倦怠感の塊。無表情の皮の下からドス黒い暴力性を滲み出させるこの狂人を演ずる柳楽の狂気の演技に圧倒される。現代の地方に住まう若者のやるせなさを端的に表現した作品の一つとしても観れようか。脇を固める若手俳優陣、特に菅田将暉と小松菜奈もいい味を出している。
孤独のススメ Matterhorn86 min
脚本:ディーデリク・エビンゲ
出演:トン・カス/ロネ・ファント・ホフ/ポーギー・フランセ/アリーアネ・シュルター
偏屈ジジイと自由人ジジイがふとしたきっかけで出会い、二人暮らしを通じて融和していくという個人的に大好物なやつ。主人公のフレッド(トン・カス)は消えてしまった妻と息子との過去を反芻しながら単調な日々を生きる孤独な男、そしてそこに闖入者として現れる物言わぬ男・テオ(ロネ・ファント・ホフ)。組み合わせが対照的なのは定番だけれども、ここに周囲からの圧力がかかってくるから面白い。ひとつ屋根の下で暮らす二人に対し、近所の人々はゲイだと囃し立てる。信頼していた神父にも糾弾され、そして自らの偏狭さに気付くフレッド。消えてしまった息子はどこへ行ったのか?そしてその原因は?しこりのように残っていた謎とわだかまりが一気に消えてしまうクライマックスの開放感と希望にあふれたエピローグ。
オートマタ Automata109 min
音楽:ザカリアス・M・デ・ラ・リバ
脚本:ガベ・イバニェス
撮影:アレハンドロ・マルティネス
出演:アントニオ・バンデラス/ビアギッテ・ヨート・スレンセン/メラニー・グリフィス/ディラン・マクダーモット/ロバート・フォスター
映画としての出来で言えばちょうど同じような題材を扱ったアレックス・ガーランド監督の『エクス・マキナ』の方が圧倒的に上なんですが、あえて泥臭いこちらを推します!太陽フレアの影響により人類の99.7%が死滅した近未来都市の状況はどうしたって『ブレード・ランナー』を思い出さずにはいられないのだけど、あちらが重酸性雨の降りしきる都市が舞台なら、こっちは乾いた荒野を障害者ロボットたちが往く。そして、人間とロボットの世代交代の話でもある。かの名作、アシモフの『鋼鉄都市』ではロボット三原則がミステリーとしての軸となっているわけですが、こちらの規則は「生命に危害を加えてはならない」「自他のロボットの改造を行ってはならない」の二つ。さて、これをいかにしてかいくぐってロボットたちは進化していくのか。ぎこちなく踊るロボット、自殺(自壊)するロボット、谷を越えていく新しい生命たち、そして仮面を棄てる。メタファーに富んだ素晴らしい未来の物語。
イレブン・ミニッツ 11 minutes81 min
音楽:パベウ・ミキェティン
脚本:イエジー・スコリモフスキ
撮影:ミコワイ・ウェプコスキ
出演:リチャード・ドーマー/ボイチェフ・メツファルドフスキ/パウリナ・ハプコ/アンジェイ・ヒラ/ダビド・オグロドニク/アガタ・ブゼク/ピョートル・グロバツキ/アンナ・マリア・ブチェク/ヤン・ノビツキ/ウカシュ・シコラ/イフィ・ウデ/マテウシュ・コシチュキェビチ/グラジナ・ブウェンツカ=コルスカ/ヤヌシュ・ハビョル
11分間の出来事を様々な人々の視点を通じて描いた群像劇であり、楽しい大人の残酷ピタゴラスイッチ。あまり罪のないホットドッグ屋のおやじがとバイク便やってる息子が可愛そうだったなー。オチがあんな感じになるのは途中でわかると思うんだけど、それにしても伏線の貼り方が上手い。ちょっとしたすれ違いが惨事につながるというあたりはドラマティックではあるもののしっかりとした現実感がある。あと、下の長めのレビューでも言及したけど、「音」の扱いが面白いですね。この画面が物語のどのあたりにあるのかがわかるようになっている上に、結末をミスリードさせるような音が入っているのも面白い。こういうのは結末がわかっていても再び見ると面白いのだよなあ。
映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃 97 min
脚本:劇団ひとり/高橋渉
出演:矢島晶子/ならはしみき/藤原啓治/こおろぎさとみ/川田妙子/安田顕/吉瀬美智子/とにかく明るい安村/大和田獏
毎年安定したクオリティのクレしんシリーズですが、今年も良かったですねー。まずヒロインのサキちゃんが可愛い!すげえ黒歴史作りそうな幼稚園児でぱっと見サークラっぽいんですけど、サークラどころか地方自治体クラッシャーだったという笑 クレしんのヒロインで同年代ってのはそれなりに珍しいっすね。夢の世界のデタラメさも面白いし、いわゆる「夢の世界」と悪夢の世界の両面が描かれているのも良かった。夢という点ではシュルレアリスム的な世界観なんだけど、ダリというよりはボス的な世界ですね。魚とか。明確な倒すべき敵がいないのもクレしん映画としては珍しい。それに当たるのが「亡き母の幻影」なんだけど、ふと思い出したのは『ペルソナ5』の双葉のエピソードですね。「家族」はクレしんシリーズにおいて中核とも言えるテーマの一つですが、この映画では、典型的な家族像である野原一家と対になるように父子家庭である貫庭玉家が置かれるわけですが、彼らの抱える「母の不在」を軸に物語が進んでいくことで、これまで繰り返し描かれてきたテーマがまた別の角度から再演されることになります。このあたり、脚本を担当した劇団ひとりさんの手腕がうかがえますね。家族というテーマを通して一人の少女が「呪い」から解放されるという展開も実に気持ちが良いのです。
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 Batman v Superman: Dawn of Justice152 min
音楽:ハンス・ジマー/ジャンキー・XL
脚本:クリス・テリオ/デビッド・S・ゴイヤー
撮影:ラリー・フォン
出演:ベン・アフレック/ヘンリー・カビル/エイミー・アダムス/ジェシー・アイゼンバーグ/ダイアン・レイン/ローレンス・フィッシュバーン/ジェレミー・アイアンズ/ホリー・ハンター/ガル・ギャドット/TAO/スクート・マクネイリー/カラン・マルベイ/ローレン・コーハン/マイケル・シャノン/リプリー・ソーボ/レベッカ・ブラー/ハリー・レニックス/ケビン・コスナー/レイ・フィッシャー/エズラ・ミラー/ジェイソン・モモア
9.11を彷彿とさせるスーパーマンvsゾッド将軍のオープニングでまず1億点!『マン・オブ・スティール』のクライマックスシーンを市井の人間の目から見るとこういう感じなのか、という新鮮さと暴力装置としてのスーパーマンの持つ危うさ。結局のところ、ビルが崩れてくる側に立っている人間にとっては、テロリストが旅客機で突っ込んでくるのも正義の味方が悪と戦った結果として街が崩壊するのも大差ないわけですね。そして、この事件がバットマンを復讐に駆り立てるという物語の原動力になってもいるという脚本の巧さ。やっぱり復讐劇というのは物語として力強いですね。さらに言うなら、バットマンは大富豪ではあるけれど、何の特殊能力も持っていないわけで、クリプトナイトの存在を知っていても、どうやって対抗していくのかというハラハラドキドキ感がたまりませんね。あと元々柄が悪かったけど、今作のバットマン、マジで不良中年という感じでめちゃ好みですね。ベン・アフレックもめっちゃいいやん!あとガル・ガドットのワンダーウーマンも最高!というかあそこがクライマックスでは??おっさん二人の見せ場を奪っていくワンダーウーマン。いいぞ!
ONE PIECE FILM GOLD 119 min
音楽:林ゆうき
脚本:黒岩勉
出演:田中真弓/中井和哉/岡村明美/山口勝平/平田広明/大谷育江/山口由里子/矢尾一樹/チョー/山路和弘/満島ひかり/濱田岳/菜々緒/北大路欣也/ケンドーコバヤシ/古田新太/コロッケ/ナダル/佐藤ありさ/西野七瀬/三吉彩花/成田凌/武田玲奈/坂本千夏/渡辺菜生子/高木渉/檜山修之/櫻井孝宏/魏涼子/竹中直人/三村マサカズ
何が良かったって、これディストピアものなんですよね。テゾーロの街は監視カメラ(映像電伝虫)だらけだし、どこかラングのメトロポリスっぽいし。クライマックスでは金によって支配されていた民衆が蜂起する!GOLDというタイトルそのままに金づくしなんだけど、きちんと裏表を描いているのが良かったですね。オープニングのダンスからカジノのダイナミックなイメージ、『チキチキマシン猛レース』を連想する迫力のカメ車レース、金庫を狙う『オーシャンズイレブン』的なクライム・アクションの楽しさ。テンポよくどんどんネタが繰り出されてくるので全く飽きない!ゲストキャラもみんな良かったなあ。テゾーロの過去はあの尺で語るのは短いよなあとは思いましたけど、きちんと描きたいという意志は伝わってきたし。あと濱田岳のタナカさんが実にハマってました。あの口癖は移るわ〜。あの体型で拳銃が武器だし、能力も使い方が面白い。ラキラキの実の能力者であるバカラの攻略法も感心したなー。やっぱりウソップはああいう役回りですよねえ。ラストの戦いのロボットアニメ感というか怪獣映画っぽさも盛り上がって大満足の一本!
ルーム Room118 min
音楽:スティーブン・レニックス
脚本:エマ・ドナヒュー
撮影:ダニー・コーエン
出演:ブリー・ラーソン/ジェイコブ・トレンブレイ/ジョアン・アレン/ショーン・ブリジャース/ウィリアム・H・メイシー/トム・マッカムス
異常者に監禁された母子が辛くも脱出するまでを描いたクライムサスペンス活劇かと思いきや、本編は脱出してから始まるのだった…。予告編からは予想もつかなかった濃厚な心理ドラマに圧倒されます。外の世界を知りつつ監禁されていたジョイ(ブリー・ラーソン)と生まれたときから「ルーム」が世界の全てだったジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)。果たして、ルームを脱出した先にあるのは自由なのか?次第に「ルーム」の内側と外側がアナロジカルに見えてくる脚本が素晴らしい。後半はもちろん、前半の監禁されているパートも良かったですね。特にその小部屋を世界のすべてだと思いこんでいるジャックには、不謹慎ながらSFっぽさを感じてしまいました。
マジカル・ガール Magical Girl127 min
脚本:カルロス・ベルムト
撮影:サンティアゴ・ラカハ
出演:バルバラ・レニー/ルシア・ポシャン/ホセ・サクリスタン/ルイス・ベルメホ/イスラエル・エレハルデ/エリサベト・ヘラベルト
「日本の魔法少女アニメにドハマリした少女が人間関係をめちゃくちゃにする」という設定だけでもお腹いっぱいなんだけど、さらにすごいのは脚本の複雑さと構成の巧みさ!白血病少女と親父の話がいきなりぶった切られたと思ったら以外なところで繋がっていく。というのが2度3度あって、中盤では頭のなかで色んな糸が絡み合って収集がつかなくなり、そして物語の終わりできれいに解けていく。どのパートの人物も魅力的で深みがある。彼らの過去をさらりと描写していく演出もいい。親父のルイス(ルイス・ベルメホ)がまあいいキャラなんだけど、娘のためにネットで「魔法少女ユキコ」のコスチュームを探し、その値段に頭を抱えるシーンがキュートでしたねー。善良な彼が娘を思ってどんどん悪堕ちしていくあたりは、監督が影響を受けたという『魔法少女まどか☆マギカ』そのまま!そういえば、謎の女バルバラ(バルバラ・レニー)が向かう「トカゲの部屋」にもまどマギの例のマーク(叛逆を観た人ならわかる)があったりしました。それにしても、演歌っぽい魔法少女アニメの主題歌が流れる悲劇的なエンディングの衝撃はすごかった…。
ロブスター The Lobster118 min
脚本:ヨルゴス・ランティモス/エフティミス・フィリプ
撮影:ティミオス・バカタキス
出演:コリン・ファレル/レイチェル・ワイズ/レア・セドゥー/ベン・ウィショー/ジョン・C・ライリー/ジェシカ・バーデン/オリビア・コールマン/アシュレー・ジェンセン/アリアンヌ・ラベッド/アンゲリキ・パプーリァ/マイケル・スマイリー/ジャクリーン・エイブラムス
「ホテルで45日以内に配偶者を見つけないと動物にされてしまう」という、こいつもまたぶっとんだ設定のSFでしかも恋愛映画。そして『マジカルガール』と同じように冴えない中年男が奮闘します。主人公のデイヴィッドは『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』で敵役パーシバル役を演じたコリン・ファレルなんですけど、醸し出されるパッとしない感たるや!同じ人物とは思えないですね。都市から隔絶されたホテル、逃亡者たちが暮らす森、現実感の乏しい前者に対して車が走り回りファミレスでガキがはしゃいでいる都市の日常感。デイヴィッドはホテル、森、都市と点々としていくのだけど、非日常から日常に帰ってくるというあたり、「逆『不思議の国のアリス』」っぽい。人間の自由が制限されているところからはディストピアSFの要素も垣間見える。ところで、物語の最後で、デイヴィッドが”近眼の女”(レイチェル・ワイズ)と「同じように」なろうとするシーンで思い出したのは草野なつか監督の『螺旋銀河』。結局あのあと、彼らがどうなったのかが明確にはわからない余韻を残す幕引きも素敵な映画。
アイアムアヒーロー 127 min
音楽:Nima Fakhrara
脚本:野木亜紀子
撮影:河津太郎
出演:大泉洋/有村架純/長澤まさみ/吉沢悠/岡田義徳/片瀬那奈/片桐仁/マキタスポーツ/塚地武雅/徳井優/風間トオル
もうクライマックスの英雄vsゾンビの群れだけで1億点くらいあげたいですね!原作と同じで銃持ってるのにほんと終盤まで撃たないんですよ。ある意味教科書的なフラストレーションの爆発のさせた方なんですけど、いやー良かった!しかも「コレ、R15+で大丈夫なんか??!」と思わず心配してしまう強烈なゴア描写。頭なんかパンパン弾けますからねー。一般大衆向けの映画でここまで徹底的に人体を破壊したのは、久々じゃないですか?園子温監督の『地獄でなぜ悪い』とかもすごかったけども。映画ではチョイ役だったアスリートゾンビ(あー、あとあのアウトレットモールの情景もよかったなー)がラスボスの位置なんですけどキャラ立ってましたねー。美しい。大泉洋もはまり役だし、有村架純は可愛いし、最高では??日常から非日常へとシフトしていく場面で、加速度的に緊迫感が増していくテンポの良さもこれまでにない面白さでした。
太陽 129 min
音楽:林祐介
脚本:入江悠/前川知大
撮影:近藤龍人
出演:神木隆之介/門脇麦/古川雄輝/綾田俊樹/水田航生/高橋和也/森口瑤子/村上淳/中村優子/鶴見辰吾/古舘寛治
野暮ったいほどのステロタイプな差別-被差別構造が鼻を突くけれども、これはこれで泥臭くて好きですね。今年は同じテーマをよりモダンにスタイリッシュに描いた傑作『ズートピア』があったので、テーマだけ見てしまうとどうしても見劣りしてしまうのはしょうがないと思います。それよりも、ただの寂れた農村風景をサイレンとアナウンス、ゲートといった小物でSFの舞台に仕立て上げたアイデアに拍手を贈りたいですね。経済制裁を受けているという設定なのだけど、あまりにも昭和の寒村(電気が通ってない!)すぎてちょっと笑ってしまった。これくらい徹底してたほうがSFっぽいよね。ヒロインの結(門脇舞)の父親役の古舘寛治がやはり良い。最後のゲートでの別れの場面でのマフラーのやり取りとか、あの絶妙な演技!近藤龍人さんの撮影も素晴らしい。後半起きる惨劇をパンで一画面に収めるあたりとか印象深いですね。あ、でも最後の神木隆之介くんが泣き叫ぶのは余計だったんじゃないかなあ…。あそこでちょっと白けるよね…。あれが良いという人の気持ちもわかりますけれど!
イット・フォローズ It Follows100 min
音楽:リチャード・ブリーランド
脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
撮影:マイケル・ジオラキス
出演:マイカ・モンロー/キーア・ギルクリスト/ダニエル・ゾバット/ジェイク・ウィアリー/オリビア・ルッカルディ/リリー・セーペ
「ヤルと感染する」という設定がまず面白いのだけど、B級映画ライクなチープな演出になっていないのはさすが『アメリカンスリープオーバー』の監督というべきか。そういえば「IT」に追いかけられてお泊まり会(籠城)もありますねwで、肝心の追いかけてくるやつもまた面白くて。基本徒歩(っていうか徒歩オンリー)で地道にやってくるんですが、外見ほんとにフツーの人だから逆に気持ち悪さマシマシ。物理攻撃もできるし、頭もいい。でも無言で無表情という、日常の中にほんの少し非日常を挿入したかのような違和感。屋根の上のやつが一番ゾクッときましたね。
スーサイド・スクワッド Suicide Squad123 min
音楽:スティーブン・プライス
脚本:デビッド・エアー
撮影:ロマン・バシャノフ
出演:ウィル・スミス/ジャレッド・レト/マーゴット・ロビー/ジョエル・キナマン/ビオラ・デイビス/ジェイ・コートニー/ジェイ・ヘルナンデス/アドウェール・アキノエ=アグバエ/アイク・バリンホルツ/スコット・イーストウッド/カーラ・デルビーニュ/アダム・ビーチ/福原かれん/コモン/シェイリン・ピエール=ディクソン
いやー、これ評判最悪でしたねー笑 映画クラスタでもけちょんけちょんに言われてて…。でもなんか憎めないんですよね。確かに、クソ強いエンチャントレスに対抗するのにこのメンツはありえねーよなー。ディアボロ(ジェイ・ヘルナンデス)の炎とキラー・クロック(アドウェール・アキノエ=アグバエ)の超身体能力はすごいんだけど制御がしょぼいし、あとはブーメラン野郎とかただのスーパー狙撃手とか…。ハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)は本当にただの金属バット持った痴女ですからね…。可愛いけど。でもほら、ほとんど大した能力もない連中が強大な敵に立ち向かっていく的なやつ、みんな好きでしょ???こっちは脳筋しかいないから基本突撃パターンであまり盛り上がらないんだけどさ…。ただ、悪役がより強大な悪に向かっていく中で垣間見せる人間らしさ、そういうのが描かれていたのは良かったですね。あとエンチャントレスの変身シーンのゾワっとする気持ち悪い滑らかな感じが素晴らしかった。
ペット The Secret Life of Pets91 min
音楽:アレクサンドル・デプラ
脚本:ブライアン・リンチ/シンコ・ポール/ケン・ダウリオ
出演:ルイス・C・K(設楽統)/エリック・ストーンストリート(日村勇紀)/ケビン・ハート(中尾隆聖)/ジェニー・スレイト(沢城みゆき)/エリー・ケンパー(佐藤栞里)/レイク・ベル(永作博美)/ダナ・カービ/ハンニバル・バレス/ボビー・モナハン/スティーブ・クーガン/アルバート・ブルックス(宮野真守)
「元ペット団」マジサイコーー!特にリーダーのスノーボール(クソウサギ)!「飼い主を殺す度に10セントもらってたら……いまごろ10セントだな。一人しか殺してないし」とかマジ最高!!死ぬまでに言ってみたいセリフトップ10には入るね!言ってみてえー!あとウインナー工場で盛大にトリップしてる場面とか、子ども向けだっけコレ???ヤバイ。まあそれはともかくマックスとデュークのバディもの冒険活劇としてみてもいいし、都市の中で文明社会を享受する動物たちと人間たちとの関係に注目してもいいし、あと普通に動物たちが可愛い!特にデブ猫(クロエ)。
好きにならずにいられない Fusi94 min
音楽:スロウブロウ
脚本:ダーグル・カウリ
撮影:ラスムス・ビデベック
出演:グンナル・ヨンソン/リムル・クリスチャンスドッティル/シガージョン・キャルタンソン/マーグレット・ヘルガ・ヨハンスドッティル/アルナル・ヨンソン/フランチスカ・ウナ・ダグスドッティル
原題は主人公フーシ(グンナル・ヨンソン)の名前そのままの”Fusi”で、なんでこの邦題?と思っていたのだけど、観終わった後にはなるほどと膝を打つ。(一応)恋愛映画だからフーシの気持ちを表したものかと思いきや、観客目線なんですよね、これ。確かにフーシの視線に寄り添っていくと最後には彼のことが愛おしくなっていること必至。43歳童貞という要素にだけ注目するとかなりの限界ヲタク感があって、そりゃ近所の幼女と戯れてたら通報もされるよな、とは思うのですが、これがまた絵に描いたようなピュアな男なんですよね。限界ヲタクなんだけど全然拗らせてない。新鮮!で、この彼がダンス教室で出会った女性(リムル・クリスチャンスドッティル)に恋をするわけですが、初食事デートで行きつけのよくわからないレストラン(飯は美味そうだけどなんか薄暗くて小汚いの)に連れて行ったり、彼女が旅行に行ってみたいと漏らせば即旅行代理店に行ってみたり(この時点で付き合ってないです)と、ヲタクらしい行動が微笑ましくも痛々しい。普通の恋愛映画なら色々なトラブルがありつつも、最後はハッピーエンドですが、さてこの映画は…。でもそれが人生ってもんですよね。
独裁者と小さな孫 The President119 min
音楽:グジャ・ブルドゥリ/タジダール・ジュネイド
脚本:モフセン・マフマルバフ/マルズィエ・メシュキニ
撮影:コンスタンチン=ミンディア・エサゼ
出演:ミシャ・ゴミアシュビリ/ダチ・オルウェラシュビリ/ラ・スキタシュビリ/グジャ・ブルデュリ/ズラ・ベガリシュビリ/ラシャ・ラミシュビリ
信じがたいことにこの映画、googleで検索すると「ドラマ/コメディ」に分類されてるんですよ…!観た人ならわかると思いますけど、内容真逆ですからね。このジャンル分類と「独裁者とその孫が革命によってその座を追われ、逃亡生活をする」というあらすじだけ聞くと、面白おかしいハートフル珍道中みたいなのを想像するかもしれませんが、さにあらず。笑えるのなんて、冒頭の明かりを消したりつけたりする場面とか立ち小便のとこくらいで、これまで抑圧されてた民衆は大統領絶対殺すマンになって襲い掛かってくるし、軍の検閲所では花嫁が兵士にレイプされてるし、もうホント無理。一番心に来たのは家族と再会する政治犯のエピソードですね。逃亡の途中、大統領(ミシャ・ゴミアシュヴィリ)はかつて自分が投獄した政治犯の一団と行動を共にすることになるんですが、その中のひとりが自分の息子を暗殺した男だったりして、お互いに加害者であり被害者でもあるという凄まじい状況。で、この彼が5年ぶりに妻と再会するということで一緒に家に行くのですが…。嫌な話もここに極まれりといった感じですね。全編に渡って悲劇が続いていくのですが、物語の最後には仄かな希望のようなものが見えるのが全体の印象を良くしていると思います。果たして、暴力の連鎖は止まるのか?大統領の運命やいかに。独裁者を作り上げるのはいつだって無垢な民衆だという政治犯の叫びが印象に残ります。
まとめ!
今年もいい映画が多かったですけど、特にベスト3は別格でしたね。片渕須直監督は『アリーテ姫』が依然としてマイ・ベストなんですけれど、『この世界の片隅に』は世間的にも興行的にもヒットしたし、これでどんどん評価が高くなっていく予感がします。この映画もそうでしたけど、アニメが強かった印象。『君の名は。』は普段映画観ない人も観に行ってましたし。50本中23本が邦画(アニメ含む)ということで、相変わらず(個人的には)邦画がツボなようです。ランク外の作品で印象に残っているのはリリー・フランキーさん主演の『シェル・コレクター』とかアレックス・ガーランド監督の『エクス・マキナ』あたりですね。2017年も映画たくさん観たいと思います!