今回は『鉄コン筋クリート』記念!「STUDIO4℃」特集です。4℃って結構特殊な会社のイメージがあるのでこういう特集は嬉しいですね。トークゲストは名プロデューサー・田中栄子さんと安藤裕章監督ですが、お二人ともお名前は聞くのですが生で拝見したことなかったので、個人的にはかなりサプライズでした!そういえば、先日のSF/3DCGアニメ特集1の時に『劇場版 シドニアの騎士』の安藤監督だけいらっしゃらなかったので今回で補完できた感じですね。あと前々回の大友克洋特集2でもお話が出ていましたし。ゆるくつながってますね。

 「アニメファンなら観ておきたい200本」は今回で4回目。今回の4本を含めて計15本になります。これまでに選ばれた作品は以下の通り。

  1. 『ユンカース・カム・ヒア』(vol.70)
  2. 『アリーテ姫』(vol.70)
  3. 『ボビーに首ったけ』(vol.70)
  4. 『グリム童話 金の鳥』(vol.70)
  5. 『わんぱく王子の大蛇退治』(vol.74)
  6. 『太陽の王子ホルスの大冒険』(vol.74)
  7. 『長靴をはいた猫』(vol.74)
  8. 『空飛ぶゆうれい船』(vol.74)
  9. 『AKIRA』(vol.78)
  10. 『MEMORIES』(vol.78)
  11. 『スチームボーイ』(vol.78)

 前回の「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol.79 押井守映画祭2016 第一夜「パトレイバー TOKYO WARS編」」のレポートはこちらになります。

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

登壇者

田中栄子さん(STUDIO4℃代表取締役。名プロデューサー。以下「」)

安藤裕章さん(『鉄コン筋クリート』の演出。最近だと『亜人』の監督とかやられてる方。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

新文芸坐・花俟さんによる前説

花 今回は鉄コンが10周年ということでこのような企画になりました。10年です。私も老眼になりました。

「時限爆弾」は宇宙!

田 さっきラーメン食べたら眠くなってきました。

小 アニメ界の大物プロデューサーですよ。トークショーの途中で眠くなってきちゃうという…。

田 皆さんもがんばってください!途中で眠くなっちゃうかもしれないけど…。

小 でも良い作品ですよね(『Genius Party Beyond』)。さっきも楽屋で言ってましたけど。

安 あの作品3、あまり解説されてないんですよね。プロデューサーとしてあの作品どうですか?

田 森本さんはあの作品に宇宙の全てを詰め込んだと言っていましたね。

小 全てのカットに意味があると言っていましたね。

安 セクシャルに注目して見て欲しい。女性が見たら刺されるんじゃないかというくらいのメッセージ性を持っていますよね。

小 田中さんにはなんて言ってたんですか?

田 「宇宙です!」と仰ってましたね。どの作品もかなり時間かかってますし、小黒さんからは「Beyond」ができるまでに4℃があるかどうか、と心配されました。プロデューサーとして各監督には色々言ったんですけど、誰も聞いてくれなかったですね(笑)
 本当にその人が描きたいことをストレートに出してください、という要望は出しました。スポンサーも関係なく、オリジナリティを全面に出すという珍しい企画です。「Genius」と呼ばれて恥じない人々の作品です。

小 最初は「GeniusParty」というタイトルではなかったんですよね。

田 そうでしたっけ?皆さん、そのタイトルに恥じない作品にする、と言ってくれましたけどね。全てのカットにかなり手が込んでいます。

4℃ってどんな会社?

小 STUDIO4℃ってのは普通のアニメスタジオではないですよね。

田 普通のアニメの会社ですよ!

小 でも、いわゆる30分のアニメシリーズはないですよね。「アルス」4とか短編はあるけど。

田 基本的には劇場アニメを作る会社ですね。私は日本アニメーション5出身なんですけど、そこで劇場アニメのノウハウを貯めていて。

小 それでは、STUDIO4℃の歴史を見てもらいましょうか。

田 その前に、安藤くんがどうしてここにいるかという話なんですけど、4℃の最初の作品である『MEMORIES』6の「彼女の想いで」の制作の際にCG担当として入ってもらったんです7

安 最初はCGを作る機械を売る営業として来まして、機械を売るついでに自分も売ってしまったというわけです。ちょうどフリーになりたかったということもありまして…。

STUDIO4℃の歴史を最新作から遡っていくプロモーション的な映像を田中Pと安藤さんの生コメンタリー付きで!劇場版は予告編で、それ以外は本編映像の一部など。観たことのないCM系のものがかなりある。非常にめまぐるしく0.1秒くらいしか映らない作品も。全体で20分くらい?社外秘なので普段は上映されることはないとのこと。田中Pが言う前にアニメ様が「これは○○さんの作品ですね!」とすかさず言っているのが流石というか…。それにしてもこの流れで見ると『アリーテ姫』(片渕須直監督)の浮きっぷりが凄い笑

田 あっという間ですね。

小 いや、結構みんな疲れたよね?自分も初めて観たのがけっこうありましたよ。

田 うちが作ったというのが世に出ていないので知らない人も多いんですよね。

「鉄コン」の日本アカデミー賞受賞は裏切り票だった!?

小 「鉄コン」、10周年なんですって?

田 『MEMORIES』やってる時に連載が始まって8、森本さんと「これうちだね」って言ってました。連載が終わって8年くらいして、マイケル・アリアスさんが「鉄コン」を素材にして映像を作ってたんですけど9、そちらの企画が頓挫して、こちらがやることになったんです。でも資金も集まらなくて大変でした。

小 大作ですよね。

田 良かったのが、その年の日本アカデミー賞でジブリ10と「河童のクゥ」10で競っていて、うちはもう受賞するはずはないと思ってたんですが、円卓のところ5で、隣の原監督とおしゃべりしながら、のんびりお茶なんか飲んでたら私の頭の上にポーンって灯りがついて…。

安 前振りなかったんですか?

田 本当になかったんですよ。でもオッズが一番うちが高くて、もう絶対ないだろうと言われていたんですけど。なんで「鉄コン」が受かったかというと、裏切り票ですよ

小 いやいや、作品が良いからですよ!安藤さんはどうでした?

安 マイケル監督や作監の人5がそれぞれの人を活かしてくれました。監督は人を活かすのがとても上手かったです。監督としてふさわしい仕事をしてくれたと思います。音楽のところなどは彼の得意分野だったので上手くまとめてくれましたね。

小 安藤さん、今日は『マインド・ゲーム』を褒めると仰っていましたけど…。

安 『マインド・ゲーム』、良い作品です。途中までは「いいぞ、湯浅さん行け!」と思ったんですけど、最後まで観たら才能の差に愕然としてしまって…!

田 『マインド・ゲーム』、素晴らしいのでもっとみんなに観て欲しいですね。今年くらいに何か新しい展開が出来れば、と考えています。

プレゼントコーナー

田中プロデューサーとのじゃんけん大会。賞品はDVDとかパンフセットとか原画とか…。豪華だった…。もちろん、即負けちゃたんですけど、STUDIO4℃の紙袋にはかなり惹かれましたね(あともちろん原画も!)。



上映作品

[cf_cinema post_id=4295 format=3 text=” Blu-ray持ってるんでいつでも観れるっちゃあ観れるんですけど、やっぱり劇場で観たい映画!アクションの大胆さとか音響の素晴らしさとかももちろんあるんだけど、劇場で観た時に注目したいのは美術の描き込みの密度ですね。宝町という「ありそうでない町」という世界が細やかな背景美術と何気ないモブの人々によって活き活きと立ち上がっていて、その上をクロとシロとその他のアクの強い連中が暴れまわる。ファンタジーでありながら強い実在感。クロとシロという狭い関係が宝町という世界に繋がるという構成も見事ですよね。しかし、10周年といいつつ全く古びた感じがしない!宝町という昭和的な世界観、そして松本大洋先生の画風には強い普遍性が垣間見えます。いつまでも残っていく作品の一つなのでしょうね。そういった意味では「アニメファンなら観ておきたい200本」というのも実に納得です。ある映画を観た時に歴史に残る作品かどうかというのは10年くらい経たないとわからないものなのなのかもしれませんね。あ、あとやっぱアジカン最高!”]
[cf_cinema post_id=4301 format=3 text=” 初見です。やっと観れました…。まったくの異世界を16分という短い時間で説明し、ちゃんと起承転結あるストーリーを完結させているのがすごいですね。全体の雰囲気が森本晃司色強い。『SHORT PEACE』のオープニングを思いっきり派手にしたものを連想しました。あと、スタッフはまるっきり違うんだけど、猥雑でファンタジックな世界観であるとか、ストーリーがブチブチ切れるのにそれほどわかりづらくないところに『魔法少女隊アルス』っぽさを感じたり。短編で終わってしまうのがもったいない作品ですね。”]
[cf_cinema post_id=4303 format=3 text=” 前回、新文芸坐で上映されたのが2014年の4月なんでちょうど2年ぶりくらい。5本の中では2本目の「MOONDRIVE」(中澤一登監督)が特に好きです。良くも悪くも雑な感じとあのテンションの高さが最高!他の4本は落ち着いちゃってるもんなー(それはそれでいいのですが)。ちなみに、主人公一行のモデルは「安田大サーカス」だとか(例のバカでかいパンフによる)。大平監督の「わんわ」も5本の中では異色で印象に残ります。1本目の「GALA」(前田真宏監督)と同じように最終的に日常に回帰するという展開がいいですね。田中達之監督の「陶人キット」は静と動がメリハリが素敵な作品。これもまた独特の雰囲気ですよねー。ちょっとディストピアっぽい感じもあり。森本監督の「次元爆弾」は説明がほとんど無いのでやっぱり難解でした。ミュージックビデオみたいな感じですね…。今回は(たぶん)寝なかったよ!ちなみに、『Genius Party』『Genius Party Beyond』『MIND GAME』あたりのSTUDIO4℃作品はNetflixあたりで観れたりするので是非。”]
[cf_cinema post_id=4306 format=3 text=” わりとしょっちゅうかかってるマインドゲームだし、4本目だしで寝ちゃおうかな…と失礼なことを考えていたのですが、やっぱり最後まで観てしまいましたね…。最初のみょんちゃんとの再開の場面を逃すともう寝るヒマがない!特に序盤のヤクザとのカーチェイスとクライマックスのクジラからの脱出シーンはアップテンポな音楽とも相まってテンション上がりますねー。前向きなメッセージ性といい、随所にあふれる遊び心といい、何回観ても飽きない映画です。今のところ湯浅監督の作品では一番好き。この映画も早くBlu-ray欲しいですね(あと『アリーテ姫』!)。”]

写真など


まとめ

 いやー、鉄コンで始まりMIND GAMEで締める構成いいですねー。真ん中に4℃の個性が色濃い2本が来るというのも○。ところで、鉄コンとマインドゲーム、どちらもなんか結末をよく覚えていないという特徴があったんですが、今回一気に観て理由がわかりました!どちらもオチがなんかミュージックビデオみたいにホワっとしてるからだなって…。まあそれがすごくいいんだけど、普通の映画っぽくないから印象に残らないのかなあ。特に鉄コンはその後に来るアジカンの「或る街の群青」の印象が強すぎて笑

 トークも珍しい方の話を聞けて面白かったのですが、安藤監督のSTUDIO4℃に入ることになった経緯のあたりをもうちょっと詳しく聞きたかった感もありますねー。


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

NOTES

  1. 「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 77 SFアニメ大進撃!アルペジオ・楽園追放・シドニア!!」
  2. 「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol. 78 アニメファンなら観ておきたい200本 『AKIRA』と大友克洋のアニメーション」
  3. 『Genius Party Beyond』の一編、「時限爆弾」。正直、難解です…。
  4. 『魔法少女隊アルス』。2004年、芦野芳晴監督。NHK教育の『天才ビットくん』の枠内で放送された一回9分程度のアニメなのでいわゆる30分アニメではないですね。全40回。なにげにNetflixで観れたりするぞ。
  5. 世界名作劇場の会社。
  6. 1995年、森本晃司監督、岡村天斎監督、大友克洋監督。3作のオムニバス作品。前々回の「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 78 アニメファンなら観ておきたい200本 『AKIRA』と大友克洋のアニメーション」で上映。
  7. このあたりの経緯は前々回のトークショーで触れられてます。【レポート】新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 78 アニメファンなら観ておきたい200本 『AKIRA』と大友克洋のアニメーション
  8. 1993年から94年にかけて連載。
  9. この辺りの経緯はマイケル・アリアスさんのインタビューの中で語られてますね。WEBアニメスタイル_特別企画 『鉄コン筋クリート』スタッフインタビュー(1) マイケル・アリアス(監督)
  10. 宮崎吾朗監督による『ゲド戦記』(2006年)。