今週は忙しくて何もできなかった…。
前作の方がいいけど、まあ悪くはないかな…:『THE WITCH/魔女 —増殖—』
うーーん。正直言うと前作の方が面白い。前作はコテコテの超能力ものだと思わせておいて、後半のとんでもないどんでん返しが衝撃的だったのだけど、今回は割と一本調子で意外な展開がない。まあ前回と同じようなノリでもしょうがないかと思ったのかもしれないけど、たとえばギョンヒ(パク・ウンビン)が実は魔女だった…みたいな展開があったらかなり驚かされただろうし、むしろそう予想してたんだけども。前半でチップみたいな物体を取り除いてたしさあ。あっちがむしろミスリードだったのか…。
とはいえ、ストーリーは地味なのだけど、演出やアクションは前作同様高水準で見応えがある。前作の主人公ジャユン役のキム・ダミも素晴らしい女優だったけれど、今作の主演をつとめるシン・シアも面白い演技で目が惹かれる。強大な力を持っているはずなのに希薄な存在感なあたりはこの手の作品では定番だけれども、時折見せる少女らしい一面とのギャップがとても楽しい。というか往年の蒼井優みたいなんですよね…。スーパーでの試食のシーンとかめちゃくちゃ蒼井優。脇を固めるキャラも良くて、個人的に良かったのは少女(シン・シア)を追うエージェント・チョ・ヒョン(ソ・ウンス)とその部下のトム(ジャスティン・ハーベイ)のコンビ。ノリが軽くてかなり好き。
アクションも見どころだけど、高速戦闘の演出はやや安っぽくて気になりポイント。こないだの『バイオレンスアクション』ほどじゃないけど、ギャグっぽく見えちゃうんですよね。このへん上手く見せるの難しそうですが…。能力を使ったヤクザ皆殺しシーンがスタイリッシュで良かったです。あと定番かもしれないけど空中を舞う石を割って風ですり潰す殺し方とか残酷すぎて好き。
気になったのは、前作を見ているにも関わらず話がわかりづらかった点ですね。説明の度合いはあまり変わらないはずなのに、前作はスッと入ってきたんですが…。あと尺が長い。冗長な感じがします。とはいえ次回も非常に楽しみではあるのですが。
人間への希望と絶望が詰まった短編集:『わたしたちの怪獣』
『七十四秒の旋律と孤独』の久永実木彦先生による待望の新刊。
表題作の「わたしたちの怪獣」は短編として唯一日本SF対象候補になった傑作。主人公が免許を取ったその日に父が死に、東京に怪獣が現れる。主人公は父の死体を遺棄するために東京へと向かう…。怪獣のえげつない強さも見どころですが、父の死と怪獣の出現という非日常がダブルで生じることによるシンクロニシティ的な面白さがあり、怪獣と父がアナロジカルになっていくあたりが面白い。主人公姉妹の境遇が物語開始時点でどん詰まりなので、悲惨なことが山程起きるのにどこか爽やかな幕引き。
「ぴぴぴっぴ・ぴっぴぴ」だけ既読。タイムトラベルのガジェットはどこかクリストファー・ノーランを思い出すし、制限回避の泥臭さが面白い。あらゆる災害が修正されていく世界で、災害の記憶を保とうとする男たちの話なのだけど、崇高な意識というよりは出歯亀的な露悪趣味というあたりが人間らしさを感じさせてくれていい。主人公がある災害現場を観て「美しい」と漏らすシーンは顔をしかめる人も多いと思うけれど、ディザスター映画を楽しんで観ている私達自身にも繋がっていく。『君の名は。』を思い出したりもする。
「夜の安らぎ」は吸血鬼もの。途中までは実木彦先生が好きな「ジョジョの奇妙な冒険」オマージュかなと思って読み進めていくと(「人間を辞めるぞー!」もあるし)、脳内で再生される絵柄が『チェンソーマン』の藤本タツキ先生になっていくというあたりがめちゃくちゃ面白い。先生、『チェンソーマン』も大好きですしね…。特に主人公がバイト先の家電量販店をめちゃくちゃにするあたりとかあまりにもタツキイズムにあふれていて最高!あとキャラクターが印象的で、ヴァンパイヤとヴァンパイヤハンターが仲良く動画撮ってるくだりとか実に現代的で面白い。
トリを飾る「『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら」は、個人的に本書の中で一番好きな作品。タイトルにある『アタック・オブ・ザ・キラートマト』はトマトが人間を襲うモンスターパニック映画でその筋では超有名なZ級映画。タイトルの通り閉館する映画館に集った人々がこのZ級映画をみんなで観るという筋書きですが、途中から物語は思わぬ方向に転がっていきます。虚構の世界で現実にあるZ級映画の世界が現出するというメタ・メタ的な構造も素晴らしく好みなのですが、このバカバカしい映画を題材にして、極限状態で人間はいかにして生きるか、という重厚なテーマが展開されるのが実にいいのです。特に、映画を途中で止めて子どもたちを助けようとする主人公が印象に残ります。劇中の世界は確実に壊れていくのですが、それに抗うかのような幕引きの美しさは必読です。
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