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多様な読み解きの魅力。『危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』』
18人の識者による『風の谷のナウシカ』読解。朝日新聞デジタルで連載されていたものの書籍化ですが、紙になることで読みやすくなり、個人的にはありがたい(モニター画面は明るすぎるので)。『風の谷のナウシカ』はもちろん映画もいいのですが、この本の対象としているのは基本的に漫画『風の谷のナウシカ』。自分も圧倒的に漫画派なのでこの点もかなり良かったです。
18人の人々は職業も年代も様々で、多様な視点による読み解きが堪能できるのがこの本の醍醐味なのですが、原作の完結から30年以上経った今でも、現在進行形の物語として読み解かれることができるという点で、作品のポテンシャルをまざまざと見せつけてくる企画でもあります。
個人的に印象的だったのは小説家の川上弘美先生と生物学者の長沼毅先生。川上弘美先生は「ナウシカのような人間が現実にいるのか?」という質問に対して、物語とは現実をそのままなぞったものではなく、ノイズがあって、それが魅力的だ、ということを仰っていて、これはまあナウシカ関係ないんですが物語論として腹落ちでした。それと遠未来の人類を描いた自著『大きな鳥にさらわれないよう』と結びつけての読み解きも川上ファン的には嬉しいポイント。
長沼先生は「ナウシカが独断でシュワの墓所を破壊したこと」に対してマジでキレてて、確かに自分も最初に読んだ時はそう思ったなあ、と思ったことを思い出しました。この本の他のインタビュイーは基本的に「墓所を破壊したこと」に対しては肯定的で、自分としてもそのスタンスなのですが、確かに長沼先生の言うように「誰にも相談せずに独断で」破壊を決めたことは民主主義的な見方からすると問題があるようにも思えます。まああの時は緊急避難的な感じでしたけど。
巻末の「ブックガイド:漫画『風の谷のナウシカ』の攻略法ー思い切って「最終第7巻」から読む」は、書いてある通り最終巻から読むのを勧めるアクロバットな提案で笑ってしまいました。そんな贅沢なことなかなかできませんて!
「不死」の価値観の逆転:『ミッキー7』
人格をセーブして新しい体に生まれ変わる…。SFでは定番も定番すぎて手垢がついた古臭せえネタだな〜と思ってたんですが、この話はやや捻りが効いていてそれなりに新鮮な味わい。まず面白いのが不死の人間が特権階級の独占する技術ではなく、むしろ賎業として蔑まれているという点。不死は職業であり、この職業に就く人間は「エクスペンタブル(使い捨て)」と呼ばれて、文字通り使い捨ての業務(即死レベルの放射線バリバリの環境での修理作業とか)に駆り出されるんですね。
で、この職業観というか忌避するイメージが作られたのが、よくある宗教的なアレではなくて(評価は真逆ですけど『ハイペリオン』シリーズの宿主とか)、一人の頭のおかしい男が自分の複製を作りまくって一つの惑星を占拠しようとしたという事件があったから、というのがまた面白い。自分の複製とアイデンティティの分裂というテーマもこの小説の一つの軸になっていて、死んだから複製したら死んだと思ってた方が帰ってきちゃった!というある種のコメディになってるんですね。食料(カロリー)が配給制になっている開拓中の惑星という設定もこの面白さに拍車をかけていて、二人いることを隠して生活を始めたミッキーたちが、ただでさえ一人分のカロリーで過ごさなければいけないのに、立て続けに不祥事を起こしてどんどん配給カロリーをカットされるくだりとか、狭い基地内で恋人やら知人と鉢合わせしないために奔走するくだりは完全に笑わせにきてます。ちょっとコニー・ウィリスっぽくもあり(『航路』の病院の中で右往左往するあれとか)。ネタは古臭いんですが、設定の逆転と演出で盛り返してる感じの佳作。
映画化(まさかのポン・ジュノ監督!)も進んでるらしいけど、映画ではもっとコメディ寄りにしてほしい!
自分以外はすべて他者という話:『裏世界ピクニック 8 共犯者の終わり』
このシリーズのメインテーマが「コミュニケーション」だというのは明示されていたんですが、ここまでしっかりと二人の関係を描いてくるとは思わなかった…。裏世界も二人の恋愛もどちらも蔑ろにしていないのがいいね。というよりも二つの軸が有機的に絡み合っている構造なので、どちらも切り離せないという。二人の初体験のシーンがリアルかつ丁寧で良いし、全てがぐっちゃぐっちゃになった結果、「共犯者」から・・・(一応伏せます)になるという展開がかなり最高。それにしても・・・はめちゃくちゃ上手いと思ったんだけど、これ最初から考えてないとできないよなあ。一番好きなシーンはよりによってそいつに相談に行く?!のところ。絶対めんどくさいやつじゃん。
他者はすべて自分であるという話:『我々は、みな孤独である』
評判いいのでいまさら読んだんですが、たしかにめちゃくちゃ面白いですね。コニー・ウィリス『航路』+佐藤究『テスカトリポカ』+ジョージ・R・R・マーティン「ナイトフライヤー」+山本弘『神は沈黙せず』みたいな感じと説明するのが一番しっくりくる。オチはあっさり目だけど、これくらいも好み。ぶっちゃけ、「世界の秘密」自体は生まれ変わり期間の重なりあたりからうっすらとわかってはくるのですが、それでもこの発想はすごい。メインではないのだけど、メキシカンマフィアVS日本ヤクザの狂人対決も見応えがあるし、映像化したら映えるだろうなあ。大半の観客は置いてきぼりの結論だとは思うけど。
めちゃくちゃ雑だけど役者はいい。『Sin Clock』
すげー雑な計画とかトランジションが全部ブラックアウトでダサすぎるとか、作品としてはバカ映画のカテゴリーに入ると思うんですが、役者陣の存在感とか演技はめちゃくちゃ良くて、それだけで元は取ってる感じ。主演の3人、窪塚洋介・坂口京太郎・葵揚だけでもかなり好きなんですが、脇役のJin Doggの狂気の演技もすごい。主演3人の中では葵揚の眼力やはり凄まじく、ついで坂口京太郎のいかにも世間慣れしていない青年的な演技も良かったです。とはいえ、個人的なベストアクターは先輩整備士役の風太郎さん。居酒屋でタクシー運転手という仕事の面白さをしみじみと語るシーンが好きすぎる。この手の話にしてはネタバラシパートがあっさりとしているけど、逆にこれくらいで良くない?とは思いました。軽めの味わい。それにしても、あれだけのことをやっていて生き延びてるのはちょっと不思議。まあそういう映画だからいいのか…。
このテンションでこの内容はすごすぎ:『ウィッチクラフトワークス EXTRA』第1巻
きれいに本編が終わったから、まあミニキャラでギャグでもやるのかなー。と思っていたら「本編の続きを描きたかったが、1巻で終わらなかった」と作者が言っていたので、おおセカンドシーズンみたいな感じかな、と思って読み始めたら普通に狂気の詰まった番外編だった…。素面なのに酔っ払いみたいな挙動する人いるじゃないですか。あんな感じ。誇張ではなく異常な話しか無いのだけど、ちゃんと本編の雰囲気とかキャラを踏襲しているというか、むしろ本編からメインストーリーを抜いた感じでマジで俺得でした…。KMM団のファッションショーとお兄ちゃんランドの話が異常すぎて良かったです。しかしアニメ観たあとだと、原作のあまり萌えを意識してないような作画が逆に好きですね…。ファンなら絶対オススメ。
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