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【映画レビュー】『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』:くたばれ資本主義!

      2017/09/10


 この映画は異なる文明のすれちがいを描いた映画だ。ムーミン一家が「楽しいバカンス」を送るだけの話ではない。

 物語はムーミン谷に海賊たちが漂着するところから始まる。まあ、この海賊たちと海賊船はその後の展開に直接絡んではこないのだけど、ともかく、あれこれ一悶着あったすえに、ムーミン一家(+ミィ)は南国の観光地「リヴィエラ」へバカンスのために旅立つ。洗練されたリヴィエラでハイソな人々に囲まれ楽しい日々を過ごすムーミンたち。しかし、フローレンがチャラ男で貴族のクラークになびいていくのをきっかけに、一家と周りの人々、そしてムーミン一家の内部での溝がしだいに深まっていく…。

 細部まで精緻に描かれた画面は実に美しく、特に色彩設計の統一感が際立っている。ボサノヴァ調の音楽も画面の雰囲気とマッチしていて、忘れられない印象を残す。

 上述のように「バカンス」に同行するのは一家とミィ(姉のミムラも序盤の海賊がらみのところで登場する)なので、スニフもスナフキンも登場しないが、リヴィエラで出会う魅力的な人々と彼らの綴るエピソードはとても良い。一家が仮住まいとするホテル「ル・グラン」のピシっとした制服を決めたスタッフたち、往年のスター女優を思わせる(名前だけだが)オードリー・バーン、フローレンといい感じになっちゃうクラーク、猫しか好きになれない犬・ピンプル、そしてムーミンパパと意気投合してしまうモンガガ公爵。ムーミンパパが彼に語る武勇伝も面白く、例えば、人間たちにカバとして動物園に入れられた経験など楽しげに語る。

 さて、最初に書いたように、この映画はムーミン谷の住人とリヴィエラの人々とのすれ違いを描いた映画だが、特にモンガガ公爵とのエピソードが印象深い。生粋の貴族でかつ資産家の公爵の望みは彫刻家としてボヘミアンの生活を送ること。ムーミンパパの語るムーミン谷での生活や冒険譚を聞くうちに、「安いワインと粗末な小屋のためなら全財産を投げ出してもいい!」などと言い出し、ついには自作の象の彫像(ゾウの像ですね)にまたがって市内を疾走した挙句、ボートの下に暮らすことになる。…のだけれど、「あまりにも安物のワイン」や雨風に耐え忍ぶ生活に耐え切れず逃げ出してしまう。

 要するに、リヴィエラという文明社会に生きる人々の基準とムーミン谷の生活との基準があまりにも違うことを示すエピソードなのだけれど、一方で、その洗練された資本主義と物質主義の世界にたやすく順応してしまうフローレンも面白い。彼女は労働をすることなく、大量の資本を手に入れ(どうやって手に入れるかは本編のお楽しみ!)、多種多様なモノにあふれたリヴィエラでの生活を満喫する。そして、ムーミンパパは得意の話術を武器に上流階級での社交生活を楽しむ。割りを食っているのは質素な生活に慣れきったムーミンママとコミニュケーション能力に若干の問題があるムーミンで、特に一家でパーティーにやってきたムーミンが会場の隅で体育座りをしている場面などはおかしみを誘うが、このようなムーミン一家内における格差が表面化してくるのも、現実社会の反映のように思える。

 ドムーミン家とリヴィエラ社会との最大のズレは物語の最後に明かされるが、これは多くの人が物語の中盤から疑問に思うであろう「こいつら、ホテルの支払いはどうするんだろう…」という点である。ここで、例えばど田舎のお上りさんが大都会に出てきたということとは完全に異なる次元の、まったく異質の文明がつかのま同居していたという事実が判明するのだ。そういえば、散々ネタにされている、ビキニの水着を着たフローレンに対して全裸のムーミンが投げかける「そんなのダメだよ。なにも着てないみたい!」というのも実に象徴的な混乱を招くセリフであった。

 結局のところ、ムーミンたちはリヴィエラに別れを告げ、懐かしのムーミン谷に戻る。カネとモノに溢れたリヴィエラ社会と衝突することもなく、さらりと身をかわして、何事もなかったかのようにしてしまうあたり、ノーテンキなムーミンらしい結末だ。そこには現行の社会制度に対しての牙をむくような悲壮感ではなく、シニカルでいて、しかし柔らかな視線がある。

予告編

基本情報

劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス  Muumit Rivieralla77 min

監督:グザビエ・ピカルド/ハンナ・ヘミラ

出演:高山みなみ/大塚明夫/谷育子/かないみか/子安武人/佐久間レイ/小林優子/木村カエラ/三村マサカズ/大竹一樹

上映開始日:2015年02月13日

公式サイトhttp://moomins-movie.com/

公式Twitterhttps://twitter.com/moominsmovie

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