ハル・ハートリーの新作はわちゃわちゃ感が楽しい
ハル・ハートリー監督の最新作『トゥ・ランド』を観ました。小粒で楽しく、それでいて哲学的な映画。隠退を考えているラブコメディの巨匠ジョー・フルトン(ビル・セイジ)が墓場でバイトを始めようとしたことから始まるコメディなんですが、まわりの人間が彼を余命幾ばくもない人間だと勘違いしてしまい、恋人のスター女優、元女房、隠し子疑惑のある若者とその友人、女子大生の姪、長年の友人たちが大集合して喧々諤々の大騒動になっていく楽しい映画です。この手の話だと遺産の話になりそうなものですが、そういう世俗的なところから一歩引いた視点で事態を眺めていくのがいかにもハル・ハートリーらしい感じ。彼のそれほど広くないマンションに次々と人がやってくる終盤の展開も見ものなんですが、例えば悪化し続ける世界情勢に対して視線が向けられるくだりなど、単なるコメディ映画にとどまらない射程があるのも魅力的です。
あのビリヤニ大澤の新店舗に初日に行く
BIRYANI MASTER (ビリヤニマスター) – 小川町/インド料理
2026年4月27日(月)にプレオープン初日を迎えた「ビリヤニマスター」に行ってきました。あの名店「ビリヤニ大澤」の姉妹店というか新形態のお店ですね。ビリヤニ大澤が完全予約制なのに対して、こちらは予約不可。「早く安く美味しく」がコンセプトとのこと。
11時半開店ですが、当然混むはずですので11時に行ってみました。この時点では15人待ちくらい。その後どんどん列は長くなっていき、開店の時間には30人くらいの行列に。ただお客さんの回転はかなり良いようで2巡目の12時には入店できました。注文は事前にQRコードから注文と決済まで終わらせて、出てきたQRコードを店舗入口の端末にかざして食券を発見するという独特なもの。体験としてはだいぶ良かったですが、スマホがないと死にそうです。一応現金でもやってくれそうな感じではありましたが…。

初日の日替わりはエビということでチキンと日替わりのハーフ&ハーフにしました。1,900円也。マトンは2巡目にして売り切れてました…。早すぎる。入店から5分もしないうちに着丼。さすがに早い。二人席に通されてしまったのであまりのんびり食べられず、かっこむような形になってしまいましたが、これはこれでありですね。もう少し落ち着いてくればのんびり食べられそうです。コーラ飲み放題なんですが、席によってはあまり飲めない感じですね。肝心の味はさすがにビリヤニ大澤の姉妹店というだけあって普通にめちゃくちゃ美味しいです。「儀式」の本店と「ファーストフード」の支店という切り分けは上手いですねえ。ここからビリヤニ大澤本店に行きたくなる人もいるかもしれないし、シナジー効果が高くてそのあたりも興味深かったです。落ち着いてきたらちょくちょく行きたいですね。ずっと混んでるような気もしますが…。
フランス産の虫プロ映画
2025年のアヌシーでグランプリを獲った『ARCO/アルコ』を鑑賞。かなり期待していたんですが、期待を軽く超えてきましたね…。遠未来の少年が気候変動に揺れる2075年の世界で少女と出会って冒険するという典型的なボーイ・ミーツ・ガールなSFアニメなんですが、まず世界観の作り込みが素晴らしい。主人公の少年アルコの世界は2075年よりもかなり先のタイムトラベルが可能になっている世界で、すぐに出ていってしまうのであまり描写はないんですが、昔のSF映画チックな全身タイツの装いが逆に新鮮で、空中浮遊するようなベッドがかなり面白い。そして2075年はそのファーストカットからかなり衝撃的。猛烈な嵐の中、家々はドームで保護され、人々は轟音の中を庭でレジャーに興じているという、プレアポカリプスでありながらハイテクノロジーでもあるという世界観を同時に説明してしまうという力技。2075年はロボットテクノロジーで世界を回しているのだけど、その先のアルコのいる未来では全くロボットを使っていなくて、そのあたりのギャップも新鮮でした。そして2075年はメカデザインがめちゃくちゃいいんです。藤子・F・不二雄的というか手塚治虫的というか、シンプルなフォルムとビビットな色彩。エアカーとかロボットなんて手塚治虫の世界そのままですしね。
物語的には未来に帰れなくなってしまったアルコが2075年の少女イリスの協力を得て未来に帰ろうとする話ですが、そこにアルコを追う謎の3人組や環境破壊の結果生じた強烈な環境災害が絡んでくるのが面白いですね。後半の展開は手塚治虫というか虫プロ的な雰囲気も感じました。子どもが思いつきでやったことでひどい結果になるという話でもあるのですが、そこでちゃんとしっぺ返し、あるいは取り返しのつかないことが起こるというのが非常に良かったですね。日本のアニメだとこういう結末にはしないのでないかという気がしますし、ビターエンドの中にも希望があるというのが非常にバランスが良いと感じました。かなりおすすめです。
いつものケン・ローチ節
ケン・ローチ監督の新作…ってもう90歳なのにまだ撮ってるの!?という驚きが先に出る『オールド・オーク』を観ました。『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』に続く「イギリス北東部三部作」の最終章。公開初日でもないのに劇場は満席で驚く。
舞台はイングランド北部のかつての炭鉱町。タイトルの『オールド・オーク』はこの町に最後に残った一軒のパブの名前で、店主のバランタインが主人公の一人となる。常連客の憩いの場であったこのパブは、町がシリアの難民たちを受け入れたことから徐々に変わっていく。ここで昼間から酒を飲んでる地元の連中が絵に描いたような排外主義者でちょっとステレオタイプすぎるだろ、と思わなくもないのだけど、しかし確かに常連客ばかりの店に知らん連中が多くなってきたら嫌かもしれないなあという感覚は伝わってきた。このへんの塩梅はなかなかおもしろい。移民の女性ヤラの提案でバランタインは店の奥のスペースを使って地域の困窮した人々とシリア難民たちのための無料食堂を始めるのだけど、このときの彼の「これは慈善ではなく連帯だ」という言葉が良い。思えばケン・ローチは常に連帯を訴えてきたことを思い出す。軌道に乗っていたかのように思えた食堂は困難に直面し、物語はそのまま幕を閉じる。しかし一度育まれた連帯は残る、というオチ。このあたりもいかにもケン・ローチという感じ。
ファンタジー×トランスヒューマンSF×安楽椅子探偵
ロバート・ジャクソン・ベネットの『記銘師ディンの事件録 木に殺された男』を読んだんですが、これはめちゃくちゃ面白いです。今年まだ全然新刊読んでないのであれなんですが、普通に今年のベスト10には入れると思います。
まず世界観が実に独創的。近世ヨーロッパくらいの技術水準の世界で、神聖カナム大帝国という国が舞台。海から定期的に巨獣リバイアサンが上陸してきて全てを破壊するため、三重の防壁を築いて防衛しているという『進撃の巨人』を思わせる設定で、ここまでならファンタジー的な側面が強いのですが、この帝国内には高度に発達した生体改変技術によって身体や精神を改造された人々が存在し、トランスヒューマンSFの要素もあるという点が非常に面白いです。個人的には原作版の『風の谷のナウシカ』に登場する土鬼諸侯国連合帝国を連想したりもしました。タイトルの「記銘師ディン」もそんな「卓越者(サブライム)」の一人で見たもの全てを記録するという能力を持つ物語の語り部にしてワトソン役。
物語はそんな大帝国の最前線にある街で政府高官が異常な死に方をしたことから始まるミステリー。でもってこの物語部分がかなり典型的な安楽椅子探偵ものなんですよね。主人公ディンはワトソン役の青年で、ホームズ役は超知能を持つ中年女性のアナ。探偵役なので当然エキセントリックです。中年女性×駆け出しの青年という組み合わせもいいですね。リバイアサンの脅威が迫る中、二人は事件の真相を突き止めることができるのか、というあたりは普通の探偵もの?ですが、そこに前述したような生体改変技術が絡んでくるわけで、このあたりは最近流行りの特殊状況設定ミステリーという感じですね。ただしスケールがめちゃくちゃでかい感じの。
個人的には本筋とはそれほど関係ないディンのロマンスが非常に繊細に描かれているところに感動しました。本作はシリーズ化しているようなので次回作も早く読みたい。ファンタジーとかSFとかミステリが嫌いでなければ超おすすめの作品です。
コメントを残す