今年も年越しの瞬間は新宿の珈琲貴族エジンバラで過ごしました。
年末にふさわしい映画
2024年の映画締めは堤幸彦監督、のん主演の『私にふさわしいホテル』。キネ旬では酷評されていたけど、こういうあっけらかんとした映画が年末の忙しい時期にはふさわしくて大変満足でした。昔は堤幸彦監督って「安っぽい邦画」を量産する人、という印象だったんですが、この年になるとだいぶ見え方が違ってきて、作家性はたしかに薄いかもしれないけれどなかなかどうしてウェルメイドな作品を作る人、という感じになってきました。これだから年を取るのも悪くない。
この映画は1980年代の文壇を舞台にしたドタバタコメディ。とにかく主演ののんの演技が素晴らしい。遠藤賢一演ずる大物書評家にデビュー作を貶され泣かず飛ばずの彼女が彼をぎゃふんと言わせるために奮闘するという流れなのだけど、あの手この手の予想外の搦め手で攻めまくるのが楽しすぎる。ホテルのメイドに扮して原稿を水浸しにするのはまあ予想できるけど、面白そうな話で朝まで粘って原稿を落とさせるくだりなんかは、さすが作家といったところ。かと思えば、この書評家にして作家の東十条と共闘するくだりなんかもあったりして、作家と書評家、女と男、新人とベテランといったバディものの趣もある。このへんの楽しい応酬も「トリック」シリーズや「SPEC」シリーズの堤監督の十八番といったところか。
また、1980年代を舞台にしているので、自席でタバコをスパスパ吸ってるくだりも時代劇めいていて面白いし、タイトルに反してあまり出てこない山の上ホテルの雰囲気も最高。のんの着る80年代ファッションも可愛くて良すぎでした。
良い締め方。
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『呪術廻戦』の完結第30巻を読む。新宿決戦があまりにも、あまりにも長すぎてかなり辟易していたのだけど、最後は良い締め方でしたね。特に虎杖と宿儺が空想の中でつかの間の穏やかな交流をするシーンがあまりに良くて。さらにずっと行方不明だったあの人と、再起不能だと思っていたあの人が絶妙なタイミングで再登場するのが最高。エピローグはあの人は実は生きていました、という答え合わせが中心だけど、これはこれで。しかし、面白かったは面白かったんだけど、能力バトルは正直難しすぎだったなー。言っちゃ何だけど、絵柄も相まって「ジェネリック富樫」というか…。
よりよい資本主義とはどのような世界か?
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ロバート・B・ライシュの『コモングッド:暴走する資本主義社会で倫理を語る』を年の暮れに読む。最近の日本とアメリカの政治を見ていると、21世紀は「倫理」が最も重要なものになるという予感がひしひしとしている自分としてはピンポイントに刺さる本だった。資本主義の暴走をいかにして止めるか、という話なのだけど、基本的にはアメリカにおける倫理的腐敗の状況のレポート。「ですよね~」という感じではあるのだけど、ある種の答え合わせのようなことが出来たのは良かった。ラルシュは解決策の一つとして「徴兵制のような2年間程度の公務の義務化」を挙げているのだけど、こういった「自分ごと化」は組織論的にはどこでも使えて便利だなあ、と思ったり。誰が実装すんだよ、というのはおいておいて。こういう政策を唱える人に、今の人々が票をいれるかというあたりはけっこう疑問ではある。ともあれ、同じような問題意識を持つ人の存在は心強い。
あまりにもウェルメイド
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大晦日に空木春宵先鋭の『感傷ファンタスマゴリィ』を読み終える。絶対いい作品が多いのはわかっていたのだけど、割と鬱々とした雰囲気の作品が多いので積んでいたのであった。読んだことある作品もあったし…。
で、いざ読み始めたら、これがもうめちゃくちゃ面白い。いや、重い話が多いのは確かなんだけど、それはそれとしてクオリティが高い。表題作もいいんだけど、一推しは「4W/Working With Wounded Women」。上の街と下のスラムとで対になった人々に傷が転移するというSF的アイデアも素晴らしいし、どうみても現実の写し鏡になっている点が良い。自分もまた何の意識もせずスラムの人々を搾取しているのだと思うと、なにかせずにはいられなくなる。オールタイムベストに入れたい短篇だった。
終わりに置かれた「ウィッチクラフト≠マレフィキウム」もインセルとミソジニストが跳梁跋扈する現代のネットシーンを隠喩的に活写した傑作。
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