はじめてのウマ娘:『劇場版ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉』

ウマ娘、評判いいのになぜか観ていなかったのですが、ここに来て新作の映画だけ観てしまいました。結論から言うと、シリーズ観ていなくても全く問題なかったですね。一応世界観は触れていたので知っていたというのはありつつ、シンプルにスポ根ものとして観れるのがいいですね。というか令和の時代にこういうストレートなスポ根ものが観れるとは思わなかったですね。レースの作画の凄まじい開放感とかまさにスポーツものという感じ。実際のレースって正直あっという間に終わってしまってある意味拍子抜けしてしまうんですが、アニメ特有の時間間隔によって何十倍にも迫力が増しているのが大成功ですね。ここぞというタイミングで足をぐっと地面に踏み込む演出の気持ちよさたるや。

ストーリーもジャングルポケットとアグネスタキオンの対決を軸にしつつ、タイトルにもある世代交代をテーマとして押し出していくという構成が見事。特に気に入ったのが、華やかで爽やかなスポーツものを外見として見せつつ、内なるテーマには「終わりの気配」が漂っているという点ですね。その点では後半のアグネスタキオンの引退宣言からが特に素晴らしく、夏合宿での祭りでそれとなく散りばめられる儚さの隠喩(サイダーや花火、そして祭りそのもの)もいいし、そうした状況からフジキセキとの早朝の対決を通じた再起が素晴らしかったです。

劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』 公式サイト

まさかの終活もの:『クワイエット・プレイス:Day 1』

前2作は正直バカ映画の分類に入ると思うのですが、前日譚である本作はB級映画のガワの中に、一人の人間の人生を組み込むことで新たな境地に到達している快作。末期がんの患者を主人公に据えたモンスターパニック映画というのもなかなか無いし、最初から結末が見えているというのも面白い。要は死ぬまでに何を為すべきか、いかに死ぬべきか、という終活の映画なんですよね。で、主人公が最後に為すべきこととして選ぶのが「思い出の店でピザを食べに行くこと」というのがまた気が利いてる。この手の「終活もの」の映画っ割とありがちだけど、そこにモンスターパニックを組み合わせることで新しい味が生み出されているのがいいですね。相変わらず出てくるモンスターはバカモンスターなのであれなんですが、とにかく障害としては面白い。雨が降ってると普通に行動できるとかまあバカ設定だけど、面白いからいいです。

そして主人公と同じくらい魅力的なのが主人公サムの相棒としての猫・フロド。このネーミングセンスもいいですよね。物語にもあってるし。このフロドの出番が思いの外多くて猫映画としても満足の出来でした。猫が足引っ張ったらいやだな~と思っていたらそんなこともなく。足音がないのは強い。

映画『クワイエット・プレイス:DAY 1』公式サイト

宇宙サバイバルものの新たな傑作!『THE MOON』

韓国で本格的な宇宙ものってのも珍しいと思うのだけど、しかも月探査サバイバルものという。しかも『オデッセイ』や『ゼロ・グラビティ』にも引けを取らない傑作だったのがさらに驚き。細かいことを言えば主人公のメンタル弱くない?とかこの状況で月面着陸するのかよ!みたいな点は気にならないといえば嘘になるのだけど、それにしても盛り上がる。月軌道上で一気に一人になってしまう序盤からほとんど操縦できないにもかかわらず月着陸を敢行し、紆余曲折を経て軌道上に戻ったと思ったらまた月面に墜落し…。というサバイバルものならではのトラブルの乱れ打ち。特に月面で流星雨に襲われるあたりは戦争映画さながらの迫力と将来あり得るリアリティがあってとても良かった。リアリティという点で言うなら、現在計画されているアルテミス計画に含まれているルナ・ゲートウェイが大きな役割を果たしているのも面白かった。物語の軸として韓国映画お得意の濃厚な人間ドラマが据えられているのも良かったし、その中で5年前の意外な真相が明かされるというのも素晴らしかった。

あと月面ドローンのマル号が健気でかわいすぎでした。

映画『THE MOON』オフィシャルサイト

『地球へのSF』はいつもながら粒ぞろいのアンソロジー

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最近のハヤカワお得意の重厚なSFアンソロジー。600ページ超え。総数22名の作家による「地球」テーマの一冊。テーマ広すぎてあまりテーマ感がないような気もするけど、ともかくいつも通り質の高い作品が揃っていて良いですね。

特に良かったものを3点。

柴田勝家先生の「一万年後のお楽しみ」はGoogle Mapsと未来予想シミュレーションゲームを組み合わせた奇妙な一本。仮想現実、というかAIの作り出した世界を現実世界と接続するのにこういう方法があったとは。

春暮康一先生の「竜は災いに棲みつく」。終盤まで何がおこっているのかが断片的にしかわからないのが逆に面白い。すごくセンス・オブ・ワンダーで楽しい一本。怪獣映画的でもある。

空木春宵先生の「バルトアンデルスの音楽」は地下15キロ地点に管を突っ込んだら中毒性のある音楽?が流れ出してきたというお話。地球によって人類が変容させられてしまうという流れが面白い。

「特別展 犬派?猫派?―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―」@山種美術館

犬派?猫派? ―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで

山種の初夏の特別展は犬猫特集。やはり質が高い。俵屋宗達から山口晃までというサブタイトルに違わずバラエティ豊かな日本美術が揃っていて見ごたえがたっぷり。

前半は犬パート。若冲→応挙→芦雪の描く仔犬たちを見比べられるのが眼福。自分としてはやはり応挙が至高。時代が下って近現代では川端龍子の2点が素晴らしい。特に鮮やかな碧の中で水を飲む愛犬ムクを描いた《立秋》が良かった。尻尾がピンと立ってるのが最高。

後半は猫パート。竹内栖鳳の重要文化財《班猫》がいい。モデルとなった猫の逸話も伝えられていてこれも面白い。オチはやや不穏だけども。そして猫といえばやはり藤田嗣治。本展での出展は《Y夫人の肖像》の一点。いかにも藤田らしいふてぶてしい猫が楽しい。後半に置かれた山口晃の擬人化された猫たちもいい。トリは今年の日本画アワード2024で奨励賞を獲った小針あすかの《珊瑚の風》。小さいけど存在感のある猫がいい。