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こんなに面白いのにいまだにアニメ化してないのがおかしい:『戦車椅子-TANK CHAIR-』第6巻
アクション系だと今一番面白い漫画の一つだと思ってるんだけど、何故か未だにアニメ化しない…。
6巻のメインは謎の子供・螺メインなんだけど、まあそうなるよね~というありがちな第二人格の復活が、一巻丸々使ってかなり丁寧に描かれているのがいい。その中で変化していく直墨とラヂオのきゅんきゅんする関係性のくだりとか文化系っぽいのに予想通りめちゃくちゃ強い禍澤さんの登場とか、見せ場が盛りだくさんでかなりいい。渦覚醒螺の邪悪な感じも最高。それにしても直墨くんも丸くなったなあ…。
ところでやっぱりわざわざ妹ちゃん保管してあるし、復活ルートありますよね…??
林譲治先生の新作は今度もファーストコンタクトものだけどかなりイカれてる:『知能侵蝕 2』
ここ数年、ファーストコンタクトものを立て続けに発表している林譲治先生ですが、新作の「知能侵蝕」シリーズもやはりファーストコンタクトもの。…ですが、今回はかなり様相が違っていて、とにかく異星人の姿も意図も全くわからない。おそらく侵略っぽいんですが、回りくどいというか何をやりたいのかわからないというか。なにしろ、今まで攻撃してきた兵器?が鉄パイプで出来た人型ロボットで刀で首を刎ねてまわる「チューバー」(チューブで出来ているので)だけという割り切りよう。一応、軌道エレベーター用のカーボンナノチューブテザーで巡視船をぶった切ったりといったことはしてるんですが、なんとなくアレは事故っぽい感じもするしなあ。
で、この2巻ではさすがに異星人らしいテクノロジーを使った超兵器が出てくるかと思いきや、またもやチューバー!人類はなけなしの技術力で軌道上の敵拠点をレーザーで狙撃しているのに、その船に対して大量のチューバーが乗り込んできて首を刎ねていくという…。軌道上に上がった人類の先遣隊も軒並み首を刎ねられているという徹底ぶり。人海戦術でサムライが攻めてくる文明間抗争というのもなかなか珍しいですよねえ。面白すぎる。
一応、異星人側の兵器?としてはナノマシンならぬ「ミリマシン」なる群体ロボットが存在していて、この2巻ではその謎へと迫るパートもあり、次巻以降では抗争が激化しそうで、実に楽しみなシリーズになりそうです。
疫病×文明史×死別SF『闇の中をどこまで高く』の読後感が良い
身体の臓器が他の臓器に変質して死に至る謎の疫病「北極病」のパンデミックによって変質していく文明…と翻弄される人々の群像劇。で、メインになるのは後者の群像劇の部分なんだけど、正直かなり素晴らしい。
北極病のパンデミックであまりにも人が死にすぎて、コロナを経験した人間としては逆に「いやそうはならんやろ」という文化が生まれ、その中で生きる人々の姿が描かれていく。例えば余命幾ばくもない子どもたちに最後の楽しみと安らかな死を与えるために作られた安楽死ランド「笑いの街」で着ぐるみを着て子どもたちを歓待する青年の話。最後にジェットコースターに乗せて安楽死(安楽死?)させるんだけど、「いやそうはならんやろ」となりそうなところを青年と少年と母親の交流を通して人間ドラマとして着地させているバランス感覚がいい。著者のセコイア・ナガマツは日系人ということもあり、日本人の登場人物も出れば日本が舞台にもなったりする。ちなみにパンデミックと並行して気候変動ももう一つのテーマとして語られるのだけど、海面上昇によって日本はほぼ水没し、新潟のあたりが列島になっていたりもする…。
どのエピソードも素晴らしい情緒に満ちているのだけど、個人的にグッと来たのはパンデミックが収束した後、それまで地域で没交流だった男性が意を決してパーティーの案内状を近所の人々に送る「パーティーふたたび」。案内状の形式で書かれていて、収められたエピソードの中では主人公のおじさんへの感情移入が強かった。
様々な世界の変容と、さらに恒星間移民の話も入ってきて、とんでもない時間軸で幕が降ろされるのだけど、正直反則だなあと思いつつ、個人的には大好きなパターンでした。今年ベスト級の作品。
「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」@国立西洋美術館
ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?――国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
出だしで炎上してたけど、飯山由貴さんの展示を見たら「まああれくれないしないと自分の信条に反するよな…」と思った。実際に炎上してるくらいだから効果はかなりあったんじゃないかなと思う。
国立西洋美術館で現代美術、ということでかなり身構えて行ったのだけど、思いの外(失礼)良かった。伝統ある美術館だし、現代美術と言っても保守的な感じなんだろうな~と思いきや、まず展示空間の使い方が最高。内藤礼さんの部屋とか素晴らしかった。キャプションをあそこにしたのも天才的。小田原のどかさんのコーナーも彫刻の台座だけが展示してあったりして非常に刺激的だったし、階段も使って埋め尽くすように展示された布施琳太郎の作品群も良かった。布施琳太郎さんの作品は美術館という空間と上野という場所を考える上でも良い展示だった。
テーマ的にも「国立西洋美術館」という美術館の歴史を振り返りつつ、未来に向かっていくためにはどうするべきか?が考えられていて良かったですね。今年ベストクラスの良い展覧会でした。
ドラマ『滅相も無い』があまりにも良すぎる。
ネトフリでドラマイズムの『滅相も無い』を観ています。とりあえず折り返しの4話まで。
日本各地に突如として出現した巨大な「穴」。穴に入った人々は帰ってくることはなく、政府も規制を解除。「穴」は神格化され、「穴」を崇める宗教が出現。「穴」に入る前の儀式として集まった8人の男女は自分の自分史を語り始める…。
という体裁で豪華絢爛な8人のキャストによって描き出される8人の人生の物語になっているわけですが、映像と演劇を手法がミックスされた演出が斬新かつスタイリッシュでかなり最高。さらに言えばオープニングアニメーションは「サカナ島胃袋三腸目」でおなじみの若林萌さんだったり、毎回イラストによる導入があったりとこのメディアミックス感。がいい。
いい点はたくさんあるんだけど、メインとなるそれぞれの人物の回想シーンが演劇的手法で描かれているのが面白い。それもメインキャスト以外の6人の役者が全ての役をこなすという。セットもその役者たちとメインキャストたちが自分たちで組み立てていく形で、時折こちらに目線をやって自分語りをしたりもする。あと演技が自然なのがいい。普通のドラマのような不自然さがない、というよりも演劇という不自然さの中で生まれる自然さというか。
ここまでの4話で特に良かったのは「EpisodeⅣ 青山」。森田想演ずる「帰国生の青山」が語る学生時代の母との思い出。毒親である母がブチギレで滔々とクレームを付けるその長台詞がスクリーンに映し出される演出が最高すぎる。そして、その確執があるにもかかわらず母に会いに「穴」に入るというオチも不気味で良い。
とにかく今期のドラマの中では群を抜いて(いうほど観てないけど)良い作品。もっと売れてくれ。
19世紀のインターネットは既視感が多すぎる:『ヴィクトリア朝時代のインターネット』
伝説の名著が文庫で復刊!ということで買ってみましたが、評判通りめちゃくちゃ面白い!!
18世紀の機械式テレグラフ(腕木通信や光学シャッター式)の誕生から、電信への発展、大西洋横断ケーブルの敷設、そして衰退、というダイナミズムがこれ一冊で体験できるのが実に楽しい。ヨーロッパ中に腕木通信の塔が立っていたとか、最初の商用電報の初日売上が1セントだったとか、パリでは気送管のネットワークが作られていたとか、出てくるエピソードがどれもこれも新鮮。
19世紀の後半には世界中で電信によるネットワークが出来ていたわけですが、面白いのがこれが今のインターネットに酷似している点。ネットワークをかじった人だとわかると思うんですが、中継局を経由して最終地点まで信号を届ける仕組みであるとか、人間が中継するので発生するエラーを訂正するための誤り訂正符号のような仕組みがあったり、通信内容が見られてしまうので暗号が利用されて、それによる弊害を防ぐために規制が作られたり、さらに今と同じようにネット犯罪が行われて…。あれですね、ちょっと文脈違うけど「人は過ちを繰り返す」を思い出しましたね。
分量もちょうどよくてさっと読めるし、とにかく抜群に面白いので圧倒的におすすめ。
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