『デューン砂の惑星 PART2』、ナイフ舐めもヴィルヌーヴがやると一周回っておしゃれ(な気がする)

正直PART1の内容全く覚えていなかったのだけど、この手の作品だと仕方ないよね…。観ているうちに思い出してきたし無問題。それにしても死体の山で始まり死体の山で終わるという構成の絶妙な感じはいい。この情勢だと無邪気に観れないのがキツいけれど(今この瞬間だけではなく常に何処かで虐殺が行われている/いたというのは間違いないのだけれど)。

予言を避けようとすると次第に予言の方に引き寄せられていく…というのはいかにも古典的神話っぽいのだけれど、同時に救世主の出現に沸き立つ群衆の場面などは、今を生きる我々にも実感を持って理解できる普遍的な恐ろしさを垣間見せる。古い枠組みを使いつつ、時代を超越する概念を語り、そしてそこにヴィルヌーヴ流の映像センスが乗っかってくる。この三重奏がとてつもなく良い。

演出にも観るべきところが多いのだけれれど、前作にひき続いて特に素晴らしいのは、やはり美術。異星の壮大な建築群を観ているだけで眼福。空間がとにかくいい。割とボコボコにされたりするけど。

ところで今回のメインテーマはハルコンネン家の没落なのだけど、あの一族はキャラ立ってて大好きなんですよね。今回出てきた甥っ子は他の連中から目立たせるためか知らないけど、ナイフ舐めのシーンがあって、2024年にもなってそれはねーだろ!と思ったりもしたのだけど、まあヴィルヌーヴがやるとなんかおしゃれに見えなくもないよな。しらんけど。

映画『デューン 砂の惑星PART2』公式サイト。大ヒット上映中!

『リンダはチキンが食べたい!』、エンタメに全振りした快作。

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』のセバスチャン・ローデンバック監督による新作。今回はパートナーであるキアラ・マルタとの共同監督で、表現のスタイルは「手をなくした少女」を継いだ、曖昧な輪郭線とざっくりとした塗りというシンボリックなもの。そして今回はキャラクターごとに色が設定され、それぞれのキャラクターが単色で塗りつぶされているのが面白い。

物語は、チキンパプリカを食べるために主人公のリンダと彼女を一人で育てる母ポレットが奮闘するというシンプルなものながら、様々な登場人物たちの視点が交差し、さながら群像劇の趣。スラップスティック的な作劇もとても楽しい。チキンを手に入れるだけでここまで大事にする膨らませ方が素晴らしいし、動物は出るわ、カーチェイスはあるわ、ラブロマンスまであるという盛り込みよう。ある種のバンリュー(団地)ものでもあるのだけれど、その意味では団地の構造を生かした移動の面白さと住んでいる悪ガキたちの出番が多いのが嬉しい。ニワトリを盗むのはどうなのか、とかスイカがサッカーボール代わりになっててひどい、とかまあ言いたいことが無いわけではないのだけれど、なんとなくハッピーな雰囲気で締まるのは、この色彩豊かな表現のもたらす魔法のようなもののようにも思える。それくらい表現が魅力的。

ニワトリを抱えた逃走劇の中で芋づる式にキャラクターが増えていくのだけれど、その中でもお気に入りはスイカトラックの運転手であるジャン=ミシェル。やたらといい声で文化的なことを宣うのだけど、声をやってるのがリリー・フランキーなのね。この声がまあやたらと合っていてかなり最高。吹き替えのレベルが高いのも特徴的で、何曲かある劇中歌も全て吹き替えられているのも良かった。

映画『リンダはチキンがたべたい!』公式サイト

ある意味で時代を象徴する一冊:『未来経過観測員』

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21世紀から冷凍睡眠で100年ごとに目覚め、時代を記録する国家公務員、「未来経過観測員」。その一員となって主人公の5万年に渡る旅を描いたぶっ飛んだ作品。遠未来ものは大好物なので個人的にはかなり楽しかった。

100年というと正直そんなに変化してないと思うし、実際最初に目覚めたときは社会も科学技術の水準もほとんど変わっていないのだけど、そこからの加速っぷりが凄まじい。身体の改造あり、AIの暴走からの地球脱出あり、太陽系がダイソン球になったり、果ては『順列都市』さながらの仮想世界に逃げ込んだり…。100年単位で時間が飛んでいくので恐ろしい速さで事態が展開していくのが実に楽しい。最終的には宇宙の果てから宇宙の外側に飛び出していくスケールの大きさがありつつ、ミクロな主人公とヒロインとその他一匹(?)の物語に収束していくのも自分的には嬉しい展開だった。

一つ気になった点としては、100年ごとに展開がガラリと変わるわけで、そこが作品の魅力の一つでもあると同時に、現在巷で流行している「コンテンツをインスタントに消費する文化」とリンクしているのではないかということ。実際に自分も「100年後の世界はどうなっているのだろう」という気持ちで章を重ねていたのだけれど、そこに「すぐに答え合わせをしたい」という意識も、たしかに存在していた。率直な感想を述べるなら、「良くも悪くもインスタントな味わい」と言ったところだろうか。たしかに美味しいのだけれど、深みのある味わいではない。しかしそういったところも確かにこの作品の魅力ではあるのだけれど。