『海がきこえる』を初めて観る。

宮益坂下に臨時開業しているル・シネマのリバイバル上映にて。

なんだか「爽やかな新海誠」みたいなお話ですね。電車のホームで向かい側に相手の姿を見るくだりとか『秒速5センチメートル』のあのシーンみたいだし、いい感じまでいって分かれて数年後再会みたいな。新海誠はジメッとしてるんだけど、こちらはめちゃくちゃ爽やか。秒速は冬メインだけど『海がきこえる』は夏がメインというのもあってカラッとしてる。

ヒロインの里伽子がとにかく魅力的。森崎と東京のホテルで一泊するシーン、ビールじゃなくてコークハイというあたりがいいんですよね。しかも結構ガンガン行くし。翌日、元彼に見栄をはろうとするくだりから一足とびに大人になっていくのもとても印象的なシーン。

それにしても今見ると原画陣が豪華すぎる。この時期のこの手の映画を見ると毎回思うんですが、今の一線級のスーパーアニメーターが集合している感じ。あと画作りの面で言うと、当時の街の空気感が良かったですね。特に東京編の方。そういやこれも秒速と同じように西新宿の光景が印象的なんですよね。

あのちゃんのおんたんは合いすぎてるけど共感性羞恥がヤバい『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』

門出役の幾田りらさんも良かったんですが、個人的にはおんたん役のあのちゃんのハマりぶりがすごかったですね。で、逆に合いすぎていて、観ていてちょっとキツいんですよね。ノリが良すぎてすごい。声優的な面で言うと意外性があったのがいそべやんが杉田智和さんだったこと。ちょっとしか出てこないけどイケボ過ぎてビビる。あと忘れちゃいけないひろしくん(中川兄)。諏訪部順一さんの声であの体型、逆に癖になるわ。イケボ過ぎるデブ。あの割と長めのセリフを滔々と発するくだり良すぎだし、かなり元を取った感じがある。

構成も面白くて、原作では描かれてなかった「8.31」から始まるのがかなり良かった。映画単体で観ても理解できるように、という配慮だと思うんだけど、良いアレンジですね。中盤のおんたんと大葉くんが出会うシーンで原作8巻で描かれる回想編が先回りして挟まれているのもかなり面白かったです。そうくるか~。回想編のダークネス門出は作画が良くてかなり最高でしたね。

あと良すぎたのが背景美術!描き込みの細かさとかはもちろんなんですが、汚し方とかリアリティある街の空気感が実に素晴らしく、アニメ化されて一番の見所はここですね。色彩設計も上手くて、特に夜の空に浮かぶ「母艦」のサイバーパンクな色彩の美しさたるや。原作での名シーンでもある門出とおんたんが二人で帰るシーンの背景に浮かぶ母艦が実にいいです。侵略者の血しぶきが赤じゃないのは意外だったんですが、これ赤だと凄惨すぎるからここもナイスアレンジという感じですね。

あ、あと「おんたん」のイントネーション、そっちなんかい!「仁丹」の方かあ~。

後章、どうやってまとめるのかはかなり気になるところ…。

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』公式サイト

「デデデデ」原作を読み切る(ネタバレあり)

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映画の公開に合わせて前半までしか読んでいなかった「デデデデ」原作を読み切りました。

「言うて滅亡はしないやろね…」と思っていたらガチで人類滅亡しており、このあたりの絶望感がすごいし、ポストアポカリプスとしての「8.32」の複雑さ、アメリカ企業による統治というディストピア感あふれる世界の描き方が実にいい。ポストアポカリプスものとして見たときに、そこに至るまでの日常描写の積み重ねが最後の最後で効いてくるという構成が上手いし、切なすぎる。

で、このどうしようもない世界をどうやってオチをつけるのかと思っていたら、かなり意外な視点から描かれるのもいい。一見ハッピーエンドのように見せておいて、よくよく考えると全くそうではないということがわかるのも実に、実にいい。「…そう それでも、/私達は 生きていく」の重み。最近のマルチバースもの(特に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)で感じる、「あらゆる可能性が存在することによる虚無感」が巧みな手口でかなり上手く表現されていると感じた。これはちょうど現実とフィクションの関係とも重なってくる感覚で、最終回の時間軸が現実だとするならば、本編で描かれたポストアポカリプス世界はフィクションであり夢の類であるのだけれど、しかしそれは確かな現実でもある/あった。そういった意味では『イソベやん』は最後の最後まで実に上手いガジェットとして機能していたなあ。個人的にはオールタイムベストに入るシリーズで、マンガ史に残る作品であると思うのだけど、あまり評価されていないようにも感じる。

映画の「後章」は原作と違う結末になるとのことなのだけど、おそらく本編の時間軸を門出/おんたん視点でじっくりと描くのではないかと予想しています。

『ソリッドステート・オーバーライド』、クセが強すぎる

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いやー、面白いんですよ。面白いんですけど、かなりクセが強くて人を選ぶ感じ。文体はラノベなのに内容は濃すぎるSFというミスマッチが面白い。江波先生は早川の『我もまたアルカディアにあり』以来なんだけど、もともとラノベ作家だったんですね。

ジャンルとしては「ロボットもの」に該当するんだろうけど、アシモフのロボット観を援用しつつ、二つの原則「人にならねばならない」「人になってはならない」と一つの修正原則「何も見てはならない」によって形成されていて、原則は比較的ありがちだと思うのだけど、修正原則によって話のクセがかなり強くなっていて、この物語の魅力を増している。

ストーリーも、2体のロボット(ソリッドステート)が人間の少女と出会い旅をするありがちなロードムービーかと思って読んでいると、あれよあれよという間によくわからない地点に引きずり込まれていくのが面白い。お釈迦様の手のひらの上で踊っていたような気分になるお話。

だいぶ変な話なので人を選びそうだけど、今年のSFシーンを代表する一冊であるのは間違いない。

il Pregio @ 代々木上原

TOP of 代々木上原 il Pregio イルプレージョ

代々木上原のミシュラン一つ星「il Pregio」さんでランチ。コースはBコース(11,000円)+ ワインペアリング(ハーフ)で。ランチで食べるにしてはやや重ためのお値段ですが、正直お値段以上のクオリティとホスピタリティでした。超満足。

アミューズその1「メークイン サルシッチャ 熟鮓」。厚めのポテチ的な食感のメークインの上に熟鮓が乗っている面白い構成。緑はほうれん草、赤はトマトのパウダー。一発目から超美味しい。

アミューズその2「プロード・ディ・プロシュット」。生ハムのお出汁ですね。ホッとする味(適当な感想)。

前菜その1「水蛸 ブンタレッラ 新玉葱」。水蛸の食感の面白さ。ブンタレッラは苦みのある野菜で水蛸と合う。蛸が出てくるあたりイタリアという感じがしますね。

前菜その2「カボチャとフォアグラ 濃厚に軽やかに」。お店のスペシャリテというだけあってめちゃくちゃ美味しい!かぼちゃの濃厚な甘さとフォアグラの脂っぽさがとてもマッチしていてかなり最高。ほぼデザートですこれ。ペアリングのワインが単体で飲むとかなり甘くて好みまっしぐらだったんですが、料理と合わせると全く味が変わって非常に面白かったです。これ食べるためだけにBコースにしても絶対後悔しないですね。

メインその1「タィヤリン 白神山地の天然山菜」。タィヤリン、初めて食べたんですが、そうめん的な細さのパスタなのにしっかりとした食感。山菜は素揚げにしたふきのとうを筆頭にしてたっぷりと乗せられていて野趣と苦みが素晴らしい。ソースが特にいいですね。これもかなり良かった。

メインその2「リゾット ズッパ・ディ・ペッシェ ストラッチャテッラ」。魚介の旨味が凝縮されていてこれも実に美味しい。ストラッチャテッラがよく合う。ズッパ・ディ・ペッシェの部分にはホウボウや穴子などが使われているとのこと。量は少なく見えるのですが、非常に満足できる味でした。

メインその3「藁 羊 筍」。羊はラムとマトンの間のホゲットが使われていて、柔らかく旨味もあり…。藁の香りが面白いアクセント。筍はコーンやじゃがいものような甘さで驚き。イタリアらしく食べごたえのある量も嬉しい。

プレドルチェは「ズブリゾローナ 生姜 パイナップル」(写真撮り忘れ)。プレドルチェがあるだけでテンション上がりますよね。次のメインドルチェに連なる口直しのような位置づけ。さっぱり。

メインのドルチェは「クレスベッレ リコッタ 柑橘」。クレスベッレは北イタリアの郷土料理で、クレープのような感じ。温かいドルチェです。柑橘の酸味もあって複雑な美味しさ。

料理のクオリティがとにかく素晴らしいのですが、ホスピタリティが輪をかけて素晴らしかったですね。このあたりがミシュラン一つ星たる所以なのだろうなあと思いました。絶対また行きたいお店がまた一つ増えました。