いまさら『Wolf’s Rain』を観る
今週はレンタル落ちで買った『Wolf’s Rain』を観ていました。名作と名高いのに観ていなかったんですよね。いかにも2000年代のBONSEという感じが実にいい。特に意識してなかったんですが、これ、岡村天斎監督なんですね。確かに観ていると端々にエッセンスを感じましたが。キャラデザはなんとなく逢坂さんぽいなー、と思っていたのですが川元さんでした。たしかにこのシャープな雰囲気は川元さんだわ。
内容的には狼がメインで出張ることくらいしか事前知識なかったんですが、なるほど終末世界のロードムービー。狼たちの旅路も良かったのですが、個人的にグッと来たのは滅びゆく運命を抱えて世界をさまよう人間たちのパート。特に復習に燃える元保安官・クエントは実に魅力的なキャラクターでした。
TV版最終回後に出た完結編とも言える4話からなるOVAが特に素晴らしく、メインキャラクターが一人また一人と脱落していく展開が物悲しくも熱い。こういうのかなり好きですね。クエントとトオボエのパートが最高。全体的に作画レベルが高いのはさすがBONSEといった感じですが、この完結編は特に力が入っており見ごたえがたっぷり。あのOPに出ていた現代の東京っぽい世界はなんだったんだ?というのが明かされるオチも、いかにもあの時代っぽくて好きですねえ。
ところでこの作品の一番の衝撃は途中に挟まる総集編ですよ。総集編、せいぜい1話のところ、視点人物を変えて4話、しかも連続して続くというあまりにもすごい仕様。色々事情があったんだと思うのですが、それにしてもこれは…。この総集編4話がなければちょうど26話で収まるというのもなんとも。
『夜明けのすべて』は撮影と音楽が特にいい
評判に違わぬクオリティ。テーマと話も素晴らしくいいのですが、特に気に入ったのが撮影/照明、そして音楽。やや解像度が低い印象のあるザラザラした画面、そして自然光を中心とした照明。撮影は三宅監督の前作『ケイコ 目を澄ませて』と同じく月永雄太さん。この雰囲気だけでかなり自分好み。Hi’Specの音楽もはまり具合が良すぎる。
内容はPMSとパニック障害を扱っているのでもっとセンシティブかと思っていたけど、彼らを「普通の人」として扱っているのが良かった。二人が互いの「障害」について冗談を飛ばすシーンなどとても良いし、彼らを普通の社員と同じように扱っている栗田科学の面々があまりにも魅力的だった。栗田科学のメインフロアが上下2つに別れているのもすごくキュートでしたね。
「夜明け」がテーマなわけですが、それ以上に重要なのが「夜明け前」つまり夜そのものだったりします。最後のプラネタリウムにおける社長の弟の書いた詩がとても良くて思わず涙腺が緩んでしまうのですが、他者を見つめる場としての「夜」そのものが、朝と同じように大切なものだというのが良かったですね。
山種美術館の「日本画アワード」へ久々に行く
[公募展] Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ―未来をになう日本画新世代―
やっぱり日本画が好きですね。うつわもそうだけど、テカテカしたものよりもマットな質感のものが好みなので。
毎年やってる山種の日本画アワードですが、ここしばらく都合がつかず(あるいは忘れており)、最終日間際でしたが久々に行けました。
大賞の北川安希子《囁きーつなぎゆく命》。日本画らしからぬ(といってもモダンな日本画界隈では珍しくなくなりましたが)構図の面白さもさることながら、やはり色がいい。舞台となるのは西表島のジャングルで、中心に置かれた樹冠の隙間から眩しい光が差し込む明るいジャングル。こういうタイプの緑って日本画ではあまりみないので新鮮でした。これまた日本画らしくないごちゃごちゃした感じですが、静かな雰囲気の中から生命力が伝わってくるような作品。
奨励賞の小谷里奈《向こうの姿》は自然のモティーフを描きながらも抽象に近づきつつある作品。冬の木々を描いたようでもありながら、茫漠とした線の連なりは雪煙のようにも見え、想像力を掻き立てられる。意味深なタイトルもいい。蟲師感。
岩井晴香《夕さり》。今回の中では一番好きかな。霧の中に見え隠れする木々。夕さりというタイトルにあるように、緑の色はやや暗くなりつつある。緻密な木々の葉の描写、柔らかい霧の雰囲気がとても素晴らしい。
清水航《飛沫》は、ひと目で惚れ込んでしまう鮮やかなエメラルドグリーンが魅力的。この色って日本画の中では伝統色の一つでもあると思うんだけど、ここまで全面に使っているのはあまり観たことがない。泳ぐホッキョクグマの表情、水の飛沫の表現も素晴らしい。とても好き。
平井未歩子《向う側》。何気ない日常の一コマが切り取られ、非日常への入り口へと仕立て上げられる。明るいのに誰もいない静かな空間。向う側はどこにつながっているのか。言いしれぬ魅力がある。
「解剖」されていくのはなにか?:『落下の解剖学』
長い長い法廷劇なのだけど見ごたえはたっぷり。作家の母、作家志望の教員の父、目の不自由な息子という家族がフランスの山里に暮らす。ある日、父が雪上で倒れて死ぬ。果たして殺人だったのか、事故だったのか、はたまた自殺であったのか…。
普通のミステリーなら彼の死の謎を解くことに焦点が当てられるが、この映画はそうではない。裁判の中で薄皮をはぐようにじわりじわりと詳らかにされていくのは家族の抱える複雑な関係だ。といっても彼らがなにか重大な秘密を抱えているというわけでもなく、いかにもありそうな家庭のトラブル、例えば不倫であったりとか家事の分担であったりといったリアルな関係性の食い違いが描かれていくのが面白い。次第にエスカレートしていく壮絶な夫婦喧嘩の録音が法廷で流される場面はある意味でこの映画のクライマックスであり、聞いている方もかなりつらくなってくる。
最後の最後まで事件が結局のところ何だったのかを語らないのもかなり自分好みだし、この映画はミステリーじゃないですよ、という主張が強く伝わってきてかなり良い。あと、でかい犬も出てくる(死なないけど苦しむ描写があるのでそのあたりは注意!)。
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