『ソナチネ』を久々に観る。

新文芸坐の北野武特集にて。映画館で観るのは初めて。前に観てから20年ぶりくらいかな?今観てもやはりめちゃくちゃ面白い。今観ると、ヤクザ映画というよりはモラトリアムの映画であることがよくわかりますね。というか「大人の夏休み映画」。カジュアルな遊びの中に死の匂いがナチュラルに入り込んでいるのがいい。ロケット花火と拳銃が入り交じるくだりとか。たけしは基本的に虚無顔だし。あの虚無顔がいかにもたけしの映画という感じでとてもいいですね。このあたりの虚無感は最新作の『首』でも感じたところです。

あと改めて観ると演出が上手すぎる。特に光を使った演出がエモくて最高。朝焼けの中を死体を運んでいくくだりとか、浜辺の隠れ家で扉を開けると光が入ってカットとか、最後の停電したホテルでマズルフラッシュと銃声だけが闇の中に輝いているシーンとか。もう最高。

そして、久石譲の音楽!冒頭、結構な爆音で会話にも被る形で入ってくるのでかなりインパクトがあって脳に残っちゃいますね。確かに久石譲なんですが、観ていて思ったのは、どこか川井憲次っぽさがあるという印象。というか映画全体がどことなく押井守のような匂いがするんですよね。具体的には『紅い眼鏡』なんですが。逃避行というあたりも共通してるし。たけしと押井守、共通点を調べると面白いかも、と思いました。

「寺町通り221B」でノックアウト。『シャーロック・ホームズの凱旋』

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ヴィクトリア朝京都!この字面だけでもう心躍る。森見登美彦らしさに満ち満ちた珠玉のパスティーシュ小説にしてメタフィクション小説の傑作。

本作のシャーロック・ホームズは寺町通りB221に住んでいるのですが(このあたりだけでももうめちゃくちゃおもしろい)、ここ一年ほどスランプに陥っており、主人公であるワトスンとは疎遠になっているという設定。アイリーン・アドラーと推理合戦をしたり、物理学者であるモリアーティ教授とホームズのスランプによって自身もスランプに陥ったレストレード警部と「負け犬同盟」を組んで傷を舐め合ったりする日々。ちなみに「京都警視庁」と書いてルビは「スコットランドヤード」なので恐れ入った。

で、「ははあ、これはロンドンを京都に移し替えてあれやこれややる感じなのかな?でもそれだけだとあまりおもしろくないなあ(字面は面白いけど)」、などと思っていると、中盤で謎の異世界「ロンドン」が登場して怒涛の展開になだれ込むのですね。ここから先はネタバレになってしまうので詳しくは書けないのだけど、現実とフィクションを巡る物語になっていくので、その手の作品が好きな人は必読。読んでいて連想したのは森見先生の『熱帯』と、ちょっと違うんだけどイーガンの『順列都市』。

初めての相米慎二:『東京上空いらっしゃいませ』

目黒シネマの相米慎二監督特集にて。初見。全く予備知識無しで観たので若干驚いた(タイトルからキャビンアテンダントの話だと思いこんでいた)。

34年前の作品なので当然のことながら役者が若い!中井貴一も28歳で若々しいし、牧瀬里穂は劇中と同じ17歳!笑福亭鶴瓶は一人二役でこの年38歳で、今より流石に若いけど、すでにたしかに専務っぽい貫禄があって面白い。50歳弱くらいに見えるなあ。

牧瀬里穂がいかにも17歳っぽい元気ハツラツな芝居で実に楽しい。まあ劇中では幽霊扱いなんだけど。この「死んでるはずなのに元気いっぱい」というのが彼女のはまり役というかこの作品の肝という気がしますね。ハンバーガー店のバイトで生活を立て直そうとするくだりなどとても印象的。一方で悲しむ両親の前に姿を見せられずに実家を去るシーンなど、叙情豊かな場面での繊細な芝居も上手い。

一番良かったシーンは最後の逃避行でのパブでの二人の演奏と歌ですね。物語の終わりを予感させるはっちゃけた明るさ。一人また一人と客がはけていって二人だけになるという演出もすごくいい。まあそのあとうってかわってお葬式のようになった車中でのキスシーンは今観ると微妙な感じがしますが…。

それにしてもセクハラ問題が芸能界を席巻している最中に観ると、また違う思いが去来していきますね。個人的には良いタイミングで観れたと思います。

イル・ボッカローネ@恵比寿

本格イタリア料理店 | 【公式】IL Boccalone | 渋谷区 恵比寿

今月の「美味しいものを食べる会」は恵比寿の老舗イタリアン、イル・ボッカローネへ。

入り口が分かりづらいけど、中はやや混み混みのカジュアルな雰囲気で良し!

雰囲気もいかにもイタリアという感じでいいんですが、ここ、ホスピタリティが抜群にいいです。注文するときも適当に量を調整してくれるし、一食ごとにお皿を換えてくれるし。このカジュアルめな雰囲気で一食ごとにお皿交換してくれるとは思わなかったですね。店員さんたちもかなりフレンドリーで最高。イタリア人の店員さんがノリが良くて楽しかったです。

特に良かった料理。

サラミと生ハムの盛り合わせ

シンプルに美味しい。6人でこれが2つきたので一瞬多すぎるだろ、と思ったけど、全くそんなことはなかった。

米ナスとモッツァレラのオーブン焼き

めちゃくちゃうまい。やっぱりイタリアはトマト強いなあ。

ホワイトアスパラ

本日のベストくらいの美味しさ。ソースは目玉焼きとチーズ。アスパラが太くて長くて甘くて最高。

Tボーンステーキ

肉の旨味が…!昨年の暮れにピー◯ー・ルー◯ーに行きましたけど、こっちでも十分美味しいなぁと思ってしまった…。

チーズリゾット

チーズの中でこねこねする映え系の料理だけど、味も美味しすぎた。こういうシンプルなものが一番美味しい。

結構食べてそこそこの値段のワインを開けたら20,000円/人になりました。やや高いかな、という気はしたのですが、とにかくホスピタリティがいいので納得の値段ですね。

理想的実写化…!映画『ゴールデンカムイ』

原作ファンが求めていたものが全て詰まっている理想的な実写化といっていいと思う。

とにかく役者陣の再現度の高さがすごい。白石、尾形、谷垣ニシパ、二階堂兄弟、牛山、漫画からそのまま出てきたような風貌はもちろんのこと、芝居が役に入りきっていかなり最高。特に眞栄田郷敦演ずる尾形上等兵と杉元との最初の遭遇の場面はまさに原作そのままという感じ。そういう意味で言うとベスト・オブ・ベストだったのが玉木宏の鶴見中尉と舘ひろしの土方歳三。若者たちとは一味違う圧倒的な貫禄。鶴見中尉はエキセントリックな言動が魅力的だけれども、玉木宏がノリノリで演じきっているのが素晴らしい。

物語的にも原作に忠実に進んでいて、変な改変がないのが、消費者のニーズをよくわかっている感じ。というかこれでいいんだよこれで。まあ原作通り進んでいるので、この映画では話が全く進んでいないのだけれども。ただ、二人の目的意識を強固にするかたちで締めているので、この構成は上手いと思った。エピローグ見ると続きもやる気まんまんそうだけど、何部作になるのやら…。三部作程度では全く終わらないと思うのだけど。それとセンシティブな部分をどう料理するかも気になるところ。

映画『ゴールデンカムイ』公式サイト