ウェス・アンダーソン最新作『アステロイド・シティ』が良い。
いつものウェス・アンダーソン。いつもの色彩、いつもの構図、そしていつもの入れ子構造。大いなるマンネリ…ではあるのだが、その上でこれまでの作品の中でもかなり好きな作品になった。
特に物語の構造が良い。多重構造であるのはいつものことだけど、本作は1950年台の劇制作のドキュメンタリー番組→劇制作の現場→本編である劇中劇という構造になっている。このことによって、本編としての「アステロイドシティ」の物語の虚構性が強調される。さらにいうならこのアステロイドシティに囚われた人々の中でも演劇が行われたりもする。その上で個人的にグッときたのは、演劇「アステロイドシティ」で主人公スティーンベックを演じているジョーンズ・ホール(ジェイソン・シュワルツマン)が発する「なぜスティーンベックは火傷するのか?」という疑問。彼はこの疑問を解消するために本番中にも関わらず舞台裏の脚本家の元へと足を運ぶ(ここで舞台裏が映し出される「アステロイドシティ」の虚構性が改めて確認されるのも良い)。この場面にはウェス・アンダーソンの虚構に対する態度が凝縮されているように思える。要するに彼に取って物語とはもう一つの現実なのだ。だからスティーンベックが火傷をすることには何の意味もない。カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』で繰り返される「そういうものだ」と同じように。
矢田久美子さんの素敵なゴブレットをお迎えする
《墨絵花とプラチナ彩ゴブレット》
基本的にシンプルなうつわが好きなのですが、こちらのゴブレットは一目惚れで買ってしまいました。シンプルな白磁に金彩銀彩プラチナ彩で絵付けされてて雰囲気が良すぎます。
雰囲気重視で注げる量は少なめ。なので日本酒とかウイスキーとかが良さそう。と言いつつ初回に飲んだのはビールだったりしますが…。
高めのお茶とかもめちゃくちゃいい感じなんですが、茶しぶが着くと洗うのが若干怖いので飲んだらすぐ洗う感じでやってます。金彩の部分が特に繊細らしく、スポンジとかでごしごしすると危ういそうな。
今回もいいものを買いました。
リバタリアンの役割が面白い:『リバタリアンとトンデモ医療が反ワクチンで手を結ぶ話』
去年一番面白かったノンフィクションの一冊、『リバタリアンが社会実験してみた町の話』のマシュー・ホンゴルツ・ヘトリングによる新作。前作よりインパクトはないがリバタリアンという軸が共通していて、それも意外なところで繋がっていくのが面白い。
今回はアメリカのトンデモ医療がテーマで、自家製ハーブおじさんやらヒルで全てを解決しようとするばあちゃんやら自称宇宙人やらが次々と出てきて、今回も当然みんなキャラが濃いい。とはいうものの、テーマがトンデモ医療なのであまりにも想定内すぎるというか意外性がなさすぎるというか…。あと構成もあまり良くなくて、6人のトンデモ医療者たちが各部で分割してすこーしずつ語られているのがやや読みづらい。
本書のポイントはそういったトンデモ医療がアメリカでここまで大きな勢力になってしまったかということと、そしてそれがリバタリアンたちと結びついて「医療の自由」運動になっていったかが描かれている点。ざっくり言っちゃうと、正規医療へのアクセスが制限されてしまう世界を作った医療界が悪いという話ではあるのだけど、それが「医療の自由」に連なっていくあたりがやはり面白い。2020年以来の反ワクチン運動との絡みもあるし、タイムリーだとは思うのだけど、このあたりをもっと読みたかったなあ、というのが本当のところ。まあそれを抜いても十分面白くはあるのだけども。
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