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素晴らしきバカンス映画『aftersun/アフターサン』
一言で言ってしまうと子離れ/親離れの映画。父・カラムと11歳の娘・ソフィが二人で過ごしたバカンスの記憶がノスタルジックで荒々しいホームビデオの映像を介して語られる。…んですが、カラムと同い年になったソフィのパートがさりげなさすぎてしばらく気づかなかった…。
印象的なのはやはりホームビデオの映像、そして水。このホームビデオはカラムとソフィが彼ら自身の思い出を記録する極めてプライベートなものなのだけど、それを垣間見るという趣向がどこか後ろめたさのようなものを生じさせていて面白い。
舞台となるのはトルコのリゾート地で、ホテルのプールや海を中心として物語が進んでいく。転換点となる場面で水が存在感を増す。特に良かったのはカラムとソフィがすれ違い、ソフィがある大胆な行動に出る場面。最初にも言ったように、この映画は大人になりつつある少女が父親から離れていく話なのだけど、その点でもエモーショナルでいい場面だった。
何回も観て反芻したい映画。
映画『aftersun/アフターサン』公式サイト 5/26(金)公開
ラッセル・クロウが良すぎる。『ヴァチカンのエクソシスト』
ラッセル・クロウのハマり役っぷりがすごい。スクーター飛ばしてる絵面だけでもう「勝ち」でしょう。ガタイの良さとちっこいスクーターの対比が絶妙…!黒と白という取り合わせも考え抜かれてるなあ。こんなスクーターに乗ってくるやつがすごいやつなわけないよね、という昼行灯効果も抜群。
お話自体はオーソドックスな悪魔祓い…かと思いきやがっしりと現代風にアップデートされているのが素晴らしい。スクーターに乗って颯爽と登場するのも象徴的なんですが、序盤のイタリアの少女が実は…のくだりとか、査問会で「悪魔憑きの98%は科学で説明できます」のあたりなどかなり面白い。一瞬「お、現代的で科学的な思考だ!」と思わせておいて「え、じゃあ残りの2%は……?」となるのが上手い。
さらにこの映画の肝である「罪の告白」の扱い方もいい。罪を告白することで悪魔に対する弱点を克服するという意味があるのですが、悪魔祓いにあたる二人の神父が過去に犯した罪と教会自体が歴史の闇に葬った罪とがミクロとマクロで上手く呼応していて、教会自体の罪を認める事自体もとても進歩的なのもあるし、あらゆる組織において「間違い」はどうしても生じてしまうよね、という大きなテーマにも繋がっていくのですね。劇中ではアモルト神父を貶めようとする陰謀が同時進行しているわけですし。
バディものとしても秀逸で、生臭坊主臭のしていたトーマス(ダニエル・ゾバット)がしだいに頼もしくなっていき、アモルト神父のピンチになって覚醒するくだりがベタながらめちゃくちゃアガるんですよね。この二人で残りの199の悪魔を倒す水戸黄門的なシリーズがぜひ観たい!
はじめてのホン・サンス。『小説家の映画』
恥ずかしながら初めてのホン・サンス。ほぼモノクロームの会話劇で、リアリスティックな、ある意味でお腹が痛くなるような会話が延々と続く。何が言いたいかというと、自分の好みにドンピシャってこと。物語としてはスランプに陥った小説家ジュニ(イ・へヨン)が都心から離れてかつての後輩に会いにいく、というシンプルな話。数珠繋ぎのように出会う人々と繰り広げられる会話がメインなのだけど、この会話がどれもこれもあまりにもリアル寄りで胃が痛くなるんですよね。どういうことかというと、友達ならね全然いいんですよ。知り合い未満くらいの人間との会話、続かないですよね…。あの絶妙な感じが体験できる映画です。会話が…続かない…!間がつらい…!とはいえまあ最初の後輩はいいんですよ。いうて共通の話題ありますしね。それでもけっこうギクシャクした感じがあるんですが。で、二人目(二組目)の「かつて自分の小説を映画化しようとしたけど頓挫しちゃった映画監督とその妻」がマジでつらい。ジュニがいつキレるかハラハラするし、いよいよキレたらむしろホッとする。そういう映画です。今年ベスト10には入れたい映画。
『アリスと蔵六』最新刊はめちゃくちゃブレワイっぽい。
アリスの夢が作り出した仮想現実RPGが舞台だけど、あまりにも『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』すぎて笑ってしまった。これ、先生がめちゃくちゃハマっちゃったから?という理解でいいのかな。とはいえその中でもちゃんとオリジナリティある展開なのがいいですね。クルタ計算機の解析のためにこの「夢」の中にダイブするわけですが、そういえば「クルタ計算機ってなんだっけ?」と前巻を読み直してしまったり。このあたりの依存関係はやや複雑になりつつあり、「HUNTER×HUNTER現象」(前巻までの内容を忘れてしまい1巻から読み直すことになる現象)が起きつつある気がします。
メインはこのRPG調の「夢」の世界なわけですが、個人的には現実世界の展開のほうが面白いと感じました。特に海でのバカンスのシーンなんかは夏休み感のある和気あいあい感で印象的。
しかしまあ話が進んでいるのかどこに行くのかわからない話ではありますね。そこが魅力でもあるのですけど。
京都へ行く。
15年ぶりくらいに京都へ行ってきました。友人が一時的に京都に住んでいるので、こんな機会でもないと行かないだろうな、と。
夏なので目当ては川床。老舗の料理旅館 鶴清を予約しました。とにかく空間がいい。空が広い!17:00の開店から入り、あたりが薄暗くなる夜にかけての時間の移り変わりを楽しみました。思ったより不安定なようで人が移動するとガタガタ揺れるのも面白く。
雰囲気を楽しむものだと思っていたので、正直お料理はそんなに期待していなかったんですが、これもめちゃくちゃ美味しくて驚き。季節ものの鱧のお刺身と鱧しゃぶが特に素晴らしく。酒がすすむ。
一生に一回は来たいと思っていたのでこのタイミングで来られて本当に良かった…。
他にもいろいろ巡ったので良かったお店を。
川床の後に隠れ家カフェの「Elephant Factory Coffee」へ。本当に入り口がわかりづらく、中の雰囲気が最高!特に照明がいいです。コーヒー屋さんなのに紅茶をいただきました。お客さんはカップル多め。
ELEPHANT FACTORY COFFEE/エレファント ファクトリー コーヒー | 食べログ
お茶した後に口が寂しくもう一杯…という雰囲気だったのですが、あたりにやっているお店がほとんどなく、結局木屋町・先斗町のほうへ戻ることに。あのあたりだとさすがに0時近くでも普通になんでもあって助かります。困った時は先斗町。出会ったお店はオーセンティックながら割とカジュアルに入りやすい「ルイ」さん。季節のフルーツカクテルなどいただきました。
翌朝は京都の定番モーニング、イノダコーヒ本店の「京の朝食」をいただきました。お料理もそうですが、やはり雰囲気がいい。本店は天井高いですねー。前回も来たはずなんですが全く覚えておらず。
京都の締めは京都ラーメン。帰り際に適当に入ったらランキング1位のお店だったようで…。さすがにとても美味しかった。麺のボリュームが思った以上にあり、スープがおいしすぎて完飲。サイト見たら普段は超行列らしく、15時くらいに行ったからかほとんど待たずに入れました。また来たい。
次回は10月にカフェ巡りと先斗町飲み明かしをやろうと思ってます。
「少女展」が地味に良かった。
京都文化博物館の「少女たち−夢と希望・そのはざまで 星野画廊コレクションより」に行ってきました。
京都文化博物館、美術館と銘打ってないし知らない作家ばかりだし、正直そんなに期待しないで軽い気持ちで観にいったんですが、これがめちゃくちゃ良い企画で。知らない作家ばかりというのも当然で、ほとんどみんな京都ローカルの作家さんなんですよね。そして、ここで星野画廊というネームが活きてくるわけで、このあたりは企画の妙味ですね。
くくりの「少女」というのも面白いんですが、いわゆる少女という字面からは外れた年齢の女性たちも多く、「かつて少女だった女性たち」も含むという解釈の広さが楽しいです。京都という土地柄、舞妓さんを描いた作品も多く、このへんも地域性を感じさせてくれて良かったです。個人的にベストだったのは島崎藤村の次男である島崎鶏二氏の描いた《朝》。海を背景にして着物姿の女性がこちらを見つめる構図。とにかく目力が強く、惹かれてしまいました。
そうそう、この企画、展示方法も面白くて、会場の出口に「投票コーナー」があるんですよね。全作品が小さいながらも参照しながらシールで投票できて、友人と一緒に行ったので「これが良かった」「あれが良かった」というのができてとても楽しい企画でした。意外な作品が得票していたりするのが可視化されているのも楽しく、あらゆる展覧会でやってほしい良アイデアでした。
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